ぼっちっていまだに代わりになりそうな陽キャのギターがいたらクビにされるかもと思ってそうだなって思ったので、多分これくらいならないと仲間に必要とされてると分からないだろうなーって。
星ぼ、ぼリョウ成分を含みますがメインはぼ虹です。


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第1話

虹夏side

 

 

 

 

「おはようございますリョウ先輩に伊地知せんぱ~い……、今日は特に暑いですね~……」

「おはよう喜多ちゃん。喉乾いたでしょ? 氷水でも飲んでおいでー」

 

  今日はSTARRYでのスタ練の日、気温が35度という猛暑の中STARRYに来た喜多ちゃんもすっかり暑さにやられていたのですぐに水分補給してくるように促した。

 

「喜多ちゃん顔真っ赤だったね。日傘は差してたみたいだけど」

「今日は本当に暑いからそうなるよ」

「だよね。リョウもいつもは黒系の長袖なのに今日は珍しく白系の半袖だし」

「当たり前。こんな日に熱を吸収する色で長袖で動き回るなんてただの馬鹿だよ」

 

 それはもっともだ。こんな猛暑の中赤系や黒系の長袖で出かけるなんて正気の沙汰じゃないよね。

 でも私たちは失念していた。結束バンドには年中無休で全身ピンクの上下ジャージで歩き回るバンドメンバーがいたことを。

 

「お、おはよう……ござい、ます……」

「あ、ぼっちちゃんおは……ええ!?」

 

 出入り口のほうからな馴染みのある声が聞こえたのでそちらを振り向くと、尋常じゃないくらい顔が真っ赤で、明らかに目の焦点があってないぼっちちゃんがそこにいた。服装もこんな猛暑なのに相変わらずのジャージ姿だった。

 

「ちょっとぼっちちゃん大丈夫!?」

「だ、大丈夫、です……。ちょっとクラクラするだけなので……」

 

 それ大丈夫じゃないじゃん!

 ふらふら歩きながらこちらへ歩いてくるぼっちちゃんに肩を貸そうと椅子を立ち上がった瞬間、ぼっちちゃんは糸が切れたようにその場に崩れ落ちた。

 

「ぼっちちゃん!!」

「ぼっち!!」

 

 床に倒れたぼっちちゃんに私もリョウも駆け寄って肩を抱える。

 あっつ! 尋常ないくらい体が熱い! 完全に熱中症になってる!

 

「お姉ちゃん!! ぼっちちゃんが熱中症で倒れた!」

「はあ!?」

 

 お店の奥にいたお姉ちゃんを大声で呼ぶと急いでこっちに来てくれた。

 

「これは酷いな……。とにかく応急処置するから仮眠室に連れて行くぞ。私は下半身を支えるから虹夏はそのまま上半身を抱えろ。頭は揺らさないようにしっかりな。リョウ、お前はバケツに氷水いれておしぼりをいくつか持ってこい。喜多! まだ水飲み場にいるなら大きめのグラスに水と塩を持ってこい! 男どもは仮眠室に来るなよ!」

 

 お姉ちゃんが私たちに指示を飛ばした後、私とお姉ちゃんでぼっちちゃんを持ち上げて仮眠室に連れていってベッドに寝かせた。

 

「虹夏、ぼっちちゃんの体を支えるから下着以外全部脱がせろ」

「う、うん!」

 

 お姉ちゃんに促されてぼっちちゃんのジャージのファスナーを下ろしていく。

 こ、これ、ジャージの下も黒Tシャツじゃん! なんでこんな上から下まで熱を吸収する格好なの……。

 汗で張り付いて中々脱がせるのに手間取ったけど、何とか服を脱がせてぼっちちゃんを再度寝かせた。ぼっちちゃん顔だけじゃなくて体まで真っ赤になってる……。

 

「虹夏、そんな心配そうな顔するな。応急処置して駄目そうだったら救急車も呼ぶから」

「うん……」

「店長、バケツとおしぼり持ってきたよ」

「私も塩とお水持ってきました!」

「サンキュ。それ全部こっちにくれ」

 

 お姉ちゃんはリョウと喜多ちゃんから持ってきたもらったものを受け取ると氷水でおしぼりを冷やしてから絞って、首、両脇、太ももの付け根におしぼりを挟み込んで、余っている冷やしたおしぼりで全身を拭き始めた。

 

「お姉ちゃんなんだか慣れてるね」

「バンド組んでた時代に夏場に路上ライブしたりしてるとたまにメンバーが熱中症になったりしてたからな。ここまでひどくなった奴はいなかったけどその時に熱中症の対処法の勉強は多少してたんだよ」

 

 なるほど、学校の勉強はからっきしだったけどバンドに繋がることはしてたんだ。逆に私は学校の勉強には多少自信はあるけどこういう知識は全く無いんだよね。私も調べておこう。

 

 

 

 

 

「うっ……、あれ……?」

 

 しばらくおしぼりを取り替えたりしながらぼっちちゃんの体を冷やしていると次第にぼっちちゃんが意識を取り戻した。本当に良かった……。

 

「ひとりちゃん気が付いたのね!」

「は、はい……。もしかして私倒れたんですか?」

「そうだよ。どうだぼっちちゃん、体起こせそうか?」

「……いえ、体がすごく重くて……」

「ああ無理しなくていいよ、起こしてやっから。よいしょ」

 

 お姉ちゃんがぼっちちゃんの肩を支えて上半身を起こす。

 

「しかし流石はぼっち。そう簡単にはくたばらないね」

「今の今までオロオロと心配そうにぼっちちゃんを見てたくせにむごご」

 

 リョウに口を手で塞がれた。素直じゃないやつめ。

 

「お前らうるせーぞ。ぼっちちゃん、これ塩水なんだけど飲めそうか?」

「すみません……、体が全く動かなくてちょっと難しいです……」

「そうか、つっても飲まないわけにもいかないしな。んー……」

 

 吸い飲みがあればいいんだろうけど、私たちの家にそんなのないしなぁ。

 お姉ちゃんがしばらく考え込んでいると大きくため息をついた。どうしたんだろう。

 

「ぼっちちゃん、今からすることは医療行為だから何も気にしなくていいからな」

 

 お姉ちゃんはそう言うと水をある程度口に含み

 

「店長さん……? むぐっ」  

 

 ぼっちちゃんの唇を奪った。

 

「んっ……、んっ……んぐっ……」

 

 お姉ちゃんの口から少しずつぼっちちゃんに水が移されていく。ぼっちちゃんの口の端から少し溢れた水が口から喉にかけて垂れていっている。

 喜多ちゃんは「キャー!」って言いながら顔を手で塞いでいるけど目を塞ぐ部分の指がバッチリ開いてるし、リョウもいつもならスマホで撮影してそうなもんだけど流石に刺激が強いのか顔を赤くして目を背けてる。かくいう私もあまりの出来事に頭がショートしてしまい目が離せなくなってしまっていた。

 

「……ぷはっ。もう一回」

「……はっ! ちょちょちょ、お姉ちゃん何してんの!?」

「なにって、ぼっちちゃんが自力で飲めないんだから仕方ないだろ」

「そ、そりゃそうだけど……!」

 

 だからって口移しだなんて……! ぼっちちゃんが下着姿なのも相まって何か良からぬ光景に見えちゃうよ!

 

「まったく、ムッツリ妹め」

「にゃにおう!?」

「別に私である必要はないけどお前らだと恥ずかしがって上手く出来ないだろ。せめてこのグラス一杯分は飲ませないといけないしよ。安心しろ、やましい気持ちなんてねえよ」

 

 そう言うとお姉ちゃんは水を再度口に水を含んでぼっちちゃんに飲ませ、それを数回繰り返し、グラスが空になるまでそれは続いた。

 

「よし飲み切ったな。……ぼっちちゃんの唇プルプルでやわらけぇ……」

 

 堪能してるじゃん!

 

 

 

 

 

 こうして水分と塩分を補給して意識もすっかり回復したぼっちちゃんは自分が下着姿だということに気付くと

 

「こんな無価値な姿を皆さんに……」

 

 と姿がドロドロに溶けてしまったが、ある意味本調子に戻ったなと安心できた。しかしこんなわがままボディを晒しておいて無価値とは。嫌味か?

 それから体調が回復したとはいえ流石に2時間かかるぼっちちゃんの家まで帰らせるのは心配だということで、ぼっちちゃんのご両親に連絡を入れてからこの日はうちに泊まらせることになり、翌日は日曜日だったこともあってぼっちちゃんのお父さんが車で迎えに来てくれた。

 

「娘を助けていただいて本当にありがとうございました。こちらつまらないものですが……」

「そんな気にしないでください。ひとりさんは私にとっても大切な従業員ですので」

「ありがとうございます、これからも娘のことよろしくお願いします。ほらひとりも」

「う、うん。て、店長さん虹夏ちゃん、ありがとうございました」

「ううん、気にしないで」

「またバイトでな」

 

 そしてぼっちちゃんとお父さんは車で帰っていった。

 ぼっちちゃんも今回みたいなことがあれば夏場であんな格好はもうしないでしょ。いくらトレードマークになってるとはいえ時期はちゃんと考えないと。

 

 でも私は来週のスタ練の日に、どうしてぼっちちゃんにその考えを言わなかったのかと後悔することになった。

 

 

 

 

リョウside

 

 

 ぼっちが熱中症で倒れたあの日から一週間。先週はあの騒ぎでスタ練が出来なかったから私たちはまたSTARRYに練習のために都合をつけて集まっていた。

 

「お、リョウは今日は普段通り長袖の服だね。暑くないの?」

「暑いけど今日は我慢できないほどじゃないし、それに長袖といっても夏服だからね。見た目ほど暑くないよ」

「涼しげな服装のリョウ先輩も素敵ですけど暑い日でも長袖の服を着こなす先輩も素敵です!」

「1回500円で写真撮影できるけどどう?」

「安い! 払います!」

「払うな! バンド内で、ていうか友達同士でただれた関係爆誕させないの!」

 

 むぅ、せっかくの臨時収入チャンスが。仕方ない、帰り道でぼっちにカレーでも奢ってもらおう。

 そういえばそのぼっちがまだ来てないな。普段は絶対遅刻しないように私や郁代よりも早く来てるのに。

 

「もしかしてまた懲りずにジャージ着て熱中症になってるんじゃない?」

「いくらひとりちゃんでもあれだけの事があったのに着てこないですよ~」

「そうだよ。もしまたあんな格好で来たら流石に私も本気で怒るよ」

「虹夏が本気で怒ったらぼっちの命日は今日になっちゃうね」

「私を何だと思ってるのさ!」

 

 私たちが騒いでいると店の奥から「うるせぇぞお前ら!」と店長の怒りの声が聞こえてきた。流石に騒ぎすぎたか。

 そうして虹夏と郁代と談笑していると扉の開く音がした。

 

「お、遅くなってすいません。熱中症に気を付けながら向かってたらギリギリになっちゃいました……」

 

 声のした方を見るとそこには熱中症対策であろう日傘とスポーツドリンクを持った、ピンクジャージ姿のぼっちがいた。

 

「あ、あの……?」

 

 私たちが無言でぼっちの方を見ていたからかぼっちが困惑している。

 いやいや困惑してるのはこっちだよ。先週あれだけの騒ぎになったっていうのになんでまたとち狂った格好をしてるんだぼっちは。

 流石に少し苦言を呈すべきかと思い腰を上げた瞬間、虹夏が早足でぼっちの元へ歩いていく。

 ……脳裏に虹夏のさっきの言葉が再生される。

 

『流石に私も本気で怒るよ』

 

  やばい!

 

「虹夏ちょっと待って……!」

 

 バチン! っと乾いた音がSTARRYに響いた。

 音の発生源はぼっちの頬と虹夏の手のひら。そう、虹夏が思いっきりぼっちをビンタした音だった。

 

「…………え?」

 

 虹夏に叩かれたぼっちは状況を呑み込めないのか、もしくは叩かれたことがまだ理解できてないのかは分からないが、ぼっちが理解する間もなく虹夏は胸倉を掴んで引き寄せた。

 

「……何のつもり?」

「え、え? あ、あの……、何、って……」

「こないだぶっ倒れたのにまたそんな格好で歩き回って何のつもりかって聞いてんの!!」

「ひっ……!」

 

 虹夏のあまりの形相にぼっちが震え上がる。虹夏との付き合いは私も結構長いけどあれほど怒った虹夏は私も見たことがない。

 

「あ、あの、わ、私、あ、あっ……!」

「このっ……!」

「伊地知先輩やめてください!!」

 

 虹夏がもう一度ぼっちをぶとうと腕を振り上げるけど郁代が何とか虹夏を抑えて止めた。

 私も呆然としていたがその姿を見て急いで3人に駆け寄り、ぼっちの胸倉を掴む虹夏の手を何とか離させた。

 

「ふーっ、ふーっ……!」

「虹夏落ち着いて!」

 

 手を離させてぼっちから距離を取らせて虹夏を宥める。郁代も私に虹夏を任せてぼっちの元へと駆け寄っていった。

 

「はっ……! はっ……!」

「ひとりちゃんも落ち着いて! 大丈夫だから!」

 

 ぼっちも完全にパニック状態に陥っていてあっちもだいぶやばい状況だ。ど、どうしよう。私だってこんな状況初めてで止め方が分からない。

 て、店長……。

 

「おいどうしたんだ一体! 虹夏どうした!? 落ち着け!」

 

 よ、良かった。店長が来てくれた。流石にこんなに怒り狂った虹夏を宥めるのは私には荷が重い。

 店長に虹夏を任せる際に今の状況を簡潔に伝えると、店長は軽くため息をついた。

 

「虹夏、怒る気持ちは分かるがぼっちちゃん怯えてるぞ」

「し、知らないよ! ぼっちちゃんなんか……、ぼっちちゃんなんかその辺で熱中症でぶっ倒れたらいいんだよ!」

「おい虹夏!!」

 

 虹夏は店長を振りほどいてSTARRYを飛び出してしまい、店長も虹夏を追いかけていった。

 

「リョ、リョウ先輩、どうしましょう……。伊地知先輩が……」

「虹夏は大丈夫だよ。多分自分の部屋に向かったと思う。店長も追いかけていったし」

 

 それより問題はぼっちだ。ただでさえ人を怖がってるのに親以外から叩かれたせいか尋常じゃないくらい身体が震えてる。虹夏もぼっちの事を想っているからこそ怒って叩いたんだけど、ぼっちは自分に対しての好意はとんと気付かないから只々怖がってしまっている。

 ケアを間違えたら大変なことになりそうだ。

 

「郁代、取り合えずこんなSTARRYのど真ん中じゃぼっちも落ち着かないから移動しよう。PAさんごめん、仮眠室借りるね。ぼっち、行くよ」

「ひっ!!」

 

 ぼっちに手を伸ばすと悲鳴をあげて身体をこわばらせてしまった。これは深刻だな……。

 

「ぼっち、大丈夫だから、ほら……」

 

 それでもゆっくりとぼっちに手を伸ばし、手が体に触れると体が硬直してしまったが逃げることはなかったのでそのまま抱き寄せた。

 

「大丈夫、大丈夫……」

「う、うう……」

 

 そのままゆっくり背中を撫でていると少し落ち着いてくれたのか、多少の強張りはあるものの体の震えは治まってくれた。

 そのままぼっちの肩を抱き寄せた状態で、郁代と一緒に仮眠室に入ってぼっちを仮眠室のベッドに座らせた。

 

「それでぼっちはどうしてピンクジャージを着てきたの? 先週の事忘れたわけではないよね?」

「うっ、ぐす……、は、はい……。 そ、その今日は先週ほど暑くなかったから大丈夫かなって思って……」

「それでもジャージで大丈夫な気温じゃないわよひとりちゃん」

「は、はい、外に出てすぐ駄目かなとは思ったんですけど日傘と水分補給しながらいけば問題ないと思って……」

「そうだね、実際熱中症にはならずにここまで来れた訳だし。でも虹夏は怒ったよね。それは何でだと思う?」

「…………、先週あれだけ迷惑をかけた癖に懲りずに暑い中ジャージを着てきたから、でしょうか……?」

 

 駄目だ、全く虹夏の気持ちが伝わってない。

 自分に対しての感情を何でもマイナスに受け取ってしまうのはぼっちの自己肯定感の低さから来るものだろう。普段はそんな気にするものではないと思ってるし、何ならその結果ぼっちの百面相が見れて面白いとは思ってたけどここまで来ると深刻すぎて笑えないな。

 ……というよりも

 

「ぼっち、私も怒ってるから」

「……え? あ、ああ……! ごめんなさい、ごめんなさい……」

「リョウ先輩! そんなこと言ったらひとりちゃんがまた怖がって……!」

「でも郁代も怒ってるでしょ?」

「そ、それは……」

 

 こんなの怒るに決まってる。自分のことを蔑ろにする上に私たちの気持ちがまったく伝わってないんだ。

 ぼっちは人が落ち込んでいたり悩んだりしているとすぐ気付く。それはきっと人の顔色をうかがいながら生きてきた結果身に付いたものだろう。でも誰かとまともに接することが出来ずに生きてきたぼっちには自分が他人にどう思われているかを理解できない。それは仕方のないことだとは思う。ぼっちだって好きでそうしてきた訳じゃないんだから。

 けど、それでも分かってほしい。そしてそれを分かってもらうには、恥ずかしいけど私もここは素直になるべきだ。

 

「ひぐっ……う、うう……」

「叩いたりしないから安心して。また同じ質問するけど、どうして怒ってると思う?」

「…………何で、ですか?」

「あのね、私たちが怒ってるのは」

 

「虹夏も、郁代も、私も、ぼっちの事が大好きで、大切だからなんだよ」

 

「……え?」

 

 呆気にとられるぼっちの両手を握る。

 

「ぼっちはさ、例えば妹が危ないことを何度もしてたら、どう?」

「お、怒ります。叱ると思います……」

「それと同じ。ぼっちが危ないことをしてるから、私たちも怒ってるんだよ」

「あっ……」

「迷惑とかそういうことじゃなくて、ぼっちのことが大好きで、大切で、心配だから怒ったんだよ」

「……」

「信じられない?」

「……分からないです。ずっとひとりだったから人にそんなこと言われたの、初めてで……」

「まぁそうだよね。……じゃあぼっちは私たちの事好き?」

「えっ……、えっ?」

「どう?」

「すっ、好きです! 大好きです!」

「へえ、どれくらい?」

「すっ、すごくです!! すごく、すっごく!!」

「そっか、信じるよ」

「は、はい!」

「私たちもぼっちが今言ったのに負けないくらいぼっちの事が好きなんだよ」

「……!!」

「いつも変なことしてるぼっちも、ギターが上手いぼっちも、ライブ前に逃げようとしちゃうかっこ悪いぼっちも、いつも私達が困ってたら助けてくれるカッコいいぼっちも、すごく、すっごく大好きなんだよ」

「……ひぐっ!」

「信じてくれるとすごく嬉しいんだけど、どうかな?」

「ぐすっ、うぅ……! し、信じ、ます……!」

「じゃあ虹夏になんて言うべきかは、もう分かるよね?」

「……でも私さっき、虹夏ちゃんにその辺で倒れでもしたらいいんだって、きっと今回ので嫌われて……」

「大丈夫よひとりちゃん、伊地知先輩はそんな意味で言った訳じゃないと思うわ」

「え? じゃあどういう意味で……」

「その答えは伊地知先輩に直接聞いた方がいいわね。さあ」

 

 握っていたぼっちの両手を引っ張って立ち上がらせて、郁代がぼっちの背中を優しく叩いて虹夏の家に向かうように促した。

 

「いってらっしゃい」

「は、はい!」

 

 ぼっちは仮眠室を出ていった。虹夏の家に向かって。

 やれやれ世話のかかる後輩と親友だ。

 

「うふふ」

「何笑ってるの郁代」

「だってリョウ先輩、すごく顔が赤くなってるんですもん」

「……夏だからでしょ」

「そうですね、うふふ」

 

 くっ、郁代が可愛いものでも見るかのようにこっちを見てくる。

 こうなったのもぼっちと虹夏のせいだ。今度二人にはたらふくご飯を奢らせてやる。

 

「あーもう、慣れないこと言ってお腹空いた。今日もスタ練は休みにしよう。郁代なんか奢って」

「はい! 可愛くてカッコいいリョウ先輩が見れたので今日は奮発しちゃいます!」

 

 可愛いのは郁代だけで充分だ。ぼっちたちは、まあ大丈夫でしょ。ちゃんと仲直りするだろうし。

 後のことは二人に任せて、私たちはSTARRYを後にした。

 

 

 

 

ぼっちside

 

 喜多ちゃん達に背中を押してもらって虹夏ちゃんの玄関前まで来た。ちょっと、いや凄く怖いけど、虹夏ちゃんと話さなきゃだよね。

 覚悟を固めてインターホンを押した。

 

「はーい、ってああぼっちちゃん」

 

 虹夏ちゃんを追いかけてきた店長さんが出迎えてくれた。

 

「虹夏なら部屋に閉じこもってるよ。声かけても出てきてくれないけど」

「そ、そうですか……」

「私も仕事があるからSTARRYに戻らなきゃいけないけど、どうする?」

 

 ということは二人きりで話さないといけないのか。でも、もう答えは決めてるんだ。

 

「に、虹夏ちゃんとお話ししてきます」

「……そっか。言っとくけどぼっちちゃん、私だって怒ってはいるんだからな」

「うっ……」

「なんで怒ってるのかは、……もう分かってるみたいだな」

「は、はい」

「やれやれ、私の唇は安くはないんだぞ」

 

 そ、そういえばあの時は朦朧しててそれどころじゃなかったけど、店長さんに私口移しでお水を飲ませてもらったんだっけ。

 思い出したら顔がすごく顔が熱くなってきちゃった。

 

「次また熱中症で倒れたりしたら、そうだな……。今度は大人の口移しをしちゃおうかな?」

 

 店長さんが私の顎に指を添え、顔を近づけて囁くように言ってくる。

 お、大人のってそれ、舌を入れたりとか……、あばばばばばばばばば。

 

「ははっ、冗談だよ。そんな事したら虹夏に背骨折られちまうよ。まあ体は大事にしてくれ。虹夏の事任せるぞ」

 

 店長さんがすれ違いざま私の肩を叩いてSTARRYへと向かっていった。

 う、うう、恥ずかしかった。でも緊張は少しほぐれた気がするかも……。店長さん、ありがとうございます。

 私は家に入り、靴を脱いでから虹夏ちゃんの部屋へ向かった。

 

 

 

 

 

 

虹夏side

 

 

「ひっく、ひっく、ぐすっ……」

 

 どうしよう、私ぼっちちゃんの事叩いちゃった。ぼっちちゃんがああいうの人一倍怖がるの私分かってたのに、頭に血が上って思いっきり叩いちゃった。

 あの時お姉ちゃんに声を掛けられて少しだけ落ち着いた時に見たぼっちちゃんは見たことがないくらい怯えてた。怯えた目で私を見てた。

 どうしよう、ぼっちちゃんが結束バンドを辞めちゃったら、ぼっちちゃんが私の事を嫌いになったら、どうしよう……。

 不安でたまらずベッドに潜り込んでいると、部屋のドアをノックする音が聞こえた。またお姉ちゃんだろう。でも対応する気にもなれない。

 そう思っていると

 

「に、虹夏ちゃん、私です。ぼっちです」

 

 私の部屋をノックしていたのはぼっちちゃんだった。どうして? ぼっちちゃん、あんなに怖がってたのに。

 

「あ、あの、開けてもらえないでしょうか?」

 

 ぼっちちゃんが再度ドアをノックする。私の事嫌いになった訳じゃなさそう。

 そう思うと安堵したけど、その中でぼっちちゃんをまだ許せてない気持ちがあって

 

「……なに、何の用?」

 つい、突き放すような言い方をしてしまった。ドアの前までは来たけどまだドアを開ける気にはならない。

 

「は、はい。今回は虹夏ちゃん達の気持ちも考えずに、迂闊なことをしてしまって本当にごめんなさい!」

 

 気持ち……。じゃあぼっちちゃんは私が何で怒ったのかちゃんと分かってここに来てくれたんだ。

 正直意外だ。ぼっちちゃんの事だからまた迷惑をかけるようなことをしたから私が怒ってるんだと勘違いしてると思ってたから。

 でもぼっちちゃんはまだ私の最初の質問に答えてくれていない。

 

「……ぼっちちゃんはどうしてこの前熱中症になったのに、またそんな暑苦しいジャージを着てきたの?」

「た、対策をすれば大丈夫だと思ったんです。実際熱中症にはなりませんでしたので。で、でもそれは虹夏ちゃん達の気持ちを踏みにじる行動でした。本当にごめんなさい……」

「……」

「こ、これからは年中ジャージで動き回ったりしません。ちゃんと季節に合わせた服を着ます。だ、だから……」

 

「き、嫌いに、ならないで……」

 

 ……!

 

「馬鹿!!」

「わっ! あばば!」

 

 扉を開いてぼっちちゃんを抱きしめた。

 

「何で私がぼっちちゃんを嫌いになるの!? まだ分かってくれてないの!?」

「だ、だって虹夏ちゃん、その辺で倒れたらいいんだって……。私の事嫌いになったんだと思って……」

「違う! 私はぼっちちゃんがどこで倒れたって絶対にすぐ駆けつけて助けに行く!! そういう意味で言ったの!」

 

 メチャクチャなのは分かってるよ! でも分かってよ!

 今私が夢を諦めずに夢を追えてるのはどんなピンチでも壁を壊してくれるヒーローのぼっちちゃんがいるからなのに、嫌いになんてなる訳ないじゃん!

 

「ずっと傍にいてよ! もう誰かがいなくなるのは、嫌だよ……!」

「……! ごめんなさい、わ、私、虹夏ちゃんの気持ち、ちゃんと分かってなくて、ご、ごめんなさい……!」

「私もごめん……、叩いちゃって、痛かったよね……。ごめんね、ごめんね……!」

 

 

 

 

 

 あれから私たちは抱きしめあって泣きつかれるまで二人で泣いていた。

 本当に久しぶりに大泣きしちゃったな。いつぶりだろう。

 

「……少し腫れちゃったね」

「え?」

「ぼっちちゃんのほっぺ」

 

 腫れてしまったぼっちちゃんの左の頬をさする。

 思いっきり叩いちゃったからなぁ。後で冷やしておかないと

 

「あ、気にしないでください。私が悪いんですから」

「そういう訳にはいかないよ」

「そ、それならもう少しさすってもらえませんか? 虹夏ちゃんの手、気持ちよくて……」

「そ、そう?」

 

 ぼ、ぼっちちゃんすごく大胆なこと言うな。他意はないんだろうけどこっちがドギマギしちゃうよ。

 幸せそうに頬を撫でられてるぼっちちゃんを見てると何か変な気持ちになりそう。何か話さないと!

 

「あーところでぼっちちゃん」

「あ、はい?」

「もうジャージは着ないんだよね?」

「は、はい! もちろんです!」

「でもぼっちちゃんってお母さんが買ってくれてる可愛い服しか持ってないんだよね。趣味じゃないんでしょ?」

「うっ……、で、でも着ます。それしか選択肢がないので……」

 

 明らかに気落ちしてるなぼっちちゃん。私は可愛い服を着たぼっちちゃんは確かに見たいけど、趣味じゃない服を毎日着させちゃうのは忍びないんだよな。

 あ、そうだ。

 

「じゃあ今度さ、皆で服買いに行こうよ」

「ふ、服をですか?」

「うん、ぼっちちゃん一人だと怖くて服買いに行けないでしょ?」

「は、はい」

「リョウも喜多ちゃんもお洒落だし、きっと良いアドバイスくれるよ」

 

 それにぼっちちゃんの好みの服を一人で買いに行かせたりなんかしたら鎖ジャラジャラのとんでもないキメラが爆誕しそうでそれはそれで問題あるし……。

 というかよく考えてみるとジャージを着ないということは学校終わりのバイトの日ならぼっちちゃんの制服姿が見られるってことか。これは楽しみだ。

 それから気になる点がもう一つある。

 

「話を少し蒸し返しちゃって悪いんだけどさ、よくぼっちちゃん私が怒った理由分かったね? 絶対勘違いしてると思ってたんだけど」

「あ、はい。リョウさんが教えてくれて……」

「リョウが?」

「は、はい。皆私の事好きだから怒ったんだよって、教えてくれて」

 

 は~、あのリョウが。普段だったら絶対言わないだろうにそんな事。

 これは近いうちに何か奢らされそうだな。でも今回ばかりは仕方ないか。

 

「なるほどね。で?」

「え、え?」

「ぼっちちゃんは私達の事好きなのかな?」

「え! そ、それは……!」

 

 ぼっちちゃんの顔が真っ赤になる。

 おー、こんな顔のぼっちちゃんは珍しい。

 

「えー? 言ってくれないのー? リョウには言わせといてー?」

「リョ、リョウさんには言いました……」

「っていうことは喜多ちゃんも聞いただろうから聞いてないのは私だけかー。いいなー、私も聞きたいなー」

「う、ううぅぅぅぅ……、あの時は頭がいっぱいいっぱいだったから言えましたけど……、虹夏ちゃん意地悪です……」

 

 ふふーん、何とでも言うがいいさー。私を悲しませた罪は重いのだよ?

 するとぼっちちゃんは頬に添えられていた私の手に、さらに自分の手を重ねて

 

「す……、好きです。虹夏ちゃんの、こと、好きです」

 

 顔を真っ赤にして潤んだ瞳で私を真っすぐに見てそう答えた。

 

 や、やばいやばいやばい。

 とんでもない破壊力だ。そういう意味じゃないことは分かってるけどこんなん勘違いしそうにもなるよ。もし言われたのが私じゃなくてお姉ちゃんだったら今頃ぼっちちゃんは押し倒されて穢されてるよ。

 

「に、虹夏ちゃんは……?」

「え?」

「虹夏ちゃんは私の事、好きですか?」

「ええ!?」

 

 まさかのカウンター!? こ、こんな高等技を持っているとは、やるなぼっちちゃんめ。

 

「リョ、リョウさんから皆私の事好きなんだって教えてもらいましたけど、で、でもやっぱり今日こんなことになっちゃったから不安で、虹夏ちゃんからも聞きたい、です」

「……」

 

 そう、だよね。ああは言ったけどぼっちちゃんの性格を考えたら不安にならないわけないよね。

 なんか改まって言うとなるとメチャクチャ緊張するけど、私を見つめるぼっちちゃんの不安そうな顔を見るとすぐに覚悟は決まった。

 空いていた左手をぼっちちゃんの右頬に添えて

 

「私も、好きだよ。ぼっちちゃんのこと、大好き」

 

 そう伝えると、私の両手の中にある不安そうな季節外れの桜は、見たこともないくらいの綺麗な満開の花を咲かせた。

 

 


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