『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」   作:照喜名 是空

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カス魔族は休養する:後編

 ◆

 

 お、俺は今信じられないものを目にしている……

 人間のクソみてえなつまらない田舎の中に……ヒロイさんがいた! しかもバンドフルメンバーで……

 これはきっと人間のフリして行商なんてクソつまらねえバイトをしてる俺たちに女神がくれたご褒美だ! 

 

「やー待ってたよー。お前が来るのをな」

「お、俺ですか!? なんで!?」

「えーと音楽を記録できる魔道具、持ってるよね? 聞かせて」

 

 や、やべえ……ヒロイさんはファンにも容赦なく恐喝するのか……さすが俺たちの国で魔族も鬼も越えた鬼畜と言われてるだけあるぜ……

 もちろん俺は全部渡した。これは一個一個は鍋敷きみてえな円盤形の板だ。

 これに触れることで録音、再生が可能だ。

 

「ウ、ウス! 北部のカス共の音楽もありますけど、俺はアビダルマ一筋です! これも売り物にするつもりでした!」

「うんうん、知ってた。そろそろ来るかなって」

 

 なんてこった……ヒロイさんは未来予知もできるのかー! 

 

 ●

 

 アタシの前にはガタイの良い黒髪の魔族が居た。眉無しでロン毛をセンター分けにしてる。

 あー、春に来るファンってコイツかあ……ほとんど最初のライブから最後まで追っかけてたやつじゃん。

 すごいなコイツ……

 とりあえずアタシは北部の音楽を聴いてみた。

 

「反逆者共よ頭を下げろ! 反逆者共よ頭を下げろ! 言え! 誰が魔王かを! 言え! 誰のおかげで生きていられるのかを!」

「人間共よ、獣の美しさを理解するか? 血濡れの牙の美しさを!」

 

 うん。これ人間で言えばヴァイキングメタルだ。ゴリゴリに荒っぽいけど洗練されてる。

 アタシの荒削りなハードロックをさらに正統進化させやがったなあのヤバ女。

 しかもヤバいのはこれ十歌仙の曲なんだ。あいつPとしてもこんだけ腕前あるのか。

 何ならできないんだよアイツ……

 

「ど、どうすかヒロイさん。こんな奴ら敵でもないですよね!?」

「ねえお姉様これ……う~ん……普通に私たちより上手くない……?」

「上手いよ。でもこれから越える。他のも聞かせて」

「ウ、ウス!」

 

 アイツ自身の曲は賛美歌とオペラとクラシックを混ぜたようなアレだった。

 ひたすら荘厳で崇高で、誰でも良いから誰かを崇拝したくなるようなやつだ。

 完成度としてはアタシがシュラハトにぶち込んだ「歌で魔族を殺す魔法(ワタシハサイキョウ)」に近い。

 目的のためにひたすら美しさを研ぎ澄ませたタイプの歌。「歌で魔族に崇拝させる魔法」か。

 でも気になるのは……ボサノヴァ風のが一曲。でも歌詞はデスメタルなんだけど。

 これが本音なんだろうなあ……なんだよ朝目覚めたら真っ先にするのはあなたの両親を殺してあなたの朝ご飯にするのって。

 心がメタルモンスターでその上にお洒落で丁寧な暮らしを被せるみたいな……

 あー、オムライスだ。あいつ真っ赤なチキンライスの上に甘い卵を載せたヤツだ。

 普段は舐められない程度に優雅で静かな暮らししつつ、たまにはど派手にぶっ殺したいっていう。

 

「ど、どうすか……」

「中身真っ赤で表面が綺麗なオムライス、かなあ」

「マ、マジですか……」

 

 アタシはほとんど独り言でそう言った。アウラがなんか胡乱な目で見てるけどいいや。

 

「うーん、負けないよ。うん、負けてられない。創作意欲沸いてきた。ねえ君、最近の南部の状況を教えてよ。ネタになるかも」

「は、はい! 喜んで! きっと驚きますよ!」

 

 ◆

 

 まず南部っすけど、名前が決まりました。国の名前はフォルトっす。

 ヒロイさんの師匠が居たハコですよね! 今あの国そのものがヒロイさんのライブハウスなんで! 

 あの奇跡の導きをされた街は聖地ジュクっす! 隣はブクロ、遠くに見えてた山はシヴの谷です! 

 ヒ、ヒロイさんが大笑いされている……気に入っていただいて何よりです! 

 

 あ、そうだ。これ宮殿も今作ってるんすよ! ファッキンガム宮殿です! 

 これが写真っす。

 え? この髑髏っすか? ドラゴンのヤツは本物っす。

 でもすいません。人間の髑髏はちょっと作るのが面倒で……すいません大理石でごまかしました。

 あ! でもヒロイさんが一言言えば俺ら万の単位で本物取ってくるんで! 

 え、大理石の方がお気に召されましたか? ありがとうございます! 

 

 えっ? 政治っすか? あんまり興味なくって……ウス! 次は勉強します! 

 さすがヒロイさんだ……もう帝王になる気になってらっしゃる……

 えーと今の閻魔代理はクヴァールさんっす。はい、腐敗の賢老の。

 酒が気に入ったとかで。はい。あの人もヒロイさんの洗礼受けました! え? 洗礼ってヒロイさんの血ですよね? みんな飲んでますよ。

 ちょっと死にたくなりましたがヒロイさんの歌聞いたらあがくだけあがいてやろうって思いましたから大丈夫です! 

 クヴァールさんはぜんぜん平気そうっした! すごいですよねあの人。

 

 え、後で手紙を……? 会ってみたい……? は、はい! 命に替えても届けます! 

 俺、届け物は得意なんすよ! 俺の魔法は「誰も俺の存在を認識できない魔法」ですから! 

 他にも幹部はいろいろいたと思うんですけど……すいません勉強します。

 

 これすか? 『ヒロイさん語録』です! 俺、ヒロイさんのライブにほとんどいましたから! 

 覚えてる? マ、マジですか……あ、ありがとうございます! 最高です! 俺のような雑魚にもヒロイさんは慈悲をかけてくださるんだ……! 

 あ、語録ですね。これはライブのMCを全部記録しました! ヒロイさんのお考えを皆に知って欲しくて! 

 勝手やってすいません! でももうこれ、五百万部擦っちゃったんですよ……全部無料配布しました。

 お、お許し願えるんですか……全部実際に言ったもんだから? はい! 全部覚えてました! 

 ふぁ、ファンの鑑? 俺が……? ありがとうございます! これからそう改名します! いえ! します! 有難ッス! 

 

 ●

 

 なんか……なんか思ったよりイメージが先行してるっつーか、ヤバいファンが多いんだなアタシのファンって……

 ねえさんのバンドもそうだったらしいもんなあ……ねえさん、アタシはあんたに追いつけたのかな……

 記憶にある大人の背中はいつもでっかいなあ……

 

「ど、どうするのよー! 思ったより大事になってるじゃない……?」

「とりあえずクヴァールさんには手紙ででもいいから謝っておいた方がいいよね……?」

「当たり前じゃないー!!」

「添削しますね」

「たのむわ」

 

 現実逃避してたらアウラに首を揺さぶられたので、とりあえず後でクヴァールさんにはマジで謝っておこうと思った。

 さすがにやりたい放題した後にケツ拭いてもらった人に義理は欠かせないくらいの良識はある。

 アタシができる最高級の酒を送っておこう……

 

「っていうか君すごいねー。魔法めちゃくちゃ有用なやつじゃん。それにフィジカルも強そうだし」

「はい! 俺実は戦士タイプっす!」

「本当にすごいなお前」

「有難ッス!」

 

 真顔になっちゃったよ……魔法戦士タイプってマハトくらいのもんじゃん……こいつおかしいよ!

 あ、リーニエも一応そうか。魔法で戦士を再現するだけのはそれはもう戦士タイプでは……?

 魔族っていうか今は鬼族だけど、居るところにはいるんだね。特異個体。アタシが言えたことじゃないけど。

 

「とにかく、クヴァールさんと君には良いお酒送っておくよー。行商用にもいくらか売るね」

「はい! 有り金おいていきます!」

「いや、さすがにちょっとはとっておきなよ……」

「ッス!」

 

 ●

 

 それから、数日間はアタシ達は収録に向けて曲作りと練習をした。

 クヴァールさんに手紙も書いたし、お酒も造った。

 ファンの鑑はここが天国なのか……とか言ってたけど、あまり触れないことにした。

 喜んでるならまあいいじゃないか。

 そしてレコーディング当日。キメキメの衣装でアタシ達はファンの鑑たった一人の客へのライブを決行した。

 いや、一人じゃない。こいつの後ろには何万のファンと、そしてソリテールがいる。

 

「これが貴様らへのアンサーソングだ! 聞け! これがアタシの足跡だあー! 『ロックパレード』!」

 

 ああ、そういえば姉さんが死んだのは新年祭りの晩だっけ。

 

「一夜の思い出があれば生きていける。貴女と過した夜がトリックスターを産んだ」

 

 歌詞は歌う。賑やかな祭り。お菓子やら歌やら明るい夜を。平和な時代を。そういうのが一生分の幸福をくれる夜なんだって。

 

「地獄みてえな時代になっちまったけど! それでも、アタシは明日を捨ててない。這ってでも行け」

 

 雲よりも上の空、海の上であの日福音が禁断の果実を貪り食った。

 

「誰にもあんたの道を邪魔させるな! 世界に溶けるな! お前の道を探せ! 空を覆う声が法だと言うなら、お前は荒野を目指せ!」

 

 荒削りな音から少し澄んだ音に変えていく。

 

「何が正しい世界なんて知ったことか! 道に迷うのもいい。でも全員やることやっちまっただろ! ならもう進め! 立ち止まるな! どれだけ傷が増えてもアタシは進む! 行けるところまで行く! そしたらアタシの歩いた跡が道になるだろ! アタシが道標になってやる! だからお前達が輝け! お前だけの色で! 世界を色んな光で埋め尽くすんだよ!」

 

 これがアタシの決意表明だ。世界に、お前に中指立て続けてやんよ! アタシのやれることってそういう事だろ南の勇者! 

 かかってきやがれこの野郎! 

 

 ●

 

 そうして、傷ついた奴らへの子守歌を数曲もレコーディングした。これにはファンの鑑の要望でアウラとリーニエヴァージョンの3つが収録されている。

 ホクホク顔のファンの鑑にゆっくりヴァイゼに向かうからルートを辿ってきてね、と伝えておく。

 現国王であるクヴァールさんへの文通のためだ。

 ここからアタシ達は北部最大の街ヴァイゼに向かう。権謀術数入り乱れる大都会だそうだ。

 やっぱロックンローラーは都会じゃないとね! 休養でスローライフもいいけど! 

 

 ちなみに、クヴァールさんとの文通は要約するとこんな感じだ。

 

「すいませんでしたー! ケツ拭いてもらいました! ご迷惑をおかけしてすいやせんクヴァール様!」

「よい、許そう。そなたの酒は悪くないからのう。儂も気がつけば南部に取り残され頭目にされておった。だが、魔王様は事情を知ってなお儂を敵とした。ならば受けて立つ他あるまいよ。それに、そなたの作ったメシも美味い。歌も少々騒々しいが酒に合う。これはこれで面白き世よ」

「マジですいませんでしたァー! 大吟醸送っておきます。あっ、演歌とかどうですか?」

 

 米から錬成するのすげえ大変だったけど美味しいのができたよ! 

 

「いちいち謝るな、切りがない。そなたが頭目と言うことにもうなっておるのだぞ。諦めよ。そなたの信者のようにクヴァールさんと呼ぶが良い。ところでゾルトラークの構築術式をつけておく。美味い酒の礼だ。そなたの感想が聞きたい」

「有難ッス! うわあこれは美しい術式ですね……無駄が一切ない……シンプルで実用的で、でもそれは洗練された結果で……めちゃめちゃご苦労されたんだなって思います。アタシはこういうの好きですね。殺しの道具はシンプルで実用的で信頼の置けるもんがいい」

「同感だな。デュエラとやらの魔法を少し見たが、アレとは好みが合わん。というかあやつソリテールであろう。あれはあれで良きあり方なのだがな……。ところで、ゾルトラークだが、そなたが使うならばどう改良する? 何を足し、何を引く?」

 

 これにはアタシの魔族魂に火がついてメチャクチャ早口で魔法オタク談義してしまった。

 

「そうですね……アタシなら二種類作ります。速射性と連射性、弾速を足した代わりに威力と追尾性を引いた弾幕タイプと、速射性と連射性を犠牲に収束率を上げて射程と貫通力を足した狙撃タイプです。中距離では前衛が弾幕を張って、別のヤツが狙撃します。アタシはゾルトラークの行き着くところは実体に近い鏃のような魔力塊を一秒間に数百発くらい撃ちまくって防御魔法という枠ではどうやっても数秒で身体がバラバラになるヤツになるでしょう。結果として『防ぐ』という発想ではなく『回避する』という方向で対応が進むと思います。これからの時代はおそらく超高速で飛行しながらソルトラーク撃ちまくるスタイルになるんじゃないですかね。あっ、あいつソリテールです。」

 

 クヴァールさんもこれには楽しんでくれたようだ。まあ元魔族だからね。みんな魔法オタクだからね。

 

「ほう? それではまるで防げると言うかのような物言いだのう? そなたなら儂のゾルトラーク、どう防ぐ? ああ、それからそなたの言っていた連射タイプだか試しに作ってみれば悪くない。いずれ狙撃タイプもできようぞ。連射タイプの術式をつけておく。そなたの意見を聞かせてくれ」

「有難ッス! これも美しいですね術式……生意気言ってすいません。でも、たぶん防御魔法を球形に張る『結界』じゃなく小さくても強固な『盾』をぶん回せばいけると思うんですよ。頑丈にするには、燃費を犠牲に複合式の多層装甲で衝撃を分散させればいけるんじゃないですかね。試作案つけときます。

 でもこれで防げるのはあの時点のゾルトラークならですけど。追尾性があるので速度は目で追える範囲内でしたから」

「なるほどのう。たしかにあの時点でのゾルトラーク……追尾タイプと言っておこうか。あれならば防げるな。改良するならば? ああ、それからまた酒を頼む。今度はなんぞつまみに菓子もあればうれしい。演歌に合いそうじゃ」

「うーん、あえて速度を犠牲に威力をめちゃくちゃ上げます。アタシなら爆裂させます。あっ、コニャックと落雁どうぞ……演歌もつけときます」

「なるほどこれも悪くない。攻め手が広がったおかげでソリテールの軍を退けられた。感謝するぞ。そなたの贈り物だが気に入った。引き続きたのむ」

「もちろんです! 喜んでいただいてうれしいです!」

 

 ……こんな感じだ。なんか孫扱いされてる気がする。ちょっとうれしい。

 ちなみに、このエピソードだがなぜか巷では「ヒロイさんは七崩賢の魔法ならず現国家元首の魔法までレイプしちまうんだー!」っていうことになった。

 ひどい言われようだな。事実だからしょうがないけど。

 

 あ、改良型ゾルトラークをめっちゃ身につけたおかげで戦闘力は全員それなりになったね……

 

 ●

 

 それから、アタシ達はヴァイゼに向けて進みながら途中の村々で『魔族系バンドをやっているエルフ』として活動した。

 最初は怪訝な目っていうか石投げられたりしたけど、そのうちなんかウケてきた。

 やったぜ。音楽で人は解り合える! 解り合えてるのかこれ……? 

 ま、まあ認知度があがったおかげだろう。ヤバ女から逃げるのは急がなきゃだが……

 そんなある日。

 

「お前エルフをバカにしてるだろ」

「バカにしてるのは全方位だけど?」

 

 絶大な魔力を持つ垂れ目のムチムチチビエルフに出会った……

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