【完全版】相棒〜杉下右京の幻想怪奇録〜 作:初代シロネコアイルー
気がつけば四人は数時間もの間、雑談が続いた。
真面目な話からくだらない話まで様々だったが、双方にとって満足のいくものだった。
「そろそろ、日が暮れてきたな。私は帰るとするぜ」
「僕たちも帰りましょうか」
「はい」
帰りの挨拶を交わしてから右京たちと魔理沙は鈴奈庵を後にした。帰宅途中、手頃な飲み屋を見つけたので、二人はそこで食事を済ませる。
帰宅した彼らは鈴奈庵から借りてきた本を手に取った。右京は謎の人気作家、アガサクリスQの『全て妖怪の仕業なのか』を、尊は外来本の『緋色の研究』をじっくりと読む。
途中、何度か和製ホームズがクスっと笑う。クレバーなワトスンが「そんなに面白いんですか?」と訊ねる。
「ええ」と彼が答えた。
「後で中身を教えてくださいね。何となく想像がつきますけど」
「ふふっ、君が思うよりもずっと奇抜だと思いますよ」
「楽しみにしてます」
そう言うと、尊は視線を自身の本へと移した。緋色の研究は紛れもなく名作である。ホームズとワトスンの記念すべき最初の事件が書かれているのだから。
尊も子供のころ、それを読む機会があったが、今になって読み返すと当時とは違う見方ができる。特に名探偵の助手であるワトスンの置いてけぼり具合には思わず、かつての自分を重ねてしまい、乾いた笑いが止まらなくなった。
目の前のホームズは麻薬にこそ手を出さないが、その正義を貫く姿勢はある意味で本家を凌ぐものがある。
おまけに事件解決数も軽く二○○件は超えており、作中で確認できるホームズの事件解決数を上回る。まさに和製シャーロック・ホームズの名を冠するに相応しい男だ。
尊が「あまり厄介事に首を突っ込まないといいけど……」と心の中で呟くも、期待するだけ無駄だと悟って小さく肩を落とした。
時刻が二十二時を回ると無音による影響か、それともデジタルツールに触れる時間が短くなった影響か、二人は眠気を覚え始めた。すぐに寝支度を整えてから眠りに就いた。
早朝、朝日と共に目を覚ました二人は朝食を作り、昨日と同じように片づけた。
その最中、戸をノックする音が聞こえる。手が離せない右京に変わって尊が戸を開けると、そこには新聞を抱えた射命丸文の姿があった。
「どうも『文々。新聞』です! 記事のほうができましたので、お届けに参りました。後で目を通しておいてくださいね。それでは」
「あ、ちょ――」
尊に新聞を渡した文は返事を待たずに大空へと消えていった。
右手に持った新聞に彼が視線を移す。
「なになに……タイトルは『手紙の主、探してます』か」
大き目の見出しと共に手紙の画像が載っていた。どうやら、文は新聞の一面を使って記事を作ってくれたらしい。
文章は特に脚色されている形跡はなく、自分たちが彼女に話した自己紹介が少々、文章の半分以上は手紙の内容に割かれている。
元部下は記者に対して
尊が右京のところに新聞を持って行く。新聞を見た右京は「後でお礼を言わねばなりませんねえ」と呟いた。
情報発信をしたら後は待つだけである。情報が集まることを期待して右京たちは数日の間は里から動かずにいることを決める。
翌日の午前十時。
里の集会所で敦の葬儀が行われた。飲み屋の常連客が中心となり、右京と尊、魔理沙と霊夢、阿求に慧音、そしてマミが喪服に身を包んで参加した。
遺体は里外れにある野山の中腹に作られた共同墓地に埋葬されることになり、遺体を入れた霊柩を力自慢の若い里人たちが担いで墓地へと運んで行った。道中に妖怪の出現が懸念されるも前日から巫女と魔女が『掃除』を徹底したおかげで、その周辺には妖怪はおろか肉食動物たちの気配さえなかった。
舞花は終始泣いていたが、別れ際には笑顔を浮かべ、事件解決に尽力した右京らに感謝を述べていた。葬儀を終え、身を清めた右京と尊は特命部屋で情報を待つもこの日は誰も来なかった。
日が変わり、昼近くになっても人が来る気配はない。右京は尊を伴って鈴奈庵を訪ねる。
先客の魔理沙と霊夢の姿を確認した右京が軽く挨拶すると、魔女が質問する。
「よう、何か情報はあったか?」
「特にありません」
「そうか」
この二日間、右京たちは情報提供を待ちながらも空いた時間、交代で住民たちに聞いて回ったが、有益な情報は一切なかった。
「私の方も情報らしい情報は入って来てませんね」
そこに本を棚に並べ終った小鈴がやってきて会話に混ざった。彼女も来店客に話ついでに訊ねてみたが、これといった成果はなかった。
霊夢が「妖怪にも手紙の件は伝わっているのに、ここまで情報がないとなると手紙の主はもう……」と最悪のケースを想定するも、右京は「まだ諦めるのには早い。僕は時間の許す限り、捜索を行うつもりです」と言い切った。
その言葉に尊を含めた四人が苦笑う。同時に鈴奈庵の扉が開き、常連であるマミと阿求が入店する。刑事が頭を下げるとマミは手を振り、阿求もお辞儀をした。
「進展はあったかの?」
「いえ、ありません」
「そうか、そうか。儂のほうも探しておるが手がかりなしじゃよ」
「こちらにも情報は入ってきません」
右京から話を聞いたマミや事情を知る阿求も捜索に協力していた。マミは独自ルートでの調査に阿求は里の顔としての人的ネットワークを駆使した情報収集を行う。
どちらも幻想郷の情報に長けている存在だが、依然として見つからない。右京は二人に「ご協力感謝致します」と述べ、今後の方針を練る。
(新聞のおかげで情報は外部にまで拡散されました。しかし、手がかりはない。これは困りましたね)
まだ、二日目とは言え、影響力のあるメディアを使ったのにも関わらず、情報はなし。霊夢の言う通り、手遅れになったのかも知れないが、この程度で諦める右京ではない。
「こうなれば里の外を捜索するしかありませんね」
右京のセリフにいの一番に魔理沙と霊夢が反応する。
「それは危険だ、止めておけ」「外は妖怪が跋扈する世界です。命の保証はありませんよ?」
続いて他のマミ、阿求、小鈴の三人も。
「二人の言う通りじゃ。外に出ても単なる人間では成す術なく殺されてしまう」
「私もこの方と同意見です」
「止めたほうがいいと思います。私も結構、痛い目に遭いましたから……」
幻想郷の住民は誰一人として、右京の発言を肯定する者はいなかった。
右京は尊を見るも彼は両手を振りながら「ぼくたち二人では到底無理です。殺されてお終いですから」とストップをかけた。
同意を得られず、考え込む右京。
里で手に入る情報は限られている。先へ進むためには手紙が書かれたとされる外へ向かわねばならない。右京たちが外で活動するには彼女たちに護衛して貰う以外の選択肢はない。
「魔理沙さん、霊夢さん――僕たちを外まで連れて行って貰えませんか?」
「……場所にもよるが、妖怪の住処へは連れて行けん」
「どうしてでしょうか?」
「おじさんとそっちのにーさんを守りながら進んでいくのは骨が折れる。てか、守りきれる気がしない」
「霊夢さんと二人なら?」
その問いに魔理沙は霊夢を横目で見ながら「可能かも知れんが、それでも完全に守りきれるとは言えんな」と言う。
霊夢も「お二人を守りながら戦うのは正直辛いです」とキッパリ言い切った。
いくら幻想郷の猛者とは言え、お荷物二人を抱えたままでは身が危ぶまれる。里の外、特に妖怪の住処には人を襲い捕食する妖怪も多数存在する。
魔理沙や霊夢がいようがお構いなしでかかってくる者もいるだろう。
幻想郷を知り尽くす二人なら軽々しく請け負うはずがない。
意見を聞いた右京は「そうですか……」と答えて再び、思考を巡らせる。
その様子に一同、視線が集中する。六人の考えは一致している。『無茶なことを言いださなければいいな』という希望的観測である。
杉下右京はいざとなると無茶なことしか言わないし、やらない。それが事件解決に繋がるのであるが、幻想郷で無茶をすれば死に直結するのだ。慎重に行動したほうが得策だ。本人だって理解している。
彼は手紙もそうだが、それ以上にやらなければならないことがあり、自らの目的を果たすために多少の無茶はやむを得ないと覚悟を決めている。
真剣な表情を浮かべる右京の隣で尊は新聞を眺め、手紙の画像をじっくり観察し、元上司の顔を少しだけ怪訝そうな顔で見やるが、何かを言うわけでもなくすぐに目を離した。右手には幻想郷縁起がしっかりと握られていた。
尊は「……とりあえず、お客さんの迷惑になりますし、座りませんか?」と促す。
右京は頷いてからこの場を離れようとした。
その時だった。戸が開く音に続いて女性と思わしき声がする。
――よろしければ私が里の外をご案内致しましょうか?
右京が振り向くと扉は閉まっており、人が入って来た形跡など見当たらない。その現象に他のメンバーも何が起きたかわからず、辺りをキョロキョロと見回していた。
すると、店内にコツコツと足音が鳴り響き、右京の下へ近づいてくる。全員が音のするほうへ視線を移すとそこには銀色の髪に青いメイド服で身を包んだ十代中頃と思わしき少女の姿があった。
少女の歩き格好や佇まいは完璧で、富裕層の尊が「うお、本物のメイドだ」と心の中で唸るほどだった。少女が右京の正面に立ち、スカートの両端を摘まみながらお辞儀をする。
「私は《紅魔館》でメイド長を務めさせて頂いております
そう言ってメイドは微笑んだ。
十六夜咲夜はレミリアの側近として里の内外を問わず有名である。メイドの心構えもだが、戦闘技術も卓越しており、ナイフの腕前も達人級である。その戦闘力は幻想郷で暮らす人間の中でもトップクラス。霊夢や魔理沙にも引けを取らない。
また、幻想郷縁起には彼女は『時間を操る程度の能力』を持っていると記述されている。この能力は文字通り、時間を操る能力だが、かなり応用が利くそうだ。常人では到底太刀打ちできず、戦いになれば一方的に倒されてしまう。そこらの妖怪よりも注意が必要らしい。
「あなたが杉下右京さん、そちらが神戸尊さんでいらっしゃいますね?」
「ええ、そうですが。今、里の外を案内してくれると言ったのは……」
「私です」
咲夜はニッコリと笑う。そこに間髪入れず霊夢が割り込んできた。
「どういうつもり?」
「どういうってどういうことかしら?」
「とぼけんじゃないわよ。アンタが外からやってきた人間に幻想郷を見せて回るなんて話、信じられるわけないでしょ⁉」
「失礼な言いぐさね」
霊夢に問い詰められても咲夜は表情一つ変えない。巫女一人じゃはぐらかされるだろうと踏んだ魔理沙が加勢に入る。
「どうせ、外を案内して油断したところを気絶させてから身ぐるみを剥いで吸血鬼の供物にするってところだろ? 見え見えだぜ」
「お嬢様は小食なので大量に血液を必要としません」
「保存食にする可能性もある」
「ほ、保存食!?」
狼狽える尊。
「神戸さんご心配なく。我々は客人に対してそのようなことは致しませんので」
「お二人とも、信じちゃダメよ!」
「そうだぜ! こいつらは何を考えているのかまるでわからん連中だ。おまけにこのメイドは盗人だ! いつだったか、私の家に忍び込んでコレクションをかっぱらって行った!」
「あら? ちゃんと返したじゃない?」
「いいや、本が何冊か無くなっていた!」
「それはうちの図書館の本でしょ? ついでに返却して貰っただけよ」
「ぐぬぬ……おい、霊夢なんか言ってやれ!」
「自業自得」
「あぁん⁉」
会話の内容が真面目なのか、おふざけなのか、わからなくなってきたところで右京が口を開く。
「十六夜さん。そろそろ……僕に会いにきた本当の目的をお話しください」
「本当の目的……ですか?」
「たまたま通りかかったというわけではありませんよね?」
「どうしてそう思われるのですか?」
右京が答える。
「あなたがメイド服を着てここにきていることから現在、仕事中であると推察できます。仕事中に個人の都合で僕を外に案内しようとするメイドはいないでしょう。仮にいたとするならば新米メイドくらいです。メイド長であるあなたが真似をするはずがない」
「まぁ、仕事とプライベートは弁えていますが……」
「であれば、あなたが僕に接触してきたのは主であるレミリア・スカーレット氏の命令である可能性が高い。つまり、スカーレット氏は僕に何らかの用事がある。そう思ったのですが、如何ですか?」
右京は咲夜をじっと見つめた。含み笑いを浮かべ、メイドはパチパチと手を叩く。
「お見通しというわけですか」
「なんで隠したんだ?」と魔理沙。
「別に隠してたわけじゃないけどね」
メイドは魔女の言葉を否定しながら、右京に会いにきた目的を話し始める。
「実はレミリアお嬢さまがお二人の記事を見て、興味を持ったようで、是非お会いしたいと申しているのです」
「ほう、もしかして――『手紙』についてでしょうか?」
「いえ……お二人の経歴にご興味があるそうで」
「なるほど、手紙ではなく、僕たちにですか……」
「はい。杉下さんが事件を解決したことや経歴と趣味を知って『日本のシャーロック・ホームズがやってきたわ!』とはしゃいでいましたから」
「おやおや、それは買いかぶり過ぎですよ」
謙遜する右京の姿を視界に収めながら尊は「やっぱり、この人のイメージってシャーロック・ホームズだよな」と若干呆れる。
咲夜が続けた。
「よろしければ紅魔館に来て頂けないでしょうか?」
「今からですか?」
「そうですね。ご迷惑でなければ」
右京は尊のほうを向いた。
尊は迷ったが、一人ポツンと里に残されるのも寂しいので「もし杉下さんが行くのであれば、ぼくもついて行きます。ちょっとおっかないですけどね」と答え、咲夜が安心させるために「お嬢さまは客人を襲うことはありませんのでご安心を」と笑顔で告げる。
「そ、そうですか……ハハ」と尊が呟いた。
刑事はそんな元部下を余所に魔理沙と霊夢に意見を求めた。
「僕個人としてはスカーレット氏とお話ししてみたいと思うのですが……皆さんはどう思われますか?」
「一般人には危険すぎる。騙されて言いようにされるぜ?」
「捕って食われるだけかと」
次にマミたちのほうを向いた。
「うむ。こやつらの考えはよくわからんが、霊夢たちが見ている前で人間を連れていって食糧にするとは考えにくい。後で報復されるのがオチじゃしのう。……本当に話したいだけなのかも知れんな」
「確かに。人攫いにしては堂々とし過ぎですものね」
「レミリアさんってそういうのしなさそうだけどなぁ」
マミたちは霊夢らとは違う意見を出した。マミはレミリアが右京と話したいのではと考え、阿求は人攫いにしては不自然と思い、以前レミリアと文通した経験も持つ小鈴は彼女の肩を持つ。
右京は「貴重なご意見ありがとうございます」と礼を述べた。
その様子に咲夜は小さく笑う。
「お嬢さまは純粋に杉下さんとお話がしたいだけだと思います」
「そんなの信じられるわけないでしょ」
「よからぬ企みがあるに違いないぜ」
またしても二人が口を挟んだ。霊夢は妖怪の言い分を信じようとはしない。場合によっては退治するのだが、自身の神社には退治した妖怪たちがたむろしているという皮肉付きである。
一部では
もし行かせて何かあれば本業に影響するかも知れないと危惧しているからだ。魔理沙は元々疑り深い性格なので、この対応は予測の範囲内。わかっていることとはいえ、やはり不毛は問答は疲れる。咲夜はため息をついてから前もって用意した提案を提示する。
「そんなに心配だったら、あなたたちも一緒に来る?」
「「は?」」
間の抜けた声をあげる二人。
「だって心配なんでしょ? なら同行したほうがいいと思うけど?」
「あ、いや、確かにそうだが……」
魔理沙は咲夜がこうもあっさり自分たちを紅魔館に招くなど想像が付かないのか、目が点になっている。霊夢さえも首を傾げている。右京は咲夜が作ったチャンスを逃さない。
「『幻想郷屈指の強さ』を持つお二人が一緒であればどこに行っても安心できますねえ。……君もそうは思いませんか?」
話題を振られた尊は二人の戦う姿を見てないので返事のしようもないのだが、ここは右京に合わせて「あ、安心できますね!」と頷く。
幻想郷屈指の強さというワードに霊夢の顔が綻ぶ。魔理沙が「お世辞だからな?」とつっこむも上機嫌だ。メイドも巫女のガードが崩れたのを感じ取り、上手く誘導する。
「で、どうするのよ『幻想郷屈指』の妖怪退治屋さん? まさか怖いって話じゃないわよね?」
「そんなわけないわ!」
「じゃあ来る?」
「い、いってやろうじゃない!」
「おい霊夢⁉」
魔理沙は啖呵を切ってしまった霊夢を不安そうに見つめるが、当の本人は腕を組んでふんと鼻を鳴らした。
霊夢は意外と単純なのだ。それをよく理解している魔理沙はこれ以上、彼女を止めず「コイツが行くなら私も行く。いいよな?」と咲夜に訊ねた。
咲夜は「いいわよ」と快く承諾した。その態度に魔女はどこか不気味さを覚えるもメイドの真意を読み取れず、黙るしかなかった。
「ふふっ、それではお二人とも、よろしくお願いします」
「わかりました」
「おう」
その光景を見守っていた小鈴が「いいなぁ」と羨ましげに零す。小鈴は紅魔館に行ったことがなく、里には存在しない洋館に憧れを抱いている。小鈴の言葉が耳に入った阿求は、振り向いてから止めておけと言わんばかりに首を横に振った。
そのやり取りを見ていたメイドが彼女に声をかける。
「本居さんも一緒にどうです?」
「ええ!? いいんですか⁉」
「以前、お嬢様もペットを助けて貰ったお礼をしたいと申しておりましたので、この機会に是非」
「でも……」
小鈴は不安げに友人の阿求の顔を見た。その目はまるで捨てられた子犬のようであった。大きなため息を吐いた阿求は「行ってくれば?」と背中を押した。
後押しされた小鈴は「行きます!」と返事をする。
目を輝かせる小鈴を眺める阿求の目はほんの少しだけ羨ましそうにみえた。
稗田阿求は里の名家に生まれた稗田阿礼の転生体だが、知的好奇心に溢れている。幻想郷縁起を執筆する際も妖怪の住処に突撃取材を敢行するなど、かなり無茶をする一面も持ち合わせている。
彼女は紅魔館を何度か訪れているが、大きな催しに出席するだけで紅魔館の日常を体験する機会はなかった。妖怪研究家としては普段の生活も気になるところである。どうせなら自分もと言い出したい気持ちもあるが、呼ばれてもいないのに口に出すのは失礼であった。
それを察したマミが芝居を打つ。
「コホン。しかし、儂らだけ除け者とは何とも寂しいのう。なぁ、阿求どの?」
「そ、それは……」
阿求は心を見透かされた気がして言葉を濁した。続けてマミが視線を自身に移した咲夜に向かってウインクする。咲夜も何かに気がづいたようで僅かに顔を縦に動かしてから、阿求に話しかけた。
「稗田さんもどうですか?」
「え⁉」
自分も誘われるとは思ってもみなかった阿求は両手で口を塞ぐ。
「でも、私は特にレミリアさんと仲がよいわけでもないので……」
「いえいえ、賑やかな方がお嬢さまも喜びますから!」
万遍の笑みを浮かべる咲夜に阿求は右指で髪の毛を弄りつつも「では、お言葉に甘えて……」と恥ずかしげに呟いた。
阿求の返事と同時に隣のマミが咲夜に意味ありげな笑顔で圧力をかける。メイドはその意図を察知して一瞬、目を逸らすが、申し訳ないと思ったのか「あなたも……どうですか?」と渋々誘った。
「もちろんじゃとも!」
マミは即答した。
こうして右京たち七人は、紅魔館を訪れることになった。
楽しそうにする右京と小鈴と阿求、一周回って謎のやる気を出す霊夢、不安そうな尊と魔理沙、そして飄々としているマミ。
様々な思惑が渦巻く中、レミリアの側近、十六夜咲夜は関係ない招待客が増えたのにも関わらず「これでお嬢さまがたもお喜びになられるわ」と心の奥底で怪しげに微笑んだ。