『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」 作:照喜名 是空
それから、ヴァイゼ近くの村でファンの鑑から物資補給を受けることになった。
今のコイツはマジで重要な密使ポジションで、コイツからアタシの歌も国に送るメッセージも伝わっている。
ちゃんと国からもお給料が出るようにしてるけど大丈夫かな、使う暇あんのかなコイツ。
「す、すげえ……ヒロイさんは勇者までも手なづけてしまうのか……」
「あー、うん。それなんだけどさ。国の皆にも説明したいからちょっと写真撮ってくれる? こういうワケで基本勇者は襲わないで欲しいんだ」
「ウ、ウス! 全力で撮らせていただきます!」
アタシは勇者と楽団の奴らを呼びに行って荒野に出た。
だって街中が背景に写ると間違いなくヤバ女が場所特定するもん……
「へえ、全員で写真を撮るのか。いよいよ僕のイケメンぶりが鬼にまで伝わってしまうね」
「通行証もくれるというのですから、助かりますよ」
「……だが、末端にまで届くまでは用心は続けた方が良い。軍とはそういうもんだ」
「そうだね、どこまで通用するかわからないよ。……この聖杖の証だってそうだったし」
そんなこんなでわちゃわちゃしつつ、マジでなんもない荒野を背景にあたしらは写真を撮る。
ヒンメルと肩組んで手の甲を見せるピースをする。
この日のために前々から左手に姉さんと同じタトゥーをしておいた。
これを通行証の柄にしとけば忘れないでしょ。
「おらー、仲良い所見せとけー。笑顔だ笑顔ー! ファンの鑑、3枚頼むなー」
「ウ、ウス! チ、チーズ!」
「イエー!」
できた写真の一枚をアタシのサインに「コイツらは絶対に無事に通せ。by閻魔大王ヒロイ」と書いてヒンメルにわたす。
「ちゃんとした通行証もあげるけど、たぶんこっちの方が効くと思うよー」
「ありがとう。ところで3枚だけでいいのかい? もう何枚かかっこよく撮り直しを……」
「こういうのはビシッとするんじゃなくって日常を切り取った感じの方がいいじゃん?」
「っていうかあなたのリテイクをファンの鑑にさせるのはさすがに私たちも良心が咎めるじゃない……」
それから、魔力で武器を作る要領でアタシのタトゥーを模したペンダントヘッドを作り、そしてそれをマハトに黄金化してもらう。
こうすれば魔力から無限に資材を作れるんだよねえ……便利すぎるわ。
「ハイこれ通行証」
「助かるよ、君のタトゥーか。これには何か由来があったりするのかな」
「あーこれはねえ……姉さんも手にしてたんだよ。蓮の花と三日月のやつ。ありがたい神様の乗り物なんだってさ。蓮の花は」
「へえ……」
「じゃあ、アタシは国に命令すっから。録音頼むよーファンの鑑!」
「ハイ! 皆喜びますよ!」
「うんうん、頼んだぞー」
そうして。こんな内容を録音した。
「あー、ヒロイだ。いつもフォルトのために戦ってくれる兵隊さん、ありがとう。本当にえらいよ。
お前達は他人のために戦う事ができる。繰り返し言うな、本当にありがとう。
それで、アタシもちょっと勇者と話しつけてさ。こいつら魔王を倒してくれるじゃん?
あたしらはコイツらに手出ししない。その代わりコイツらもあたしらを殺さない。
そういう話をしたんだ。お前らもそれを守ってくれ。
いやだってさあ……共通の敵がいるのに足を引っ張り合って共倒れするようなダサい奴アタシのファンにいるぅ!?
いねえよなぁ!?
そういう訳だから。ダサい真似すんなよ。それにこいつらすごい良いやつだから、こっちが親切にすればちゃんと返してくれるよ。
なんならあたしらのために魔王を倒してくれるありがてえ奴らくらいに思っとけ。
コイツら持て成して損はないから。
あっ! それからこいつらに通行証わたしたんだったよ。アタシのタトゥーと同じやつな。
それから、アタシのタトゥーはじゃんじゃん真似しなー。魔族と見た目の違いわかんないじゃん?
実際中身違うんだから、あたしらのほうから見た目でも解るように変わっていかなきゃな。
そうそう、ここからは魔王に当てた話な。
イエーイ魔王くん見てる~? 勇者ちゃんはアタシ達が同盟結んじゃいました~!
あたしらのシマを素通りしてお前らをブッ殺しにいくから楽しみにしててね~!
何が千年後の共存だ。あたしらは今の話をしてんだよバーカ!
昨日もごちそう明日もごちそう。今日はなんにもありません。魔王軍はかわいそう~♪
じゃあその明日っていつよ? 誰だって今日に生きてるんだよ! 明日が来るかどうかもわかんない戦争でそんなんに命賭けられるかバーカ!
じゃあね~!」
「どう? ちゃんと録音できた?」
「お、オッケーです!」
「そーいうわけだからさー。ちゃんと周知するようにしといてねー」
「ウス!」
後ろ振り返ったら勇者たちがちょっと引いてた。
○
そういう訳でヴァイゼだ。
勇者一行はここでも歓迎され、あたしらは勇者に護衛を頼んだ楽団、ということにしてもらった。
治安マジヤバな街であると察したハイターたちによってヒンメルは説得されて早々にヴァイゼを立つことになった。
これは、その出立の前の日の夜の話だ。
アタシは宿の屋根の上で雪見酒としゃれこんでいた。
こんな雪の日にはアイツを思い出す。どこからか紛れ込んだ異界の死神のことを。
そうそう、アイツが吹いていた曲……『ニュルンベルクのマイスタージンガー』を。
プリンの博士のラボで本物を聞いたけど、これ本当はすごく派手な曲なんだよね。
「変な口笛」
アタシが上機嫌で口笛吹いてるとフリーレンがやってきた。
飛行魔法はちゃんと開発できたみたいだ。あたしらも協力した甲斐があった。
あたしらにとって飛行は身体機能の一つで、どうやって歩いてるかとか自分では説明難しいんだよね。
「でも、良い曲だ。いつか死ぬならこんな曲に送られたいよな、ド派手で、でもとても淋しい曲でさ」
「今吹いてやろうか。……冗談だよ」
「そっか。……こんな話知ってるか? 街の女の子だけが知ってる噂だ。人がその生涯で最も美しい時、それ以上醜くなる前に殺してくれる死神がいるって」
「……それはただの噂か魔物じゃないかな」
「そうさただの噂だ。実際はちょっと違う。あれは女神が勇者に剣を与えるように、世界にはその敵を殺す働きがある。アレはそういうのの使者で……誰かが世界を終わらせる魔法みたいなもんを使おうとした時にやってくるのさ。この口笛と共に、黒い姿で……糸で首をスパッだよ」
「ふうん……会った事があるんだ。よく殺されなかったねお前」
「まだその時じゃないんだってよ。ちなみにあたしはその世界を終わらせる魔法にたどり着く方法を知ってる。……だからさ。もし私がそれを使おうとか言う時が来たら、その時はあんたがやってくれ」
「……エルフは約束を忘れないよ」
「じゃあ安心だ。これは約束だ。頼むよ」
「うん、その時は容赦しないって約束する」
「そっか」
しんしんと、雪が降り積もる夜の話だった。
次の朝、勇者達は旅立っていく。アタシはそれをずっと見ていた。