レーヴァテイル失踪事件についての調査任務を引き受けることに決めた僕たちはすぐに、その意思をシュレリア様達に伝えた。
「「その任務、やらせてください!!」」
声がかぶってしまった。エリカはよくわからないが、やる気に満ち溢れているようだ。一方で僕のほうはというと意思表示をしつつも準備のことで頭がいっぱいになった。
そんな僕たちにレアード総帥が最終確認をしてきた。
「二人ともかまわないのだな?」
「「はい」」
レアード総帥の確認の言葉に二つ返事で応じる。するとレアード総帥は懐から一通の手紙を取り出して、僕たちに手渡してきた。
「秘密裏といっても完全に孤立無援となってはどうしようもないだろう。その手紙をネモのラードルフ司祭に渡しなさい。公には動けなくとも、なにか力になってくれるはずだ」
「ラ、ラードルフ司祭ですか」
僕は手紙を受け取りつつ、ひきつった笑みを浮かべているエリカの様子を見て訝しんだ。
「エリカ。ラードルフ司祭と知り合いなのか?」
「あぁー。プラティナに来るときにお世話になったんだけど、そのときにちょっとね」
あからさまに目をそらすエリカ。これは何かあったに違いない。最初のステップが盛大にこけたのでは任務の遂行などままならないだろう。ラードルフ司祭のことは僕も聞き及んでいる。先の一連の事件におけるライナーさんたちの仲間の一人であり、人格者で有名だ。
そんな人物と過去にもめ事でも起こしていたら、今回の任務が頓挫する可能性すらある。後できっちりと問い詰めておこう。
「それでは後は二人の実力試験ですな。シュレリア様」
「はい。そうですね」
エリカに対する質問事項ができたところでレアード総帥が気になることを言い始めた。実力試験とはいったい何だろうか。エレミアの騎士の試験なら僕は合格している。エリカも入隊時の試験をクリアしている。にもかかわらず、いまさら試験を課されるとはどういうことだろうか。
その疑問を解消してくれたのはライナーさんだった。
「実力試験って言ってるけど話は簡単なんだ。要は俺とシュレリア様と戦って認めてもらえればいいってだけ」
「え?」
「むろん君たちが優秀であるとの話は聞き及んでおる。だから呼び出したわけだが送り出す以上、本当の実力を責任者として見極めなければならん」
ちょっと待ってほしい。ライナーさんとシュレリア様と戦うなんて聞いていない。先の事件の英雄と最強のレーヴァテイルを相手取るなんてまっぴらごめんだ。僕が顔を青ざめさせているのを知ってか知らずか、エリカは火に油を注ぐ様な発言をした。
「いいですね!! 勝っちゃってもいいんですか!?」
「エ、エリカ!?」
「ははは。ほんと面白いよな。シュレリア様、俺たちも本気でやりましょう!!」
「そうですねライナー。それでは明日の正午に試合をすることにしましょう」
どうしてこうなったのだろうか。話はとんとん拍子で進み、本当に明日の正午に試合をすることとなってしまったのだった。
その後、話は終わったとばかりに人払いが解かれ、形式的なやり取りがなされてから解散となった。なおライナーさんとシュレリア様のペアと試合をすることはなぜか全体告知されてしまった。
「それでエリカさんよ。お話しようじゃありませんか?」
「ちょ。笑顔が怖いよアレク」
解散後、エリカに話を聞くために僕は彼女を家に誘った。僕が家に紅茶と焼き菓子を常備していることを知っていたので、エリカは何も警戒することなくアフタヌーンティーを楽しんでいた。
「いや真面目な話、聞きたいことが二つあるんだ。一つ目はどうして今回の調査任務にやる気を出したのかっていうこと。そして、二つ目はラードルフ司祭との関係についてだよ」
「なんら、ひょのことか」
「口にものを含んだまま喋るのはやめなさい」
僕が指摘するとエリカは黙り、焼き菓子を十分に堪能してから質問に答えた。
「んー。一つ目の質問には思うところがあってね。大事な人を亡くしたっていうか、なんていうか。いつか機会が出来たら話そうかなって思ってる」
「……」
エリカは遠い目をしていた。他の人にはいつも通りに見えるかもしれないが、普段から付き合いのある僕には、そこに確かな哀愁の色があることが手に取るように分かった。エリカは普段、ふざけたようなところがあるが口にしたことは絶対に守るタイプだ。だから、僕はエリカが口にした通りにするだろうと思い、それ以上の追及はやめることにした。
「分かった。じゃあ二つ目だ。ラードルフ司祭と、何かあったのか?」
「ラ、ラードルフ司祭かぁ」
「目をそらすんじゃない。まさか、仲が悪いのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどね」
どういうわけなのだろうか。エリカにしてはやけに歯切れが悪い。だが関係性が悪いわけではなさそうだ。最悪の場合を想定していた僕は、内心で安堵しつつもそれを表情には出さずにエリカを問い詰めた。
「何かあったのは分かってる。正直に言うんだ」
「アレクって妙なところで敏感だよね」
「ごまかさない」
「はい」
エリカは一瞬、視線を床に落とした。それから紅茶を一口飲んでから白状した。
「ええとね。ちゃんと謝罪もしたんだけど、ちょっと失礼なこと言っちゃったんだよね」
「具体的には?」
「『おっさん達に混ざっても違和感ないよね』って言っちゃいました」
「おい」
聞いている話ではラードルフ司祭はまだ二十代のはずだ。それを言うに事を欠いて、壮年の集団に混じっても違和感がないとはひどいだろう。エリカらしいといえばエリカらしいが相手が司祭という立場を持つだけに正直、笑えない。
「あ、謝って許してくれたのか?」
「う、うん。ものすごく落ち込んでたけど」
なんというか会いに行くのが怖くなってきた。温厚な人物であることも聞き及んでいるが万が一、根に持たれていたらと思うとものすごく不安だ。
「だ、大丈夫だよ。レアード総帥からの手紙もあるし、オボンヌも持っていくし」
「そ、そうか。そうだよな」
僕とエリカはひきつった笑みを浮かべていたが、互いに指摘するのは避けた。もう現実逃避するしかない。ラードルフ司祭が、忘れているのを願うしかない僕たちだった。
「それよりも明日の試合どうするの?」
エリカのその一言で、明日の試合のことを思い出した。話題を変えたい意図が見え見えだったが、相談しておかなければならないことであるのも事実なので僕はそれに応じることにした。
「どうするって。まず普通に戦って勝てる相手じゃないだろうなぁ」
「アレクが弱音を吐くのって珍しいね。そんなに強いの?」
「ライナーさんの実力を知っちゃってるからな。シュレリア様については言うまでもないし」
「ふーん。俄然、燃えてきちゃったかも」
「なんでだよ」
まあ作戦がないわけではない。奇策を用いるつもりはないが、戦い方によっては有利に立てる場面も出てくるだろう。
「いいか、まずは――」
明日の試合についての作戦をエリカと練っていると、気がつけば日が暮れる時間となっていた。僕はエリカを家まで送った後、明日の試合に備えて早めの食事と睡眠をとることにしたのだった。
あとがきは、活動報告に書きます。