【完全版】相棒〜杉下右京の幻想怪奇録〜   作:初代シロネコアイルー

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第28話 緋色の遊戯 前編

 

 やや、疲れ気味のメンバーだったが、朝食が豪華になると聞いて霊夢、魔理沙、小鈴がやる気を取り戻す。マミと阿求は相変わらずのお気楽三人組を尻目にこっそりとため息を吐く。

 パチュリーは無表情、尊も疲れ気味。その中であっても右京は笑顔でゲームの開始を待っていた。

 どうやら、自分たちでルールを作ったゲームで遊びたいようだ。

 

 尊はその無尽蔵の好奇心に呆れながらも、どこか感心するような素振りを見せる。そして、言いだしっぺのレミリアもクスクスと口元を緩ませ、ゲーム開始を今か、今かと待ち望んでいた。

 右京とレミリアの笑顔は周囲の者たちへ更なる疲労感を与えるも『仕方ないから付き合ってやるか』と半ば投げやり気味に力を入れさせた。

 

 席は練習時と変わらず皆、同じ席を選択する。席の記号は反時計回りでレミリアがA。右京がB。尊がC。マミがD。魔理沙がE。霊夢がF。パチュリーがG。小鈴がH。阿求がIだ。

 進行役は十六夜咲夜が続投する。彼女にも疲れが見えるが、主人レミリアのため、その無邪気な我儘に全力で応える。

 

 メンバーの座るスペースにはルールで決まった通り、一人用の机と椅子が用意され、円陣を組むように配置された。

 皆、指定した席に腰を下ろす。咲夜はゲームスタートの口上を述べる。

 

「ここはとある地方の秘境に存在する山に囲まれた人里。人々は決して裕福ではありませんが、平和な生活を送っていました。

 そんなある日、人が消えていなくなる事件が起きました。当初、里人は山で遭難したのだろうと考えていましたが、毎晩、一人ずつ消えて行くので、不審に思った若い男の里人が里外れに住む知り合いの薬師に相談へ行くと、彼女は家の中ですでに息絶えていました。

 若い男が死体の近くを見ると、床にとある文字が刻まれてしました。そこには『人に化ける妖怪が二匹……』と書かれており、男は里に妖怪が侵入したことを知ります。

 急いで里に帰った男は生き残った里人にその事実を伝えました。ですが、里は他の集落からかなり離れており、どんなに急いでも三日以上はかかり、妖怪退治の専門家を引き連れてきたとしても最低、一週間は必要です。

 里人たちは悩みましたが、このままでは里人は全滅してしまうと察した若い男は残った里人を集めて、こう言い放ちました。『脚力に自信のある何人かで集落まで行って、妖怪退治の専門家を連れてくるしかない。それまでの間、自分たちだけで耐えよう』と。

 こうして、里人と紛れ込んだ妖怪の戦いが始まるのでした――」

 

 咲夜は九枚のカードを参加者全員から見えるように自身の正面でシャッフルした。

 三十回以上のシャッフルを繰り返し後、彼女は時を止めて、各自のテーブルにカードを裏向きで配置した。

 

 一瞬でカードがテーブル上に出現したにも関わらず、参加者は静しい顔をしていた。

 流石に時間停止を何度も経験していれば誰でも慣れてしまう。

 右京たちは出現したカードの内容を他の参加者に見られないように確認。

 

 十秒足らずでテーブルに裏側で伏せ、咲夜が瞬時に回収――該当する役職に付箋を付けて再び、テーブルへと置いた。メンバーは一斉にカードを見る。

 皆、表情を変えずに何食わぬ顔でカードを伏せ、咲夜が素早く集めた。

 これで全ての参加者が自身の役職を把握し、易者はランダムな里人陣営から一人、妖怪は仲間の名前を知ったことになる。

 

 右京、レミリア、マミ、霊夢、魔理沙は不敵な笑みを浮かべ、尊は若干の困り顔、阿求とパチュリーは無表情。小鈴を使って頑張るゾイのポーズ。

 各々の性格がよく表れていた。ゲームはいよいよ本編へと移る。

 

「――人狼と戦う決意をした里人でしたが、本当に妖怪の仕業かどうか、わからないので意見が対立し、その日は妖怪のあぶり出しができませんでした。

 翌日、里人たちが目を覚ますと一人の里人が身体の一部を残していなくなっていました。これで里人は妖怪の仕業だと断定。今までの手口から妖怪が夜にしか活動しないと判断した者たちが、昼間に妖怪らしき人物を特定し、夜が暮れるまでに処刑しようと言い出しました。

 初め、多くの里人が難色を示していましたが、このままでは自分たちが妖怪に殺されると思い、泣く泣く、処刑する人間を決めることにしました。

 そして、里の広場にて里人たちによる議論が始まるのでした――制限時間は二十分です。存分に話し合ってください」

 

 すぐに議論がスタートした。参加者は雰囲気作りのために、それらしいことを好き勝手に言い出す。

 

「この里に妖怪が潜んでいるとはッ」

 

 右京はブルブルと顔を震わせ、演技派の一面を見せる。

 

「ぼくも怖くて……どうにかなっちゃいそうです」

 

 ちゃっかりと乗っかる尊。

 

「はん! 妖怪なんて本当にいるのかねー。野犬の仕業って線も捨てきれないがな!」

 

 腕を組む魔理沙。

 

「でも昨夜、何者かに里人が殺されたわ」と霊夢が相槌を打つ。

 

「この中に犯人がいるのかしら?」

 

 レミリアが無邪気に微笑むと阿求が言葉を差し込んだ。

 

「薬師のおばさまが残したメッセージが本当なら紛れているのでしょう」

 

「苦楽を共にした仲間同士で疑い合わねばならぬとは――困った物じゃのう」

 

「仕方ないわ。妖怪が侵入した以上、排除するしかない」

 

 苦言を呈すマミに冷静な意見を出すパチュリー。

 

「ど、どうすればいいんだろ……」

 

 一人、雰囲気に着いて行けずリアルな心境を漏らす小鈴。さりげなく阿求が「誰が怪しいか、話し合いで見定めるしかないわ。小鈴」とフォローした。

 普通なら今のタイミングで易者が名乗り出るのだが、すぐにそれをやってしまうと形式的になってしまい、どこか面白みに欠ける。

 

 そこでメンバーは議論スタートから三分~五分程度の間、何かしらの話題を振り合って自分たちで物語を創作しながら進行するという『TRPG的なスタイル』を作り上げてしまったのだ。もちろん、全てアドリブである。

 

 そういう意味で《レミリア・ジャッジメント》は現代の人狼ゲームから少々、離れていると言ってよい。

 まさに幻想郷の本格推理ゲームなのだ。

 

「……どなたか、昨夜亡くなられた里人のお名前を知っている方はおりませんか?」

 

 右京が唐突に話題を出した。それにレミリアが乗っかる。

 

「名前……? そこの『白黒』なら知っているんじゃないかしら。胡散臭いけど自称、情報ツウらしいし!」

 

「おやおや!」

 

「ああん⁉」

 

 まさかのパスに魔理沙は驚いた。レミリアはクスクスと笑いながらチラッと舌を出した。

 魔理沙は最初の練習でレミリアが易者名乗りをした際「胡散臭い」と言ったことを思い出し「さっきのお返しかよ……」と呟く。視線が一気に彼女へと集まった。

 

 魔理沙は自分が答えるしかないと観念した。

 

「うーーん、なんだっけなー。確か……」

 

 やがて必死に頭を回転させてとある人物の名前を言った。

 

「ア、アガサ・クリスQとか言う奴だったかなー。なぁ、阿求?」

 

「――ッ⁉」

 

 何故か阿求の肩がビクついた。人里に精通するメンバーは苦笑いを浮かべつつ阿求を見た。

 彼女は魔理沙に視線を凝視して顔をしかめるも、機転の利く阿求はすぐに冷静さを取り戻し、このように切り返した。

 

「……アガサ・クリスQは偽名よ。本当はオーエンって言うらしいわ。前にそう聞かされた」

 

「オーエンだと⁉」

 

 予想外の返しに魔理沙は声をうわずらせて「東の国なのに西洋人でいいのだろうか……」と心の中でマジレスする。

 理由は不明だが、阿求としてはクリスQを死人にしたくなかったのだろう。

 興味を持った右京が横から口をはさむ。

 

「オーエン――それがお名前ですか?」

 

「苗字だったかと思います。お名前までは教えて頂けませんでした」

 

「何故、お名前を教えなかったのでしょうねえ?」

 

「私も詳しくは知りませんが『とある小説の登場人物』と同じ名前だからだと以前、伺ったような気がします」

 

 それを聞いた右京はふふっと笑いながら該当する人物の名前を言う。

 

「となるとそれはユーリック・ノーマン・オーエン――」

 

「またはユーナ・ナンシー・オーエン――」と勝手に続ける尊だったが、そこに魔理沙が「もしくはフランドール・スカーレットだったりな」と意図的にレミリアの妹の名前を繋げた。

 反射的に吸血鬼の顔が呆れ色に染まった。

 

「あ? なんだって?」

 

「そのままの意味だ」

 

 お返しのお返し、と言わんばかりにドヤ顔を決め込む魔理沙。

 レミリアはジト目で魔理沙を睨むも「あながち間違いじゃないのよねぇ」とため息を吐いた。すぐさまパチュリーが「最近は落ち着いてきているわ」とニヒルな表情を僅かに緩めてクスリと笑った。

 

 吸血鬼は「そうよね。あの娘もあの娘で変わってきたわ」とどことなく嬉しそうに言った。司会役の咲夜も一歩離れたところから微笑んだ。

 フランドールと関わりがある魔理沙と霊夢は「「だといいんだがなぁ……(けどねぇ……)」」と肩を竦めた。

 

「ところで……その、オーエンというのは何じゃ? どこかで聞いたことがあるのじゃが、イマイチ思い出せん」

 

 話についていけないマミが申し訳なさげに言った。

 すかさず右京が解説を入れる。

 

「オーエンというのはアガサクリスティー原作『そして誰もいなくなった』の登場人物です。夫のユーリック・ノーマン・オーエンと妻のユーナ・ナンシー・オーエン――通称、オーエン夫妻は原作のロングヒットも相まって長年、ミステリーファンから親しまれています」

 

「ほうほう、ミステリー物だったか。しっかし、どこもかしこもミステリーブームじゃのう! 儂にゃあ、ついていけんわい。お手上げじゃ、お手上げ」

 

 ジェスチャーを交えながらマミは、右京の瞳をジッと見た。

 

「僕はよい傾向だと思いますがねえ。物事を疑いながら考えるきっかけにもなります」

 

「イタズラに人を疑うメンドクサイ連中が増えるだけだと思うがなぁ」

 

 魔理沙がツッコミを入れる。

 

「アンタみたいな?」

 

「何を言っているのか、さっぱりわからんな」

 

 霊夢の冷やかしを一蹴するも魔理沙はどこかバツが悪そうだった。

 小鈴はメンバーたちの会話を聞きながら嘆く。

 

「『そして誰もいなくなった』は鈴奈庵にもあるけど、英語版だからなぁ~。翻訳した本を出せば儲かりそうなんだけど」

 

 直後、阿求がキメ顔で「私なら訳せるけど?」と右指でお金を模した輪っかのマークを作りながら問いかけたが、鈴の少女は「どうせお高いんでしょ?」と吐き捨てた。

 阿求の性格を知っている親友の小鈴ならではだった。

 

 オーエンの話題で盛り上がったり、リアルな話題を出したりとシリアスなゲームの設定にしては些か緊張感がなさすぎるが、これが幻想郷の住民である。

 右京はこのどこか間の抜けたやり取りを気に入っている。反対に尊はついて行けずに戸惑っている。

 そんな中、手持ちの懐中時計を眺めていた咲夜が時間を告げた。

 

「残り時間は後、十五分です」

 

「もう五分経ったの⁉」

 

 尊が驚いた。まともな議論を行わず、メンバーは他愛もない雑談だけで五分を使い切ったのだ。

 内容は死んだ里人がオーエンという人物であることくらいである。戸惑うメンバーも少なくない中、パチュリーがしれっと言った。

 

「時間だし、進めましょうか」

 

「おいおい、お前が《進行役》か?」

 

 魔理沙が口を出した。

 白黒の魔女の言う進行役とは参加者内で意見をまとめる者のことだ。ゲームの進行役は咲夜だが、議論には口を出さない。議論をまとめるためには別の進行役が必要なのだ。パチュリーは自らその役目を買って出たという訳だ。

 魔理沙はそれを妖怪の企みかと訝しみ、ちょっかいを出したのだろう。

 七曜の魔女は少し間を空けたが、珍しく魔理沙との会話に応じた。

 

「……なら、アンタがやる?」

 

「うーむ、まとめ役ってのは前に阿求んところでやったけど、なんか苦手でな……」

 

 当時の幻想郷では新参者だった宗教家三人衆との対談を思い出して渋り始めた。

 

「だったら誰がやるんだい?」

 

 レミリアに急かされ、魔理沙は少し考えてから「多数決で決めようぜ」と言った。

 参加者は賛同、指差しで一斉に進行役を選ぶことになった。

 

「「「「せーの――」」」

 

 結果、パチュリーに二票、阿求が三票、そして残り四票が右京に入り、進行役は彼に決定した。

 

「おやおや、僕ですか! 大役を預かってしまいましたね」

 

「似合っていると思いますよ」と尊が相槌を打つ。

 

「無難じゃねぇか?」

 

 そう言って魔理沙が踏ん反り返った。他のメンバーも不満はなさそうだ。

 周囲をぐるっと見渡した右京が宣言する。

 

「それでは議論を行いましょう。とその前に――」

 

 進行役の紳士は勿体付けたように言った。

 

「――この中に実は占いができるという方はおりませんか?」

 

「占いだと⁉」

 

 ワザとらしく驚いてみせる魔理沙。

 

「ええ、もし超常的な能力を持つ方がいるのでしたら、その方の意見を是非、参考にしたいと思いましたので!」

 

「あー、言われてみりゃあ、この里には一人だけ占いができる奴がいたっけなぁ~」

 

 魔理沙は白々しく言い放った。それに呼応するように参加者の中から二つの手が挙がった。

 

「儂じゃ」「私よ」

 

 マミとパチュリーだ。二人はほぼ同時に手を挙げた。その動作はごくごく自然な物で不審な点は見当たらなかった。

 どちらも互いを見やり、

 

「儂が易者じゃ」「私が易者よ」

 

 と言い放った。

 クレバーな表情のマミに無表情のパチュリー。いつも通りの二人だ。参加者は二人の様子を観察するも、どちらも雰囲気に変化がないので、表情や態度だけでは判断できないようだった。

 右京がクスクス笑う。

 

「おや、二人いますねえ~」

 

「これはおかしいぞ」

 

 顎に手をやる魔理沙。

 

「まさか、どちらかが……妖怪ッ⁉」

 

 たじろぐ尊。白黒の魔女が怪しんで、元部下が妖怪の疑惑をかける。まさかの連係プレイであった。

 他の参加者すらも思わずクスクスと笑ってしまう。易者二人を視界に据えた右京が確認を取る。

 

「これは――確かめるしかないようですねえ。お二人ともよろしいですか?」

 

 二人はその意味を理解して「かまわん(ないわ)」と応えた。

 右京は二人の候補の中で自身と視線が交差したパチュリーのほうを先に指名した。

 

「パチュリーさんから簡単な紹介と占い結果をお教えください」

 

 指名されたパチュリーが自己紹介を始める。

 

「私はごく普通の里人よ。変わっているとしたら趣味で占いをやっているくらいかしら。オーエンさんのような悲劇を生まないため、微力ながら協力させてもらうわ」

 

 パチュリーはその場で立ち上がり、右掌を正面にかざし出す。

 その瞬間、掌を中心に七色の小型魔法陣が展開。球体を模した光の渦が形成され、いくえにも重なり合うように擦れ動く。

 周囲が驚く中、彼女は「光の天球、ホロスコープよ――我を導け」と呟く。すると、光が結晶のように砕け、粒子が地面に落ちる前に霧散した。

 それを見届けたパチュリーが饒舌に語り出す。

 

「星の導きによれば『本居小鈴さんは人間』と出たわ。信じるか信じないかはあなたたち次第。だけど、そこの占い師さんに私以上のことができるかしら?」

 

 彼女はマミを軽く挑発してから席に着く。

 パチュリーの占術を模した魔術パフォーマンスに右京は感動を顕わにしながら拍手した。

 

「すばらしい西洋占星術ですねえ! 感動いたしました!」

 

 それにつられるように皆がコメントした。

 

「さすがはパチェ!」「すごーい……」「お見事」「すげえ……」

 

「「それくらい私でもできる」」

 

 称賛するレミリア、小鈴、阿求に尊。お株を取られて、ご立腹な霊夢と魔理沙。

 周りが拍手する中、挑発されたマミだけは目を細め「コヤツ、やってくれるわいっ」とポーカーフェイスの裏側で対抗心を燃やしていた。

 ある程度拍手が鳴り止んだタイミングで右京が視線を移す。

 

「お次はマミさん、よろしくお願いします」

 

「うむ。儂はこの里に住む焼き鳥好きの健康マニアじゃ。占いは趣味で嗜んでおるが、ここに来る前はそこそこ当たると評判じゃった。今からその技を見せてやろう――ふんっ」

 

 マミは紋付羽織の裾から周りに見えぬよう緑色の葉っぱを一枚取り出して、それを机にドン! と押し当てると、連動するように葉っぱが煙へと変化。テーブルの上に八本の柱が出現した。

 一定間隔に立ち並んでから煙同士か線を結び、八卦の陣を形成する。

 すかさず、マミが右手を天にかざして指を鳴らすと煙が弾けるように消え去り、テーブルには細長い紙だけが残った。

 その紙には日本語で『博麗霊夢は人間』と書かれていた。

 

「天の導きによると『博麗霊夢は人間』だそうじゃ。当たるも八卦、当らぬも八卦――信じるのはおぬしらの自由。じゃが、そこの占い師よりは当たる。そう断言しようぞ」

 

 そう決め台詞を吐いてからマミは席に座った。その姿にパチュリーは微かに笑顔を作ってから、拍手を送る。進行の右京が「こちらは東洋占星術ですねえ! 御見それしました!」と拍手した。

 周りもパチパチと拍手。その中で尊は「やっぱり妖怪だったか」と内心思うも元々、隠す気がなかったのだろうと考え、ごく自然に流した。マミは「なぁに、大したことないわい!」と満更でもない表情だった。

 

 もはや、ゲーム関係なく、純粋なパフォーマンスに参加者が湧いていた。お酒が入っているせいか、いつも以上に皆のノリがよかった。

 しかし、魔理沙が呆れたように「これじゃあ、新春かくし芸大会だぜ……」。霊夢が「どっちも人間業じゃないわね……」とこぼした。そこに右京が「ここは妖怪がいる不思議な世界ですから」とフォローする。

 追求は野暮だと思ったのか、参加者たちも空気を読んで占い方法については無視して議論の準備を始めた。

 右京は時間を気にしてか、やや早口ぎみに場を仕切る。

 

「占いにてパチュリーさんは小鈴さんを人間。マミさんは霊夢さんを人間と断言しました。ですが、里の占い師は一人だけです。どちらかが妖怪かその関係者であることは明白です。

 この点におきまして皆さまはどう思われるのか、また誰が妖怪だと思うのか――レミリアさんから順に時計回りでお聞きして回ろうと思います。

 時間も残り十二分ほどでしょうし、一人三十秒から一分程度の時間でご意見を述べてください。易者の方は全員の意見を聞いた後、マミさんからご意見や反論などを伺わせて頂きます。残りの時間はフリートークとします。それではレミリアさん、お願いします」

 

「お上手ねぇ」

 

 レミリアは進行役の手際を指してと無邪気に微笑む。

 

「パチェもマミさんもすばらしい技術を持っているわね。どちらかが妖怪だなんて信じたくないけど、あえて言うならマミさんが妖怪かもしれない。根拠は特にないわ。二人とも上手だしね。

 ただ、パチェの()()()()というフレーズが気に入った。そう思って頂戴。それと他の妖怪は魔理沙辺りじゃないかと睨んでいるわ。理由は『仕切りたがる』からかしら?」

 

「仕切りたがって悪かったな」

 

 即座に魔理沙が返す。

 

「なるほど、参考になりますねえ。お次は阿求さん。お願いします」

 

「はい」

 

 そう返事をして阿求は意見を述べた。

 

「お二人の占術はとても魅力的でした。西洋と東洋の共演。この地ではまず見れる物ではありません。甲乙つけがたいですが、今回はマミさんを支持させて頂きます。理由はパチュリーさんが妖怪ではないかと疑ったからです」

 

「それはどうしてでしょうか?」

 

「まず、パチュリーさんが議論を進行しようとしたところに引っ掛かりを覚えました。彼女はあまり話し合いに参加しなかったのにも関わらず、肝心な場面に入るところで議論をまとめようとした。そこに些細ですが、不自然さを感じました。それだけです」

 

 このように阿求が説明した。話を聞いたパチュリーは「そんなつもりはなかったのだけれど」と、いつものトーンで述べる。

 

 人狼ゲームとは相手を疑うゲームである。相手の言動や動きを見て疑問に思えばそれを率直に伝え、議論を活性化させていくのだ。

 

 反対に議論へ参加しないメンバーがいればそこから選んで吊っていくという戦法も存在し、攻めた発言をしすぎると反対に自分が吊られるまたは人狼に襲撃される恐れもある。この駆け引きが中毒者を続発させる要因となっているのだろう。

 

 阿求はこのゲームの本質をよく理解しており、必要以上に発言し過ぎないように配慮していた。右京に匹敵するその頭脳は洞察力でも秀でている。

 

 右京が「他にありますか?」と問う。彼女は「今のところ、それくらいですかね」と一言添えた。

 進行役の男は頷いてから次の発言者の名前を呼ぶ。

 

「お次は小鈴さん――お願いします」

 

「あっ……えっと、パチュリーさんの占いは西洋感特有の煌びやかさが出ていて、凄くよかったと思います。マミさんの東洋占星術もカッコよかったです! 煙がバーって出るの!」

 

 小鈴は目を煌めかせながら感動を身体で表した。

 

「ありがとう」とパチュリーは返し、マミも「ふっ、それほどでも」と、気分をよくした。

 小鈴は続ける。

 

「――どちらも凄いけど、私にはどっちが本物かの区別がつけられません。だけど、東洋占星術にはその……『苦い経験』があるので、今回はパチュリーさんの占いを支持しようと思います。マミさん、ごめんなさい」

 

「よいよい」

 

 本人がフォローした。

 事情を察している右京はその部分には触れず、話を進める。

 

「他に何か気になったことなどはありましたか?」

 

「気になったことですか?」

 

「例えば、怪しい動きをする人物、妖怪なのでは? と思う人物など、些細なことで構いません」

 

「うーん、そうですね――」

 

 小鈴は周囲を見渡し、困ったような表情を見せる。

 

「全員が自然体すぎて、誰が妖怪だとかわからないんですよね……」

 

「わかります。僕も正直、区別がつきません。これからじっくり考えていきましょうか――お次は霊夢さん。よろしくお願いします」

 

 霊夢はコクン頷いてから自分の意見を述べた。

 

「まぁ、占いの演出は皆が賞賛しているので置いておきますが――占いの結果を考慮すると、私を白に指定したマミさんが正しいような気がしますが、何だか胡散臭いので微妙な感じもします……」

 

「何じゃそれは」と白けるマミ。眉根を寄せた魔理沙が「どっちも信じてないってか?」と訊ねた。

 

 すると巫女は「必ずしも易者が名乗り出るとは限らないでしょ? ここの連中の性格を考えるとね」と返す。

 このゲームしかり、本家人狼ゲームしかり占い師役の人物が必ずしも手を挙げなければならないとするルールは存在しない。それすら任意なのだ。

 霊夢の意見に尊は「これでどっちも偽物だったらハードモードだよ」とこぼした。

 里人陣営で一番、力を持つ易者が序盤から名乗り出ないのだ。当然だろう。その意見に幻想郷の住民は「ありえない話じゃない」とこぼし、彼が苦笑った。

 

「二人占い結果だけが全てではない。そう言いたかっただけです」

 

「なるほど、参考になります。他に何かありますか?」

 

「……妖怪かなって思う人はいます」

 

「それはどなたでしょうか?」

 

 右京が問う。

 霊夢は視線を移さずに、こう言った。「杉下さんとか」と。

 メンバーはまさかの進行役への指名に皆が驚いた。名指しされた本人は「おやおや! それはまた」と驚いて見せてから「どうしてそう思われるのですか?」と反射的に訊き返した。

 

 彼女は「何となくです。というより『敵だったら厄介かも』って思っているからかもしれません」と、どこか不敵な笑みを浮かべた。周囲は図書館でのことをまだ根に持っているのか、と苦笑した。確かに右京は味方なら心強いが、敵なら最悪の相手だ。

 霊夢や魔理沙などは嫌と言うほど彼の能力を理解している。霊夢はゲームの役職うんぬんよりも相手のスペックで吊るか吊らないかを判断したのだ。

 

 本家ではあまり聞かない話だがもしシャーロック・ホームズが自分たち主催の人狼ゲームに参加しているなら、そういう選択もアリだと考える者もいるだろう。それだけ脅威なのだ。ホームズも右京も。

 右京は自分が妖怪だと疑われているがそのスマイルを崩さず「ご心配なく、僕は里人ですから」と語った。

 続けて彼が他に疑わしい方はいるかと問うとも彼女は首を横に振った。

 次の発言者が魔理沙へと移る。

 

「お次は魔理沙さん、どうぞ」

 

「ようやく私の出番か。ここは『汝は人狼なりや?』経験者としてガツンとかましてやるぜ!」

 

 魔理沙は高らかに宣言した。それを見たメンバーは一抹の不安を覚える。

 自身満々に白黒の魔女が口を開いた。

 

「占いの結果からして小鈴か霊夢のどちらかが白だろう――だが、どちらかを妖怪側が庇った可能性もある。両方吊っとけ」

 

「「は⁉」」

 

 まさかの吊っとけ発言に口を開ける対象者二人。

 

「でもってだ。セオリー通りだとパチュリーとマミのどちらかが妖怪側だ。本物だったらいいが、偽物を選んでいたら大惨事だ。どっちも普段から曲者だから遅くとも中盤辺りで両方吊っとけ」

 

「ぶっ」「……」

 

 それを聞いた途端、マミは吹き出し、パチュリーは目を細めた。

 白けた視線を無視して魔理沙は続ける。

 

「今言った四人は消えると仮定して、残りは誰を消すだな」

 

 周囲は面を食らったような顔をしている。そこに彼女は更なる爆弾を投下した。

 

「霊夢も言ったが、敵に回したら厄介な奴も危ないから吊ったほうがいいと思うんだよなぁ。うーん、阿求は頭がよくて機転が利くし、おじさんはこの手のゲームはべらぼうに強そうだから、安全策を取るなら早めに吊ったほうがいいかもな――次は表のにーちゃんとレミリアかな。そうなれば、里人の勝利だぜ!」

 

 魔女は里陣営が勝利するプランを公に語って聞かせた。

 大胆すぎる発言に参加者と咲夜を含めた全員がズッコケそうになった。それもそのはず。彼女が語ったのは人狼のセオリーという名の『自分が生き残るぜ大作戦』だからだ。あまりにもド直球。

 右京が笑いながらコメントを贈る。

 

「いやぁ、面白いですねえ~。人狼系のゲーム序盤でここまで思い切った発言をする方など見たことありませんよ」

 

「だろ? ゲームは楽しく、激しくだ」

 

 鼻高々な魔理沙。

 

「味方まで混乱させて、どーすんだい!」

 

 ツッコミを入れるレミリア。

 

「「全くです(だわ)」」

 

 愚痴る阿求に霊夢。

 

「クレイジーすぎんだろ……」

 

 あんぐりと口を開ける尊。

 

「おぬしよ、もう少し考えんかい……」

 

「アンタらしいわ……」

 

 呆れる易者二人。

 手応えありと言わんばかりに魔理沙は「気に入って貰えたようでよかったぜ」と言い放つ。

 が、間髪入れず、

 

「「「んなわけあるかーーー!!」」」

 

 咲夜を除く、幻想郷勢から総ツッコミを受けた。

 右京は腹を抱えて大笑いした。当の本人は両手を挙げながら「あーはいはい」と、いつも通りの態度だった。

 人狼ゲームをやる際は過激な発言は慎んだほうがよい。最悪、友情まで破壊してしまう可能性がある。魔理沙の場合は元々そういうキャラクターだというのを皆が理解しているからギリギリで成立しているのだ。くれぐれもご注意を。

 魔理沙ショックがある程度、落ち着いてから発言者が尊に回った。彼は手慣れた感じで考察を述べる。

 

「占いの件ですが、僕はパチュリーさんの占いを支持――つまり、本物の易者だと思っています。理由は大したことではありませんが、占われた二人の意見を参考にした場合、小鈴さんはいつも通りでしたが、霊夢さんはどこか演技っぽく見えました。

 なので、ぼくはそこに妖怪っぽさを感じて、占ったマミさんを妖怪陣営側ではないかと疑うに至りました。

他には魔理沙の言う通り、杉下さんはこの手のゲームに滅法強いので、警戒しておくに越したことはないということくらいですかね」

 

 口元を緩ませながら尊は、左手で発言権を右京へ返すような素振りをした。右京は元相棒からのさり気無い追い打ちに「おやおや……困りましたねえ」と困り顔をしてみせた。

 釣られるように周りから笑い声が上がった。

 笑いが引いたのを確認した右京が口を開く。

 

「僕の番ですね――西洋占星術のパチュリーさんと東洋占星術のマミさん、どちらも完成度が高く、そのパフォーマンスはほぼ互角だと思います。非常に悩みましたが、僕はマミさんを本物の易者だと考えました。始まったばかりで根拠に乏しいのですが、やはり、先ほど阿求さんが述べた意見に説得力を感じたのが理由でしょうか」

 

 右京の見解に魔理沙がコメントする。

 

「ん? 阿求の考察に乗っかろうって感じだな。何だか怪しいなー」

 

「おや、そうでしょうか?」

 

「おじさんならもっと切れのあるコメントをするはずだ――もしかして、進行役に託けて議論を操ろうって魂胆かい?」と意地の悪いことを言う魔理沙。

 それを右京は「ふふ、僕はごく普通に議論を進めているだけですよ。そういうあなたこそ、僕を隠れ蓑にしようという考えなのではありませんか?」と綺麗に返した。

 

「はっ、考え過ぎだぜ!」

 

「どうだかねー。案外、妖怪信者なんじゃないのアンタ?」と口をはさむ霊夢。

 

「議論に大きな衝撃を与えた訳だしのぅ」とマミ。

 

「あり得そうね」と阿求。

 

「そうかも」と小鈴。

 

 魔理沙は「おいおい、そんな目で見るな。私は里人だ。じゃなかったら里人が有利な話をする訳ないだろ」と言った。

 レミリアが「あれが里人に有利な発言なの?」と疑問を呈する。

 

「里人のための発言だぜ。里人が勝てば私の朝飯が豪華になるんだからな」

 

 魔理沙はきっぱりと言い切った。周囲が「コイツらしいな」と再び呆れ返る。

 しかしながら魔理沙の言い分は里人陣営が戦略を練る際、重要なポイントをいくつか押さえていた。

 易者は易者を驕る妖怪や妖怪信者が潜みやすい。この役職に手を挙げた里人を吊れば敵を潰せる。彼らが最初に庇った里人も、妖怪がターゲットを逸らすために選んだ可能性もあるが故、吊ればリターンを得られる可能性がある。最後の阿求や右京を吊れという発言も敵だったらと仮定すれば十分、選択肢に入るだろう。

 

 インパクトこそ大きかったが彼女が有益な発言をしたことになんら変わりない。

 果たして霧雨魔理沙は里人側か妖怪側か――参加者は頭を抱えることとなる。同時に咲夜が「残り時間五分です」とアナウンス。右京は易者役のマミに「一分程度でご自身のお考えを述べて頂けますか?」と端的に回した。

 マミは唸りながらに言う。

 

「儂は本物の易者じゃ。手を上げるタイミングも同時じゃったからわかり難くいかもしれんが、嘘は吐いておらんぞ?」

 

「どーだかなー? 霊夢が妖怪という線もあるぜ? 発言的に議論を乱そうとした気もしなくもない」と魔理沙。

 

「少なくとも、おぬしよりは里人側っぽいがの」とマミが反論。

 

 続けては彼女は「しかし、パチュリーどの以外の妖怪陣営がわからんかったわい。皆、上手じゃ」と参加者を評価した。

 

「互いに意見を出すだけであまり考察が進んでいないからねぇ」とレミリア。

 

「まぁ、初日ですから」とフォローする尊。

 

 マミはふふっと笑みを零した後「後は皆に任せる」と右京を見やり、左手で進行するように促した。

 右京はパチュリーに意見を求める。時間も時間なので七曜の魔女はすぐに語り出した。

 

「私が本物です。大分、疑われているから信じられないかもしれませんが」

 

「話に入ってこなかった奴が議論を進めようとしたからな」

 

 魔理沙の言う通り、全員がいつも通りだったせいで普段、積極的ではないパチュリーが目立ってしまった感が否めず、彼女が妖怪側で議論を握りたがっているのでは? という疑惑を生んでしまった。事実、右京や阿求からそこを指摘されている。

 そうにも関わらず、パチュリーはニヒルな笑みを見せた。

 

「確かに――私が進行役になって議論を誘導しようとしたのは事実だからね」

 

 とパチュリーは魔理沙へ言い返した。彼女自身が議論を握ろうとしたと告白したのだ。魔理沙は「自ら尻尾を出したか、妖怪!」と勢いよく指差した。

 

 自身へ視線が集中する中、彼女は平然と語った。

 

「けれど、全ては里人陣営のためよ」

 

「ほう~、それは一体どういうことかの?」と眼鏡をクイッと上下させるマミ。

 

 パチュリーはマミを見ながら「あなたと阿求さんが『共犯』だとわかったからです」と告げた。直後、更なるどよめきが巻き起こった。

 妖怪陣営扱いされた阿求が「どういうことでしょうか。ご説明願います」と間を置かず返した。

 七曜の魔女は続ける。

 

「このゲームにはとある欠点があります――妖怪が打ち合わせするタイミングないという欠点が――。それ故、最初の易者騙りの際、妖怪陣営が全員易者を騙ってしまうというケースが想定されます。もしくは誰も手を挙げないだったりなど――」

 

 何点の欠陥を抱えるこのゲーム。その一つが妖怪の打ち合わせ時間がないことだ。そのため、易者騙りなど連携を必要とするタイミングでブッキングしてしまう可能性がある。

 練習試合では空気を読んだのか、意図的だったのか()()()()()()()()()()ので誰一人として気にしなかったのだ。

 

「練習試合では上手く行っていたので誰も気にしなかった――私自身、気が付いたのはついさっきでした」

 

「だったら今回も上手い具合にいったんじゃないのか? もしくは空気を読んだとかさ」

 

 魔理沙が疑問を呈する。

 

「それは違う。ゲームが始まってからコンタクトを取っていたのよ」

 

 パチュリーは断言した。

 

「なんだと⁉」

 

 声を荒げる魔理沙を余所に彼女はある仮説を展開した。

 

「マミさんと阿求さんはこのゲームの欠点をある程度、察していた。そこにたまたま妖怪役が回ってきた。お二人は切れ者ですから、何かしらの方法でどちらが易者を騙るかを考えていた。判別できない妖怪信者はあてにはできないので自分たちで動こうと。だからこそ、議論開始時から五分で意思の疎通を図った。違いますか?」

 

 彼女の考察にマミと阿求が反論する。

 

「ずいぶん――興味深い話じゃが、些か突飛過ぎるような気がするのう」

 

「全くですね。このメンバーの中で意思の疎通を行うなんて容易ではありません。テレパシーでも使えれば話は別ですけど、私たちはただの里人ですから、そのような力は持ち合わせていません」

 

 すぐさま、パチュリーが切り返す。

 

「テレパシーなんていりません――」

 

「あん? じゃあ、どうやって……」

 

「ジェスチャー」

 

「「「ジェスチャー⁉」」」

 

 マミと阿求、パチュリーと進行役以外の全員が驚愕の声をあげた。

 面食らったように右京は「それは、それは⁉ パチュリーさん、一体いつ、お二人はジェスチャーで意思の疎通を図ったのですか?」と説明を求めた。

 

「タイミングはマミさんが杉下さんにオーエンの話題を振った時です。あなたが彼女にオーエンの説明をした際、彼女は『お手上げじゃ、お手上げ』と言って手を挙げた。それが合図だった。ほどなく、阿求さんが小鈴さんの話に乗って『私が訳してあげよっか』と言いました。小鈴さん――あの時、阿求さんは何かしらのマークを作っていませんでしたか?」

 

 話を振られた小鈴が首を捻りながらも「えっと、右指でお金のマークを作っていたような……」と再現する。すると、参加者はそのマークがとあるマークであることに気が付き始めた。

 

 メンバーを代表して右京が「まるで○に見えますねえ……」と唸った。

 パチュリーはニヤっと笑う。

 

「その通り。私もその瞬間を目撃していました。これはマミさんが手を挙げ――阿求さんがそれに答えた=自分が易者を騙る――わかりましたというサインではないでしょうか?

 そう考えた私は議論の主導権を握り、意見を伺いながらさり気無くお二人を追い詰め、ボロを出させるつもりでいたのです。全ては里のためを思った行動です。私の話は以上です。

 そろそろ終わりまで残り一分を切っている頃でしょうし――後は皆さんにお任せします。私を信じるか、マミさんたちを信じるかを」

 

 彼女は制限時間を測った上で席に座った。その顔は無表情そのものだったが、全ての参加者が彼女の顔から目を離せずにいた。

 右京が「すばらしい考察ですね……」と彼女の考察に感動した。

 

 マミは「……ユニークな考察ではあるがのぅ。我々に反論をする時間を与えんよう、計算したやり口――偶然を利用して儂らを陥れようとしているにしか見えんわい。どっからどう見てもおぬしが妖怪じゃ」と苦言を漏らす。

 

 阿求は「たまたま、タイミングが重なっただけです――ですが、周りを見る限り、私が妖怪だと怪しまれているのは紛れない事実。どうしても疑うというのなら、私を吊る――もしくは占ってみれば真偽がはっきりするはずです。パチュリーさんの理屈ならば私が妖怪なのですから」とやや苦しげだが、挑発的な態度を取った。

 

 二人の言い分を聞いたレミリアがこぼす。

 

「そう聞いちゃうと迷うわよねぇ~。いっそ――易者以外に投票というのも選択肢に入るかしら……」

 

 まもなく、制限時間がゼロとなり、投票フェイズへと移行する。咲夜はメンバー全員に投票用紙とペン、木製の下敷きを渡した。

 参加者たちは投票用紙と睨めっこを始める。

 

(誰に投票すべきなのかしらねぇ~)

 

 笑うレミリア。

 

(パチュリーの考察は説得力があるけど、信じていいものか……)

 

 疑う霊夢。

 

(私の献身的な助言が霞んじまったぜ……)

 

 ため息を吐く魔理沙。

 

(うーん、パチュリーさん凄いなー。でもなー迷うなー)

 

 迷う小鈴。

 

(どうなることやら……)

 

 案ずる阿求。

 

(やれやれ、儂のメンツが丸つぶれじゃのう)

 

 嘆くマミ。

 

(さて、どう動いていくかしら?)

 

 警戒を怠らないパチュリー。

 

(レベルたけー……これは本気でやったほうがいいな)

 

 気合を入れ直す尊。

 

(ふふっ、これは――楽しくなってきましたねえっ)

 

 人外たちを交えた心理戦に武者震いの右京。

 

 参加者は厳しい表情を浮かべながら対象者を選ぶ。この用紙に易者なら占う対象、狩人なら警護対象、妖怪は襲う対象、妖怪賢者は襲撃対象と能力起動の選択を記号で書く。妖怪賢者の能力はさておき、易者と狩人は能力対象をアルファベットで記入しなければならない。

 

 この時、全ての参加者は吊るメンバーと襲撃メンバーを選ぶ訳だが、ここでもちょっとした心理戦が始まる。例えば、早く書けば白々しいと帰って怪しまれ、遅く書いても襲撃対象を悩んだのでは、と怪しまれる。

 

 空気の読み合い――特に策がなければ目立たないのが吉。参加者はそれを理解している者もいればしていない者もいた。

 霊夢はぱぱっと記入し終え、一番早くテーブルに裏返しで紙を置いた。

 その数秒後にレミリア、魔理沙、阿求、マミ、右京、パチュリー、尊の順に紙を四つ折りにして見えないようにした上でテーブルに置いた。小鈴は最後まで迷っており、尊が書き終えてから三十秒後に用紙を裏に伏せた。

 

 咲夜が参加者のテーブルを確認してから「書き終わったようなので投票用紙を回収致します」と声を掛け、瞬時に用紙を回収。集計ののち、彼女が告げた。

 

「これより、吊られる人物の名前を発表します」

 

 緊張の一瞬。果たして誰が最初の処刑対象となるのか。皆、咲夜が発表するのを今か今かと待っている。

 そして――

 

「投票によりマミさんに決定しました」

 

 参加者の大半は「やっぱりか」とマミをみやった。マミは肩を竦めながら「儂じゃないんじゃがのう~」と一言呟く。

 刹那、マミの姿がこの場から消えてなくなった。

 

「え⁉」

 

 あまりの出来事に尊が狼狽えた。

 すかさず、レミリアが「咲夜の演出よ」と語り、本人も「マミさんは近くの部屋にお連れしました」と笑顔で語った。

 尊は咲夜が時間を止められるメイドかつその中で自由に動ける彼女の能力に心底、恐怖した。

 

(こんなのが表にいたら完全犯罪し放題じゃないか)

 

 片や右京はいつも雰囲気を保ちながら「凄い能力ですねえ~」と賛辞を送るだけだった。

 

「これより、夜のフェイズへ移行します――皆さん、目を瞑り伏せてください」

 

 参加者は指示通りに行動した。

 

「仲間の一人を処刑した里人は互いに疑心暗鬼になりながらも夕暮れになったことを理由にそれぞれの家に帰って行きます。その深夜、音もない暗闇の中、里に不審な影が忍び寄るのでした――」

 

 決まり文句を言い終わるとすかさず、彼女は能力を発動。参加者が気付かないようにとある人物をこっそりと運んだ。

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