『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」   作:照喜名 是空

15 / 28
カス魔族と勇者パーティーその③

 そういう訳で事情を説明しにヒンメルに会いに行ったらハイターが二日酔いだしフリーレンは魔導書を解読したいって向こうも休む予定だったらしく、アタシ達は出発を先延ばしにした。

 その間はのんびりバンド活動しながらヒンメルたちを横目で見てたけど……いやすごいお人好しだなコイツ! 

 

 めちゃめちゃ積極的に困ってる人を助けるし、それでいて嫌みにならない程度に三枚目を演じるし、高潔すぎるだろコイツの精神……

 勇者って方向性違えどみんな本当の意味で勇者なんだと思い知らされたよ。

 

 ☆

 

 何日目かの夜。ハイターは部屋にこもりきりだったフリーレンを尋ねた。

 

「どうですか、フリーレン。先日渡した魔導書の解読は」

「もう終わったよ。アレは魔導書っていうより説明書だった。術式自体も短いし。まるで膨大な術式から一部を切り出したみたいだ」

 

 フリーレンは髪がぼさぼさになっているために、ハイターと扉越しに会話していた。

 

「そうですか。ではそのうちぜひ使って下さいね」

「そうだ、もう二日酔いはいいのハイター」

 

 ハイターに二日酔いの薬を作ってやろう、と荷物の中から空瓶を探そうとするフリーレン。

 

「おかげさまで。今は二日酔いの薬よりも酒が欲しいくらいです」

「試しに使ってみたけどあの安酒はロクなものじゃないと思うよ。これは私が管理するね」

 

 実際酷い味だし、酔い方もひどかった。あれが安酒というものかと知った。

 

「おやおや、手厳しい。ところでフリーレン。あなたは魔法を見れば作った人の人柄が解ると言ってましたね。その魔法を作った人はどんな人だと思いますか?」

 

 フリーレンは顎に手を当てて少し考える。あの術式は表面はめちゃくちゃな部分と根幹にひどく丁寧で優しい部分があった。

 

「……そうだね、普段はかっこつけてるけど、本当は優しいから、酔ったときのことを後悔してる。……そういうハイターみたいなヤツだと思うよ」

「そうですか。あれはイブキさんからもらったものです。おそらくは、彼女が作ったものでしょう」

 

 フリーレンは部屋の中でぎゅっと拳を握りしめた。まるで私が悪いみたいじゃないか、と。

 

「ハイターは私が間違っていると言いたいの」

「いいえ。何も間違ってはいません。ですが時に状況が変わった結果、正しい答えが別のものに変わってしまう……そういうこともあると私は先輩から聞いたことがあります」

「そっか」

 

 そういえば、そんなことは自分もたまにあったな、と思い返した。時代が変わって昨日まで正しいとされてる事が間違いになる。

 そういうのも短命種の苦手な所であり、距離を取る理由の一つだったと。

 

「すぐにとは言いません。あなたが受けた事を許せとも。ただ、あなたの村を焼いた魔族と彼女は別人です。それだけは、ただの事実ですよ」

「わかってる……少し考えさせて」

「ええ」

 

 ぐるぐると頭の中をいろんな考えが巡っていく。どうしたらいいだろうか。ただ一つわかるのは、自分には時間が必要なこと。

 ハイターの足音が遠ざかった。フリーレンはベッドに戻ってぎゅ、とクッションを抱きしめた。

 どういうわけか、ヒンメルの顔が思い浮かんだ。

 

 ○

 

 楽団のやつらもようやく立ち直りつつあるし、あっちもだいたいの用事は済ませたらしい。出発は明日だ。

 つまりこの村での公演もここまでだ。

 

「アンコール! アンコール!」

「えー、じゃあ次で本当に最後の曲です。あなたもし、世界最後の日まで生き残っちゃったらどうします? 何を祈り、願います? 明日には全部なくなっちまうって日に。アタシは……今まで自分が歩いた足跡を、暖かく優しい思い出を愛おしみたいです。この曲がそんな愛おしい音の一つになればいいなと思います」

 

 それはありふれた日々を愛おしく思い返す曲。つらい過去もあったけど、それも今日でさよならだと。

 優しく切ない曲だ。これは年長者や長命種に刺さると思う。

 なんか……ヒンメルパーティーが聞いてた。いやそりゃあフリーレンやアイゼンに刺さればいいなーとは思ったけど。

 ヒンメルは切なそうな顔で聞いてた。アイゼンはうつむいて涙……してるのかな。してるっぽいな。

 ハイターが一番キツそうに聞いてた。刺さりすぎたかー。優しいヤツだもんなー。

 肝心のフリーレンは……きょとんとした顔で涙を一筋流して、驚いたように涙に触れた。

 ヒンメルがそっとフリーレンの頭を撫でる。

 

「……良い曲だね」

「頭なでるなよぉ……」

 

 いい雰囲気のようだ。ちょっとでも好印象もってくれよ……! 

 

「……アタシは生きるとは思い出を積み重ねることだと思います。記憶や記録じゃなくってね。アタシ達が皆さんの良い思い出の一つを飾れたのならうれしいです。ではまたいつか」

「そんな今日の思い出を永遠に! 音円盤の魔道具売ってるわよー! じゃんじゃん買いなさい!」

 

 円盤はマジで飛ぶように売れた。仕入れてくれるファンの鑑とフォルト国内で作ってくれる工場の人らにはマジで感謝だ……

 ちなみに、この村でもなんかすでに勇者ヒンメルの像を立てるらしい。

 数日でどんだけ貢献してんのアンタら!? 

 

 △

 

 そうして次の村までいく北側諸国の荒野ではみんなでキャンプを。村ではヒンメルパーティーが人助けを。

 まあそんな毎日が続いた。

 その中でヒンメルパーティーの身の上を聞いたり、逆にアタシがねえさんの話や今まで出会ったカス共のおかげでこうなったんだよーという話をしたりした。

 

 もちろん、フォルトや魔族の現状も話して今の戦場は魔境だよ、その装備や魔法だとマジで死ぬよ、とも。

 ヤバ女には本当に気をつけろと。元から人を完全に理解してて、どっちにでもなれるのに好き好んで魔族である事を選んだマジモンだぞと。

 今のあいつは魔族の狡猾さと人間の底知れない悪意による悪のデパートだと。

 

「ってわけで『高速で移動する魔法(ジルヴェーア)』もどきと魔力で弾つくるやつと複合式防御魔法とゾルトラークの魔導書を渡すから」

「相変わらずペラペラの魔導書……お前からは施しはうけたくないな」

「いやこれは投資! 投資だと思ってさ! あんたらが魔王とヤバ女を倒してくれたらアタシらも助かるからさ」

「……借りにしとく。絶対すぐ返すから」

「期待しとくよ」

 

 ちなみに今渡したゾルトラークはフリーレンが使う用に特化した調整をしてるからたぶん普通の人間だと覚えるまで50年はかかると思う。

 ゾルトラークはめちゃくちゃ大事な外交カードだからね。さすがに誰でも使えるヤツは人間の国との取引に使うよ。

 

「これ、オリジナルのゾルトラークじゃないね。私用に特化してる」

「そうだよ。私があんた用に調整した。ノーモーションで発動まで60分の1秒、射程10m。弾速は亜音速。けど頭部か心臓に当てれば間違いなく死ぬ。あんたの攻撃魔法で足りなさそうなのは近距離で早撃ちするヤツだと思うからさー」

「普通に使いやすいのがなんか悔しい」

「いや、だって今鬼と魔族ではこのレベルのが飛んでくるんだよ?」

 

 アタシはヒンメル達にも見てて、と言って近くの岩に秒間一〇〇発で連射型ゾルトラークをぶち込んで見せた。

 人より大きな岩は3秒で砂になった。

 

「……今魔王領ではこんなものが飛び交っているのか」

「これは私も頑張って複層式の防御魔法を覚えなければなりませんね」

「俺でも耐えられて30秒、と言ったところか。回避の修行を増やすべきだな」

「そうだね」

 

 あんたらこれに30秒耐えられるのかよ!? さすが勇者パーティー。半端ねえわ……

 

「アンタらと戦わなくってよかったよ」

「僕もそう思う」

 

 かくして、なんとなーく曖昧なままに勇者パーティーとの和解は成立した。

 勇者あと何人もいるんだよね!? 毎回これやんの? マジで? 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。