こどものかみさま、かんなさま   作:龍翠

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   ・・・・・

 

 神様が戻ってきてから、五日が経った。

 

「いい仕事だったね」

 

 社の前でふわふわと浮かびながら、神様がそう言う。私もそれには同意見だ。大工さんたちはすごく頑張ってくれた。

 今まで住んでいた社の横、三メートルほど離れた場所に、真新しい社が建っている。神様の社より少し小さいものだ。大工たちはいっそのこと大きく作ろうとしてくれていたけど、それは困るから小さく作ってもらった。間に立っていたさつきも不満そうだったけど。

 

「大きく作っても良かったよ?」

 

 にやにやと意地の悪い笑顔で神様が言う。私は首を振る。

 

「神様の眷属なのに、その神様を差し置いて大きな社に住むとか考えられない」

「はは。まあそれもそうか」

 

 ちなみに私の荷物もすでに新しい社に移されている。これは夜の間に、誰にも見られないように行った。持って行く途中で古いものもたくさん見つかった。思い出に浸っていると神様に笑われたけど。

 ただ、この社はちゃんと使うことができるのか、それはまだ分からない。私に残された時間は少ない。私が消えてしまえば、この新しい社も用済みだ。まあその時は神様が使うと思うけど。

 残り時間は、もう、わずか。

 

「どうせ消えるなら、最後はさつきと一緒に、出かけたかった」

 

 私が望むのはだめなことかもしれない。それでも、最後は子供のように遊んでみたかった。かみさまとしてではなく、一人の子供として。私が殺してしまった人たちに怒られそうだけど。

 小さくため息をついて振り返ると、神様が妙に優しい目で私を見つめていた。

 

「変わったね、神無」

 

 そう、かな? よく分からないけど。

 

「ああ、変わったよ。恨み、恨まれて悪霊となっていただなんて、今では分からないぐらいにね。とても好ましい変化だ」

「ん……。よく、分からない」

「はは。それでいいさ」

 

 神様は最近はずっと笑っている。とても機嫌が良さそうに。まあ、機嫌が良いのはいいことだろう。ただ、私はちょっと、不満ばかりだ。

 最近、さつきは朝しか来ない。私のために奔走してくれているのは分かっているけど、それでもやっぱり、少し寂しい。もっとお話がしたい。

 私は新しい社の前でさつきを待つ。さつきは今日も、戻ってこない。

 

   ・・・・・

 

 神様が戻ってきてから、今日で一週間。今日のお昼過ぎが、勝負です。まだ学校はぎりぎり冬休みですが、お父さんたち大人の人はみんな働いています。自分の生活に戻っています。何人が来てくれるのか、私にも分かりません。

 

「かんな様……」

 

 朝、社の掃除を終えると、かんな様がじっと私のことを見つめていました。かんな様の手には、袋が握られています。おはぎの入っていたパックを入れた袋です。神様用に多めに買ってきたのですが、どうやら神様と二柱で全部食べてしまったようです。

 

「おはぎ、どうでした?」

 

 泣いても笑っても、今日が最後です。かんな様と一緒に明日を迎えられるかは、まだ分かりません。かんな様の好きなものを、と思って買ってきたのですが。

 

「ん……。美味しかった」

 

 かんな様はそう言ってくれますが、どこか不機嫌そうです。不思議に思いながら私が首を傾げると、

 

「さつきのおにぎりが食べたかった」

「あ……」

 

 寂しそうなかんな様の顔を見ると、ひどい罪悪感に襲われてしまいます。時間がなかった、なんて言い訳はできません。おはぎを買いに行く時間はあったのですから。

 

「あ、あの、今から作りに……」

「いい。そこまでしなくてもいい。それよりも、少しお話をしよう」

 

 かんな様が新しい社からシートを引っ張り出してきて、社の前に広げます。かんな様と一緒に並んで座ります。何の話かなと待っているのですが、かんな様は座ったまま何も言ってくれません。のんびりと風景を眺めています。

 

「あの、かんな様?」

 

 先に私が声をかけると、かんな様はこちらを見て、

 

「ん」

 

 小さく、微笑みました。

 

「さつきには、感謝してる。さつきのおかげで、この一年、とても楽しかった。今までたくさんの巫女がいたけど、さつきが一番良かった」

「そ、そうですか? そう言ってもらえると、嬉しいです」

 

 真っ正面からそんなことを言われると、とても照れてしまいます。自分の顔が熱くなっているのがよく分かります。

 

「だから、一つお願いがある」

「お願い、ですか?」

「ん。私が消えたら、小さいものでいいから、お墓でも作ってよ。私は死に方が死に方だったから、お墓なんてないから」

 

 それは、もう消えることが決まっているかのような言い方でした。それがとても、腹が立ちます。かんな様が消えてしまう結末なんて、私は絶対に認めません。

 

「絶対に、嫌です」

 

 私がそう応えると、かんな様は悲しそうに眉尻を下げました。ちょっと罪悪感がわきますが、それはそれ、これはこれ、です。

 

「かんな様のお墓なんて作ってあげません。かんな様はまだずっとここにいるんです。それとも、かんな様はもう消えてしまいたいんですか?」

 

 もしも。もしもそうなら、私が止めることはできません。かんな様がもう見守ることに疲れてしまって休みたいのなら、私は見送るべきなのでしょう。もしもそうなら、笑顔で見送ります。とても悲しいですけど、かんな様が未練なく休めるように、します。

 でも、消えたくないのなら。

 

「ん……。消えたくは、ない。みんなと、さつきともっと一緒にいたい」

「だったら、諦めないでください。きっと大丈夫ですから」

 

 一緒にいたいと思ってくれていることに、思わず相好が崩れそうになります。にやけそうな頬をどうにか真面目な顔で維持しつつ、言います。

 

「それに、かんな様はご自分を過小評価しすぎです」

「ん?」

「かんな様の一大事です。祈りが必要? それぐらい、みんな来てくれますよ」

「あり得ない。仕事は大事」

「かんな様はもっと大事です」

 

 意味が分からないといったように顔をしかめるかんな様。ですが、私は自信があります。だって、声をかけてきた誰もが、即座に協力を誓ってくれているのですから。

 

「だから、明日こそはたくさんおにぎりを作ってきますね」

 

 私がそう言うと、かんな様は苦笑しつつ肩をすくめました。

 

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