『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」   作:照喜名 是空

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カス魔族による絶対に笑ってはいけない葬式:準備編

 

 勇者ヒンメルパーティーの凱旋から数日。ちょっと落ち着いたあたりでアタシは自宅にヒンメルたちを呼んだ。

 楽団のみんなもいつまでも宿暮らしってワケにもいかないし、ゼーリエから巻き上げた1千万でボロアパートをまるごと借りた。

 そこに「フォルト大使館」って手書きの看板かけただけ。

 アタシの部屋はこう……4m四方くらい、十畳っていうのかな。安っぽいカーペット、真ん中に正四角形のこたつ、タンス、ベッド。壁際には楽器がいくつか立てかけてある。

 うん、ねえさんの言ってたボロアパート感が出てる。

 部屋は倉庫や客間、リビングとかで他にもあるけど。

 流石に立場上少し広い部屋にしたけど…もうちょっと狭くてもいいかな…でもお客さん多いしな…

 

「やー、よく来たなあ! 歓迎パーティーでも言ったけどおつかれー。魔王()ったんだって? おめでとー」

 

 いや、4人入ってくると狭いわアタシん家。

 

「ははは……ありがとう。この数ヶ月ですこし言われ過ぎてしまったけどね」

「だが、いずれ慣れる。そうだろう」

「ええ、今のうちになれなければなりませんね。ところで、驚きましたよ。その、意外と質素な所に住まれているのですね」

「素直にボロいって言えば良いのに……」

「まあまあ」

「こんなくらいが丁度良いんだよー。ま、上がって上がって」

「お邪魔します」

 

 フリーレンが嫌そうに鼻をつまむ。あー、タバコと酒ね。窓開けよう。

 

「どうだった? 行ったでしょフォルト。アタシは写真とか又聞きでしか知らないんだけど、どんな感じ? 良い街になってた?」

 

 ヒンメルパーティーがなんとも言えない淀んだ顔をした。

 ハイターが真っ先に苦笑しながら言う。

 

「なんというか……誘惑があまりにも多い街でしたね」

「あ、じゃあ成功だ。娯楽がなくって殺しあいしか楽しみがねえような原始人共を過激な娯楽漬けにして殺しを忘れさせるための街だからねあれ」

「ハイターがストラングゼラというひどい安酒にハマった。あれは悪い酒だ」

 

 アイゼンが嫌そーな顔でハイターをじろっと見る。ハイターは照れた。

 

「鬼にはあんくらい手軽に酔っ払うやつじゃないとねー。悪い酒なのはそうだね」

「ヒンメルが『ご当地キーホルダー』とかいうやつで変な形の剣のおもちゃを買いまくったりね」

 

 フリーレンがヒンメルのほうを微笑して見る。

 あのキーホルダー、マハトが小遣い稼ぎで作ってるんだよね。

 『武器を作る魔法』で小さな剣のキーホルダー作ってそれを黄金化させて完成。

 めちゃくちゃ早くできるからね……

 マハトも剣のデザイン考えるのが趣味になったらしいしよかったよ。

 

「ついかっこよくて買ってしまうんだ……『ご当地ペナント』もあれはずるいよ。集めてしまう。そうだ、そういうのだとフリーレンが一時期ガチャにハマって大変な事になったり……」

「アレはシークレットの魔法書の輩出率が悪すぎるよ。何が当たるか気になって仕方ない。ヒロイ製菓って裏にかいてあってめちゃくちゃムカついたよ」

 

 フリーレンの鞄にガチャで発売した「勇者シリーズ」の勇者ヒンメルパーティーがフルコンプしてくっついてるんだけど。

 シークレットの南の勇者は当てられなかったんだね……

 

「それでも5%で調整してるんだけどなあ……」

「ミミックより当たるんですね、ガチャって……あれ、ミミックの方がマシだと思う日が来るとは……」

 

 そう、アタシは話に聞いてた『ゲーセン』や『パチスロ』そして『駄菓子屋』を再現したのだ。

 ピンボール、テーブルサッカー、エアホッケー、モグラ叩き、パンチングマシーンとその要領で作った『魔力測定ゲーム』とか。

 メダルゲーはだいたい作ったしね……いやだって疑似脳が再現できるんだからそれよりもっと構造が単純なマシンは余裕なんだよね。

 まあ、本当にえげつない中毒性のある娯楽やギャンブルはフォルト国内だけで外には出してない。

 ヴァイゼでさえ『新幹線ゲーム』やらピンボール、テーブルサッカーにガチャガチャ、トレカの遊び場くらいなんだよ。

 まあパチンコ台も少しだけあるけど。

 そこにちょっとした銅貨一つで買える小さなお菓子やら子供だましのオモチャを売る店をつけてさ。

 

 まあその……メチャクチャ儲かったね……

 マネーロンダリングしてグリュックのおっさんに政治献金したりさ……

 アタシは片手間に試作品作って仕組みを説明してあとはグリュックのオッサンのなじみの商人に投げといただけなんだけど。

 ちなみにアウラはパチンコにドハマリして毎日なんか景品持って帰ってきてる……

 なんかアウラに似合いすぎるんだよねそういう方向のダメさ。

 

「あー、まあいいや。再会を祝して乾杯だねー。ちゃんとまともな酒も用意してあるよ」

「そいつはありがたい」

 

 アイゼンがほっとした様子でため息をついた。

 いやー若干申し訳ない。フォルトの娯楽にそこまでどっぷりになるとは思ってなかったんだ。

 アタシは戸棚からまともなウイスキーを出して水割りで全員に配る。

 

「かんぱいーい!」

「ああ、乾杯」

「でさあ! がんばったヒンメルに今日はスペシャルゲストが来てるんだ」

「えっ? 誰かな。孤児院の人かい?」

「あー、それはねえ。まずこの2枚の写真見て」

 

 アタシが出したのは営業で立ち寄ったアルト森林の小さな村で見つけた『忘れられた英雄の像』だ。

 

「ずいぶん古い時代の勇者と相棒の僧侶の像らしくてさ。ほんでこっち見てよ。勇者像の差してる剣ねこれ」

「ヒンメルの剣と同じだ。それに、この勇者像エルフだよね」

「かつての勇者も、我々と同じような事をしてたんですねえ」

「まさか……? 本当にこの人は今でも生きているのかい?」

「はい、そういうわけでご本人とうじょーう。おーいクラフトさーん! ヒンメル来たよ! 出てきていいよー!」

「ああ」

 

 ドアを開けて入って来たのは紛れもなく最初の勇者クラフトご本人だった。

 わざわざこの日のために当時の衣装をアタシが金出して再現してもらったんだよ?! 

 ヒンメルはふるふる震えて目を輝かせていた。ヒーローを見る子供の目だ。

 

「あ、あなたが……? し、信じられない……本物の勇者だ……! 本物の勇者だぁ!」

 

 クラフトは労るような微笑みでヒンメルの手を両手で取って握手した。

 

「確かに俺はそう言われたこともあった。だが、今の時代の本物の勇者は君だ。ヒンメル」

「……あ、ありがとうございます。なんて言えば良いのかわからない……!」

 

 ヒンメルは涙ぐんでいる。そんなに喜んでくれてうれしいよ。

 

「……本当にあの剣のレプリカを使ってくれてたんだな」

 

 アタシはこの時に備えてあえてレプリカの勇者の剣を持ってきてくれるように連絡してた。

 約束通り剣もってきてくれてよかったよ。

 

「あ、あの! これは、確かに偽物だけど……ええと」

「君は成すべき事をなした。今の時代にくすぶっていた俺ではなくな。ならばその剣こそが本物だ。そうだろう?」

「旅してきてよかったぁ……!」

「よかったね、ヒンメル」

 

 泣き崩れるヒンメルの頭をフリーレンがぐりぐり撫でる。

 そうしてしばらくヒンメルが落ち着くのを待ってから話すことにした。

 

「だから言ったじゃないすかクラフトさん。あなたの伝説は薄れてしまってても消えたわけじゃないって。その勇気を受け継いでくれるヤツがいたよって」

「……そうだな。全てが忘れられたわけじゃなかった、か……」

 

 クラフトさんがどこかほっとしたような顔でじっと首にかけた女神教のシンボルを触る。

 ちなみにクラフトさんとアタシの出会いは営業でいつものエルフの真似してたらマジな顔でこう言われた。

 

『そういうのはあまりよくない。俺は怒っていないが、異なる文化を真似するときは敬意を払うべきだ』

 

 って。粛々と苦言を呈されてアタシは申し訳ない気持ちになったね……

 クラフトさんみたいなまともな大人に真顔で怒ることなく叱られたらまあこれがキツいんだわ。

 やっぱ態度に出てるんだろうね。『エルフってこんな感じなんでしょ? よく知らないけど』ってエルフを舐め腐った感じが……

 

 ◎

 

 まあそういうわけで、クラフトの冒険譚にヒンメルが目を輝かせたり、逆にヒンメルの冒険をクラフトさんが笑顔で聞いてたりした。

 まあもうそれで遅くなったのでその日は帰ろうって話になったんだけど、一応要件も話しておくことにした。

 

「でさあ、このメンバー一応冒険者でもあるわけじゃん? そういうわけで勇者ヒンメルのパーティーと武道僧クラフトに冒険者として手助けを依頼したいんだよね」

「それはこのメンバーでなければできんことなのか」

 

 アイゼンが静かに言った。悪いけど今回戦いはないんだごめんね。

 

「万一を考えたら必要だね。依頼内容はさあ、マハトいるよね。あいつつきあって5年の彼女がいるけど進展ないんだよ。だから彼女が死にましたーって嘘ついてどれだけ彼女が大切だったか失って初めて理解させて、マハトが泣いたあたりでネタばらししてそのまま結婚式に持ち込む。どうよ」

「正気ですか……?」

 

 ハイターがドン引きした顔でそう言った。

 あたぼうよ、いつでも酔っ払ってるぜ。

 

 ○

 

 この考え得る限り最強のメンバーにどっきり企画を持ち込んだのは万一マハトがヤケクソになって暴れ出したときの鎮圧要員でもある。

 最悪けが人出てもハイターに治して貰えば良いし。

 あとフリーレンの細々した魔法が小道具揃えるのに便利なんだわ。

 

「あと、この企画は『絶対に笑ってはいけない葬式』ってやつでさ。仕掛け人が笑ったらイカツイ人にケツをしばいてもらうルールなんだ」

「なんで!?」

「その方が笑えるだろ。そう言うルールの冗談というか企画があるんだよ」

「まさか、クラフトさんを呼んだのは……?」

 

 ぎぎぎぎ、とヒンメルがアタシの方を見る。

 

「うん、ケツしばく要員」

「お前なんて人になんてことやらせとんじゃあ-!」

「ヒンメル、落ち着いて! 気持ちは解りますが落ち着いて下さい!」

 

 アタシにマジ殴りしそうになってるヒンメルのマントをハイターが抑える。

 

「俺はかまわない。うまくいけば幸せな結婚をする人ができるのだろう。ならば協力するさ。今の俺は武道僧だからな。それに、ヒロイのお目付役ができるのは今は俺くらいだろう」

「く、クラフトさんがそう言うなら……それで、計画はどのくらいできてるんだ?」

「はいこれ台本。自分の名前が乗ってるヤツ以外は読んじゃダメだからね。リアリティを出すためにあえて知らせてない情報もあるから。ちなみにハイターとクラフトさんは全部の情報が載ってるよ」

 

 全員がそれぞれの名前の載った30ページほどの台本を読み込む。

 

「お前これ酔っ払って書いたんじゃないよね」

「アタシはいつも酔ってるけど比較的シラフの時に書いたよ」

「それは絶対に酔ってるよかなり。私は小道具担当か……でも、これフォルトにいるグラオザーム連れてくればよくないかな」

 

 なんかグラオザーム、クヴァールさんの下で働いてるんだね今。

 他にはクヴァールさんと同格でリヴァーレさんもいるし。

 なんかアタシの曲の明日なんてないような刹那主義が気に入ったんだって。

 もちろんめちゃくちゃ感謝状とお土産は欠かしていない。

 グラオザームも幻術系だけあって配下はそういう隠密系が多いしさ……ファンの鑑一人にやってもらってた密使チームに応援で入れてるんだよね。

 瞬影のツォルトくんだっけ。めちゃ便利な魔法もってるよね。瞬間移動だもの。本人も図太い良い性格してるしさ……

 

「アイツが居た時点で幻術を疑われるだろ。それにこういうのはみんなでやるから尊いんだよ。絆が深まるんだ」

「そういうものかな……」

 

 台本を読んだハイターはうなずいて、明るく言った。

 

「いえ、やりましょう。幸せな結婚がこれで成立するなら」

「……そうだな、俺もこの方が良いと思う」

 

 フリーレンが少し考え、うなずいた。

 

「ハイターがそう言うなら。ヒンメルは?」

「もちろんやるさ。困ってる人がいるならば助けたい。それで、報酬は?」

「路銀として金貨10枚。それから『0時まで服をドレスに変える魔法(サンドリヨンフィート)』の魔導書。どーかな。どうせこの魔法小道具で使うし前払いでいいよー」

「決まりだ。やろう」

 

 そういうこととなった。

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