試合のとり行われる場所はなんと使徒の祭壇だった。個人的にはウィルスがたびたび発生していた場所だけに、何とも言えない気分になる。ただ、よく考えてみれば戦闘を行うのに十分な広さを持った空間はプラティナには限られている。住民の憩いの場であるアプサラニカ広場でやるわけにもいかないだろう。
「それにしても、なんなんですかこの人だかり」
「なんでもどっちが勝つか賭けをしてるらしいぜ」
準備体操をして体をほぐしながらぼやいた言葉に、ライナーさんが反応した。どうやら全体に告知された話は住民にまで広がったらしい。かなりの人が集まっている。
そんなふうに集まった人々を眺めていると、エリカとシュレリア様が準備が整った旨を伝えてきた。
「準備オッケーだよ。アレク」
「ライナー。こちらもかまいません」
僕はエリカに静かにうなずいて返し、ライナーさんは言葉で了解の意図をシュレリア様に伝えた。そして僕たちは意識を戦闘のそれに切り替えた。
場の空気が一変したのを感じたのだろう。使徒の祭壇に集まっている者たちは一様に静まり返った。
ちなみに審判はレアード総帥であり、あと数分で試合開始だ。
「よろしいですかな? それでは構え!!」
その一言で僕は抜刀し正眼の構えをとった。ライナーさんも剣をスラリと抜き構えた。エリカとシュレリア様が呼応する様にそれぞれ後方に下がる。そして、レアード総帥が試合開始の言葉を発した。
「試合開始!!」
直後にギィンという金属音が使徒の祭壇に響き渡る。そのままギリギリという音を立ててつばぜり合いとなった。まずは前衛同士の腕比べだ。ライナーさんの腕がどれほどなのかによって作戦を切り変える必要がある。
だからはじめは、数合打ち合って実力を確かめるつもりだったのだがそうもいかないようだ。
「くっ!!」
「来ないならどんどんいくぜ」
袈裟懸け。逆袈裟。突き。払い。下段突き。上段からの振り下ろし。それは王道というか正道中の正道のような剣技だった。力は強く、動きも俊敏だ。加えて重心のずらし方。足運び。目くばせ。そのどれをとっても一流のものだった。
僕はライナーさんの攻撃を時にはいなし、時には受けてやり過ごした。
「化け物ですか?」
「いや、今のを全部さばききった君も大概だと思うよ」
数合の打ち合いの後、互いに距離をとる。最初の攻防が終わり、集まっている観衆が沸いた。
これで判明した。やはり、まともにやりあって勝てる相手じゃない。ライナーさんだけでもまったく隙のない攻守のバランスのとれた剣技と、強力な力と俊敏さを兼ね備えた難敵だ。そこにシュレリア様の詩魔法が加わるのだから頭が痛い。
もはや躊躇している場合ではない。僕はエリカと事前に決めていた作戦を実行に移すことにした。
「行くぞ!! エリカぁああああ!!」
「Rrha ki ra briyante fayra(歓喜の声を!! 炎を!!)」
その瞬間から僕たちは攻勢に出ることにした。エリカの詩魔法が発動し炎がライナーさんを包む。視界を完全に奪われたライナーさんは後退しようとするが、そこは僕が許さない。
「雷光一閃!!」
周囲にズシンという音が響き渡る。僕が大きく踏み込んだ音だ。その踏み込みとともに僕は強力な一閃を放っていた。
しかし、ライナーさんは天性のセンスか単なる勘なのか分からないが、あろうことか視界が炎で遮られている状態で僕の攻撃を防いでみせた。その証拠に最初のそれよりもひときわ大きな金属音が周囲に響き渡った。
「くっ!! まだまだぁ!!」
「colga fhyu fayra quesa(氷、風、炎、雷よ!!)」
「なんだって!? くっ!!」
初めて聞くライナーさんの驚愕の声。それもつかの間、短時間で詠唱されたエリカの詩魔法が発動し氷と風の刃、炎と落雷がライナーさんを襲う。この好機を見逃すほど僕は馬鹿じゃない。自らも攻撃を加えるべくライナーさんへと肉薄し連撃を放つ。
そう。これが僕たちの考えた作戦だった。まずまともにやりあっては勝てないのは分かり切っている。なので、短時間の詠唱を重ねて詩魔法を使いながら徹底的に前衛であるライナーさんを叩くというものだ。
「ラ、ライナー!!」
シュレリア様が詠唱を中断してライナーさんに声をかける。僕はそれを聞いて、より攻勢を強めることにした。シュレリア様の声を聴いたライナーさんは後退できるギリギリの線だと踏んだのか、僕の攻撃に応えるように吠えて反撃してきた。
「はぁああああああ!!」
「おぉおおおおおお!!」
幸いなことに力は別として技量と速さは肩を並べることができているらしい。高速の剣技が交錯し、わずかな時間で数十合を交えた。この状態ならばエリカの詩魔法の支援があるこちらが有利だ。しかし、短時間の詩魔法を重ねているとはいえ詩と詩の間が長すぎる。追加の手が必要だと判断した僕は、さらなる奥の手を開放することを選択した。
「行きますよ!!」
「なにっ!?」
ドクンという心臓が脈打つような音が周辺に響いたような気がした。もちろん周囲にまで響くというのは気のせいに過ぎない。しかし僕の耳にははっきりと聞こえた。なにせ自分の体から発せられるものなのだから。
人間の身体能力というのは通常時はリミッターがかかっているらしい。しかし緊急時などには火事場の馬鹿力と言われるようにそのリミッターが外れることがあるとのことだ。そして、僕はそのリミッターを意識的に解除することができる。
要は僕はそのリミッターを解除したのだ。僕を包む赤い闘気がゆらゆらと、揺らめきながら立ち上る。僕の身体能力はこれで数倍に上昇した。
「せっ!!」
「ぐうっ!!」
僕が地面を蹴るたびにズンという音がして使徒の祭壇周辺が揺れた。観衆から悲鳴が上がっているが気にしている場合ではない。ライナーさんは完全に受けにまわっていた。僕が一刀をふるうたびに歯を食いしばりながら必死に耐えている。
状況は整った。そう思ったその時に、シュレリア様が叫んだ。同時に僕とエリカも短いやり取りを交わした。
「ライナー!! アレを使います!!」
「シュレリア様!! 了解です!!」
「エリカ、詰めだ!! 詩を切り替えよう!!」
「うん!! 分かった!!」
シュレリア様とエリカ、双方の長い詠唱が始まる。何をする気かは知らないが、こちらは詰めさせてもらう。だが警戒のために僕は一旦、距離をとった。
「いやさ、どっちが化け物なんだよ」
「こちらの攻撃を全部防いでおいてそのセリフは通用しませんよ」
奇しくも立ち位置は試合開始前の状態に戻った。ライナーさんと僕は互いに苦笑いを浮かべた。ライナーさんを視界にとらえつつもチラリと一瞬だけシュレリア様のほうを見る。
聴いたことのない詩を歌っている。それに嫌な予感を覚えた僕はエリカのほうも確認した。たぶんだが、エリカとシュレリア様の詩魔法は同時に発動する。そうであれば最大の一撃をその瞬間に相手にぶつけるべきだ。
そう判断した僕は、チンという音を立てて納刀し居合の構えをとった。
「決着をつけようってことか」
「はい。ライナーさんたち相手に余裕なんてありませんから」
対するライナーさんは正眼の構えをとった。僕の一撃を正面から受けるつもりらしい。決着の時が、近づいていたのだった。
あとがきは、活動報告に書きます。