【完全版】相棒〜杉下右京の幻想怪奇録〜   作:初代シロネコアイルー

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第23話 緋色の主

 

 紅魔館に行きが決まった右京たち一行は、それぞれ準備を済ませて三十分後に里の外へと出た。咲夜の先導の下、霊夢と魔理沙が脇を固めるように他のメンバーを誘導する。一行の後方にはマミが陣取っており、余ほどの大群か大妖怪でもない限りは安心だろう。

 

 道中、ちょっかいを出しに来た妖精や妖怪が何体かいたが、その全てが返り討ちに遭う。といっても向こうも本気ではなく、軽い気持ちで挑んできたので、霊夢たちも軽く蹴散らす程度で済ませていた。

 

 その戦いっぷりはさながら空中戦を行うアニメの主人公そのものであり、圧倒的無双であった。右京はすでに霊夢と魔理沙の戦いを目撃しているので景色を含めスマホ片手に撮影していた。反対に尊は大きく口を開けながら「これが同じ人間なのかよ」と零し、共感した小鈴と阿求がウンウンと頷いた。

 

 しばらく歩くと霧かがった湖が姿を現す。白い霧が周囲を覆いながら風に揺れる姿は北海道の摩周湖を彷彿とさせる。

 右京が感心したように口を開いた。

 

「ここが霧の湖ですか。幻想的な場所ですねえ」

 

「我が紅魔館が誇る名スポットです」

 

「勝手に自分のところのスポットにするんじゃないわよ」

 

「慣れると視界が悪いだけの湖だがな」

 

 霧の湖を自慢する咲夜に霊夢と魔理沙が口を挟んだが、メイドは文句を無視して一団を紅魔館まで案内する。

 湖畔に沿って進んでいくこと十分。次第に紅い洋館がその姿を見せる。景観にそぐわない緋色の外壁は()()()()と言われても仕方のないレベルで浮いていた。

 近づくに連れ、館の詳細が判明する。

 

 大き目の洋館で、窓が少ないが、門の鉄格子の隙間から伺える庭園は綺麗に手入れがなされている。館正面の塔には大きな時計が設置されており、時刻はちょうど十四時を指していた。

 門までたどり着くと緑色の中華風衣装を身にまとった門番が出迎えた。

 

「お疲れさまです。咲夜さん」

 

美鈴(めいりん)、ご苦労さま。お客さまをお連れしたから門を開けて頂戴」

 

 咲夜が声をかけると美鈴と呼ばれる門番が頷き、門を開く。それが完全に開くと咲夜が一行を敷地内に招き入れる。

 右京は興味津々といった様子で辺りを見回した。

 

「美しい庭ですね」

 

「それほどでも」

 

 謙遜しながらも咲夜は嬉しそうに答えた。紅魔館を初めて訪れた小鈴も目を輝かせているが、相方の阿求に「勝手にどっか行かないでね」と釘を打たれ、ふくれっ面になる。

 マミもまた「ふむふむ、ここが紅魔館か……」と呟きながら様々な考えを巡らせていた。

 庭を歩き、正面玄関から紅魔館に入ると外観から見て倍以上の広さを持つ紅い絨毯が敷かれたエントランスに数十人の背中に羽根が生えた妖精メイドたちが一行の正面に現れる。

 尊はその外観からは想像がつかない広さに目を疑った。

 

「あれ? こんなに広かったかな⁉」

 

「確かに。想像以上に広いですねえ」

 

 右京が相槌を打つ。咲夜はどこか誇らしげな表情を浮かべるが、魔理沙が「インチキみたいなもんだぜ」と軽口を叩く。霊夢も「空間拡張の仕方を教えて欲しいもんだわ」とメイドに言うも「教えてもできないと思うから時間の無駄ね」と突き放す。

 

 そこに右京が「しかし、気になりますねえ。参考までに教えて貰えないでしょうか?」と訊ねる。咲夜はばつが悪そうに「ええっと、実は私自身もよくわかっていませんので……」と返答した。

 

「そうですか。他のどのようなことができるのですか?」

 

「時間を止めたり、物体の時間を進ませたり、残像を作る程度ですよ」

 

 そう咲夜が答えた。

 尊はあっけらかんとしながら語る彼女を「とんでもないメイドだな」と改めて思った。

 二階へと繋がる階段を上り、客間へと移動すると少々、薄暗い空間の中央に長方形のテーブルがポツンと佇んでいた。そして、その奥にはピンク色の変わった帽子を被った十歳程度の少女の姿があった。

 メイドは少女の下まで右京たちを連れて行き、彼女に告げた。

 

「お嬢さま、杉下さまと神戸さまをお連れ致しました」

 

「ご苦労」

 

 少女は椅子から下りて立ち上がる。

 薄暗い室内に僅かに差し込んだ光が彼女の姿を右京と尊の前に晒した。

 帽子から見える少しウェーブがかった水色のセミロングの髪型に薄いピンクのドレスを身にまとい、目の色は緋色かつ眼球は蛇のように鋭く、肌は日に当たらない影響か西洋人形のように透き通った白さを持つ。その背中には小さいが蝙蝠の翼が生えており、身体を動かすと同時にパタパタと揺らめく。

 右京は目の前の非現実的な存在に感嘆の声を上げ、尊は額から汗を流して小刻みに震えている。

 そんな対照的な二人を視界に入れつつ、少女は余裕と気品に満ちた表情をみせた。

 

「初めまして、私はこの館の主、レミリア・スカーレットよ。あなたが杉下右京さんね?」

 

「はい、杉下右京です」

 

「会えて嬉しいわ」

 

「こちらこそ」

 

 メガネの紳士は会釈の後、姿勢を低くして右手を差し出す。少女ことレミリアは笑顔を作りながら右京と握手を交わす。右京への挨拶を済ませたレミリアは隣の相棒をみやった。

 

「そっちのあなたは神戸……()()さんね?」

 

「あ……」

 

 尊はよく呼び方を間違えられる。特命時代も何かと縁のあるトリオ・ザ・一課の一人、伊丹憲一や特命係に時々やってきては先輩ズラする陣川公平らにソンと呼ばれることがあった。それがまさか、異国の地でも繰り返されるとは尊自身、思ってもみなかった。

 

 しかも、相手は少女とは言え、表でも知らぬ者がいないほど、メジャーな存在たる吸血鬼。尊は大いに迷ったが「すみません……ぼくの名前は『ソン』じゃなくて『たける』です……ハハッ」と説明。レミリアは「あら、ごめんなさい。日本語ってちょっと独特だから、たまに間違ってしまうのよねぇ」と謝罪。

 

 すかさず尊が「いえいえ、紛らわしくて申しわけないですっ」とフォローを入れる。レミリアはその仕草にクスクス笑いながら「そんなに怖がらなくてもいいのに」と内心で思いつつ流した。

 タジタジになりながらもチラッと元上司を見る元部下。察した右京が微笑みながらレミリアに声をかけた。

 

「レミリアさん、本日はお呼び頂きありがとうございます」

 

「急にお呼びして迷惑じゃなかった?」

 

「とんでもない――僕個人としてもいつか紅魔館に伺えればと思っておりましたので」

 

「それはよかった」

 

 レミリアは両手をパンと叩いて喜んだ。それから右京たちの後ろで様子を見守っている来客たちに目を向ける。

 

(随分と客を連れてきたわね……)

 

 少しばかり呆れながらも大して気にする素振りを見せず、彼女が見知った顔に話しかける。

 

「小鈴さん、お久しぶり。元気そうね」

 

「はい、お陰様で!」

 

「稗田さんもいらしてくれたのね」

 

「小鈴のつき添いでやって参りました」

 

「ふふ、歓迎するわ。で、そっちは……」

 

「一応、人間の()()じゃ。よろしく頼むのう」

 

「人間の()()ねぇ……まぁ、そういうことにしておきましょうか……」

 

 紅魔館の主はマミに何か言いたそうだったが、外来人がいるので言い留まり、残りの二人の方を向く。

 

「客人の護衛、ご苦労。もう帰っていいわよ?」

 

「アンタねぇ、こんな不気味な館に人間、残して帰るわけないでしょ」

 

「そうだそうだ、お前らは何を仕出かすかわからんからな。監視が必要だぜ」

 

「あーはいはい、わかったわかった」

 

 レミリアは話すのが面倒になったらしく、適当にあしらった。彼女ら三人のやり取りは大体こんな物である。仲がよい訳でもなく、信用や信頼などの感情は皆無に等しいが、特別な間柄であるのは違いない。

 右京は三人のやり取りを「こういう形の友情もあるんでしょうかね?」とじっくり観察していた。レミリアは「立ち話も何だから座って頂戴」と語って来客全員をテーブルにつくように促した。

 彼らがテーブルについたことを確認した緋色の主が自らの椅子に座る。それからすぐに人数分の紅茶が運ばれてきた。一行は出された紅茶を啜る。

 その味はお世辞にも美味しいとはいえなかったが、右京と尊は顔に出さない。

 

「紅魔館で作られた紅茶の味はどう?」

 

「……とても独特な味ですね。幻想郷らしさを感じます」

 

「よい紅茶だと思います」

 

 レミリアの質問に特命の二人が答えると次に彼女は小鈴と阿求のほうを見て感想を催促する。

 二人は「おいしいです……」とお世辞を送る。残りの三人は感想を述べなかった。

 右京は紅茶の味からよい茶葉を使っていないもしくは栽培環境が茶葉に適していないと気がつくも、明言を避けた。

 レミリアが右京に視線を戻す。

 

「杉下さん、新聞記事を拝見させて貰ったわ。よい趣味をお持ちのようね。幻想郷には西洋的な趣味を持った者が少ないから、つい嬉しくなったわ。それと、そこの紅白巫女と白黒魔女を使って殺人事件をスピード解決したのよね? まるでベイカー・ストリートイレギュラーズを使うシャーロック・ホームズのようだわ」

 

 その言葉に反応して「誰がベイカー街不正規連隊だ!!」と魔理沙が怒鳴るのだが、レミリアは悪びれる素振りを見せず「気を付け」と冗談交じりに語ってみせた。ツボに入ったのか阿求が押し寄せる笑いを必死に堪えていた。

 

 魔理沙は腕を組みながらヘソを曲げる。霊夢は原作を知らないのでチンプンカンプンであった。今の会話から右京はレミリア、魔理沙、阿求が《シャーロック・ホームズ》シリーズを読んでいると理解した。

 

「だから、僕をシャーロック・ホームズと例えたのですね」

 

「それだけじゃないわ。お隣のパートナーのお名前が『ソン』だと思ってたから、ワトスンを連想したのよ。日本だとワトスンをワト()()と言うみたいだし」

 

「なるほど、そうでしたか」

 

 ホームズの相棒ワトソンは正式にはワトスンである。英国紳士風の日本の刑事とソンの名を持つ相棒。レミリアがホームズ&ワトスンを連想するのも頷ける。

 

「ですが、僕はシャーロック・ホームズには遠く及びません。彼のような完成された推理を披露するだけの力はありませんし、失敗もします」

 

 顔を暗くする和製ホームズ。緋色の主がフォローを労いの言葉をかける。

 

「ホームズだって完璧ではない。アイリーン・アドラーには撒かれるし、犯人行方不明のまま事件が終わることだってある。それでも彼は世界中から愛されているのよ? あなたも自信を持つべきね」

 

「恐縮です」

 

 レミリアは右京が今回の事件で犯人の自殺を許してしまったことを知っているので、彼を慰めるような発言をした。レミリア・スカーレットは非常にわがままな妖怪として有名だが、ときおり吸血鬼のカリスマを垣間見せる。

 決して、優しく励ましたりしないが、相手への配慮を含んだ言い回しが他者を惹きつけるのかも知れない。

 右京は吸血鬼のカリスマを肌で感じながら紅茶を啜った。

 

「そう言えば、あなたは里で人気の小説をご存じ? アガサクリスQ原作の『全て妖怪の仕業なのか』って推理小説なんだけど?」

 

「それでしたら昨日読ませて頂きました」

 

「⁉」

 

 アガサクリスQ、通称Qの話が出た途端、何故か全く関係ないはずの阿求が咳き込んだ。

 レミリアはその姿を視界に収めつつも話を続けた。

 

「個人的にとても気になる内容なんだけど、私、あまり日本語が得意じゃないから読めないのよねぇ……。言い回しもちょっと複雑だし。よかったら内容とあなたの感想を聞かせて貰えないかしら?」

 

「そういうことでしたら」

 

 右京はそう言うと何かを察してか、阿求の方をチラッと伺いながらも視線を戻し、吸血鬼の要求に答える。

 

「とある東洋にある外界と隔離された人里に住む好奇心旺盛の十五歳の少年と同い年の男の子が妖怪絡みの事件に挑むというストーリーです。主人公の少年は名家の次男として生まれますが、非常に頭がよく、人里始まって以来の天才で中性的な容姿をしており、美男子として有名で女性に好かれ、さらに格闘技を習得しているため喧嘩も強い――といった人物です」

 

「……随分、設定を詰め込んでるのね。相方のほうは?」

 

「薬屋の長男に生まれた男子で物覚えがよく、天才とまではいかないものの優秀であると書かれていますね。意外と熱くなりやすく、視野が狭くなりがちですが常識人であり、わけの分からないことを言い出しては事件に首を突っ込む主人公のよき理解者として活躍します」

 

「名家生まれの天才に薬屋の倅……なんだが、ホームズとワトスンを連想しちゃう。いや、作者の名前からするとポアロとヘイスティングスかしら?」

 

「全体的に作風が冒険劇寄りなのでシャーロック・ホームズがベースでしょうか。しかし、そこに妖怪が絡んでくるのがポイントで、超常的な事件が次から次へと巻き起こるのです。基本的には妖怪の仕業として処理されますが、中には妖怪の仕業にみせかけて里人が殺人を犯すケースがあり、超常による犯行か人間による犯罪かを、ホームズばりの推理を駆使して明らかにしていくさまは非常に面白く、まさに幻想郷発の本格推理小説といっていいでしょう」

 

「幻想郷版シャーロック・ホームズって奴なのね。どんな事件があるの?」

 

「物語は二人がコンビを結成するきっかけになった怪奇事件である『真実の研Q』から始まり、奇妙な事件が多発していきます。夜な夜な音もなく現れては大きな鎌で人間の身体の一部を切断していく猟奇的な犯人の正体を突き止める『さっチャンのうわさ』。突如、大量発生した座敷童が不満を爆発させて人間社会に戦いを挑む『おかっぱ組合』。

 たたり神を鎮めるために二人が奮闘するも事件が思わぬ方向に転んでいく『願いを叶えてくれとアイツは言った』。密室で次々に死体と思われる物と五寸釘が刺さった藁人形が見つかり、捜査する二人が『6人目と7人目はお前らだ』と予告状を出される『五寸釘の女』。顔なし遺体の真相を確かめるべく山に住む天狗と知恵比べする『恐怖の山』などなど、発想力に富んだストーリー展開が魅力です」

 

「ふむふむ……い、色々な意味で興味をそそられるわね。機会があったら読んでみるとするわ」

 

 レミリアは愛想笑いをしながらQの小説を読むと宣言した。

 

 同時に小鈴がちゃっかり「お求めの際は鈴奈庵で!」とアピールし、隣の阿求もどこか誇らしげな態度を取った。次にレミリアは尊のほうを向く。

 

「新聞には神戸さんは杉下さんの元同僚だと書いてあったけど、特命係って何をする部署なの?」

 

「特命係は警視庁の何でも屋みたいな部署ですね……ハハ」

 

「ふーん……ってことは『雑用係』って感じ?」

 

「まぁ……実際――そんなところですよね? 杉下さん」

 

「ええ」

 

 右京が頷くと他のメンバーたちが驚いたように二人の顔を凝視した。明らかに優秀そうな二人が雑用係などとは到底信じられないのだ。

 特に霊夢や魔理沙は杉下右京の優秀さを肌で感じている。おまけに事件解決直後、右京から過去話を聞かされており、その発言から考えれば雑用係など、到底納得できるものではなかった。

 奇異の目で見られることに慣れている右京は軽く笑みを零す程度だが、エリートコースに戻った尊は七年ぶりの視線にえらく戸惑った。

 レミリアが紅茶を啜ってからポツリと。

 

「何かやらかしたってわけね?」

 

「それはご想像にお任せします」

 

 右京もまた紅茶を口へと運ぶ。その様子に阿求は口元を隠しながら小声で「出る杭は打たれるって奴かしらね……」と呟き、それを聞いたメンバーたちは空気を読んで追求を避けた。

 それからレミリアとの雑談は続き、彼女は右京や尊と他愛もない会話を楽しみながら小鈴や阿求にも話を振った。

 

 小鈴には以前、ペットが世話になったお礼と阿求には体調を気にかける発言をした。珍しく当主らしい振る舞いをみせる吸血鬼に暴君の姿しか知らない霊夢と魔理沙は「やればできるんだな」とほんの少しだけ感心した。

 その際、レミリアが二人を睨んだのは言うまでもない。

 

 このようなやり取りが繰り返されるも基本的には右京とレミリアの雑談だった。

 彼女が幻想郷で自身が起こした異変とそこから今までに至るまでの日々について語れば、和製ホームズはお礼に表の世界の話を聞かせる。

 

 吸血鬼は表の日本の話に関心を示すものの、どこかつまらなそうだった。空気を読んだ彼が、ヴラド三世やルーマニアの話題を振るとレミリアは目を輝かせながら聞き入った。

 話の中で右京はヴラド三世が今では故国のために戦った英雄として再評価されている事実を告げた。レミリアはそれをまるで自分のことのように喜んだ。

 直後、右京の口元が緩む。

 

「やはり、レミリアさんはヴラド三世と何らかの関係がおありになるのですか?」

 

「そうね……。あると言えばあるし、ないと言えばない……。そんなところかしら」

 

「ちなみにブラム・ストーカー原作のドラキュラにもご関係が?」

 

「それもあると言えばあるし、ないと言えばない」

 

「なるほど。わかりました」

 

「あら意外。もっと根掘り葉掘り聞かれると思ったんだけど?」

 

「それは今後のお楽しみとさせて頂きます」

 

「次があるのかしらね。あなただって長く滞在するわけじゃないでしょ?」

 

「おや、言われてみれば」

 

「あんまり遠慮しなくてもいいのよ? といってもそんなに話せることはないけどね。私はここに存在するから存在しているだけなのだから……」

 

 意味深な台詞に霊夢と魔理沙は「またわけのわからないことを言ってる」と愚痴を零し、小鈴は「私には難しいな」と呟き、尊も首を傾げる。

 その中で阿求とマミは彼女の言葉の意味を何となくだが理解した。むろんこの男も――。

 

「人間の恐怖や羨望が作り出した()()――それがレミリアさんたちを含む妖怪の方々の存在に深い関わりを持つのであれば、存在するから存在していることも頷けます」

 

 右京もまた謎めいた発言をする。

 

「ふーん、随分()()()()に詳しいのね」

 

「幻想郷縁起の賜物です」

 

「あれはよくできてるそうね。さすがは稗田家当主さま」

 

 吸血鬼が稗田家当主を褒める。本人は照れながら「どうも」と礼を言った。

 それから右京は現代のイギリスについて話す。やはり、ブラム・ストーカー原作、ドラキュラに関連する土地であるイギリスの話も彼女の興味を引いたようだ。どうやらレミリアはロンドンがお気に入りらしい。彼女は昔から存在する建物や観光名所の現状をいくつか訊ねてきた。

 

 右京は彼女の問いに答えるべく、スマホを取り出して、英国巡りで撮った写真を表示させてテーブルに置いた。するとレミリアのみならず、その場にいる者たち全員が右京の側に集まってきた。

 表の世界、それも西洋となれば興味が沸いてくるのだろう。

 

 右京は皆が画像を見られるようにスマホの位置を調整してから歴史的背景を交えつつ説明を始める。まず、ロンドン市内やその周辺で撮った写真を表示する。

 

 自身が警察庁の新人研修で三年間在籍していたスコットランドヤードから始まり、バッキンガム宮殿、ウェストミンスター宮殿と寺院、ロンドン塔、タワーブリッジ、セントポール大聖堂、大英博物館、自然史博物館、キングス・クロス駅、ロンドン・アイ、グリニッジ天文台など新旧含む幾多の名所、そして忘れてはならないベイカー・ストリートとシャーロック・ホームズ博物館の画像が次々に表示されては別の画像へとスライドして行く。

 

 一同は感嘆しながら右京の説明に聞き入っていた。

 レミリアはどこか懐かしそうな表情で写真を眺めており、咲夜を近くに呼び寄せて「懐かしいわね」と零した。メイドは「ええ」と微笑みながら頷いた。

 

 魔理沙は「ぐぬぬ、これが本場の西洋か!」と羨ましそうに写真を凝視して、博物館の内部を知るや否や展示品に興味を示して「欲しい……」とぶつぶつ呟く。

 霊夢は幻想郷とも表の日本とも違う世界に「まるで異世界ね……」と若干、困惑していた。写真がロンドン塔に差しかかると彼女は怪訝な顔つきで「なんかここヤバいんだけど」と自身の霊感を働かせる。

 

「おやおや、勘が鋭いのですねえ。実ですね――」

 

 右京が史実を教えると霊夢は「やっぱりね」と呆れたような返事をした。

 小鈴と阿求も画面に映し出される画像に心を奪われていた。

 

「これが西洋かー! 凄いなー。こっちと全然違う!」

 

「そうね。素敵だわ」

 

 感激してはしゃぐ小鈴と無言でじっくり観察する阿求。反応は違えど、二人も楽しんでいた。

 マミは「よくこんなに写真を撮ってきたもんじゃわい」と呆れながらも賞賛した。

 ロンドンの紹介を終えると、今度はそれ以外の名所の画像を表示される。

 ネス湖、ボートン・オン・ザ・ウォーター、妖精のプール、エディンバラ城、シェークスピアの生家など様々な観光スポットを紹介した。ロンドンと合わせて約一時間は話しており、表示した画像は優に二百枚は超えていた。

 右京の説明は堅苦しくなく、ユーモアを交えた語り口で参加者が飽きないように面白おかしく解説していくので、素人でも十分に楽しめる内容だった。しかしながら、一時間近くも聞かされると彼女たち、主に霊夢やマミに疲れの色がみえてくる。

 

「杉下さん」

 

 尊がそっと声をかけた。右京は尊が言わんとしていることを理解して謝罪する。

 

「申しわけない、つい話すのに夢中になってしまいました。僕の悪い癖」

 

「そんなことないわ。とても面白かったわよ」

 

 レミリアは満足していた。そこにお世辞はなく、心からの謝辞であった。やはりしばらくぶりの西洋の風景に感動したのだろう。

 小鈴も「楽しかったです! ちょっと足が疲れちゃいましたけど」と述べ、阿求も「非常に興味深いものでした。今度、お時間がありましたら、このお話の続きを聞かせてください」と感謝した。

 霊夢や魔理沙、マミも疲労感はあるものの、概ね満足そうにしていた。

 吸血鬼が笑う。

 

「素敵なひと時をありがとう。そのお礼に我が紅魔館が誇る『名所』を紹介したいと思うのだけれど――どうかしら?」

 

「おお、それは是非!」

 

「じゃあ、行きましょうか」

 

 緋色の主に案内される形で右京たちは広間を出ていった。

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