【完全版】相棒〜杉下右京の幻想怪奇録〜   作:初代シロネコアイルー

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投稿が遅れてしまい、申し訳ないです……。


第26話 緋色の提案

 

 紅魔館が誇る西洋料理と右京が持ってきた紅富貴の力もあって、出席者は皆、満足そうに晩餐会を楽しんでいる。

 立ち上る優雅な香りと共に、右京はカップに残った最後の一杯を飲み干す。

 

「本当によい味ですねえ~」

 

 気品に溢れつつもどこかオリエンタルな味を出す紅富貴は右京の心を満たし、彼を幸福へと導く。隣の尊も「ご馳走様でした。凄く美味しかったです」と感謝を表す。

 出席者たちは余韻に浸りながら親しい者と雑談を行っていた。霊夢は魔理沙と楽しげに、小鈴は阿求とマミの三人で会話に勤しんでいた。

 

 そんな中――レミリアがこっそりと不敵な笑みを浮かべ始め、従者である咲夜のほうを向き、片目を閉じて合図を行う。それに気がついた咲夜はコクンと頷いてから主の隣へと一瞬で移動する。同時にレミリアはパチュリーにも視線を送り、何かを報せた。大図書館の主も了承したかのような態度を見せた。

 間髪入れず、レミリアが出席者たちに向けて「ちょっといいかしら?」と声をかけ、注目を引いてからある提案を持ち出した。

 

「せっかくだから、これからゲームでもしない?」

 

 その言葉に対して魔理沙が真っ先に反応する。

 

「まさか――これから決闘(スペルカード)でもしようって言うのか⁉」

 

 魔理沙の発言を堺に霊夢やマミが嫌そうな顔をした。

 幻想郷におけるゲームでもっともメジャーなのはスペルカードを使った決闘なのだが、これが表の人間の連想するゲームとは違い、一歩間違えば、大けが間違いなしの危険な遊びなのだ。

 知っている者ならこんなリラックスしている最中、そんな遊びをしたいとは思わないだろう。余程の戦闘狂を除いて。

 些か早とちり過ぎる三人に呆れたレミリアが首を横に振る。

 

「そんなわけないでしょ……。皆が参加できる遊び――パーティーゲームよ」

 

「ぱーてぃーげーむ?」

 

 聞きなれない用語に戸惑う霊夢。すかさず魔理沙が「多人数で遊べるゲームだ。花札とかさ」とフォロー。霊夢は手をポンと叩いて納得した。

 吸血鬼の提案に興味を持った右京が訊ねる。

 

「それは楽しそうですね。ちなみにどのようなゲームを?」

 

「うふふ、それはね」

 

 子供らしい無邪気な笑みを周囲にばら撒くレミリア。今まで見せたことがない表情に右京の顔が若干だが、引き締まった。直後、彼女が意外なゲームの名前を挙げる。

 

「一風変わった人狼ゲームよ」

 

「「「「「人狼ゲーム?」」」」」

 

 表から来た二人とパチュリーを除いた面々から疑問の声を上がった 。

 レミリアは彼女らの態度を当然のように受け入れた上で説明に入る。

 

「簡単に言うと『村にやってきた人に化ける狼――通称、人狼を村人が推理で見つけ出して、処刑するっていうゲーム』かしらね」

 

「うえ……。随分、趣味の悪いゲームだな」

 

「いかにも吸血鬼って感じね……」

 

 妖怪退治の専門家の二人は人狼ゲームの内容によい反応を示さない。

 しかし数瞬ののち魔理沙は「あれ、その内容――どっかで聞いたことがあるような」と一人呟いた。右京が「もしかして『汝は人狼なりや?』ではありませんか?」と訊く。

 

「あぁ、それだそれ! 香霖が言ってた奴だ」

 

 彼女はぽんと手を叩いた。

 二人の会話を耳に入れていた阿求も「なるほど、あのゲームですか」と納得する。周りが納得していく中、霊夢、小鈴、マミは意味が理解できず、ポカンとしていた。

 右京が三人に向けて補足を行う。

 

「汝は人狼なりや? とは、昔からあるヨーロッパの伝統的な遊びをゲームとしてまとめたマフィアや人狼をアメリカの企業が商品にして販売した物です。日本では『人狼ゲーム』と呼ばれ親しまれており、最近はスマホの普及もあってか、若い人たちの間で流行っていましたね」

 

「ハハ、そうですね」

 

 尊が同意した。

 

「君は人狼ゲームを遊んだことがありますか?」

 

 右京に問われた尊は「え、まぁ、祖父の別荘で親戚の子たちと遊びました」と答える。

 

「親戚の子供たちと楽しく人狼ゲームですか、よいですねえ」

 

「結構、疲れましたけどね……」

 

「どんなルールのゲームなんですか?」

 

 小鈴が質問すると彼は話を戻した。

 

「参加者は村人陣営と人狼陣営に別れてゲームを始めます。ゲーム開始前にゲームマスターと呼ばれる進行役の方が参加者に陣営と役職が書かれたカードをランダムに配ります。基本的に陣営は村人と人狼の二つですが、村人の役職には占い師やハンターなど特殊能力を持った者が存在しており、それらの能力を駆使して人狼を追い詰めていきます。

 対する人狼側は村人に自身が人狼であると悟られないように立ち回り、村人に嘘を吐き、疑心暗鬼にさせるようなセリフで村人側が自滅するように導いて、夜にはターゲットの村人を選んで殺害して行きます。これを人狼側が全滅するか、村人と人狼の数が同じになるまで続け、前者なら村人の、後者なら人狼の勝ちとなる――という心理戦を用いたゲームです」

 

「へえー(ほう)」

 

 三人は右京の説明に合点がいき、人狼ゲームの内容を大まかながら理解した。

 その様子を見たレミリアが「説明、ありがとう」と自身の代わりに説明を行った右京へ感謝を述べた。

 これで全員が人狼ゲームの概要を理解したことになる。

 レミリアが何故、この場で人狼ゲームを提案したのか――不思議と右京はそこが気になったが、その疑問はすぐに払拭される。

 

「まぁ、幻想郷的に言うと――これから行うゲームは人妖ゲームって感じになるかしらねぇ」

 

「……あ?」

 

 レミリアが放った人妖というワードに霊夢の表情が突如として険しくなり、周りの空気が重くなった。同じく右京と尊以外の客人たちもまた、目を逸らしたり、呆れた顔になったりと、いかにも気まずそうな態度を取った。

 それを察しながらもレミリアはクスリと笑う。

 

「あら、どうかしたの? 私はここが『妖怪の国』だから狼じゃなく妖怪と例えたのだけど?」

 

「ぐ……」

 

 レミリアにそう言われ、霊夢は腕を組んでから悔しそうにした。

 事態が把握できない尊は「え? え?」と驚きながら霊夢とレミリアの顔を交互に見やった。

 一連の会話を前に右京は巫女の強張った表情を注視しながら、レミリアが何かしらの目的を持っていると察する。

 

「(これは面白いことになりそうですねえ)」

 

 これから始まる人妖ゲームに右京はそのポーカーフェイスの裏側で期待感を膨らませた。

 レミリアの顔を睨みながら霊夢は諦めたように大きなため息を吐き出し「わかったわ……」と呟く。

 次第に場の雰囲気が落ち着く方向へと向かった。

 この状況に不気味さを覚えた尊が右京に耳打ちする。

 

「杉下さん、これどういうことなんですか?」

 

「……さあ、僕にもさっぱり」

 

 右京は彼の質問には答えず、静かにこの事態を見守っていた。

 間が空いたのが気まずかったのか、マミが仕方なく、レミリアに訊ねる。

 

「と、ところで……その人妖ゲームと言ったか? 具体的に人狼ゲームとどう違うのじゃ?」

 

「人狼ゲームは人間対人狼――つまり、ワーウルフとの戦いでしょ? 幻想郷のワーウルフは大して強くないから恐怖感が出ず、面白みに欠ける。だからワーウルフを妖怪に置き換え、人と妖怪の戦い――人妖ゲームにした。今はそう思って頂戴」

 

 幻想郷のワーウルフは日本狼の妖怪である。その数は不明だが、並みいる妖怪たちの中では決して強い妖怪とは言えず、ここにいるメンバーの実力からすれば、恐怖を感じる者はごく少数だろう。

 レミリアの話に納得がいかない魔理沙が重ねて訊ねる。

 

「何故、ワーウルフから妖怪に設定を変える必要があるんだ? わざわざ、そんなことしなくても楽しめるんじゃないか?」

 

「より幻想郷に身近な設定のほうが皆、楽しめるじゃないかと思ったのだけど……いけなかったかしら?」

 

「いや、別にそうとは言ってないが……」

 

 こう言われてしまうと、図々しい魔理沙も追及し難くなる。幻想郷の住民にわかりやすいよう、人狼を人妖に変えたと言うのだから。

 霊夢もしっくりとこないが、レミリアに悪意はなさそうなので、特に反論しない。

 それとは反対に阿求やマミは薄々とだが、何かに勘づいたらしく、レミリアの顔を意味ありげにジッと見つめていた。パチュリーは退屈なのか、終始無言であった。

 右京は各々の表情を悟られぬように観察。考察を続けていた。

 人妖ゲームへの質問が無くなったと判断したレミリアはゲームの説明へと移る。

 

「じゃあ、ストーリーを説明するわね――とある山に囲まれた平和な人里で突然、人が消えていなくなる事件が起きました。

 当初、里人は山で遭難したのだろうと考えていましたが、毎晩、一人ずつ消えて行くので、不審に思った若い男の里人が里外れに住む知り合いの薬師に相談へ行くと、彼女は家の中ですでに息絶えていました。

 しかし、死体の近くを見ると、床にとある文字が刻まれてしました。そこには『人に化ける妖怪が二匹』と書かれており、男は里に妖怪が侵入した事を知ります。

 急いで里に帰った男は生き残った里人にその事実を伝えました。ですが、里は他の集落からかなり離れており、どんなに急いでも三日以上はかかり、妖怪退治の専門家を引き連れてきたとしても最低一週間は必要です。

 里人たちは悩みましたが、このままでは里人は全滅してしまうと察した若い男は残った里人を集めて、このように訴えました。『脚力に自信のある何人かに集落まで行って、妖怪退治の専門家を連れてきて貰うしかない。それまでの間、自分たちだけで耐えよう』と。こうして、里人と紛れ込んだ妖怪の戦いが始まりました――こんなところね」

 

「「「「「生々しすぎる(ます)!!」」」」」

 

「あらあら……」

 

 人妖ゲームのストーリーが想像以上にシリアスだったため、周りから不満が噴出。レミリアは口元を押さえながらワザとらしく、驚いたフリをした。

 尊も引き気味でレミリアを見ていたが、右京は微かに笑みを漏らしながら彼女に言った。

 

「中々――興味深いシナリオですねえ」

 

「杉下さんには好評みたいね」

 

「ええ、非常によく幻想郷用にローカライズされていると思いましてね」

 

「ふっ、考えた甲斐があったわ」

 

 レミリアは満足げに笑う。

 周囲の反応はイマイチではあるが、緋色の吸血鬼は気にせず、次の説明に移る。

 

「次はルールを説明するわ。進行役の咲夜が参加者全員にランダムにカードを配り、参加者はカードに書かれている陣営と役職を暗記したらカードを裏に伏せる。そこからゲーム開始よ。

 ゲームは夜から始まり、最初に参加者以外の架空の里人が死亡し、妖怪が人里にいることが確定するわ。そこから里人全員が集まって、十~二十分程の議論を行い、怪しい人物を投票で決めて処刑するの。投票は咲夜が渡す紙に名前を書いて提出、集計の後、選ばれた里人が処刑されるわ。

 その後、夜へと移り、今度は妖怪陣営のターンとなり、ひっそりと妖怪たちが集まって殺害対象を一人決定し、襲って殺す。これを妖怪を全滅させるか、里人の数と妖怪の数が同じになるまで続けて、前者なら里人陣営の、後者なら妖怪陣営の勝利よ」

 

「ふむふむ、なんとなくわかった。じゃが、役職? と言ったのう……それらの持つ特殊能力とはなんじゃ?」

 

 マミは今の話で気になった点があった。それは役職の特殊能力である。人狼ゲームの醍醐味とは何かと言えば、この特殊能力を挙げる者が多いだろう。

 人間と人狼の騙し合いを左右する重要な要素である。これを知らずにこのゲームは遊べない。

 レミリアが彼女の質問に答える。

 

「役職は里人陣営に《里人》《易者》《狩人》《妖怪信者》。

 妖怪陣営は《人食い妖怪》が割り当てられているわ。

 《里人》は特殊能力を持たない一般人。

 《易者》は深夜に一度、占いを行い、対象の里人の陣営を知ることができる。

 《狩人》は一日に一度、選んだ里人を護衛し、妖怪から守ることが可能で、守られた里人は死亡せず、自分も死亡しないけど、連続で同じ里人を守る事ができず、妖怪に狙われたら一方的に死んでしまうから注意が必要よ。

 《妖怪信者》は里人の中にあって妖怪側の勢力――つまりは裏切り者ね。でも、片思いみたいな物だから妖怪からは味方だと思われておらず、易者に占われても当然、里人としか出ない。勝利条件は妖怪が勝利する際、生き残っていれば妖怪が敗北するのと自動的に妖怪信者も敗北する。ちょっと変わった立ち位置の役職になるわ。

 対する妖怪陣営は《人食い妖怪》の一種類のみ。深夜に里人一人を選んで殺害する能力を持っていて、里人の数を減らして陣営を勝利に導くため、連携して里人を化かして行く。これでいいかしら?」

 

「まぁ、大体は把握したが――他の者はどうじゃ?」

 

 マミが周囲を見渡すと、そこにはルールを理解している右京とその相棒。何となく理解できている魔理沙、阿求、小鈴と意味があまりわかってない霊夢がいた。

 霊夢は基本、スペルカードや花札以外のゲームは嗜まないので、こういったゲームへの理解力は高くない。腕を組みながら頭を回転させているのか、停止させているのかその瞳から光を消している。全員が彼女に視線を集中させ、困り顔でその姿を眺めていた。霊夢は恥ずかしかったのか、気まずそうに顔をそらす。

 

 そこで右京が「一度、皆で練習してみませんか?」とメンバーに打診する。レミリアも「そうね」と頷き、ルール把握を兼ねて、練習を行うことになった。

 レミリアは咲夜を含むメイドへ命令し、長いテーブルを下げさせて、参加者全員が囲んで座れる大きさの円形テーブルを用意させた。

 右京たちは晩餐会の同じ順番で椅子へと座る。

 全員が席に着くと、咲夜はエプロンのポケットから十枚のカードを取り出し、皆の前でシャッフルして見せた。

 

「今からカードを配るわ。本当は配られたカードを他の誰にも見せないように確認するんだけど、これは練習だから、カードを見たら表にして自分の手前に置いてね」とレミリアが言った。

 

 本来、カードを確認したら、そのカードを裏向きに伏せ、それを進行役が回収するのだが、今回は練習なので、役職の能力や議論の仕方をレクチャーするためにあえて公開させるのだろう。

 咲夜はレミリアから順番にシャッフルしたカードを一枚ずつ、参加者の目の前へと置いていく。

 全員にカードを配り終わったところで咲夜は「カードをご覧になってください」と告げる。参加者九名は一斉にカードの内容を確認。覚え終わった順にカードを表にして、他のメンバーが見やすい位置へと置いた。

 カードの内容を咲夜が音読する。

 

「レミリアお嬢様が《人食い妖怪》。杉下さんが《狩人》。尊さんが《里人》。マミさんが《人食い妖怪》。魔理沙が《妖怪信者》。霊夢が《易者》。パチュリー様が《里人》。小鈴さんが《里人》。阿求さんが《里人》――ですね」

 

「なるほど、僕が狩人ですか」と右京が笑い、尊も「ぼくは里人ですね」と同様の態度を取った。

 

「人食い妖怪がレミリアとアンタとはなぁ~」

 

 魔理沙が嫌らしい笑みを浮かべながらマミに向けて言った。

 マミは軽く視線を逸らしながら苦しく言い訳する。

 

「何故、儂を見てそんなことを言うのか知らんが、人食い妖怪とは――たとえ、遊びとて選ばれたくないのぅ~」

 

 霊夢は「易者……」と軽くため息を吐くが、魔理沙が小声で「そんな時もあるさ」とさり気無くフォローし、巫女は「そうね」。少しだけ笑った。

 パチュリーは特に何かを言うわけでもなく、ジッとしていた。

 小鈴は若干、寂しそうに「阿求、私たち里人だね」と相方へ話しかけ、阿求が「何の能力も持ってないからこそ、できることもあるのよ」と訳知り顔で返す。

 どうやら、阿求はどこからか人狼ゲームの知識を手に入れていたようだ。

 全員の反応を確認したレミリアは咲夜にゲームを進めるように目配せする。

 

「咲夜、お願い」

 

「はい。それでは、皆さん。これより――人妖ゲームの練習を始めます。

 人狼と戦う決意をした里人でしたが、本当に妖怪の仕業かどうか、わからないので意見が対立し、その日は妖怪のあぶり出しができませんでした。翌日、里人たちが目を覚ますと一人の村人が身体の一部を残していなくなっていました。

 これで里人は妖怪の仕業だと断定。今までの手口から妖怪が夜にしか活動しないと判断した者達が、昼間に妖怪らしき人物を特定し、夜が暮れるまでに処刑しようと言い出しました。

 初め、多くの里人たちが難色を示していましたが、このままでは自分たちが妖怪に殺されると思い、泣く泣く、処刑する人間を決めることにしました。

 そして、里の広場にて住民たちによる議論が始まります――ここから皆さんで実際に議論を行い、投票にて処刑する里人を決めるのですが――その前に霊夢、あなたのカードを見て頂戴」

 

 相変わらず凝った設定を展開しながら、銀髪のメイドは笑顔でゲームを進めていく。

 次に咲夜は霊夢に自分のカードに目を向けるように指示を出した。

 霊夢は自分のカードに目を向けるとそこには魔理沙は里人と書かれた付箋のような物が貼ってあった。もちろん、最初配られた時にはこのような付箋はなかった。霊夢は驚きながらも「アンタの能力ね……」と咲夜の能力を思い出し、納得した。

 

 この現象は紛れもなく咲夜の『時を止める程度の能力』によるものである。

 彼女は時間を停止させ、その中を自由に行動できる。その間、誰も彼女の気配を察知できず、何をされたのかもわからない。

 幻想郷の人間が使える能力の中でもトップクラスの性能。

 それをゲームの進行に使っているのだ。何とも贅沢な使い方である。

 霊夢が確認したところで咲夜は役職の《易者》について説明した。

 

「易者は毎晩、占いを行い、占った対象の陣営を把握できます。最初の夜は私がランダムに里人陣営の里人を選んでから、今のように易者役の方にお伝えします。

 次の日からは易者の方は私に占いたい方、一人の名前を挙げて頂き、私が回答をお教えするという形になります。方法は後でお教え致します。狩人の方も毎晩、一人を選んで護衛しますので、こちらも後ほど、ご説明致します」

 

「わかりました」

 

 狩人役の右京が答え、咲夜が話を続ける。

 

「この状態から議論が始まります。議論は昼間のみ行われ、夕方に一人を処刑します」

 

「うむ、単語だけ聞くとかなり物騒だな……」

 

「もうちょっと、よい言い方はないのかしらね」

 

 魔理沙や霊夢は世界観が生々しいので、難色を示していた。

 確かに幻想郷のような隔離された人里においてこのようなストーリーを関わりがないとは言い難い。

 そこで右京が「でしたら、牢屋に入れて置くなどの柔らかい表現にすればよいのではないでしょうか? 一週間もすれば妖怪退治の専門家が来るですから」と助言する。

 

 それを聞いたレミリアが「牢屋……それもいいかもねぇ」と言うも魔理沙が「だが、もし、牢屋の鍵番が妖怪だったら怖いよな……絶対食われるだろ」と漏らし、霊夢もまた「そもそも、専門家がいない状況で牢屋に閉じ込めても脱出されるのが関の山ね。強力なお札もないだろうし」と専門家らしい意見の述べ、周囲からも同意する声がちらほらと聞こえた。

 

 埒が明かないと感じたパチュリーが「ゲームだから、あまり気にしなくてもいいんじゃない?」と発言する。

 霊夢と魔理沙が唸っていると横から尊が「だったら《吊る》っていう言い方はどうでしょう? 表の子供たちも村人の処刑をそう表現していますし」と打診。とりあえず、それで通すことになった。

 咲夜が説明に戻る。

 

「議論についての説明です。ここでは皆さん、怪しいと思う人物を挙げてその理由を含めて議論していきます。ここで易者の方が手を挙げて名乗り出て行くと議論がスムーズに進みます」

 

「ん? そうなの?」と霊夢。

 

「だって、魔理沙が里人だってわかっているのよ。その事実を公表すれば、魔理沙は里人であると保障されるわ。里人陣営にとって仲間が判明するのは重要なことよ。その人物以外に妖怪が隠れているんだから」

 

「けど、魔理沙って《妖怪信者》よね……」

 

 魔理沙のカードをチラリと眺める巫女。

 

「易者の能力でわかるのは《陣営》だけだからね。この時点では魔理沙は《里人》なのよ?」

 

「むぅ……」

 

「そうだぞ。だから、早く私が里人であると証明するんだ」

 

 魔理沙はニヤニヤしながら急かした。彼女もまた、このゲームを知っているらしく、この後の展開が読めている。

 すでにレミリアが何かを企んでいるかのようにクスクスと笑みを零していた。

 咲夜と魔理沙に促される形で霊夢が「私が易者よ」と手を挙げて発言するが――突如、レミリアが「私が易者よ」と重ねるように名乗り出てきた。

 

「はぁ⁉ ちょっと、どういうことよ!」

 

 声を荒げる霊夢。その様子に魔理沙、阿求が笑いを堪え、パチュリーがニヒルな表情を浮かべる。尊もあまりにもストレートな驚き方に苦笑を禁じ得ない。小鈴とマミは状況を把握し切れておらず、ポカンとしている。そこで右京が補足した。

 

「霊夢さん。これは人狼陣営が必ずと言って良いほど、使ってくる手です」

 

「使ってくる手⁉」霊夢の目が点になる。

 

「そうです。人狼陣営――おっと、今回は妖怪陣営でしたね。霊夢さんの役職である易者は、初日は妖怪以外の里人をランダムに見分け、次の日から選んだ人物の陣営を知る事ができるので、里人陣営で最も頼りになる役職なのです。

 いや、寧ろ、ゲームそのものの流れを決定しまうレベルと言えるでしょう。それくらい、絶大な影響力を持ちます。もし、その役職に妖怪が成りすませたとしたら――ゲームは妖怪の都合のよい展開になると思えませんか?」

 

「た、確かに……」

 

「だからこそ、妖怪役のレミリアさんが自らを易者だと公表したのです。ここで里人に自分が易者だと信じ込ませ、本物の易者を亡き者にすれば、妖怪が易者のように振る舞い、妖怪側にとって有利な発言が可能です。それがレミリアさんの狙いなのです」

 

「うふふ」

 

 レミリアは無邪気に微笑んだ。

 霊夢は「ぐぬぬ……」と唸ったが、魔理沙が「ま、これがこのゲームの醍醐味だ」と巫女の肩をポンポン叩く。

 続いて咲夜が「それでは、十五分ほど、時間を取りますので皆さんで議論を行ってください」と告げてから一歩下がった。

 現時点で判明している情報は霊夢とレミリアが《易者》を名乗っている事実だけである。

 そこから、どうやって議論を進めて行くか、そこが腕の見せどころだ。

 

 しかし、幻想郷の住民は人狼ゲームで遊ぶ機会は滅多になく、皆、初心者のような状態。

 そのため、中々、議論が進まない。阿求やパチュリーと言った知識人は参加者の動向を伺いながら様子見を決め込んでおり、マミや小鈴も初めての経験に戸惑っている。

 レミリアは笑顔のままで霊夢を、霊夢はジト目でレミリアを見つめており、魔理沙は肩を竦めていた。

 このままだとまともな議論にならないと踏んだ右京と尊は互いに顔を見合わせながらアイコンタクトで意思の疎通を行った。直後、右京が行動を起こす。

 

「おやおや、このままだと日が暮れてしまいますねえ~」

 

 すかさず、尊も「確かに。怖い妖怪に食べられてしまうかも知れませんね。早く、決めないと」と、どこか間の抜けた演技を披露する。

 

「ならば、早急に議論を行いましょう! 霊夢さん、レミリアさん。よろしければ、占いの結果を教えてください」

 

「あ、えっと……魔理沙が里人陣営と出たわ」

 

「私の占いによるとマミさんが《里人》と出たわ」

 

「ふむ、そう来たか。こりゃあ、愉快じゃのう!」とマミは一人豪快に笑った。

 

 練習試合なので、全ての参加者の役職が公開されている。

 レミリアが妖怪側で人里陣営の易者を名乗っており、かつ妖怪側のマミを里人と宣言していることから、レミリアが仲間のマミを里人陣営だと思い込ませ、ゲームを妖怪有利にしたいと考えているのは明白だ。

 こんなところを見せられたら、マミはその性質上、笑わざるを得ないだろう。

 ゲームの手綱を握った右京が議論を進める。

 

「霊夢さんが魔理沙さんを里人。レミリアさんがマミを里人と言っていますね。しかし、この人里に易者は一人しかいませんから、どちらかが嘘を吐いていることになります」

 

「本物は私よ」と霊夢が言えば、レミリアが「いえ、私だわ」と声を重ねる。

 

「皆さんはどう思われますか? 二人の役職を知らないという前提で意見の述べてください」

 

 右京がそう呼びかけても、誰もすぐには発言したがらない。頭で意見のまとめているのか、霊夢やレミリア相手に言い難いのか、理由はそれぞれあると思われる。

 なので、まとめ役になった右京が隣の人間から順に訊きにいく。

 

「神戸君。君はどちらが本物だと思いますか?」

 

「ぼくはレミリアさんが本物だと思います。理由はこのゲームに慣れていそうな雰囲気を出しているから――ですかね……」

 

「慣れているからって――それは逆に妖怪の可能性を疑わないか?」

 

 魔理沙がツッコミを入れる。

 

「言われてみればそうかもな~。うーん、困ったな~」

 

「白々しい演技じゃのぉ~」とマミ。

 

「では、マミさんはどちらが易者であると?」

 

 右京が彼女に意見を求める。

 

「現段階ではわからん。じゃから、霊夢とレミリアどの、自分が本物の易者である証拠を語ってくれ」

 

「証拠って何よ……。これ……じゃダメよね……」

 

 そう言って、霊夢は付箋の貼られた自身のカードを提示するも咲夜から「本番で故意に自らのカードを表にするのはルール違反だからね」と告げられ「やっぱりか」と呟き、手に取ったカードをテーブルにそっと戻す。

 

 対するレミリアは饒舌気味に「手を挙げたタイミングがほぼ同時だったから、判断に迷うでしょうけど、私は嘘を吐いてないわ。証拠と言われても、出しようはないけど、それは霊夢も同じはずよ。神戸さんも言っていたけど、私はこのゲームに少しだけ慣れているわ。だから、易者の重要性も理解している。私を残したほうが人里にとって得だと思うけど?」と語り聞かせた。

 

 マミは「霊夢は口数が少なく、レミリア殿はよく喋ってくれるが、どうも手慣れている感が否めんのぉ~」と端的な感想を述べた。

 そこに魔理沙が「いいのか? 一応、レミリアはアンタの仲間だぜ?」とマミのカードを凝視しながら、ふざけ顔で言うが「ここでレミリアどのの肩を持ち過ぎれば、返って怪しまれる。自然に振る舞うのが一番じゃよ」と返した。

 次に右京は魔理沙へ質問を振る。

 

「魔理沙さんはどうお考えですか?」

 

「私か? そうだな。霊夢は喋らな過ぎだし、レミリアは喋り過ぎて逆に不気味だ。霊夢は演技できる奴じゃないし、レミリアは胡散臭い演技しかしない奴だし――」

 

「「はぁ⁉」」

 

 霊夢とレミリアは魔理沙のオブラートに包まない発言に腹を立てるが、白黒の魔女は得意げに。

 

「――ここは易者以外の里人を選んだほうがいいような気がするんだが?」

 

 彼女の役職は妖怪信者。人狼ゲームで言うところの狂人である。狂人の仕事は村人の議論をかき乱すことである。里人に仲間を一人で多く、吊らせることができれば役割を果たしたと言える。

 この魔女は人狼が騙る易者を吊られるリスクを回避したいと考え、処刑のターゲットを変更させようと試みた。

 

 その意図を読み取ったパチュリーが「まだ、議論が深まっていない、このタイミングで易者を議論から外させようとするなんて、いかにも妖怪信者がやりそうなことよね」とチクリ。

 図星の魔理沙は顔を赤くしながら「うるせーよ!」と吠え、周りから笑いが巻き起こった。

 しかし、続く阿求も二人のどちらかが易者であるか見分けがつかないと言い、それ以外から選んだほうが無難かも知れないと発言。小鈴もそれに同意する素振りを見せる。

 

 その後、霊夢とレミリア以外の里人から対象者を選ぶ方向へとシフト。皆、意見を交わし合った。

 右京は狩人だが、狩人は占い師に次いで狙われやすい役職であるため、簡単に名乗り出たりはしない。何故なら占い師を人狼から守る能力があるからだ。

 もし、右京が霊夢を守り、彼女が本物の易者であるならば、易者は進行役から自身が選択した相手の陣営を知り、ゲームを有利に進められる。右京の役職もかなり重要なのだ。

 

 それから、議論を重ね、指定された時間が経過し、いよいよ投票の時がやってきた。

 投票は練習段階なので、挙手により行われ、尊が最初の犠牲者となった。

 そして、ゲームは夜へと移行していく。

 

「夜が来ました。里の住民は皆、寝静まりました。私はこう言いましたら、皆さんはテーブルに伏せてください」

 

 咲夜の指示に従い、参加者はテーブルにうつ伏せになる。

 

「続いて――狩人の方は周りに悟られないように身体を起してください」

 

 指示通り、右京がそっと身体を起こす。

 

「それでは、狩人の方は警護対象を一人選んで、指差してください」

 

 右京は周りに気が付かれないようにレミリアを指差す。理由は易者名乗りをしているからだ。易者は重要な役職であるため、狩人が最も警護しなければならない対象である。

 右京としても客観的に見る限りレミリアが易者を騙っているのではと怪しんだが、周りにゲームの面白さを伝えるなら、レミリアのほうがよいと踏んで、彼女を選んだ。

 彼の選択を確認した咲夜は「対象が決定されました。狩人の方は再び、伏せてください」と指示。右京はそれに従った。

 

「次に、妖怪の方は周りに悟られないように身体を起してください」

 

 指示通り、レミリアとマミがそっと上体を起こす。

 

「それでは、妖怪の方は襲う方を一人選択してください」

 

 レミリアとマミは互いの顔を確認し合い、ジェスチャーで襲う相手を決める。レミリアとマミの選んだ相手は同一人物であった。対象を確認した咲夜は妖怪二人に伏せるよう促す。

 最後に咲夜は易者を起こす。

 

「続いて、本物の易者の方は周りに悟られないように身体を起してください」

 

 指示通り、霊夢はそっと伏せていた身体を置き上げる。

 

「易者の方は占いたい里人を指差してください」

 

 霊夢は無言でパチュリーを指差す。その瞬間、咲夜は小声で「あの方は里人です」と告げてから再び、霊夢に伏せるように促した。

 これで夜のフェイズは終了である。

 咲夜がゲームを進める。

 

「それでは、夜が明けました。昨晩の犠牲者は霊夢さんです」と宣言。

 

 霊夢はゲームから脱落となった。

 

「な⁉」

 

 唖然とする霊夢。その事実を下に魔理沙が考察を始める。

 

「霊夢がやられたとなると、狩人役はレミリアを守ったと考えられるな。つまり、狩人はレミリアを本物だと思った。ま、素人の考えだがな」

 

「易者の重要性を知っている狩人役の方ならば、易者を守るでしょうし、そう考えるのが妥当かもね。ということは……」と呟きながらレミリアに視線を向ける阿求。

 

「ゲーム内の易者がレミィ一人になった」

 

 パチュリーが静かに語った。

 

 話を聞いて右京も「果たして、レミリアさんは本物の易者かそれとも……」と意味深な言い方をする。

 練習のため、カードがオープンになっているが、皆、互いの役職を知らない前提でゲームを進めている。

 人狼ゲームの人狼は基本的に自らを襲うなどという行為には及ばない。通常は村人、特に厄介な占い師を優先して狙う。今回のケースは右京が偽占い師のレミリアを守ったので、霊夢は守られず、村人にとっての切り札を失わせる結果となった。

 だからこそ、占い師は自分が本物であると信じて貰えるように立ち振る舞っていかなければならない。今回はゲーム初挑戦なので、不慣れであるのは仕方ないが、慣れてきたらあの手この手で証明していくのがよいだろう。

 

 妖怪側も狩人を欺けたおかげで成りすましに成功。ゲームの主導権に握れる立場になったが、信用が足りておらず、レミリアが妖怪または妖怪信者の可能性が残っている事実である。

 なので、役職が多くない人妖ゲームにおける妖怪信者役は易者を騙るのがいいかもしれない。

 そうする事で妖怪側のリスクを少なくできる。ちなみに魔理沙も内心こうなるなら自分も動けばよかったと少なからず思った。

 

 妖怪にやられた霊夢はここでリタイアとなるが、彼女は元々、負けず嫌いなのか、ゲーム上の敗北であっても凄く嫌そうな表情を浮かべていた。

 これで脱落者が二名となる。

 その後は、レミリアが易者となり、嘘の占い結果を参加者に伝えた。参加者達は議論と吊り、襲撃を繰り返しながら、ターンを重ねて行き、結果的に右京、阿求、マミが残るが、最後はマミが吊られて、里人側の勝利となった。

 

 練習試合を制した右京は阿求に「とても、すばらしい考察でした」と称賛し、阿求もまた「杉下さんこそ、お上手でしたよ」と笑顔で返した。マミは喉を鳴らして「練習とわかっていても負けるのはあまり、良い気分ではないのぉ」と愚痴を零す。

 

 そこに右京がすかさず「いえいえ、マミさんの発言も説得力があり、聞いていて納得する部分が多く、只者ではないなと思わされましたよ」とフォロー。マミは「口が達者じゃのう、杉下どのは!」と上機嫌になった。

 

 早い段階で脱落した尊も口を開き「皆さん、話し上手で、外野で感心しながら聞き入ってましたよ。とても、初心者とは思えませんでした」とコメント。

 

 魔理沙も右京、阿求、マミを指して「まぁ、この三人は上手いよなぁ……」と呆れ気味に呟く。

 右京は警察官として、阿求は物書きと政治、マミは謎に包まれているが、それぞれ話術を必要とする職業や地位におり、その一端を人狼ゲームという推理ゲームで披露しただけに過ぎない。

 実際、右京は人狼ゲームの知識こそあるが、プレイ回数は数える程度。阿求も同じく知識があるだけでプレイそのものは初めて。マミに至っては勘を頼りに化かし合いをしているだけである。

 

 ルールをある程度、把握した参加者たちは少し、休んでから本番を迎えようとするのだが、そこに魔理沙がとある指摘を行う。

 

「一ついいか?」

 

「何かしら?」咲夜が反応する。

 

「さっきのやり取りで机に伏せてから狩人、妖怪、易者がそれぞれ、起き上がっただろ? その時、振動で誰が立ったのか、何となくだが、わかってしまったんだよ……。進行役の足音も響くし――おまけに物音に敏感そうな連中もいるんだ――このままだとそいつらが有利な気がするんだよなぁ」

 

 魔理沙はレミリアやマミの顔をチラチラと見ながら言った。

 

「なるほど、一理あるわね」霊夢が同意する。

 

 それをきっかけに魔理沙の意見に同意する声がちらほらと挙がった。

 実際、近くの人間が動けば多少なりとも気がついてしまうのは仕方ないことである。

 大型の長方形テーブルを用意すれば、解決するのでは? とレミリアが提案するが、今度はテーブルを囲んで楽しむという人狼らしさが損なわれる可能性をパチュリーが語った。

 

 その際、咲夜が「椅子だけ用意して、円形になって囲むというのは?」と発言。物音も咲夜なら、時間を止めて音を立てずに移動できるので問題はない。その意見が採用された。

 参加者が同意したので、試しのその案でゲームを進めてみたが、やはり、ジェスチャーの際、どうしても物音が出る。物音はレミリアやマミだけではなく、隣の人間にも勘づかれてしまい、ゲームがつまらなくなってしまった。

 

 妖怪と人間が共存する幻想郷において、ルールの決定は難しいのかもしれない。

 悩んだ末、右京が「投票する際に紙とペンを用意してそこに自分の名前、里人の投票先、特殊役職の指定先を記入し、進行役に渡すというのはどうでしょう?」と言い出した。

 すると、阿求が「名前と投票先はいいですが、指定先を書くと自分が特殊な役職であるとバレてしまうのでは?」と心配する。

 

 右京は「投票先と役職による指定先はアルファベットで記入、もしくは囲むするようにすれば、解決出来ると思います。追加ルールとして参加者は特殊な役職ではなくとも、役職欄に記入するという行為を付け加えれば、そこから見破られるリスクは限りなく低くなるかと」と発言。

 レミリアは顎に手をやりながら「それなら、公平性が保てるわね。だけど、妖怪側の打ち合わせするタイミングがなくなってしまうのは痛いのではないかしら?」と自分の考えを述べる。

 

 右京も「その通りですねえ」と頷きながら、再び、良い案がないかと模索し始めるが、咲夜が手を挙げ「特殊役職の欄を二か所用意して上を第一候補、下を第二候補として、記入して頂ければ、私が照らし合わせてからお選びできますが……」と一言。

 

 その方法ならば、妖怪の襲う対象が割れるケースが減るが、肝心の話し合いができない。

 アナログの人狼ゲームでもアイコンタクトやジェスチャーでコミュニケーションを取り合う。スマホなどのネットタイプならば別枠のチャットや音声システムが設けられており、人狼同士の意思の疎通が可能であるが、幻想郷にインターネットは存在しない。

 

 アナログで人狼ゲーム――しかも、参加者に人外を含むなど、日本では決してあり得ない夢の試合。その分、ルールも必要に応じて変わってくるのだ。

 検討の結果、妖怪側は夜の時間、起き上がらず、昼の投票時に襲撃する相手を選択する方針になった。

 物音や揺れに敏感な者を考慮しての決定である。

 

 なお、尊が「もう少し、特殊役職を増やしたほうが盛り上がるのでは?」とレミリアに告げて、彼は幻想郷へ来る前に祖父の別荘で親戚の子供達と遊んだ人狼ゲームについて話した。

 尊は子供たちとインターネット上でプレイ出来る人狼ゲームでトップクラスの人気を誇るゲームをプレイしており、そのゲームの内容を大まかに説明した上で《霊能力者》や《恋人》などの様々な陣営の役職名を挙げた。

 

 その中でレミリアは()()()()()()()()()に注目。夜の打ち合わせが出来ない分、妖怪陣営側が不利になるので()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()という特殊役職《妖怪賢者》を追加したいと提案した。

 実際、人狼版占い師と呼ばれる能力を所持しているので、妖怪側の戦力が大幅にアップするのだが、周囲から強すぎないか? と懸念の声が上がる。

 

 だが、右京が「結果を知れるのが《妖怪賢者》だけにするという設定をつけ加えれば、仲間に伝えるのも一苦労でしょう」と助言。

 阿求が顎に手をやりながら「そうなると、昼に里人を含めた議論の中で仲間に知らせないと行けなくなりますね。相当な難易度になりますが――大丈夫でしょうか?」と言った。

 すかさず魔理沙が「できるのは、お前とおじさんくらいじゃないのか?」と真面目に言った。

 

 卓越した話術や見た物を全て記憶する瞬間記憶能力を持つ阿求と帝都大出身の和製シャーロック・ホームズ、窓際の天才と複数の異名を持つ右京ならば可能だろう。

 もしかすると、魔法使いパチュリーやエリートの尊や切れ者のマミも里人陣営の裏を斯いて仲間とコンタクトを取れるかもしれないが、常人には難易度が高すぎる。

 

 考える一同。

 そこにマミが「ならば、回数限定で仲間に進行役を通じて報せられるという風にすれば良いのじゃなかろうか? 進行役は朝、易者に情報を与えるのじゃし、そのタイミングで先程のようにメモに書いて張り付ければよかろう」と発言。

 

 その意見に尊が「《妖怪賢者》も情報を知れるのは朝で、情報を伝えられるのも朝。おまけに回数限定となれば、早い段階から情報を伝えるのも善し悪しがある」と考察。

 

 続けて右京も「仮に妖怪賢者が吊られた場合、貴重な情報はそのまま、闇の中――となれば、駆け引きも生まれますね」とつけ加える。

 

 そこに小鈴が「回数限定の能力はどうやって使うんですか?」と質問。

 右京は「例えば、投票用紙の名前の横などに悟られぬよう、小さくを○を書く。そうすれば、何気なく、限定的な能力を使用できると思われます」と返答。

 

 それから間もなく《妖怪賢者》の追加が決まった。なお妖怪側もメモで会話できるようにすればよいのでは? との意見もあったが、襲撃時に打ち合わせできるわけではないので、その効果は薄い。

 

 また、尊が参加者九名の人狼ゲームは人狼がやや有利という俗説があると親戚の子供達から聞いたと話し、里人側に人狼ゲームで言うところのメジャーな役職である《霊能者》を入れていないので、もしかしたらバランスが取れているかもしれないと語った。

 

 それ以降、議論は収束へと向かい、ついに人妖ゲームのルールが完成する。

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