まだ早朝と呼べる時間、僕はベッドから飛び起きて玄関へと向かった。というのも僕の家のドアをドンドンとたたく音とともに、上司である隊長の声が聞こえてきたからだ。
「た、隊長!? 僕は今日、休みでは!?」
「あ、ああ。そうなんだが悪いな。レアード総帥がお前とエリカをお呼びだ」
「総帥が!? 僕たち、何かやらかしましたっけ!?」
「分からん。だが、とにかく大聖堂に来るように。エリカはもう出発している頃だろう」
それだけの短いやり取りを交わすと、隊長は立ち去って行った。おそらく自らも大聖堂へと向かうのだろう。
緊急事態ならばともかく休みの日に呼び出しをくらうなど、滅多にないことだ。本当に何か自分たちがやらかしたのではないかと不安になる。しかし、不安になってばかりいられない。休日だからと完全に油断していたので鎧などはすべて脱いでいる。急いで準備しなければまずいだろう。
「ええと。とりあえず鎧だけ着て、すぐに行くか」
言葉の通りに僕は行動し、エレミアの騎士の正装でもある鎧を着るとすぐに家を出発したのだった。
大聖堂の入り口に到着するとちょうど、隊長とエリカが守衛の者とやり取りを交わしているところだった。どうやらギリギリ間に合ったらしい。
「間に合ったようだな」
「は、はい。結構、走りましたけど」
「アレク。誰も気づかないと思うけど、微妙に寝ぐせがついてるよ」
エリカの指摘に慌てて髪をなでつけつつも、隊長とエリカに合わせて歩を進める。しばらく進むとレアード総帥の姿が壇上に見えたので、僕たちはレアード総帥の前まで進み出ると、静かに礼をとりひざまずいた。そして、タイミングを見計らった隊長が報告を行った。
「アレク=ミストレインおよびエリカ=アークスの両名を連れてまいりました」
「うむ。ご苦労。だが、そうかしこまらなくてもよい。少しくつろぐといい」
「「「はっ!!」」」
プラティナの指導者の一人を前にして、はたしてくつろげるだろうか。そんな余裕のある人物はシュレリア様か総帥の息子のライナーさんぐらいしか思いつかない。
そんなことを考えていると、今しがた考えたばかりの二人が姿を現した。
「親父!! いつまで古臭いことやってるんだよ。二人とも自由にしてもいいんだぜ」
「何を勘違いしているのか知らんが、くつろぐようには伝えたぞ」
「二人とも、休日にもかかわらずご苦労様です」
ライナーさんとシュレリア様は、現れると隊長をスルーしてすぐに僕たちに声をかけてきた。それにどう対応したものかと迷っていると、隊長が何か言えとジェスチャーを送ってきたのでとりあえず無難な言葉を口にすることにした。
「ライナーさん。シュレリア様。お呼びであれば休日であろうと関係ありません」
「えぇー。私は休みの日くらいはゆっくりしたかったなー」
隊長の目つきが鋭くなった。エリカは何を言ってくれているのだろうか。無難にいこうとした僕の苦労を何だと思ってるんだ。というよりも隊長はなぜ僕ばかりを睨むんだ。
そんな非常識と思われるようなエリカの発言だったが、意外にもエリカの言葉にライナーさんとシュレリア様とレアード総帥の三人は笑って反応した。
「ははは。そうだよな。俺でも休みだったらそう思うよ」
「エリカさんは素直で、かわいらしいですね」
「我々を前にしても、動じないくらいの精神力が欲しかったところだよ」
完全にやらかしてくれたかと思ったが、なぜかエリカは逆に気に入られたらしい。困惑する僕と隊長を蚊帳の外において、四人は談笑を続けた。
それがどれほど続いただろうか。しばらくしてからシュレリア様が思い出したかのように話を本題に移した。
「ついお話に夢中になってしまいましたね。それでは本題に入りたいのですがレアード、かまいませんか?」
「御意。それでは二人とだけ話をしたいので人払いをかけます」
今、二人だけと言わなかっただろうか。頭の中でレアード総帥の言葉を反芻しているうちに、隊長や護衛の者は困り顔で立ち去って行ってしまった。
なんということだろう。まさか人払いまでかけられるとは思いもしなかった。今までシュレリア様たちと、直にやり取りを交わしたことなどないし、何を言われるのかが不安だ。
そんな僕の不安をよそに、完全に五人だけとなったのを確認したシュレリア様は話を始めた。
「お二人はホルスの翼で広がっている、とある噂話について知っていますか?」
人払いをしてからのシュレリア様の第一声は、単純な質問だった。僕は、責任を問われるたぐいの話ではなかったことにひとまず安心した。
しかし、わざわざ呼び出したうえに人払いをしてまで、噂話とはどういうことだろうか。意図がさっぱり分からない。
僕がそのように質問の意図について考えを巡らせている間に、エリカが発言した。
「ホルスの翼の噂話ですか? あ!! アレク、あの話なんてどう?」
「ああ。あの噂話か」
エリカのほうを見て、彼女が頷くのを確認する。僕たちの脳裏には、耳にしたばかりのレーヴァテイル失踪事件のことが浮かんでいた。
「ホルスの翼の噂話というと、もしかしてレーヴァテイル失踪事件のことでしょうか?」
まさかとは思いつつもそれ以外に思いつかなかったので、僕はレーヴァテイル失踪事件について言及してみた。
「情報を仕入れるのが早いのですね。その通りです」
結果は、まさかの的中だった。エリカのほうを再び見やると信じられないという顔をしていた。
「え!? ここで話が出るってことは、もしかしてその噂って本当なんですか!?」
「噂話自体には脚色されたものもあるようですがレーヴァテイルが突然、姿を消しているのは事実のようです」
僕たちは愕然とした。さっきまで単なる根も葉もない噂話だと思っていたものが事実だったのだ。
しかし、同時に別の疑問が浮かんだ。どうしてそんな重要な話を僕たちだけに共有するのだろうか。頭に疑問符が浮かんでいるのが伝わったのか、僕の疑問を解消するための答えをレアード総帥は示した。
「二人を呼んだのはほかでもない、この件について秘密裏に調査してほしいからだ」
レアード総帥の言葉で、僕たちの脳内でようやく話がつながった。推測も入れてまとめるが、レーヴァテイルが姿を消しているのは事実であるものの混乱を招きかねないため、いきなり大規模な調査をすることはできない。だから最初のステップとして、秘密裏に調査してきてほしいということだ。
「そういうことでしたか」
おおよその事情は呑み込めた。けれど、受けるかどうかは迷っている。というのも秘密裏に行うということは味方の支援も受けることができないということだ。それは任務の達成を困難にさせる大きな要因となる。
そのように判断に迷っていると、ライナーさんが確認を入れてきた。
「それで、二人ともどうする? 正直、断っても構わないんだけど」
その言葉を聞いて断れるならば断ってしまおうと思い、口を開きかけたところエリカが先に口を開いた。
「アレク。私、この任務やってみたい」
「エリカ?」
エリカはいつにない真剣な表情をしていた。エリカの瞳を見つめてみるも、その真意を図ることはできなかった。ただ、一つ分かっているのはこういう時のエリカは何を言おうとかたくなにゆずらないということだ。下手をしたら一人で勝手に行動してしまいかねない。
「はぁ。分かったよ」
「さっすがアレク!! 私のパートナーだね!!」
そのようにしてエリカに押されて僕が折れる形で、僕たちはレーヴァテイル失踪事件の調査任務につくことを決めたのだった。
あとがきは、活動報告に書きます。