『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」   作:照喜名 是空

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箸休め回を挟んで、次回はいよいよ本編最終回です。
なお、間にいくらでもエピソードを挟めるように書いているので、機会があればおまけを書くかもしれません。


カス魔族はロリババアと対バンする

 

 まあ、そういうことで解散ラストライブを行うことになった。

 全行程5年くらいのロングツアーだ。なんせ大陸の半分を寄り道しながら横断するからね。

 準備期間とアタシのサボりで3年くらい準備に費やしたけど。

 ツアーが終われば2年以内に墓場行きかあ……

 まあ、世話になったヴァイゼの街や、今後の鬼族と人類のためにいろいろ置き土産した。

 ヴァイゼに残るマハトや中央諸国の王都に帰るフリーレン達のためにもね。

 とりあえずヒンメルには『エルフをわからせる薬』を送っておいた。バチクソ強力な排卵誘発剤と媚薬だね。

 マハトの子作り計画はすげえ大変だったけどまあ……なんとか、なんとかなった。

 ソリテールにできたのだ。アタシにもできる。もうすごい大変だったけど。

 そのうち子供できるんじゃないかな。できるといいね。

 

 そんなわけでぼちぼちヴァイゼを出て大きめの街を巡ることになる。

 問題はこの辺で一番大きな街って魔法都市オイサーストなんだよねえ……ゼーリエいんだよ……

 と思ったらゼーリエの方から招待状が来た。

 

『貴様らが歴史を巻きで進めてくれたおかげでこちらも予定を繰り上げて魔法協会を作る事になった。

 アレだ、弟子をたくさんとって学校の真似事でもしようかというわけだ。

 その開校式の余興で呼んでやる。また勝負をしようじゃないか。なあ。今度は貴様の土俵でやってやる。対バンというやつだ。

 本気のエルフの音楽という物をわからせてやろう。まさか逃げんよなあ? ああ、魔法協会は新しくできる組織だ。当然まだ貴様らは出禁ではない。

 ちょっとくらいのお小遣いの用意もある。来い』

 

 だってさ。手紙でも威圧感とツンデレ感ありやがんの。

 アウラは怯えていたが、まあ行くだけ行ってみることにした。

 

「よっす、おひさー。ゼーリエさん元気-?」

「待ちかねたぞヒロイ。といっても数年ぶりか。私にとってはつい先日といった所だな」

「そだねー」

 

 ゼーリエのやつたまにヴァイゼにマージャン打ちに来るんだよね……もちろん普通のヤツだけど。

 収支はとんとんかな。大勝ちと大負けで。

 ゼーリエの待っていたのはなんか……魔法学校的な所の講堂っていうかこういうときのためのステージらしい。

 最前列でバシッと黒コート着てゼーリエを見て座ってるのがゼーリエの弟子共。

 後ろの方で立ってて民度が悪い格好なのがアタシのファンだね。

 

 ちなみに、アタシは鬼らしい格好と言うことで浴衣や晴れ着的なやつをコートとして羽織るのを流行らせたりした。

 新しい民族として民族衣装は必要だし、一目でわかる魔族と違いますよっていうメッセージが必要だからだ。

 まあアタシも『ペラペラな布で派手な色使いのお祭りに着てくバスローブ的な形のやつ』『花や魚や動物の柄が入っている』くらいしか知らないんだけど。

 たぶんこれもねえさんやその同郷の人が見たら笑うヤツなんだろうね。

 

 実際にできたのは極彩色のゆったりしたコートみたいなやつだし。寒いからね大陸北半分。

 まあ、色彩豊かなのはアタシららしくていいじゃないか。

 

 でもアタシのファンを見るに今のフォルトって国民全員が入れ墨入ってて派手な羽織はおってるんだよね。見た目がもう極道かお水の人たちなんだ。

 まあ……鬼だし、そういう感じでいいか……

 

「さてと、おしゃべりもほどほどにせんと観客が飽きる。先行は私だったな。聴け、これがエルフの本気の音楽だ」

 

 ゼーリエが片手を振ると、鹿の角みたいなトゲトゲした形の白いハープが現われた。

 かなりデカい。その上、糸が張っていない。

 アウラは怪訝な顔をしたが、アタシはどこかで見覚えがあった。

 ゼーリエがさらにちょいと手を動かすとハープに横に緑の魔力糸が張られた。

 あ、あれレーザーハープだわ。

 

「ヒロイ、お前も王になるそうだな。ならば覚えておけ馬の骨共が。これが私の『王国(kingdom)』だ―『天上の音楽を奏でる魔法(クンストエライヒトゥン)』」

 

 天上というか、あの世でなってるような音楽だと思う。

 余りの壮大さに宇宙が見える。

 その壮大さに自分はギターで山を動かそうというくらい無茶な相手だとわからされてしまう。

 

 プリン博士のラボで見た写真でしか知らないキンキラの大仏が見える。

 そこはきっと南の国だ。美しい熱帯の花と微笑む女よりも女らしい美少年たち。

 ああ、これがタイランドってところかあ……

 

 こんなにも壮大で、神秘的で、宇宙のように大きいのにあまりにも優しい声だ。

 これが、母の愛……? いやこれおばあちゃんが孫を膝枕するやつだ。

 アタシは釈迦の手のひらの上というものを初めて体験した……

 

「私がなぜ貴様らの生存を許すかわかっただろう。そして私が貴様らクソガキを叱ってやろう。光栄に思え『王道楽土』とはこういったものだ」

 

 次の曲だ。あるいは次の楽章か。

 序盤はさっきより大人しいが、サビに入る所がすさまじかった。

 

「さあ、さあ、見よショーを。ショウを……ぉおおおおおお!!」

 

 ゼーリエが叫んだ。シャウト、なのだろうか……? あまりにも美しく激しいシャウトだ。

 それは火山の噴火の如き怒り。けれど、一つも悪意がない。

 これはあれだ。いたずらをして取り替えしのつかない事をした子供を母親が泣きながら叩くやつだ。

 いや、これやっぱおばあちゃんだわ。

 なぜお前はこんなことをするのだ―と深い悲しみから出てくる怒りだ。

 ゼーリエの小さな姿の後ろに涙を流して怒れる巨大な戦女神(カーリー)が見えた気がした。

 これは、ああそうか……叱られたのだ。

 

 烈火のような怒りはその一瞬で息をひそめ。あとは深いマグマのような悲しみが歌われる。

 

 楽団は全員腰砕け。

 アウラに至っては泣いてた。

 

「ごめんなさい……ごめんなさいいいおばあちゃんん……!」

 

 バブみにやられてしまったのだ。魔法協会の魔法使いも全員涙ぐんでる。

 

「どうだ。格の違いというものがわかっただろう」

「ああ、よくわかったよ……あんたの勝ちだ。でも、アタシもこのまま一曲も弾かずに帰るのはあまりにも恥知らずだ。だから、これはアンタへの返礼だ」

「ほう、恥の上塗りにならねばよいな」

「まあ聞いてくれ……」

 

 アタシはずっと考えていた。ロックでこれに立ち向かってもそれこそ蟷螂の斧だ。

 山やクジラに刃物を振り回すようなものだ。

 だから、これは立ち向かわず受け流す、いや、包み込む! 

 つまり―テクノに対抗できるのは歌謡曲だ! 

 アンタの力を貸してくれ! 誰よりも人間らしかった古い時代の歌の女王、その老境の力を―! 

 

「ほう……」

 

 そう、それは激動の時代を生きた老女の歌。

 

 嵐のような時代を振り返り、それはわずかばかり運が悪かっただけ。

 人の哀しさ、憂い、弱さ、それらを振り返ってなお、それでもそれは愛おしいものだった。

 かわいいものじゃないですか。

 温かい過去は優しく微笑むし、未来だってちゃんと待っているんです。

 人生って奇妙なものです。愛おしいじゃないですか。

 

 それはどこまでも等身大の人の業の歌。

 決して楽ではない道を『歩き終えた』老女が過去を振り返った歌。

 恨んだこともあったし、過酷さを否定はしないけども。

 それでも今思い返せばすべて優しい思い出になったのだと。

 

 穏やかに人生を肯定する。アタシらしくもない。

 ババアの曲だろこれ。

 でも、なぜかすとんと腑に落ちてしまったんだ。

 これでいいんだと。

 

「どうよ。アタシだって捨てたモノじゃないだろ」

「ああ、よ────やく落ち着くことを覚えたかヒロイ。それを忘れるな。それでいいんだ、受け入れろ。それはそういうものなんだ。エルフの気持ちが少しはわかったか」

 

 そういうとゼーリエは近づいてアタシの頭を穏やかな顔で少しだけ撫でた。

 温かかった。

 

「あー……一本取られたね。受け入れろ、かあ……うん、考えとくよ」

 

 ともあれ、ツアーの最初の対バンは黒星か……引き分けというには分が悪いよね。

 まあ盛り上がったかし良いモン聞けたからよかったかも。

 ちなみに、アタシらはこの後魔王軍の残党や十歌仙の残党とも対バンやガチバトルをするが、唯一の黒星がこれだった。

 

 なんなんだよあのムチムチチビロリババアは! アタシも同じような体形だけど! 

 

 なお、お小遣いと出演料である『空気を自在に震動させる魔法』はちゃんともらった。

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