『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」   作:照喜名 是空

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カス魔族が魔族領指名手配になったワケ

 そういえばなんでアウラと会うことになったんだっけ。

 ああそうそう。ちょっと河岸を変えて魔族領に行ったからだった。

 

「止まれ。お前は魔族か?」

「そうだよー。がんばってる兵隊さんにー、いいもん持ってきた!」

 

 魔族領に来るまで何度か魔族と出会ってやっぱり確信した。

 魔族は魔力が自分より大きいやつに出会うと屈服する! 

 だから、アタシは「毎日飲むとちょっとづつ魔力が増える薬」を作った。

 原理は難しくない。周囲の魔力を使って薬を作る。それを飲む。

 これでシンプルに魔力が増える。

 そこに一工夫入れて「魔力の最大容量を増やす薬」を含有している。

 これを酒やつまみに入れておく! 何もしなくても魔力がバカ上がりするってわけ。

 

「……なるほど、大魔族の方のようですね。それは?」

「んー……なんて説明したらいいかなあ……そうだそうだ。「魔族でも美味しく酔える酒」! 酒はいいよー。百薬の長だよー」

 

 これは「魔族の脳の枷を不可逆に壊す薬」のほうじゃない。それはまだ早い。

 アタシが最初の方に作った「魔族でも酔える薬」を入れた酒だ。それでも効果は十分だろう。

 

「兵士が酔っては戦力が落ちるかと」

「うるへえ! 大魔族のアタシの酒が飲めねえっていうのか! 飲め! ほら飲め!」

「……わかりました」

 

 アタシは「オ二コロ」の瓶を見張りの兵士に押しつけた。

 

「ガッといけガッと! 瓶ごといけ!」

「うっ……! げほっ! げほっ……こ、これは……これが、酔うという感覚ですか?」

「そーだ楽しいだろう! おらお前も! お前も飲め! 宴だ! 食堂に案内しろー。大魔族だぞー! えらいぞー!」

 

 それからアタシは食堂にいる奴らを全員呑ませてへべれけにしてベースを使って弾きまくった。

 

「あっははは! なるほど! これが酒! なるほど!」

「うおええ……もっと酒をくださいイブキ様……」

「この音楽……人間のそれとは何か違う? 体が、動くような……」

 

 みんな良い感じにできあがっていた。

 

「みんなー! ノッてるかー! イエーって言え! 人間はこういうときイエーって叫ぶんだ! おらやってみろ!」

「イエー!」

「いいねいいねー。ほんじゃあアタシがつまみを作ってやるから食え! 肉の丸焼きだぞー!」

 

 食料庫からありったけ肉を盛ってこさせてそこに「振りかけた肉が何でも魔族の嗅覚と味覚の処理限界を超えて美味しく感じる粉薬」をかけまくる。

 

「焼けー! 良い感じに焼けー!」

「あっははは! はーい焼きまーす!」

「もーえろーよもえーろー」

 

 いやヤバいくらい良い匂いだわ。これでもあの夜、霧の出た夜に会った美食カスの作った料理には及ばないもんなー。

 なんだっけ。モルツォ……モル……モルツグラタン? なんか変な名前の飯屋のシェフで明らかに魔族でも魔獣でもない変な種族だったなあ。

 なんでそのへんの食材からあんな気が飛ぶほどうまいもんができるんだよ!? 

 アタシもこの薬で再現したけど「ウチのレストランより2つ3つ下の料理屋でならこういうのをたまに見る」とか言ってた! 

 ちなみにあいつが常備してた「最高級の調味料」を一舐めしたらアタシは美味さのあまり気絶してもうそいつはいなかった。

 霧も晴れていた。

 

「イ、イブキ様。食べてもいいですか?」

「なにこれ……こんな良い匂い、嗅いだことがない」

「いいぞー! 良い感じに焼けたしな! ほら食え食えー! アタシから食っちまうぞ! うめー!!」

「うっ、美味い……これは美味しいですね……美味しすぎる……おいしさを快感と誤認してしまうほどに」

「これを食べたら人肉が残飯に思えてきました……美味しすぎる……涙がとまらない……! 涙……?」

 

 みんな手に適当な刃物を持って積み上げた何やらよくわからない肉を焼いたやつを削いで食う。

 たぶん人肉と牛肉と豚肉の混ぜ物だったと思う。

 

「呑め呑めー! 歌え歌えー! 宴だー! イブキ様最高と言え! 最高だろー?」

「最高です!」

「ハッピーかー?」

「とてもハッピー? です!」

 

 そういう乱痴気騒ぎを三日三晩繰り広げて食糧が足りなくなったので酔っ払い共を引き連れて他の魔族の基地を襲う。

 生き残りには呑まして食わしてキメさせて群れに加えてさらに進軍する。

 でもこういうのすぐにヤバいことになるのは私は経験則でわかっているのでさっさと全員に「不可逆に脳の枷を壊す薬」を呑ませた後「魔族でも酔える酒を造る魔法」を教えて解散させた。っていうかだいたいのやつが習得した後でとんずらした。

 

 でも面白いから何個か基地を襲っては呑ませまくった。

 そしたらなんか七崩賢のアウラが来た。

 

「あなた、やりすぎじゃない。魔王軍の規律がもうめちゃくちゃになってるんだけど」

「いーじゃんいーじゃん! どうせ魔族に未来も何もあったもんじゃねえんだよー! こんなクソみたいな世界に生まれてきた時点で誰も救いなんてないもん!」

「話にならないわね……とはいえ、あなたの方が魔力が大きいから天秤は使えないし。ねえあなた。あなた「魔力を増やす薬」が作れるんでしょう? 私にその薬を渡しなさい。そうすれば今なら人間領に追放で許してあげてもいいわ」

「それウソじゃん! 絶対その後ろにいる首なし共が襲ってくるやつじゃん!」

「ウソと取るかはあなた次第ね。渡さなければ本当に襲わせるわよ」

「しゃあねえなー、はいこれ「魔力を増やす薬」。酒で呑むと効果が増えるよ」

 

 もうこの時点で駆け引きと戦いは始まっていた。

 私は「無味無臭で魔族をキメキメにする薬」の蓋を開いていた。

 魔法として発動しなかったのは魔法を発動すればバレるから。

 風は私の方が風上。運が良い。

 

「ほんとうかしら……まあいいわ。一粒呑めば良いの?」

「そう、毎日一粒」

「へー……投げて渡しなさい」

「はいはい」

 

 そう言うとアウラは慎重に一粒飲んだ。わざわざ持ってきた水筒で。

 

「あんだお前! 水で飲むのか! アタシの酒が飲めねえってのか!? あ゛ー?」

「その手口で兵士がめちゃくちゃになったじゃない。でもやっぱりあなた有用ねえ……」

 

 もうこの時点でアウラの眼は据わっていた。薬が効いてきたらしい。

 

「一粒飲めばちょっと増えるならこの瓶まるごとなら今のあなたにも魔力量で勝てるじゃない!?」

「やめときなよー」

「もう遅いわ! これであなたは私のものよ! あっはははは……」

 

 アウラはざらっと一瓶飲んでしまった。毎日ちょっとづつ飲むべきものをだ。

 

「うおええ……なんでぇ……」

「あひゃひゃひゃ! 当たり前じゃんーそれは毎日ちょっとづつ飲むものって言ったじゃん。全部飲んだら身体がついてく許容量を超えちゃうんだよーバカでー! あははは!」

 

 まあアタシがそうなるように判断力を薬で落してたんだけど。

 いやあ風向きが良い感じで助かった。これは女神が微笑んでるね! きっとそう! 

 死ねよクソ女神がよ……世界を、あたしらをこんなんに作りやがって殺すぞ。

 

「まあまあ、それは酒を飲むと良い感じに中和されるからさ。飲もうよ? ね?」

「きっとウソじゃない……」

 

 アウラは「まだ本格的に財布を探してないけど見つからないじゃない」という顔で後ずさった。

 私は近づいて「普通に呼吸による吸引で魔族を良い感じにべろべろめろめろにする薬」を空にぶちまけた。

 

「なによこれ……立ち上がれないじゃない……500年生きた大魔族の私が……?」

「お前面白いなー。魔族のくせにわりと感情あるよねお前。お前ならきっと私を継いでくれるよ。な? だから呑もう?」

「や、やめなさいよ……私は大魔族で、七崩賢で……とにかく私に近づくなァー!」

「よく見たらお前『ねえさん』にちょっと似てるね。じゃあそういうわけで口移しで呑ませてやるからなー抵抗は無意味だ」

 

「オ二コロ」に各種ヤバい薬を混ぜ込んだ「魔族殺し:八分殺し版」を口に含んで抱きついて呑ませる。

 

「アタシの『全部』をおしえてやるからなー。覚悟しろよ」

「ひゃ、ひゃめるしゃない……わたしにそういうしゅみはないひゃない……」

「まあ気楽にヤりなよ。愛いよ、愛いよぉ。お前のためなら全部用立ててやるからなー」

 

 そういうわけで『全部』やった。

 途中から「うん」「そうね」「はい……」くらいしかアウラの受け答えがなくなったけど。

 ピロートークでアタシの過去も話したっけ。

 首無し騎士たちに囲まれて全部やるのはちょっと興奮した。

 

 ★

 

 そうして、とりあえず腰砕けになったアウラを背負って移動。

 逃げ隠れた人間領に近い森の中でアタシはアウラにカスの流儀を教えた。

 その結果……

 

「お姉様、ヤニが切れたじゃない……」

「あー? 自分で作れよー。全部教えたじゃん」

「チッ、ムカつくけどお姉様が作った方が美味しいじゃない」

「しゃあないなー。はいタバコ」

「火つけて」

「はいはい」

 

 アウラは白いゆったりしたワンピースに花冠姿だ。

 カス共の言ってたヒッピースタイルを教えたら気にいったらしい。

『葉っぱを吸うときのチルな気分に合うじゃない』とか言ってた。

 

「スパー……起き抜けのヤニがうまいじゃない」

 

 三ヶ月かけて『全て』を教えたらアウラはヤニカスになっていた。

 

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