『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」 作:照喜名 是空
1.フェルン、シュタルク世代
2.ソリテール未亡人
3.クヴァールさん
で行こうと思います。ご協力ありがとうございました!
メリークリスマス!ワハハハ!
『フリーレンパーティーのクリスマス』
魔王討伐からおおよそ80年後
北側諸国ローア街道沿いの村
フリーレン一行はオイサーストに向かう途中に寄ったこの村で吹雪に見舞われ、一月ほど滞在することにした。
これはその冒険の中の短い憩いの時の話だ。
「『魔法集め』も飽きたなあ……」
「そうかな、私はザインと『魔法集め』するの楽しいけど」
「いや、黎明期からひたすら本物の魔法と平行してカード集めてるヤツに勝てるわけないじゃん! なんなんだよ『みのむしぶらりんしゃんデッキ』って!」
「ザインの青白クロック・パーミッションも悪くないと思うけどね」
「まあそこは僧侶だからなあ……」
宿代わりに借りている山小屋での話だ。
暖炉と暖かそうな絨毯がしいてある。
「そうだ、そういえば俺が加入したのは最後だよな。つまり他のみんながどういう風に加入したのか知らない。フリーレン、あんたが最初の一人だったんだろう? どんな風に加入したんだ?」
「そうだね……私はフォルトに家出しちゃった娘を追いかけるため。フェルンはそのついででハイターの所に寄ったら紹介されたんだよ」
「ハイター様が? そりゃなんで」
「その時のフェルンが16か17で……両親のすすめでオイサーストまで留学に行く予定だったんだよ。ハイターの所に居たのはあの子の両親の知り合いだったからだね。それですごい才能だから弟子にどうかって。実際ほぼ一人前だったからね。私はちょっと手を貸しただけだよ。まあ、道中で修行をつけてくれっていうからさ」
ザインはなるほど、とうなずき窓際に行ってタバコをふかす。
「そうか、留学ついでにな……ずいぶん豪華な留学だ。勇者パーティーの魔法使いの弟子とはな」
「私もそう思うよ。でも、実践でなきゃ身につかない事も多いからね。あの子はしっかりしてるけど、ちょっと甘やかされすぎだ」
「違いない。まあでも年頃の女の子ってのはあんなもんだろう」
「そうかな……まあいいや、シュタルクも似たようなもんだよ。お兄さんのツテでアイゼンの弟子をやっててさ。実戦経験を積みがてら楽しい旅をして土産話をくれって」
「まるで遠足だな。良い思い出にはなりそうだ」
「そうだと良いね。『若い頃の5年は私たちの2万年……』あの子達も旅を楽しめているといいけど」
「楽しんでるさ。きっとな」
「そうかな……おかしいね、実の子の子供時代は無駄に使っちゃったのに」
ザインは低アルコールのワインとつまみのチーズを戸棚から出してフリーレンの横に座り、コップを二つ持ってきて注ぐ。
「ああ、親が親だもんな……勇者ヒンメルとその相棒の子じゃあ、何もないって方がムチャだぜ」
「ん、ありがとう……お酒か。あのカスを思い出しちゃった……」
ポニーテールにしてセーターを着たフリーレンにはワインが似合った。
母親の貫禄なのだろう。
「アンタが関わった酒カスというと……ヒロイさんか? それともハイター様か。あの人らのはオニコロだろ」
「余計思い出した……あいつなら、なんて言うかな」
「『いい年した子供の独り立ちだろ』とか言いそうだな。まあ向かう先がアキバ魔法街じゃあ不安にもなるか」
「本当にあいつが言いそうな事を思いつくね……ファンなの」
「ああ、大ファンだ」
「酒カスは酒カスを呼ぶのかな……妙に知り合うのが酒好き多いよ」
「なんてったって百薬の長だからな」
「ヒロイのせいで無駄に説得力が出ちゃったんだよねその言葉」
大人同士の晩酌は過ぎていく……
☆
その頃、シュタルクとフェルンが何をしていたかというと、丘の上に立つ頑固ババアの家から野鳥を狙撃していた。
「ゾルトラーク:ハンティングモデルver6.35」
フェルンの杖の先からごく細い黒い光線が放たれ、かなり遠くで鳥型の魔物が打ち落とされた。
さらにフェルンがぐるぐると杖を操れば獲物が手元に手繰り寄せられていく。
「デカっ! これ思ったよりでかいよ! こないだ狩ったキメラの半分くらいある鶏なんだけど!」
「だから坊主も呼んだんじゃないか。さあ、解体は戦士の仕事だよ。がんばりな」
頑固ババアがシュタルクをしっかり厚着させて肉断ち鉈を持たせて外に放り出した。
「なんでこんな真冬にニワトリみたいなヤツを!?」
「今日は冬至祭りだからだよ。冬至祭りには揚げ鳥かシャケを食えってヒロイも言ってるだろ」
「なんでこんな田舎のばあさんまでロック好きなんだよ!?」
「直撃世代だからだよ。さあ、一抱えでいいから肉をもってきな」
「シュタルク様、頑張って下さいね」
フェルンが入れ違いに家に入る。
「う、うん……くそー寒い……」
シュタルクは本気を出してスパスパと巨大ニワトリを解体してさっさと山盛りの肉を持って帰った。
「じゃ、じゃあ俺たちはこれで……」
「待ちな。お裾分けしてやる。あのエルフとアゴヒゲにも持っていっておやり」
「ありがとうございます」
「冬至祭りに肉かあ……うれしいけど」
「ごちゃごちゃ言わずに待ってるんだ」
「はい……」
頑固ババアは手早く肉を下ごしらえするとコンロにかけた油にゆっくり入れていく。
「さあ、ロックの時間だよ」
そして、キッチンの横に置いてある音円盤に手をかけた。
『王都の宿屋じゃスイートの部屋が満席なんだってよ。ああ、まったく結構だ。愛し合ってまことに結構……! 結構なんだが……! それはそれとして厳粛に祝えねえのかオメエら、という気持ちもある。聴いてくれ……アビダルマが放つ地獄の賛歌! 史上最低の祝祭を!
切なげなピアノとギターの音から始まり、激しいベースとドラムが入って来た辺りからもう完全にコテコテの火を噴くようなロックになる。
「これ絶対冬至祭りに聞くもんじゃないよね!?」
「ああ? 今聴かずにいつ聴くってんだよ! もうちょいでできるから待ちな」
「すごく良い声なのに歌詞があまりにも最低ですよね」
「だからいいんじゃないかい」
じゅわじゅわと鳥の揚がる音と匂い、あまりにもロックな祝祭の歌。
小綺麗な冬の小屋があっというまに怪しい邪教の館みたいなテンションになった。
「はいよ、あんたらの分のチキンはできたからね。もっておいき」
「ありがとうございます……」
「……どうも」
冬至祭りのちょっと素敵な雰囲気が霧散してフェルンはむくれていた。
まあ、この後小屋に帰って4人でチキンをほおばる頃には比較的マシになっていたのでいいではないか。
ともあれ、フェルンもシュタルクも。そして大人組も。誰にでも。
またひとつ冬の祝祭を越したのだ。めでたいことだろう。