『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」 作:照喜名 是空
なんか……公演の帰りに領主の屋敷の近くを通ったら襲われてる人が居た……
「あー、あれは明らかに暗殺者だねえ、どうしよっか」
「領主の屋敷だろう。助ければ恩が売れるかもしれない。何より……暗殺者とやらと戦ってみたい」
「またそれぇ? まあいいけど……」
「ほんじゃやろっか。おーいそこの兄ちゃん! 後ろ後ろ―!」
バルコニーに追い詰められた兄ちゃんが後ろを振り向く。
その瞬間にマハトが飛んで暗殺者との間に割って入り、アウラの人形が兄ちゃんの身柄を守る。
「そこのお前、人形の後ろに隠れていろ。おいそこの刺客。名を名乗れ。戦士ならば名乗りを上げろ。それとも、それすらできん後ろ暗い輩か?」
「……! なんだ貴様は!?」
「通りすがりだ。だが、名乗らないか。……しかし俺の魔法を使っても面白くない。構えろ」
「くそっ、邪魔をするな……!」
暗殺者と2,3回剣を合わせただけでマハトの黄金剣で普通にぶった切れたよ……
「無事か。ならいい。やはり、つまらん相手だった」
「待ってくれ! 君は何者だ!? いや、それよりも礼をさせてくれ。命を助けてもらって素知らぬ顔をしては領主の息子として申し訳が立たない!」
「大したことはしていない。だが……俺の仲間は別のようだな」
「マハト! せーっかく領主様の息子がもてなしてくれるってんだからタダ酒くらい飲もうよ-!」
「そうよ! それに芸人にとってコネはめちゃくちゃ大事なのよ!」
それに、親善大使としても仕事しなきゃだしね……ここで権力に関われるのはありがたいよ。
あんまりそういうのやりたくないけどさー。
「ああ、ぜひ夕食につきあってくれ。明日は妹の誕生日だ。そこに私が招いた芸人と言うことにしよう。ぜひ共に祝って欲しい」
「そういうことであれば」
いやー、領主のメシってすごい美味いんだね。酒が得に良い。アウラはタバコを山ほどお土産にもらった。
そんなことしてたら、泊って行けと言われたので素直に泊る。
バルコニーでタバコ吸ってたらなんか領主のおっさんに話しかけられた。
「君も、タバコかね? 良ければ私も構わないか」
「もちろん! 領主様の家なんだから好きにして下さいよー」
「娘が病弱でね。愛煙家は肩身が狭い。よければ君もどうだね。紙巻きだが」
「あざっす!」
アタシはいそいそとおっさんのタバコの火をつけて、アタシもタバコに火をつける。うめー!
「いやあ、良い葉っぱ使ってますね。美味いです」
「そうか。フォルトにもこの葉はないか」
いいカーブ球投げてくるじゃん……渋いオッサンだよほんと。
「いやあ、バレてました? あはは……」
「20人の大魔法使いの楽団だ。みんな薄々は解っているよ。君達が停戦を望んでいることも」
「ですよね-! いやマジに停戦したいんですよ。二方面作戦マジでキツくって……」
「君が良ければ敬語はいらん。ここにいるのは領主と国王だ。私の方が本来敬語をつかうべきだが、君はそういうのは嫌な質だろう」
スパーッとアタシは煙を吐き出して頭を掻いていつもの口調に戻る。
「……かなわないなあ。そーだよ、だってアンタの方が明らかに大人だもん」
「それは短命種の数少ない利点だな。早く大人の振りができる」
「違いないね。で、そっちのリクエストは?」
「せっかちだな。とはいえ、君たちは永遠の若者だ。急ぐのは若者の特権か……息子のことだ。あれも生き急いでいる」
オッサンは遠い目をして夜景を眺めた。親の目だった。
「あー、今日の件? なんか悪そうな奴らに狙われてたね」
「そうだ。アレは正義感が強くてな。君も少し歩いただけでわかっただろう。この街は腐りきっている。だが、それを急激に正そうとすればどうなるか。ああなるというわけだ。誰もが君のように強いわけではない。閻魔大王ヒロイイブキ陛下殿」
なんか大体のアタシのやらかしも動機含めて知られてそうだよ。このオッサン実は政治力高くない?
「やー、アタシだって喧嘩が強いわけじゃないよ? 運良くクソ強い相手を仲間にできただけで……」
「それでも、人にとっては十分な強さだ。それに、ただ腕っ節が強いだけが強さではないのは君自身が一番よくわかっているだろう」
読まれてるなあ……大人だよ、ほんと。
「ほんじゃ、アタシらはボディーガードでもすればいいのかな。マハト一人でおつりが来ない? 過剰戦力はアレだし……今日の話を広めてさ。マハトは一宿一飯の義理を返すために戦う戦士、アタシらはたまたま領主に取り入った調子の良い芸人ってことで」
「君もなかなかワルだな。絵図を書くのが美味い。吟遊詩人らしいよ」
「まあ、アタシの手口は『ジュクのジジイ』仕込みだしね」
オッサンがタバコを取り落とした。あちゃー……知ってたかー! 隣町だもんねえ!
「ジュクの『ジジイ』……まさか100年以上前のあの大抗争の中に君が?」
「あれ記録残ってたんだ……まあ残るよね。炎の魔法使いカサイ、戦士ジウ、盗賊ゾノシンの黒髪不良オッサン冒険者チーム『黒い三連星』にルーマニアの『双子』と『三つ子マイナス1』とあともういっぱい。あれはマジ地獄だったね」
アレマジで地獄だったわ。阿片おじさんと出会う前で頭魔族だったアタシでもドン引き案件だったもの。
領主のオッサンは痛ましそうな顔でぎゅっと拳を握り、タバコをまた吸った。
「……だが、結果として街は平和になった。そうだろう」
「そりゃあ頭やってたジジイが『自分が死んだあとも面白い事があったら嫌だろ。だから俺は自分が死ぬ前にオモチャは全部遊び倒してぶっ壊しとく。そして廃墟みたいに平和でつまらない街にしてやりてえんだ』とか言ってたからだね。アタシでも正直ドン引きだよ」
「……もう一度アレができるかね」
そんなつらそうな顔で言うなよ。やってやるよ。あんたもこの腐った街をなんとかしたいんだろ? なら、いいよ。
「やりたくないよー。でも悪党退治しろってんならまあいいよ。今なら死人出さずになんとかできる方法も思いつくからさ」
「なら決まりだ。これはあくまで息子を心配した親バカな領主が国外勢力と勝手にやったこと……そういうことにしてくれ。もちろん、君の望む停戦のために中央とのコネは作ってやるし、表向きの楽団としても十分な金を支払おう。どうだ?」
アタシはオッサンに握手の手を差しだした。
「交渉成立だね。もう知ってるだろうけどヒロイだよ。よろしくね」
「グリュックだ。よろしく」
交渉成立の握手をして、その晩は別れた。
まあそういうわけでアタシは次の日から仮面を被って「怪盗28面相」としてヴィラン活動という名目で悪徳貴族を次から次に襲った。
基本殺しはなしで、あるときは予告状出して全財産丸ごと盗んだり。いやー気がついたら家が引っ越し状態だった顔はメチャ笑ったね。
ある時は丸裸の上頭刈り上げてスキンヘッドにして衛兵の詰め所の前に縛っておいたり。
あるときは議会の時に敵対議員にだけ下剤をえげつない量盛ったり。アレはかわいそうだけど笑ったなあ……
まあそんなことしてたら「ヴァイゼのユカイ犯」としてなんか人間領全国指名手配になったり。
あの戦闘員怪人のオオサカ人と同じ称号ってなんか納得行かない……死人を出しまくるアイツよりマシじゃん!?
まあそれは最終的には人鬼間の停戦条約に伴ってなかったことになったけど。
時には領主の息子の護衛として戦うマハトと打ち合わせ通りにちょっとだけ戦ってガン逃げしたり。
まあ、アタシが悪さをすればマハトがやってきてボコボコにされる、という筋書きでなんとかした。
結果としてマハトの名声はめちゃくちゃすごいことになって早めに鬼族カミングアウトができたりね。
ちなみにアタシやアウラは交代制で夜は怪盗、昼は楽団やってた。
もちろんこの顛末も昼の楽団で面白おかしく脚色して悪徳貴族が義賊に財産をかっさらわれて、その怪盗も正義の味方である領主の息子と相棒マハトにこてんぱんにされる勧善懲悪物語として上映した。
まあみんな大笑いよ。後半はもうみんな薄々解ってる感じだった。というかそういう空気にアタシらとグリュックのオッサンがした。
怪盗「ヴァイゼのユカイ犯」に狙われるような貴族は悪徳貴族だ、みたいな。
まあ……最初は話に聞くゴッサムシティみたいな街は5年くらいでまともになったね。
ちなみにマハトはグリュック一家とめちゃめちゃ親しくなった。
初対面でこんなんだったもん。
「君は……アレか。常にヒリついた戦場を探し求める類いの戦士か」
「……よくお分りですね。ですが、穏やかな生活をしたいというのも本音です。参考までに、どうしてお気づきに?」
「そういう目をしている。その目は宮廷でも戦場でもよく見たよ」
「そうですか。ご子息の前では控えます」
「そう願うよ。君のような類いが戦いだけを求めたら早死にする。そうなれば息子は自らを責めるだろう」
「グリュック様は子を愛されてるのですね」
「……君もいつか子ができたとき、この感情を知れれば良いな」
「それは楽しみです」
馬が合っている……! あまりにも……!
まあ、あいつにもアタシら以外の友人ができてよかったよ。
息子さんの方ともよい相棒みたいだし、なんなら親戚の子らにも時々魔法を教えてた。
○
そんなこんなでヴァイゼに来てから6年くらいは信じられないほど穏やかな日々が続いた。
ソリテールについては、なんかだんだん愛の歌が増えてきたなーおっかしいなーと思ったらなんか例のイェニチェリ軍団の少年となんかたびたび公の場に出てくるようになった。
お前おねショタしたんか! それとも少年が角折り名人で解らされたのか……
なんか……ソリテールっていうか『福音のデュエラ』が懐妊したという話、そして出産から子育てまではもう目も当てられないほどのろけた歌を歌ってたねあいつ。
人間ってスゲーとアタシは改めて思った。ていうかどんな改造すれば人間が魔族を孕ませられるんだよ。何したんだよアイツ。どうかしてるよ。
それが終わったのも唐突だった。なんかアイツの息子の『ゾディアのゼクス』が新七崩賢に内定、天才児だ、とか言われ始めたあたりで一家まるごと暗殺された、とか報じられてた。
きっと南の勇者だと思う。
けど、アタシはふと思ったのだ。
息子にはおそらく脳改造はしてない。つまりゼクスは純粋な魔族の脳だ。
そして息子にとっては父親は人間の肉体を持っている魔族だ。
ならば……
おそらくは、ソリテールが目にしたのは父を殺す息子。そこに入ってくる南の勇者……
哀れだと思った。
けれど、人の悪意と魔族の殺戮本能を選んだアイツがまさにその悪意と本能によって滅ぶのはきっといつか起こりうる必然だったのではないか。
だって旦那と息子と三人で血の池風呂に入ってる写真とか出してたんだよアイツ。
戦場での悪逆非道も耳に入ってるしさ……人の事は言えないけどね……
ああ、悪党の最後ってこういうものかとアタシも覚悟して……
クヴァールさんからの手紙を畳みながら大きくため息をついた。
ろくでもないやつだったけど、こういう死に方されるとつれえわ……とても耐えられねえ。酒飲む。
魔王が勇者ヒンメルに討たれたというのもそれからすぐだった。
なんか、半年もすればヴァイゼに寄るらしい。凱旋パレードだ。
そっか……なら出迎えなきゃね。
ちなみにもうこの時点で鬼族国家フォルトと人類北側諸国は停戦合意してたし、アタシが実は閻魔大王だということも薄々バレてた。
その上、なんかマハトは町娘と良い感じになって社交パーティーで踊ってたりした。
そっから5年たったのか。勇者の出立から8年くらいかな。
いや待て、あいつ年頃の彼女5年待たせてんの!? そうだ、勇者とあの鈍感エルフがまだ結婚してないなら……
やるか……絶対に笑ってはいけない葬式ドッキリからの逆プロポーズ作戦。