救済されたはずの世界で   作:手拭

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アルトネリコ1を再履修してきました。よろしくお願いします。


step1 噂

 プラティナのアプサラニカ広場は今日も平和だ。広場を駆け回る子供。ツアーで押し寄せる観光客。少し前までは考えられないような光景が広がっている。

 そんな中、エレミアの騎士の一員である僕ことアレク=ミストレインはパートナーのレーヴァテイルであるエリカ=アークスと一緒に街の警戒業務にあたっていた。

 

「アレク。はい。あーん」

「エリカ。仕事中にオボンヌを食べるなって。それから僕はいらないよ」

「えぇー。こんなにおいしいもの食べないなんて人生損してるよ」

 

 注意した直後に包みをとって新しいオボンヌを口に含むエリカ。僕はそんなマイペースなエリカを見てため息をつく。

 

「まあ。やることが無くて退屈なのは素直に認めるよ」

「え!? ごほっ!! ごほっ!!」

「うわ!! きたなっ!! なんで突然むせ返るんだよ。ほら、水」

 

 突然むせて胸をドンドンとたたくエリカに、腰に吊っていた水筒を渡す。水筒に口を付けたエリカは一気に水を飲みほして、しばらくしてからようやく落ちついた。

 

「あー。死ぬかと思った」

「そこまでか」

「だってアレクの口から愚痴が出るなんて思わなかったんだもん」

「愚痴というか、素直な感想を口にしただけなんだけど」

 

 正直なところウィルスに関する諸問題が完全解決されてからというものの、仕事は常に暇の一言に尽きる。やることが徹底してないのだ。だから非番の時以外は訓練をするか、警戒業務という名の突っ立っているだけの仕事をするしかない。

 

「お前たち。デートでもしているのか? 仕事中だろう」

 

 そんなふうにエリカと会話をしていると背後から声がかかった。振り返ると、そこには僕たちの上司がしかめっ面で立っていた。

 

「隊長!! いや、エリカがオボンヌをつまらせてですね」

「ばかっ!! 言わないでよ!!」

「まったく。『突風』と『オールラウンダー』の名が泣くぞ。次に見つけたら反省文だ。いいか? 二人とも仕事に戻れ」

「「了解しました!!」」

「よろしい。ではな」

 

 僕たちの方をチラチラと確認しつつ、上司は戻っていった。完全に姿が見えなくなったのを見てから僕たちは緊張を解いたのだった。

 

「怒られたじゃないか。仕事中のオボンヌは禁止な」

「ええ!? そんな殺生な!!」

「はぁ。どれだけ好きなんだよ。仕事が終わったら買ってやるから、それまで我慢な」

「いいの!? やったー!!」

 

 無邪気に喜び、調子を取り戻すエリカを見て思わず苦笑する。そして、それと同時に僕は複雑な思いを抱いた。

 というのもエリカは少々、複雑な経歴を持つ。元は天覇所属のクラスAのレーヴァテイルでありエル・エレミア教会に移籍した後、さらに転籍してプラティナに来た。初めて出会ったのは、当時のエル・エレミア教会の司祭だったファルスによるプラティナ侵攻時であり、なんと最初は敵同士だった。

 それが今やこうしてパートナーと呼ぶにふさわしい関係性になるのだから人生は不思議だと思う。

 

「うん? どうしたの? 急に真剣な顔して」

「いや出会った頃のことを思い出してさ。あれから色々なことがずいぶん変わったなって」

「ああー。そうだね。あの頃は必死だったし、ほんと色々変わったよね」

 

 僕の言葉にエリカも遠い目をした。やはり色々とあったのだろう。少し気になるが、お互い野暮なことは聞かない。僕たちは、その会話を境に仕事に集中することにしたのだった。

 

 仕事帰りに、僕たちはアプサラニカ広場の一角で商売をやっている商人のもとを訪れた。目的は言うまでもなく銘菓オボンヌだ。

 

「おやエリカちゃん。またオボンヌかい?」

「うん。だけど、今日は私じゃなくてこっち」

「ああ。はじめまして。アレクといいます。オボンヌください」

 

 商人はなぜか少し驚いた顔をしたが、すぐに応対をして僕たちにオボンヌの入った袋を手渡してきた。

 

「毎度あり。それにしてもエリカちゃんに彼氏がいたなんて初耳だよ」

「え!? ちょ!? べ、別に彼氏とかじゃ、ないんだけど」

「あれ? 違うのかい?」

「あ。はい。パートナーです」

「同じ響きに聞こえるんだけどなぁ」

 

 商人は納得いかないといった様子で首をひねっていた。だが、しばらくすると思い出したと言わんばかりの表情で別の話を話し始めた。

 

「ああ。そうだ。ここのところ物騒な話が出てるから気を付けるんだよ」

「え? 物騒な話って?」

「プラティナ以外では有名な話らしいんだけど、なんでもレーヴァテイルがあちこちで姿を消してるって噂だよ」

「そんな噂が広がっているんですか」

 

 その商人によるとレーヴァテイルが主に姿を消している地域はホルスの翼らしい。レーヴァテイルがきちんと守られているプラティナにおいては無縁とも思える内容だった。だが、僕は個人的に気になったので詳しい話を、商人に聞くことにした。

 

「それで、ホルスの翼の方では、レーヴァテイル失踪事件って呼ばれてるらしいんだ」

「そのまんまですけど、気になる話ではありますね」

「アレク?」

「いやエリカだってレーヴァテイルだろ。無関係じゃないなって思ってさ」

 

 僕の言葉に、エリカはいたずらっ子が浮かべるような笑みを浮かべてから自分の言葉を口にした。

 

「なぁに? 心配してくれてるの?」

「そうだけど? なんだよその笑みは」

「いやぁ? ちゃんと心配してくれるカワイイ面もあるんだなって」

「か、からかうなよ。真面目な話だぞ」

 

 そのようなやり取りをしばらく交わしてから、エリカは急に真剣な表情をして言った。

 

「ま。根も葉もない、ただの噂話でしょ」

「そうだといいんだけどね」

「仮に本当だとしても、私は『オールラウンダー』よ? それに『突風』だって近くにいるじゃない」

「まあ、そうだけどさ」

 

 エリカの言う『オールラウンダー』や『突風』とは、僕たちの二つ名のことだ。エリカが『オールラウンダー』で、僕が『突風』だ。エリカについた二つ名の『オールラウンダー』は詩魔法においてほとんどの属性を扱えることからついたものだ。そして僕の『突風』は風のように敵陣に突っ込んでいく姿からついたとのことらしい。

 つまるところエリカが言いたいのは、二つ名持ちの自分たちの実力ならば何かあっても安心だろうということだ。

 

「うーん。過信は禁物だよエリカちゃん」

「それには僕も同意だ」

「大丈夫だってば。それより、暗くなってきたから帰りましょ」

 

 エリカに言われて周りを見渡せば、確かに周囲の景色は夕暮れから夜のそれに変わりつつあった。僕は商人に話を聞かせてもらった礼を述べてからエリカと一緒に家路についたのだった。

 

 その夜、僕は自宅のベッドで横になりながら考え事をしていた。内容はもちろんレーヴァテイル失踪事件についてだ。

 

「まあエリカの言う通り、ただの噂話だろうね」

 

 内心はまったく異なるものだったが、僕は独り言をつぶやくことで無理やり自分を納得させた。しかし商人から聞いた話がなぜか頭から離れず、嫌な予感を抱いたまましばらく寝付けないでいたのだった。

 




あとがきは、活動報告に書きます。
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