『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」 作:照喜名 是空
ヴァイゼへは途中途中であえて変なルートで行くことにした。ヤバ女対策だ。いくつかの地点はサイコロやダーツで決めたり。
そもそも、ヴァイゼへは逃避行だった。しかし今は閻魔大王という名の国王なんて明らかにおかしい役職になるのにちょっと覚悟を決める時間が欲しい。
要はこれはモラトリアム旅行だ。
もちろん、いずれは王様にならなきゃいけないだろうけど、先送りさせてくれよ……
ひょっとしたら勇者やクヴァールさんがヤバ女を倒して問題が解決するかもしれないじゃん。
そういう訳でアタシはクヴァールさんとはマメに文通している。
……マメに文通できるくらい早く移動してるファンの鑑アイツおかしいよ。
一応、リレー形式でやってる時もあるとか言ってたけど。
とりあえず彼には労りの酒や歌をちゃんとしてあげよう……
戦況はまあまあらしい。鬼軍は前線の奴らは全員最新式のゾルトラークを飛びながら撃ちまくって火力と物量で圧倒してるそうだけど、新七崩賢とかのエース級が出てくるとひっくり返される、その繰り返しと言った所だ。
ここだけ戦争のレベルが第二次大戦になってるよ……
政治的にはなんとか周辺の人間国家群とは水面下でやり取りを始めたらしい。
最終的な双方のゴール地点は人鬼間での魔王軍に対する共同戦線だそうだ。
アタシもめちゃくちゃやった方が良いですよ、と推しておいた。
そこに行くまで人鬼間の停戦合意が先だけど、双方の主戦派を抑えて民意を納めるのに時間がかかるそうだ。
とりあえず前線と外交ではすでに事実上の停戦状態らしい。
双方やる気なく小競り合いするか、良い感じに統制が取れてるところではあえてお互いに見なかったことにする、みたいな。
次のステップとしては勇者たちの素通りと最終的には人類軍の前線投入だけど……
勇者の素通りもうまく連絡取れてる所では見て見ぬ振りを貫けるそうだが、これが辺境に行くと全くの自由なので統制が取れないとか。
とにかく、クヴァールさんが言うには今は時間を稼いで人類国家とコネを作ってくれ、とのことだ。
その方がそなたも覚悟をする時間が取れようぞ、と言ってくれたのでお言葉に甘える。
フォルト国内的には人間国家へ外交に行っていると説明してくれた。
いわば親善大使だ。そういえば言い訳も立とう。頑張ってくるのだぞ、だって。
あの人、聖人か何かかな……お礼をめっちゃ書いて美味しいお酒とお菓子、旅先で手にいれた役立ちそうな魔導書をめちゃくちゃ送っておいた。
とても釣り合わない気がするけど、やらないよりマシだろう。
●
そして、その結果として、アタシは今船旅をしている。
あえて変なコースを魔族の飛行能力とフィジカルでごり押しして超スピード移動してるからね。
目指す先は今は中央諸国と北部の間あたりの港町だ。
アタシ含め初めて海を見る勢は最初ははしゃいでいたが、すぐに船旅のクソみたいな退屈さに気づいた。
閉鎖空間でなーんもやることないんだねこれ。
「海だね……」
「海ね。もう見飽きたわ」
「また魚釣る?」
「残念ですがもう塩漬けにするほどあります。今日も海鮮サラダ、明日も明後日もです。おやつは乾パンとラム酒漬けのフルーツだけです」
「次からはせめて河の船にしよっか」
「賛成です」
「異議なしよね」
いつまでも黄昏れててもしかたないのでアタシは暇つぶしになるゲームを作る事にした。
たしか……ねえさんがトレーディングカードゲーム? とかいうのをちらっと言ってたような……
「こういうのどうかな」
「なにそれ、新しいカードゲームかしら。魔法の名前とすごい適当なイラストが描いてあるじゃない」
「えーっとね、魔法の組み合わせでより強いコンボを考えて相手を倒す、みたいなやつかな」
「へえ、面白そうですね」
「でしょ!?」
アタシはなんとか記憶を振り絞って説明した。
ライフポイントを魔法カードとネームド魔法使いカード、将軍カードで削ってくやつだ。
MtGとかユウギオー? とかいうやつみたいな。
「ええ……? 魔法って好きな魔法一つを高めていくものじゃない……?」
「そう思ってもうちょい詳しい目にいろんな魔法から構築術式をパーツ取りしてもっと強いのにするやつも考えたよ。ちなみにこれ、たぶん実際に発動するだろうから魔法開発のヒントにもなるかなって」
「まあ、どうせ暇だから遊びましょう。毎日歌と魔法の修行だけはもううんざり」
「あー、まあそうなるよね。やろうか」
「はいはい」
アウラは魔法をパーツ取りする魔法ソクラテスラ『つぎはぎの魔法を考えるゲーム』が気に入り、リーニエはMtGもどき『魔法集め』がえらく気にいったようだった。
なんとなーく楽団内でも流行っていき、同じ船に乗ってるもんだから、客の間でも流行っていった。
魔法使いとかも乗り合わせてるからね……
リーニエは『魔法集め』で教えてもいないのに害悪みたいな凶悪コンボを次から次に考えていった。
やっぱぶっ壊れだよ『分身魔法』! あと『だいたい何でも切れる魔法』これもすごい悪さするね……
アウラに遊ばせてみたら見事なコントロールデッキができたし、アタシは普通にアグロビートダウンデッキになった。
どうやら鬼がトレカを遊ぶとまんま自分の魔法傾向が出るらしい。
マハトはミドルビートダウンに何にでも使えるだろコレ!っていうトリッキーなカードを入れるのが好きらしい。
これゼーリエなら絶対に
リーニエのえげつないコンボデッキにアタシとアウラがさんざん負かされたので、開発者たるアタシはさらなる環境調整のために人間の魔法使いと交渉した。
酒や酔い止めと交換でその魔法使いたちの知る限りのマイナーな魔法を聞き出して新たなカードを作ったのだ。
もちろん、アタシが三勝くらいしたらリーニエの信じられないような害悪デッキに組み込まれてまたこてんぱんにされた。
若い子ってやっぱこういうのに関してはメチャクチャ頭柔らかいわ……
そんなんやってたら魔法使いの乗客たちと交流ができて、ひょうたんからコマ的に『
思わぬ所からめちゃくちゃ必要だった魔法が手に入るじゃん……
もうその頃には船員含め船の全員と顔見知りになっていた。
冒険者と魔法使い、あとは落語家っていう話芸の芸人が居た。
アウラはこの話芸にドハマリして毎日話をせがんではケラケラ笑い転げていた。
ちなみにアタシもちょくちょくいっしょに聞いては笑い転げた。
せっかくだからお前さんもなんか面白い話はないのかい、と聞かれたのでアタシはそういえば、と姉さんから聞いた話や今までにあったカス共の話を良い感じに脚色して話すことにした。
「これよりお話するは、笑わない姫君を笑わせようとする道化のゴーレムたちの織りなす奇妙な歌劇……不思議な真夜中のサーカスの話にございます」
落語家口調がちょっとうつっちゃったよ。
ちなみにこの話を聞いたアウラはめちゃくちゃハマった。
「お姉様そのフランシーヌはどうしてそんなになっちゃったのよ!」
「あーそれはねえ……えー、三角関係といえば恋話の定番でありますが……」
「ひ、酷すぎる話じゃない……フランシーヌが可愛そうよ……」
「ちなみに、この人形のフランシーヌの話には続きがあってなー」
「そうよ! その後どうしてあの終わりになっちゃったのよ! どこに行ったの?」
「それはまた明日ってな。船旅は長いんだしゆっくりやろう」
「うーん、そうねえ……でも気になって仕方がないわー!」
「それがお話の良い所なんじゃん」
まあ……毎日夜話しちゃったよ……
「さあ、彼らの物語は終わりました。あなたはあなたのサーカスに、飛び込む、飛び込まない?」
「も、もの凄い話を聞いちゃったじゃない……お姉様、これは本当にあったことなの?」
「さあねえ。過去にこの話に出てくるカスの誰かに出会ったかもしれないし、そいつから聞いたどこかのお話なのかも」
「教えてくれないパターンじゃない……」
それからアウラは騎士人形の他に、道化人形も操るようになった。
これ、使えるかもね。そのうち人形劇も覚えさせよう。情操教育は順調だ。
あいつもう感染しちゃってるんじゃないの? 調べたらしてなかったわ……してるとしてもごく初期でこんなんなるのあいつ。
あいつが実は一番進化してるとかそういうオチない?
なんだかんだ、船旅も収穫多かったね。いいことだ。
港には先回りしてたファンの鑑がいた。あいつマジでどうなってんの。
とりあえず、例のカードゲームと『
きっとクヴァールさんなら役立ててくれるでしょ。なんかゾルトラークの普及率を上げたいとか言ってたし、これをきっかけに他人の魔法にも興味をもってくれるといいすね、と書いておいた。
数ヶ月後の返信ではなんか戦場では『
そしてクヴァールさん本人はゾルトラークの弾を高速移動させて超威力超射程の艦砲射撃みたいなゾルトラーク砲を作ってた。
ウケたのでさらに高速化させてオーバードゾルトラークキャノンの試作案を送っておいた。きっと役立つだろう。
クヴァールさんがどんどん機動兵器みたいな戦い方になっていく……
あ、カードゲーム自体は普通にウケたらしいです。
問題は鬼族領フォルトよりも船旅の同乗者や船員経由で人間領にもめちゃめちゃ広まりつつあることだね。
そのうち、挨拶代わりに「ところで『魔法集め』をやらないか?」とか言い出すヒゲのおっさんが出てくるかもしれない。
そしていくつかの村を得て、だいぶヴァイゼに近づいてきたら、なんか芸人同士の噂で勇者ヒンメルの話を聞くようになった。
どうやらちょくちょくニアミスしてたらしい。
「なんでも勇者ヒンメルはすごいお人好しで魔法使いのエルフに惚れてるけどそいつが鈍感で見ててやきもきするとか、残りの僧侶と戦士は二人の仲を応援してるけどエルフが余りに鈍感すぎてどうにもならんらしいね。情報を総合すると」
「勇者はもうこりごりよ……やっぱり人間領やめてもうフォルトに戻っちゃいましょうよ」
「まあ、おいおいね。おいおい。というわけで勇者対策としてこの曲とかどうかな」
君は僕にとって完璧で究極の偶像
決意しちゃったんだ、僕の命にかえても君を護りとおすよ
平坦な胸元、眠たげなその瞳
乱れた寝癖をすこし直そうか急いでさ
いつも君はそっけなく微笑むよね
いつか君が満開の花を咲かせたら良いな
汚れ無き僕の眩しい妖精
君の永遠にならずに僕は風になるよ
身を引くなんてカッコつけさせてくれよ
君の前なら100点の僕でいるから
君のためなら世界だって救って見せるよ
だから綺麗な思い出でいさせて
君と永遠を誓えないならさ
もし赦されるなら、君を偶像から少女にできたなら、僕は……
「ハイ中止! 中止よお姉様! この状況でこれ歌っちゃったらもう戦争じゃない! 喧嘩を売りに行くの?」
「いや、一発で興味を牽きたくて……」
「鬼ですね。人の脳はあるのに人の心はないんですか」
「もうちょっとマイルドな出し物で興味を牽いてそこから鬼は情緒ありますよ、停戦したいですよ、ってのを伝えようか……」
「それならいいのがあるじゃない! 私に良い考えがあるわ!」
嫌な予感がしてきたよ。
☆
勇者ヒンメルのパーティーは北の城塞都市ヴァイゼにほど近い村にたどり着いた。
「ようやく彼らに会えそうだねフリーレン。それにしても別の大陸に出て行ったエルフが戻ってくるなんて。よかったじゃないか」
「それやっぱり多分魔族の偽物だよ。確かに別の大陸に行った氏族はいたらしいけど」
「それでも、会ってみないことには始まりません。期待しておくほうが楽しいですよ」
「……偽物であったならば、お前がどうするか決めろ」
「魔族だったら殺すよ。エルフに偽装できる種族がいるとしたらあいつらくらいのものだからね。フランメが可能性の一つとして言ってた」
村からは賑やかな音楽が聞こえてくる。
歌っているのはエルフらしき集団だ。ゆったりとした白い服。ここまではいい。
頭に皮で編まれた頭環。これは後世に産まれた勝手なイメージの産物だ。
茶色に曇った眼鏡。エルフはメガネなどしない。
長い羽つきキセル。こんなものゼーリエくらいしか吸ってるのをみたことがない。
「これはエルフをバカにしてるよね」
フリーレンは人形のような美しくも冷たい表情で淡々と告げた。