『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」 作:照喜名 是空
「ちょっと効き過ぎたな……でも『泣きを入れたらもう一発』っていうじゃん? 今度はエルフの音楽やってやるから泣き止んでくれよー」
ヒロイはフリーレンの上で魔法で出した酒を一口飲むと今度は白いとげとげの竪琴を取り出した。
緑色の魔力糸が横にはってある。
あ、これレーザーハープだ。
フリーレンは頭の端っこでそう思った。
そういえば爺婆がたまーにお祭りとかで引っ張り出してたような……
『あの日から見えていた、キミに咲くロータスよ』
なんか……なんかあの世でなってるような想像を絶する美しい音楽が始まった。
あまりにも壮大で宇宙が見える……
『終わらなくとどく声、はるか道の上、キミがまた歌う時、花は急いで咲く』
なんでかわからないけどロータスというのが薄いピンク色の大きな花だって解ってしまう。
あまりにも美しすぎる。声があまりにも良すぎる……!酒カスのくせに……!
なんかおかしいと思う以上に壮大で、神秘的で、優しすぎる声で自分がコントロールできない。
無理矢理に安心させられてしまう。歌に説得力がありすぎる。
『終わらなくとどく声、はるか空の下。キミがまた歌う時、胸に咲くロータスよ』
『あの日から見えていた、キミに咲くロータスよ』
なんか……眠くなってきた……なんだろう、この安心感は……ああ、これおばあちゃんの膝枕だ……
酒場や近隣の人々が外に出てヒロイを拝んでいる。絶対こいつそんなありがたい存在じゃないよ……
ああ、でも……きっとこいつは人々を殺しに来たわけじゃない……それだけはなんかわからされた。
精神防壁はそのままだし、洗脳じゃ無いと思う。ないといいな……
「ひえええーん! ……うっ、ぐすっ……うう……」
「あっ、寝ちゃった……どうしよう。話すことまだいっぱいあったんだけどな……やめろ拝むなって! アタシそんなんじゃねえから! とりあえず拝むくらいならこの子が起きたらこの本わたしてくれる? たのむわ」
そんな声を聞きながらフリーレンの意識は落ちた。
◇
それから朝になったら宣言通りヒロイはいなくなってた。
手元には数冊の本とメモ。
『とりあえずアンタ寝ちゃったから軽く説明しとくわ。アタシは元々魔族だったけど色々あって人間の心を手に入れていろいろやらかした結果あの世を出禁になった。ちなみに角はその時没収されたよ。だからあんな訳の分からん存在になったんだけど……アンタにはこれらの魔法をわたしておく。
・『魔族に人間の心を教える魔法』
砂より小さい極小サイズのゴーレムを魔族の血中に生成する魔法だ。これが血の中で増えて最終的に後頭部あたりでコインくらいの脳みそになる。それが人間の心を再現してくれるってワケだ。たぶん魔族に使ったらめちゃくちゃ今までの悪行を後悔すると思う。そういう調整にした。
アンタが魔族を生かしておかなきゃいけない状況になったときに使え。
っていうかもうバンバンそこら中の魔族に人の心を教えてやれ。殺さずに苦しめ続けるいい復讐になるだろ。
・『絶対に契約を履行させる魔法』
でもアンタはどーせそれでも信用できないっつーだろうからこれをつけてやったよ。双方合意した場合の約束を絶対に守らせる魔法だ。
呪いに片足つっこんでるっていうか、呪いをマイルドにしただけだから習得めちゃくちゃ難しいだろうけどがんばれよ。
・『ソリテールの魔弾』
魔力を固めてぶつけるシンプルな技だが、普通にめちゃくちゃ強いし便利だから教えておく。
ある哀れな女の魔法だ。アンタが使えば供養になるだろ。
本当は目の前で実演したらすぐわかるんだけどな~! ゴメンね? がんばってこの魔導書で覚えてね?
・『エルフをわからせる魔法』
アレだ。えっちな魔法だ。アンタもいつか恋をするだろ。だってエルフの時間は無限にあるんだぜ? 可能性も無限だ。
だからそん時に相手が誰だろうと孕める魔法をつくっといたよ……めちゃくちゃ大変だったんだからな?
PS、あっそうそう。人には親切にしとけよ~特に美少年にはな~じゃあ冒険頑張れよ byヒロイ イブキ』
めちゃくちゃ癪だったし村を出るときは恥ずかしかったけど、とりあえず魔導書を読んで試してみることにした。
うん……これは本物だ。
これ、どうしよう……とりあえず魔弾はめちゃくちゃ便利だけど。
『魔族に人の心を教える魔法』……使うべきかは、まだ、わからない。
あの日の演奏を時々思い出す。
アレは魔法だった。魔法と言えるだけの効果を生み出してた。でも、魔力を感じなかったし、精神防壁も破られてなかった。
『魔法と認識できない魔法』私の切り札と同じじゃないか。あんな酒カスがそこにたどり着くなんて……
なんなんだろうアレ。気になるな。私も音楽やればわかるのかな……
リュート買っちゃった。
なんか違う気がするけど、暇つぶしにやってみるか……
そんなこんなで50年くらい過ぎた。
森の家で焚き火を前に歌ってたらなんか青髪の子供が迷い込んできた。
「あっ、あの、僕……」
「村はあっちだよ」
私はリュートから目を外さずに曲を弾き続けていた。
ヤバい、最近全然村にいかないから言葉がうまくでないや。
とりあえず村まで花を咲かせばわかるかな……わかるといいな……
『終わらなくとどく声、はるか空の下。キミがまた歌う時、胸に咲くロータスよ』
偶然か必然か、私が歌ってる歌詞が丁度そこだった。
なんかあの酒カスの笑い顔が見えるようでめちゃくちゃムカつくな……
「えっと、あの。ありがとうございます!」
「ん、もうこんな奧に来ちゃダメだよ」
「……またあえますか?」
「きちゃダメだって。バイバイ」
なんか……青髪の男の子にすごいなつかれた……
私が外でリュート弾いてるとどこかから聞きつけたのか毎回来るし。
あっという間に男の子はたくましくなって冒険者になった。
「フリーレン、冒険に出よう!」
「またその話……ていうか来ちゃダメだって。ハイターもなんとか言ってよ」
なんか、あれからヒンメルは友達のハイターとかいう僧侶見習いも連れてきた……
なんで私が引きこもりみたいに扱われているのかさっぱりわからない。
「フリーレン、あなたが森にこもってから世の中はずいぶん変わりましたよ。大分平和になったんです。何も魔王を倒せとはいいません。ですが、今の世界を見ることも必要だと思いますよ」
「どうせ人間の社会はめまぐるしく変わるから私はついてけないし興味もないよ」
「僕が君に見せたいんだフリーレン。外に出るきっかけに僕はなりたい」
「……10年だけね」
結果としてめちゃくちゃヒンメルと大家族を作ったしめちゃくちゃ冒険しまくったが、それはまたいずれの話。