『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」   作:照喜名 是空

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書いてる方もテンションの温度差で風邪引きそうですわ。


『カス魔族はクヴァールさんと対面する』

 フォルトに入ってからはわりと大変だった。

 いやだって、鬼の国じゃん……? みんな空飛んでるし、わりと人通り多いしさ……

 そこを20人近くで飛ぶわけだからまあ目立つ目立つ。

 

「ハイどいてどいてー!」

「ヒロイ様のお通りだ-! 道を開けろパンピー共-!」

 

 なんか……出迎えてくれたファンの鑑含めた密使チームがそのまま警備チームになって徐行して飛ぶハメになった。

 なんか、もう戦勝パレード始まってる感じなのこれ? 

 すげえ大勢人だかりが上以外360度いるし、紙吹雪やら魔法での花火やらがバカスカ打ち上がってもうたいへんなんだけど。

 

「とうとう帰ってきたわねフォルト! あ~最ッ高~! そうよ、このアウラ様をもっと称えなさい! これよこれ! 私たち頑張ったんだからこのくらいの扱いはされるべきじゃない!?」

「毎日コレだと思うと面倒が勝りますね」

「だよねえ!? 大げさだよまったく……ハイどうもー! 写真? いいよー?」

 

 そうやってパレードやってると前になんか別の人だかりができてるんだよね……

 うーわっ、クヴァールさんじゃん……なんか、下は黒いゆったりしたズボンなんだけど上は黒地に氷柱桜の模様の法被着てる。

 アタシたちはとりあえずかなり低め、30cmくらいでふよふよ飛ぶことにした。

 

「あっ……どうも~! ヒロイです! お世話になりましたクヴァールさん! マジで何から何までありがとうございます! それからこの騒ぎも含めて何もかもすいません……」

 

 まず真っ先にアタシが前に出てバシッと頭を下げて謝罪と感謝を示した。

 本音で言えば土下座したいくらいに感謝と申し訳なさを感じているけど、それはさすがにお互い立場がね……

 

「うむ、よく帰ってきたのう。こうして直に顔を合わせるのは初めてか。何、おぬしが命じ、儂が作った街だ。これからこのジュクがおぬしの家になるのだ。ゆるりと構えておるがよい」

「有難ッス! ご苦労をおかけしました! いい街そうで楽しみです!」

「うむ、楽にされよ。おぬしの方が上司であり、ここはおぬしの街なのだぞ?」

「あ、はい!」

 

 なんか、写真家らしい鬼が何人も警備の外から写真撮ろうとしてる。

 

「えーっと、写真撮るみたいなんで、握手とかしときましょうか」

「うむ、ここで円満な所を見せておかねばな」

 

 アタシとクヴァールさんが笑顔で握手してる写真をめちゃくちゃ撮られた。

 なんかジュクとその辺りでは週刊新聞を出してるらしいけど、今日は号外出すんだって……

 まあそんなこんなでさあ。しょうがないからブクロの街に着いた辺りでファンの鑑が宿を分散して手配してくれてさ。

 みんな変装してライブ会場まではとりあえず解散って事になった。

 

 ●

 

 一夜明けて。

 宿についた早々からアウラはリーニエを連れて遊びに行きやがった。

 くそっ、アタシはこれから挨拶回りなんだぞ……? 

 お土産もそのために山と買ってきたんだからさあ。

 

「おお、よく来たのう。先触れがきたので待っておった。ゆっくり上がって行くが良い」

「ありがとうございます! 本当にもう何から何までお世話になって……」

 

 クヴァールさんの家はなんか……なんか屋根瓦は黒いし壁は白いしでアタシがいつか話題にしたお寺みたいだった……

 すんげえデカい屋敷でさ。まあクヴァールさんがでかいのもあるんだけど。

 出迎えた時は大木サイズの松を魔法使って剪定してた。作務衣で。

 あれきっと、盆栽なんだろうなあ。クヴァールさん基準の……

 

「よい。今更というものだろう。それに、道中も見たであろう? ジュクは本当に暮らしやすく良い街になった。ならばそれでよかろう」

「あ、はい……上がらせていただきます! そうだ、これお土産のアンチョビとか塩辛です。あとキャラメルサブレとかまあ色々ですね」

「うむ、受け取っておこう。……酒に合いそうだのう」

「もちろんお酒も後でその場で作りますよ。アタシの魔法を直にお見せしたいですから」

 

 クヴァールさんからすれば手の平サイズになるので、後で郵送で本命の量を送っておく。

 

「ほう、楽しみだ。裏に射撃場もつくってあるのでな。存分に語り合おうぞ」

「はい! 楽しみですね」

 

 楽しみなのはマジだけど、今日中に他の年長者の家に行くのは延期だな。予定組み直しておこう。

 案内されたクヴァールさんの家はなんか、話に聞くお寺みたいだった。

 庭はもうすごいね。

 

「すごい庭ですね。落ち着く感じというか……率直に言って美しいです」

「ほう、わかるか。以前おぬしが我らには植物をじっくり育てる娯楽もどうかと言ったのを試してみてな。庭いじりというやつだ。これがなかなかに楽しい」

「楽しんでいただいたら何よりですね。うわあ、緑のコケが絨毯みたいになってる……凝り性ですね。あっ、あの岩の配置も美しいですね」

「うむ、そうであろう。クジラを釣りに行った帰りで見つけてな。形が良かった故持って帰った。カカッ」

 

 なんていうか……運動場くらいある盆栽だよねこれ。隅から隅まで丁寧につくってありつつ、余計なものが一切ない。

 ワオ、ゼン……

 クヴァールさんの人柄が現われてると思う。

 

「イブキ、おぬし朝餉は?」

「かる~くですね。パン一枚くらいですかね……」

 

 サンドイッチ一枚しか食ってねえ! 朝食を持て成される可能性を考えてだ。

 

「それは良かった。儂もこれから朝餉でな。食って行くがよい」

「ありがとうございます! ご馳走になります!」

「よいよい。これ、誰かあらぬか。朝餉の用意だ」

 

 廊下でクヴァールさんがぱんぱんと手を叩くと、なんか……女中が出てきた。

 アタシが言うのも何だけどもう世界観違うよね!? 

 地味な着物みたいな服着てて目隠しした女魔族だ。腰まである髪をおさげみたいにしてる。

 

「承知しました。居間にてヒロイ様の分も含めご用意してあります。どうぞごゆるりと……」

「うむ」

 

 ぱっと見で思ったけどあの女中も強いよねこれ多分。まあ国家元首の家なんだからそりゃそうか……

 

「いまの子強そうですね」

「ほう、やはり解るか。アレはレヴォルテの配下だった女でのう。堅実な戦い方が気に入った故、召し抱えたのよ」

「へー、どんな魔法を?」

「うむ、『攻撃を旋風に変える魔法(メドロジユバルト)』といってな。剣で風を起こす戦い方をしておった。だが、堅実な戦い方とは爆発力が少ないもの。手札が少ないことが課題であった。おぬしならばどう育てる?」

 

 おっ、魔法談義かー。いいね。やっぱクヴァールさんといえば魔法談義だよね。実際に話すのはこれが初めてだけど楽しみだ。

 

「そうですね。魔法なしでの剣の基礎をもっともっと積み重ねるのは前提として、やっぱ問題は遊び(バッファ)が足りなさそうですよね。まあ、とりあえずは火炎系を習得させて風と炎でシナジー作ります。あと風っていうか空気に対する理解も必要ですね。うわあ、風はなんとでも合わせられますからね。育て甲斐がありそうですねえ。とりあえず簡単なのでもいいから他の属性の基礎的な魔法を一杯おぼえさせますね」

 

 クヴァールさんはクククと楽しそうに笑った。

 

「そうであろう。アレは強くなるぞ。儂も楽しみでな。まあ焦る事もあるまいて、今はリヴァーレから剣の稽古と儂からは炎魔法の稽古をつけておる。年を取ったとて、こういった楽しみもできてくる。地位があがるというのも面倒ばかりではあるまいて」

「あー……確かにそうですねえ」

 

 後半はアタシに向けてたなこれ……

 そうして、案内された居間はなんか畳敷きだった。アタシが概念だけ教えた畳をここまでキッチリ再現できるフォルトの技術者どうなってんだよ。

 

「うおっ、畳ですか。すごいですね」

「これを再現するには骨が折れてのう。だが作れてからは思いの外居心地が良い。まあ座るが良い」

「あ、はい」

 

 おー、これが畳かあ。本物に座るのは初めてだ。ちなみにクヴァールさんはあぐらをかいてるし、アタシはアヒル座りだ。

 さっ、と数人の女中が入って来てお膳を用意して出て行く。

 なになに、中身は……ご飯に魚の入ったおすまし汁、漬け物、卵焼きにクジラ肉のフライ、か……すげえ、和食だ! 

 

「さあ、あがるがよい」

「いただきます! ……うめえ-! おっと失礼。いやこれマジに美味しいですよクヴァールさん! どうやってここまで料理文化を」

「カカッ、どうやっても何も、おぬしの政策方針の一つであろう。美味い飯は。故におぬしの残した『魔族の味覚を刺激する調味料(アジシオベルド)』を解析しさらなる味覚を刺激する調味料を生み出した。まあ、儂も基礎理論を作って後は得意そうな者に任せておいたがのう」

 

 あー、あれは味で言えば塩味となんていうか、魔力味を無理矢理刺激するものだからね。

 もっと精密にいろんな味覚を刺激する余地はあったね。

 っていうかアジシオベルドからリバースエンジニアリングして鬼の味覚を刺激する部分だけ抜き出してさらにバリエーション作るとかとんでもないことやってるなこの人。

 

「すごいですね……たしかにアレはガツンとくる濃い味が出せるだけで、そこまで繊細さには重きを置いてませんでしたね」

「うむ、故に発展の余地があった。良い暇つぶしであったぞ」

「さっと再現できるクヴァールさんも半端ないですけどね」

「なに、今までは見向きもされなんだ生産系の魔法を使うものを登用するのもおぬしの政策であろうが」

「あー、たしかにそんなことも書きましたねえ……あ、そういうのでいえば農業系の魔法使いはどうなりました?」

「その漬け物が答えよ」

 

 あー、なんかあるね。白菜の漬け物みたいなやつ。どれどれ。

 うめえ! 何コレ信じられないほどうまいんだけど。

 

「これめちゃくちゃ美味しいですねえ! ご飯に合います。これ、調味料だけじゃないですね。あー、品種改良したんですか?」

「正解だ。種の品種、育成する魔法の構成式、土壌の魔力傾向。すべてにこだわったのよ。良い魔力の土壌からより良い種を選び出しさらに豊富な魔力の土壌で育てる……『花を咲かせる魔法』の構成式を送ってくれたのでな。『農作物を育てる魔法』まで発展させるのは容易であったのだが、そこから土を休ませるのがまた大変でな……」

「あ-、連作障害と肥料、あとはアタシらの舌に合うように魔力の傾向もありますもんねえ」

「それよ。帝国から技術者を呼び出すのがまた苦労した。が、苦労に見合うだけの味は出せた。民への流通もな。こんな形で人間の強さを知ることになろうとはのう」

「あー、流通網と第一次産業の積み重ねは人間を越える種族いませんからねえ。あえて言えばドワーフくらいじゃないですか」

「違いない。馳走であった。膳を下げよ」

「ごちそうさまでした! いやー朝から良い物食えました」

 

 やっぱ魔力の味が違うんだよね。魔力の味が。

 満足感が半端ない。これに比べれば人間世界のメシはカスですわ。

 アタシらにとってはね。

 

「カカッ、今のフォルトでは珍しくもない味よ。そうなるようにした。これで一つ大きな目標が達成できたというわけだ」

「あー、確かにそうですね。これ食った後だと人肉とか食えたものじゃないです。アタシのざっくりした計画をこんな風にマジで実現していただいたのはクヴァールさんと現場の方のお力あってこそです。それは毎日マジで感謝してますよ」

「カカッ、思いついたおぬしでさえ魅了するならば、成功と言っていいのう」

「ですねえ。お茶もこれすごいですね。美味しいです」

 

 まあそんなこんなでクヴァールさん一件ですらもう鬼的には半端ない生活向上してた……

 メシはうめえ、姉ちゃんはきれいだ、面白い所がどこかしこにある。目の毒耳の毒だね。

 うん、アタシは安心したよ……

 

 

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