【完全版】相棒〜杉下右京の幻想怪奇録〜   作:初代シロネコアイルー

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第21話 特命係の人里ライフ

 

 稗田邸に着いた特命係は阿求と面会すべく屋敷を訪れる。次女に要件を伝えるとそのまま屋敷の客間に通された。

 会釈して席につくと同時に右京は「僕の元同僚です」と尊を紹介した。

 彼も「初めまして神戸尊と言います。杉下さんを探していたらこちらに迷い込んでしまいました」と挨拶した。阿求は「それは災難でしたね……」と同情を示したのち用件を訊ねる。

 

「どのようなご用件で?」

 

「先ほど『文々。新聞』代表、射命丸文さんからインタビューを受けましたので、そのご報告に」

 

「どのような内容でした?」

 

「『事件』について聞かれました」

 

 そのワードに反応するかのように少女の顔が少しだけ険しくなる。

 

「何とお答えになりましたか?」

 

 和製ホームズは元部下に目配せしてからスマホを取り出すように促す。

 コクリと頷いた尊が、編集ツールで文が去った後の会話をカットした音声を再生できる状態にして座卓の上に置く。

 

「すべてはこの中に録音されています。お聴きになりますか?」

 

 差し出されたスマホを目で追いつつも阿求が無言で頷いた。すぐに尊は録音された音声を再生される。中盤は無駄な雑談が多かったために早回しで進めたが、冒頭と終盤のやり取りはそのまま流した。

 

 少女は黙って音声に耳を傾ける。序盤は些か不快そうな顔、中盤の皮肉合戦ではちょっとだけ笑いを堪えている表情、終盤に入ると目付きを鋭くさせながら聴き入り「これではまるで……」と意味深なセリフを吐いた。

 

 文のインタビュー内容を知った阿求は明らかに腹を立てていたが、すぐに冷静さを取り戻し「わざわざご報告ありがとうございます。後はこちらで対処を考えます」と丁寧に頭をさげ、尊のスマホを見ながら「……スマホって便利ですね」と羨ましそうにボソっと呟いた。

 

 ついでに右京は「手紙の主が見つかるまでこちらに滞在しようと思うのですが、よろしいでしょうか?」と訊ねる。

 

 若干、困り顔になったが彼女は「構いません。ゆっくりなさって行ってください。必要な物があったら何なりとお申し付けを。使いの者に用意させます。それとお帰りの際は私に一声かけて頂ければ博麗神社の巫女や結界に精通した者にお二人が外へ出られるよう、話をつけます」と協力的な姿勢を見せる。

 

 右京は「ご配慮感謝します。ですが、この里に滞在するのは僕達の意思ですから。生活に必要な物資はこちらで集めます」と言ったのだが「いえいえ、事件を解決して頂けるだけでなく、その後も丁寧に対応なさってくださったお二人に何の支援もしないというのは稗田の名に恥じる行為です。ここは私の顔を立てると思って物資をお受け取り頂けると幸いです」と説得される。

 

 そこまで言われたらさすがの右京も断れない。二人は阿求の申し出に深く感謝した。

 阿求はすぐに必要な物資を運ばせる事と手紙についての調査を約束した。

 話を終えた二人は稗田邸を後にする。部屋に帰る途中、尊が右京を見た。

 

「稗田さんってすごくいい人ですね」

 

「ええ、とても聡明で懐の深い方です」

 

 滞在すると申し出たら生活に必要な物や帰る手段まで用意してくれると言うのだから、さすが名家の当主だと尊は感心した。

 

「ところで稗田さんは具体的にどのような対処をするんですかね?」

 

「さあ、僕には見当もつきませんねえ」

 

「天狗の上司に言いつけるとか?」

 

「天狗そのものが排他的らしいですから、簡単には人の話を受けつけないと思います」

 

「つまり、どうにもならないってことですか――まぁ、あんな化け物相手じゃ手の施しようがないってのも頷けますけどね」

 

「それが里の現状でしょう」

 

 人間はあまりに非力。妖怪は里の人を襲わない代わりにそれ以外は自由。楽しむだけなら無問題である。人間と妖怪の対等なつき合いとは想像以上に難しい。

 ()()を知っている右京は里の人々を不憫な目で見てしまう訳だが、尊に何も伝えていないので平静を装う。

 部屋に戻った二人は阿求の使いの者たちがやってくるのを待っていた。時刻は十六時を回ったところだった。右京がスマホのバッテリーを確認する。

 

「僕のスマホのバッテリーが30%を切ってしまいましたねえ」

 

 右京はカバンの中から黒色のモバイルバッテリーを取り出した。長方形で大きさは掌から少しはみ出す程度の物体だった。

 

「君のスマホは大丈夫ですか?」

 

「ぼくのスマホは70%ですね」

 

「少なくなったら言ってください。バッテリーをお貸ししますから」

 

「でも、そのモバイルバッテリーの容量ってどれくらいですか?」

 

 尊は右京のモバイルバッテリーが比較的小型であることを気にかけていた。大きさ的に5000mAhくらいだと想像するが、右京は笑顔で「元特命係の青木年男 (あおきとしお)君オススメのモデルです。僕のスマホであれば三回半は充電できます。しかも最近購入したばかりで、充電もばっちり済ませていますから最低でも三回分はあるとみて大丈夫でしょう」と語った。

 

 青木が押したこのモバイルバッテリーは約10000mAhで最軽量が売り文句の製品。価格は少し高めだが、旅行や遭難時を想定して良い製品を購入しておいたのが吉と出た。

 ナイス、青木年男! 誰かは知らないけど。心の中でガッツポーズする尊。

 

 幻想郷内では電波が届かず、通信手段として役に立たないが、結界外に出れば助けを呼ぶのに必要となる。おまけに事件や幻想郷実在の証拠を残せるので、充電はあった方がよいのだ。

 右京がUSBケーブルを接続し、スマホを充電する。

 

 それから少しして阿求の使者が自宅正面に荷物を持ってやってきた。

 右京は挨拶してから物資を受け取り、中へと運び入れた。その中身は二人分の生活用品だった。物資を整理し終えるまで四十分ほどかかったが、これで生活環境が揃った。

 二人は使者の方々にお礼を言って彼らを見送った。

 

 その後、右京は釜でご飯を炊く準備してから肉や野菜を購入しに外に出た。その間、尊がグツグツと音を立てる釜の管理を任されていた。

 三十分後、右京は野菜、肉、魚、複数の調味料を籠に入れて帰宅。すぐに調理を開始する。

 手際のよくどんどん下ごしらえしていく右京に尊が感心した。一時間半後にはご飯、味噌汁、肉じゃが、川魚の塩焼きを完成させて、二人で頂く。素材が新鮮かつ薬品が加えられていないおかげか自然の味が楽しめた。

 

 右京は「これはよいですね~。作った甲斐がありましたよ」と笑みをこぼし、尊が「久々に和食食べましたけど美味い……てか、杉下さん料理上手すぎでしょ⁉」と感動した。

 

「それほどでも」

 

 右京はいつものトーンで返すが、明らかに上機嫌だった。

 夕食を終えた二人は食器を片づけてから雑談に勤しみ、二十二時には床に就く。

 翌朝、目を覚ました右京は昨日、作り置きしておいた料理を皿に取り分けて、自分の分と尊の分をテーブルに出した。肉じゃがや味噌汁は具に味がしみ込んでさらに美味くなっていた。

 右京が一人、食器を運んでいると「僕も手伝います。腰も大分よくなってきたので」。このように言いだしたので彼に食器洗いを一任した。

 

 尊が食器を洗う間、右京は香霖堂から買った本に目を通していた。種類は幻想郷の歴史が書かれた物や妖怪についての手記など幻想郷に関連する書物ばかりだ。

 作業を終えた尊は右京の読んでいる本が気になり覗いてみるも、変体仮名で書かれていたのであまり理解できなかった。

 

 ページをさらさら捲ってある程度ポイントを抑えると右京は相方に「十時ころになったら鈴奈庵に行きますが、君はどうしますか?」と訊ねた。元部下は「貸本屋ですよね? 僕にも読める本ありますか?」と問う。右京は笑顔で頷き、それを確認した彼が「でしたら行きます」と答える。

 

 右京たちは鈴奈庵の開店と同時に家を出る。鈴奈庵まで十分程度なのですぐに到着。入口を潜ると小鈴が出迎えてくれた。鈴の少女は刑事の隣にいる見慣れない男を不思議そうに観察していた。

 

「えっと、表の方……ですよね?」

 

「そんなところかな」

 

「ほえー、杉下さんのお友達ですか?」

 

「ええ、そうだと思って頂ければ」

 

「わかりました。私は本居小鈴って言います。見たい本があれば是非お申し付けくださいね」

 

「ハハ、どうも。ぼくは神戸尊です。今後ともお見知りおきを」

 

 もともと小鈴は明るい性格なので右京の友人とわかると尊にも笑顔を振りまいた。

 二人は本棚を漁り、テーブルで何冊か本を取って読みふける。もちろん、今回は無料ではない。右京が小鈴に本代を支払い、読書させて貰う形を取っている。

 

 彼らのテーブルには妖怪の残した本から昭和初期に出版された古本や外来本など様々なジャンルのものが置かれていた。

 右京は主にまだ読んでない幻想郷の歴史、妖怪、落語、妖怪の手記などの本を。尊は表の人間用に書かれた幻想郷縁起や幻想入りした外来本に目を通していた。

 

 二人は昼を過ぎても本を手放さない。尊は幻想郷や妖怪の知識を深めるため、右京は自身の目的のために学習を怠らない。

 暇になった小鈴が二人に紅茶を出して外から流れついたと思われる蓄音機にレコードをセットし、曲をかける。流れた曲は昔懐かしいクラシックだった。

 

 外来人たちは懐かしそうに互いの顔を見やった。音楽があるかないかで店内の雰囲気がガラッと変わるものだ。右京や尊のような現代人には音楽があったほうが落ち着くのだろう。二人はさらに読書を続けた。

 

 時刻が十三半時を回る。さすがに腹が減ったのか、二人は読んでいた本を一旦、小鈴に預けて自宅に戻り、昼飯を食べる。ご飯、味噌汁、肉じゃが、焼き魚と純和風なメニューに尊は「なんか健康になれそうですね」と呟き、右京も「ですね」と返す。

 昼食を食べ終わった二人は再び、鈴奈庵を訪れる。そこには小鈴と話す魔理沙の姿があった。

 

「よぉ、おじさん」

 

「こんにちは、魔理沙さん」

 

「杉下さん、魔理沙って……あの?」

 

「そう、彼女が霧雨魔理沙さんです」

 

 右京が尊に魔理沙を紹介した。

 魔理沙が紳士に聞き返す。

 

「そっちのにーさんが表から来たおじさんの友達か?」

 

 どうやら尊のことは小鈴から聞いていたらしい。

 

「そうです」

 

 右京が答えると魔理沙が挨拶した。

 

「私が霧雨魔理沙だ。よろしく」

 

 尊も右京から魔理沙のことを聞かされていたので彼女の口調が男っぽいのは知っていた。

 しかし、遥か年下の小娘がここまでラフに接して来られるのは些か不愉快だった。

 それでも人間離れした戦闘力を持っているのでここはグッと我慢して、素の態度で白黒の少女に接する。

 

「どうも、俺は神戸尊。この人の元相棒です」

 

()ってことは、今は違うのか?」

 

「今は違う部署で働いてるからね」

 

「ふーん、そうか。じゃあ何でここに迷い込んだんだ?」

 

「この人の現相棒に頼まれて探していたら幻想入りしてしまったってところかな」

 

「そいつは大変だったな……」

 

「ハハハ……」

 

 尊は苦笑いしながら自分の運の無さを呪った。一歩間違えば、妖怪に殺されていたのだから当然だった。

 魔理沙が新たな疑問を口に出す。

 

「で、どうやってこっちに入って来たんだ? おじさんと同じく長野ってところの神社から迷い込んだのか?」

 

「そうだよ。村の人に話を訊いて、神社を散策していたらいつの間にか竹林に迷い込んだんだ」

 

「竹林か……。あそこも妖怪や幽霊がうじゃうじゃいるしな。普通の人間が迷い込んだらマズイ場所だ」

 

「正直、死ぬかと思ったよ。途中、白髪の女の子に助けて貰わなかったら、ヤバかったかも……」

 

「白髪の女――()()()()()()()だな」

 

「知ってるのか?」

 

藤原妹紅(ふじわらのもこう)。竹林に住む不老不死の女だ」

 

「不老不死⁉」

 

 物凄いワードに面食らう尊。

 即座に右京が聞き返す。

 

「おやおや、不老不死とは」

 

「実際、私もよくわからんが、攻撃を食らっても即時再生するところをみると満更でもないのだろう。気になるんだったら竹林へ行って本人に訊いてみればいいさ」

 

 尊を助けた人物は藤原妹紅という人物だった。

 彼女は竹林に住む人間だが、不老不死であり、強力な妖術を使う。右京も名前は知っていたが、相手が不老不死だったことまでは知らなかった。阿求が執筆している幻想郷縁起にも書いてあることと、ないことがある。

 竹林の話題はマミとの雑談でも出たが彼女は「あそこにはやたら健康な少女がいるらしいのう」としか喋らなかった。

 右京は日本における不老不死の話でメジャーな物を頭の中に連想して。

 

(不老不死の伝説となると、竹取物語に登場する不死の薬か人魚の肉を食べたとされる八尾比丘尼でしょうかねえ。いずれにしても無視はできませんね)

 

 好奇心を巡らせた。

 その後は魔理沙を混ぜた四人で雑談を続け、右京と尊は表の話題、魔理沙と小鈴は幻想郷の話題を互いに出し合いながら愉快な一時を過ごした。

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