『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」   作:照喜名 是空

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ありがとうございます!


ラストライブ

 

 魔王討伐から7年ごろには、アタシらがラストライブをしてる最中にとうとう主な魔王軍の残党は制圧されて、魔王城もフォルトのものになった。

 なんかアタシが凱旋するってんでメチャクチャ士気があがったんだってさ。コワ~。

 名前も魔王城から魔城ガッデムに改名されたそうで、アタシはゲラゲラ笑った。

 まあその分ツアーが1年くらい延びたんだけど。

 

 凱旋解散ツアーはくだらないけど……まあ、楽しい旅だった。

 色んな事があった。良いことも悪いことも、不思議な事も。

 まあ、今となっては良い思い出だ。

 

 クヴァールさんとも実際には初対面であったけど、やっぱりすごくいい人だったよ……

 孫みたいにめちゃくちゃ可愛がられたし。

 半年くらい滞在したかな。聖都ジュクは。

 すげえ面白い街だったよ。鬼族独自の娯楽がいっぱいあったし。

 

 いや自分でつくっといて何だけど楽しすぎる街だわ。

 ストリートファイトが推奨されてる時点でもうおかしな街だってわかるよね?

 まあ殺戮本能のガス抜きのための街だからね多少はね。

 ちなみに創作物や音楽、風俗と言った快楽目的のものはもうおかしなレベルだったね……

 アキバ魔法街とかフリーレンを連れて行っちゃダメなヤツだったし。

 魔力浴温泉とか、ディスコとか。

 

 ごますりカフェとかかなり笑えた。

 ほらアタシら元々人間を油断させて取り入って欺く生き物じゃん。

 だから油断させるための行為が楽しいわけよ。

 じゃあそれを平和的にやるとしたら?そう接待です。

 アタシらは接待を受けるほうじゃなくってする方が楽しいのだ。

 

 こう……店に入ったらクヴァールさんやリヴァーレさん、ゼーリエみたいな威厳のあるキャストが居てさ。

『さあ、持て成すが良い』ってドンと構えてくれるわけよ。

 ほんで客がめちゃくちゃ媚を売ってごますりする。

 するとキャストが『ほう、なかなか良い趣向だ。気に入ったぞお主の名は?』とか応じてくれるのよ。

 人間からすれば変だろうけど、これメチャクチャ気持ちいいんだよね……

 身を持ち崩すヤツが一杯出てるので、課金額に天井をつける法律つくっといた。

 

 なんかサキュバスみたいな進化したやつもいたしね。

 中央諸国の真人間を連れてきたら3日でダメになるわこれ。

 

 だけどやっぱり気づいたのはフォルトの音楽レベルメチャクチャ高くなってる……

 アタシでは思いつかなかったような斬新で良い音楽で溢れていたし、街は賑やかでどこも面白かった。

 まあ、そんな日々も今日で終わりだ。

 大陸北端エンデ。今は魔城ガッデムとなった場所でツアーの最終日を行う。

 

 これが終われば楽団は解散だ。アタシは責任をとって閻魔大王就任となる。

 お見合いも控えてるしさあ。

 いやだなあ~! でもまあ、やらかしたことには責任を取らなきゃだし。

 

 前座の子の演奏が終わる。

 うん、やっぱ20年くらい文化が進んでるわ。アタシの音楽はもうちょっと古い。

 実際観客の客層もすごく若い子は少ないし。

 昔のジュクでの伝説のライブでの顔ぶれが多いし、全体的にそのくらいの年齢層だ。

 アタシの音楽もとうとう懐メロかぁ……引退には丁度良かったのかも。

 

「やーみんなー。帰ってきたぞフォルト―!! お待たせ-!」

 

 ワアアア、と歓声が響く。それが収まるのを待ってからアタシはMCを開始した。

 

「いやあ……いきなりキツいこと言うけど、アタシが最初に今のフォルトだった場所に来たとき、なんだここつまんねえ殺伐とした街だなって思ったよ。

 でも……ここに来るまでのツアーで解った。お前ら、アタシの言ったとおり色んな光が溢れる輝くようなおもしれー街にしてくれたんだな。

 よく頑張ったよ。ありがとう。本当にうれしい。

 お前らはもう大丈夫だ! 私が消えたとしても、歌は響き続ける! アビダルマは今日で解散だけど……伝説のラストライブにしような!」

 

 割れんばかりの歓声に、最前列に居たエルフが耳を塞いだ。

 あー、フリーレンか。横には……勇者ヒンメルと子供か? あんたら子供できたの? すごくない? 

 

「じゃあ一曲目! これがアタシの道の始まりだ! 『黄金体験』!」

 

 最初にあの奇跡のライブの曲を演奏する。

 うん、盛り上がってるけどあの時ほどじゃない。まあそりゃあ初見とヘビロテ曲じゃあこんなもんかもだけど。

 

「これがアタシの足跡だ! 『組曲:ロックパレード』!」

 

 ヤバ女との協奏曲からレスバ曲の中でえりすぐりのを。

 うん、盛り上がってる盛り上がってる。

 けど……いつものって感じだ。

 

「こないだアタシは自分の罪を数えてみた…公式記録だけで366件、満額で食らったら懲役280年だってさ!アタシの年と同じじゃん!個人的なやらかしふくめるともうねえ!」

 

どっと笑いが起こる。これもいつものだ。

 

「だからさ、これも償いだと思って300年は閻魔やるよ。アタシは自分の罪を数えた。さあ、お前の罪を数えろ。アタシが赦してやる!」

 

アタシは観客を指さした手をくるっと返す。

 

「さーこれで最後だ!『世に完璧な者はあらじ』アタシはもう、大丈夫だから!」

 

 プログラムは順調に進行して最後の曲までやりきった。

 アウラとリーニエが息を弾ませながら笑う。やりきったな。アタシ達。

 

「アンコール! アンコール!」

 

 その時、アタシの頭にちょっとした思いつきが芽生えてしまった。

 今この瞬間に死んだらすごいロックじゃない? と

 でも今死ぬのはさすがに無責任だしなあ……

 あー、じゃあもうこの際ゆだねよう。史上最も魔族を殺した魔法使いに。

 フリーレン、アタシはちゃんと人間やれてるか?世界の敵じゃないか?

 あんたが決めてくれ。アタシは生きてていいのかを。

 

「あー……それじゃあ、最後はソロでな。笑って聞いてくれ。そんでもって、ちゃんと家に帰って今日のことを語り継いでくれよ」

 

 アタシは宙にゆっくりと舞い上がって指揮者のように大きく両手をあげる。

『空気を振動させる魔法』で今のアタシなら大迫力のオーケストラが一人でできる。

 

「『ニュルンベルクのマイスタージンガー』さあ、喝采してくれ。ショーは終わりだ」

 

 それは威風堂々で絢爛豪華な終わりを迎えるにふさわしい曲。ただただど派手で賑やかなおめでたい場面の曲にも聞こえるだろう。

 さあ、やってくれよフリーレン。あんたが判断してくれ。アタシを止められるのは今この場しかねえぞ。

 

(に・げ・る・な)

 

 ヒンメルはフリーレンをチラ見して、フリーレンも微笑んでうなずき、そしてアタシに向けて指さして首を振った。

 唇を読んだら逃げるなって……あー……そうかい。そっかあ……死ねないか。

 じゃあがんばろうかな。

 

 曲が終わり、アタシは舞台の上に立つ。

 大歓声と共に、最前列のファンが乗り込んでくる。なんだ。ファンの鑑か。

 アタシは抱きとめてやろうと腕を広げるが……

 

「ヒロイさん! そいつは……!」

 

 おい、なんで最前列警備員にファンの鑑がいる。じゃあこいつは……? 

 フェスTシャツ「rock never dead」の文字が「rock now die」に書き換わる。

 偽装魔法が解けて、その下にある顔は満面の笑みのソリテールだった。

 

 お前かぁ~! あ~……まあ、ならしゃあねえわ。

 泣きはらしたような目元ですごい安らかな笑顔するじゃん……

 必要な言葉は短かった。

 

「死んでくれる?」

 

 アタシは引き続き腕を大きく広げて笑った。

 

「やれよ」

 

 魔力弾の音。

 

「ありがとう」

 

 あー……これは心臓イッたね。力入んないわ。アタシはゆっくり後ろに倒れ……

 目をつむる寸前に見えたのは、母親の手を握る幼子みたいに柔らかな笑顔で自分のこめかみに手を伸ばすソリテール。

 

「ぱん」

 

 お前が地獄への道連れかあ……まーわるくない、や……

 

 ●

 

 ん……ここは……? 

 港町、かな。潮風が吹いて、アタシは港の一角にあるカフェに据わってた。

 あれぇ? 夢だったのかな。

 

「おつかれ、イブキちゃん」

 

 目の前にいるのは二度と会えないはずの顔。

 いや、ここならばそれにふさわしいのかな。

 

「ねえ、さん……?」

「やーよく頑張ったねえ。お姉さんびっくりしたよー」

 

 アタシは何もかも放り捨ててねえさんの懐に飛び込んだ。

 

「ねえさんんん! あたしがんばったよぉぉぉ! あいたかったあああ!! うわーん!」

 

 姉さんはアタシの頭を優しく撫でてくれた。

 アタシはしばらくびーびー泣いてたとおもう。

 

「立派なロックンローラーになったねえ。私が立派に思うくらい、君はやり遂げたんだよー」

「うええええん! いっぱいがんばったよぉぉぉぉ!」

「よしよしー、がんばったねえ。おつかれさま」

「あたし! 姉さんにひどいことして! でもいっぱいはなしたいことあってぇ!」

「うんうん、ゆっくりで大丈夫だから」

「うわーん!」

 

 姉さんはアタシが落ち着くまで優しく背中を撫でてくれていた。

 それから、アタシは姉さんといっぱい話をした。

 姉さんは笑ってうんうん、と聞いてくれた。うれしかった。

 それで一通り話すと、姉さんは鬼殺しを一口飲んでこう言った。

 

「いやー、イブキちゃんが色んな人にお世話になって、友達もいっぱいできてお姉さん安心だなー」

「そうかな……」

「今ならあっちに戻れるよー。アタシといくならこっちの船ね」

 

 姉さんが指さした戻りの船の向こうからアウラの泣き声が聞こえる。

 あの世行きであろう船では、ソリテールが笑顔で家族らしき奴らと手を振っていた。

 

「え、戻れるの……?」

「今ならねー。ゆっくり考えなよ」

「姉さん、鬼殺しもらえる?」

「いいよ」

 

 アタシは姉さんから鬼殺しを1パックわけてもらうと一口飲んだ。

 

「姉さん、アタシは……」

 

 姉さんは、アタシの答えを聞いていつものように困ったような顔で笑った。

 

 ◎

 

 ヒンメルの死からおよそ20年。要塞都市フォーリヒでかわされた冒険者の会話。

 

「そういえばザインって何で年上のお姉さんが好きなんだ? それに年上っていってもかなり大雑把だよな? 具体的にどんなお姉さんならいいんだよ」

 

 ザインと言われた僧侶は得意そうな顔でふふん、と笑った。

 

「フフフ、それを俺に聞くか坊主」

「うわ、面倒くさそうな話しちゃったよ」

 

 赤髪の少年は面倒くさそうな顔をし、男は遠い空を見ながらタバコを吸った。

 

「そうだなあ……なるべくなら破滅的な方が良い。タバコとか吸ってて田舎のガキに『やあ、そこの少年』とか言ってくるようなのだ」

「うーわ、逆に生々しく具体的になっちゃった……。誰かそんな人いたの?」

「ああ、いたさ。お前、あのヒロイイブキって知ってるか?」

「もう随分前に死んだって噂の伝説的な吟遊詩人だろ?」

「お前、俺が昔ヒロイイブキに出会ったって言ったら信じるか?」

「いやあ……ザインは信じるけど、その人は絶対昔の人の名前を騙る怪しい人だよ……」

「それでも、あの一夏あの人は確かにいたんだ。それに、ヒロイイブキの名を名乗ってヒロイイブキみたいな言動をする人がいたなら、それはもうヒロイの精神は生きてるんだ」

 

 顎髭の僧侶は背中に背負ったベースを静かに奏でる。懐かしそうに。

 

「それがそのギターなの?」

「ベースだ。ちなみに戦士ゴリラはギターを持ってる。お前が居ればドラムでバンドができるな」

「いやだよぉ……」

 

 赤髪の少年は目をしょぼしょぼさせて嫌がった。

 

「昔、あの人は言ったんだ。『これはアタシの命よりも大切なものだけど、少年にあげるよ』って」

「悪い大人だぁ……」

「それからこうも言った『乗りたい風に乗れないのはノロマっていうんだよ少年。人生は短いんだ。今を生きろ。それでも風を逃しちゃったら、次の風には絶対に逃すな』ってな」

「あー……それであんなにあっさり誘いに乗ってくれたのか」

「まあな。二度もノロマになりたくなかったんだ」

 

 ザインは音円盤を起動させて自分もベースでそのメロディに乗る。

 

「……古いけど、良い曲だな」

「そうだろ? 最高だよ」

 

 曲名は『未来をこの手に。それは迷うことができる自由』。

 軽快なギターの音と共に懐かしい、古臭いロックの音が要塞都市の空に響いた。

 音楽は、今日も鳴っている。

 

 ◎

 

 そこは大都会ジュク。今や高層ビルの並ぶ大都市だ。

 

「アウラCEO、貴重なお話をありがとうございました」

「いいのよ。それがこの古いベースにまつわる私の知る限りの話」

 

 アウラは懐かしそうに壁に掛けられたベースを撫でる。

 そこに通信が入って来た。

 

「なに? 今良い所なんだけど」

「あ、アウラCEO! 玄関にゼーリエ様が……『一万年たったぞ。さあ耳を揃えて返して貰おうか』と……なんのことです!?」

 

 アウラがぴい、と泣いた。

 

『ヒロイのバカはどこだっ!』

 

 誰かの声が響いた……

 

 




ヒロイが生きているか、死んでいるか、それとも幽霊のような存在になってふらふらしてるかは皆さんの想像にゆだねます。
どれもあり得る可能性です。ヤツは作者の私の手からも逃れました。
ヒロイ、お前を縛るものはもう何も無い。
お前の選択が、お前自身の可能性を広げることを祈る。
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