『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」   作:照喜名 是空

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カス魔族は歌で魔族を殺せる

 サイドボーカルの子はリーニエと言った。

 なんかアウラはすでに私に殺された事になってるらしくて屋敷にはもうこの子しかいなかったらしい。

 

「どうしてくれるのよお姉様! あれだけ苦労してかき集めた兵がもういないじゃない!」

「まあそこはなんとかするよー。それよりもキミ見所あるねえ! 『模倣する魔法』だっけ?」

「はい、私は魔力探知が得意なので動きを模せます」

「いいねいいねー。そのアイデアすごくいいよ! そうか魔力か! そういう表現方法もあるよね! うんうん……『武器を作る魔法』も良いよ。アウラこれ覚えて。ギター作って」

「軽く無茶振りするじゃない……?」

「キミはとりあえずドラム覚えようか!」

「わかりました。でも何故ですか?」

「うん、キミはこんな言葉を聞いたことはないかな。『音楽は人を殺れる』! 私が目指すのは『音楽で魔族を殺す魔法』だよ」

 

 実際には作用機構はちょっと異なる。音楽で催眠状態に陥れて精神を操る……あるいは音楽で極度の興奮を巻き起こして崇拝させるとかそういう感じ。

 シュラハトが私を殺しに来るんならファンにさせちゃえばいいんだよ!! 

 実際人間の踊り子とか歌い手のファンってヤバいからね……死ねと言えば死ぬくらいにはカリスマ性にやられる。

 あれは本能に対する『はっきんぐ』だ。人間にできるなら、魔族にもできる。本能に屈している点は何も変わらないんだから。

 私もそこを目指す。

 できるかどうかじゃない。やるんだ。

 

「とりあえずは変装して南部魔族領を点々としよう。そこの辺りなら酒がまだ蔓延してるからアタシの知り合いも一人二人いるだろうし」

「だからちゃんと説明して欲しいじゃない」

 

 私は『魔族を殺す音楽』の概念について説明した。

 

「ええ……? さっきの歌はすごかったし私も感動? っていうやつをしたけど……普通に無茶じゃない……?」

「でもやるしかないじゃん。戦って勝てないもん。だから全知の未来予知で私の声と姿を知覚するのを逆に利用するんだ」

「視覚から催眠に落す方が楽じゃない……?」

「だから絵心あるやつも欲しいし、もっとコーラスも楽団も欲しいんだよね。多い方が複雑な情報をたたき込めるから」

「僭越ですがイブキ様、私も難しいかと……」

「まー硬く考えない。気楽にヤりなよ。逃亡の旅も楽しいもんだよー」

「誰のせいでそうなったと思ってるじゃない……?」

「まあまあ、まあまあまあ。今夜は尼僧の人から教わったアレやってあげるからさ」

「しょうがないじゃない……」

 

 アウラをなだめつつ、私たちは潜伏生活に入った。

 酒を密売する魔族たちは隠れ酒場を作っていた。普通に魔族領では酒が違法になったからだ。

 そこで私は自分が「酔いどれのイブキ」と呼ばれている事を知ったし、その名前はめちゃくちゃ役に立った。

 酒や薬と引き替えにかつて暴れ回った軍団のやつらが一人一人と集まってきた。

 そして、私たちは少人数に分かれて街角で歌った。

 

「はーいみなさーん! 歌だよー! まあ人間の真似事と思って聞き流してよ。歌が良かったらお菓子買っていてくださーい!」

 

 私たちはサングラスとか服で変装しつつ街角で歌を歌っては路銀を稼いだ。

 それは時に違法酒場や薬の密売の窓口であったりしたけど、それでも私たちは着実に歌を磨き上げていった。

 人のためではない、魔族のための歌を。

 

「バンド『アビダルマ』のヒロイでーす! 今日はみんな来てくれてありがとねー」

「ヒロイ様! ヒロイ様!」

 

 私の偽名だ。「ねえさん」のもう一つの名前から取った。

 私たちは違法酒場を巡り、街角を巡り、歌を歌いまくった。

 結果として魔族の中で独自の歌の文化ができつつあった。魔族の音楽は魔力による表現があるのだ。これが表現の幅を大きく広める。

 

「この街はもうアタシがいなくても勝手に歌を作っていくね。じゃあ東西どっちか行こう。このコインで決める」

「またそれぇ? こないだはサイコロで決めてとんでもない僻地に行ったじゃない……」

「これもシュラハト対策だよ。全くの偶然で決める。予知ではどうしようもない」

「まあでもバンドやってたら褒められるのは気持ちが良いわね……」

「音楽は奧が深いです。模倣だけでは越えられない壁がありますね」

「でしょでしょー? どんどん信者増やしていこうね!」

 

 そして街から街へ。バンドメンバーを増やしつつ酒や薬だけではない純粋な歌の信者も増やしていく。

 表向きの顔を作って賛同者を増やしていくんだ。味方は多い方が良い。

 

 アタシが考えるに魔族に足りないのは娯楽だ。本能を騙す技術が足りてないんだ。

 本能のままシンプルで合理的なのは美しい。でも、それだと本能と現実が折り合いがつかなくなったときに「こう」なる。

 魔族は本能を制御する手段を持たなきゃ存続できないだろう。

 まあアタシは別に存続なんてどうでもいいんだけどさー。どうせいつかは滅ぶんだし、それは歓喜に包まれているものであるべきじゃない? 

 

 そして。逃げ隠れしつつ10年。なんとか10年は逃げおおせた。

 そしてその10年で。

 アタシ達の音楽は『全知』に届きうるものになった。

 

「お前達は危険だ。魔王様の勅命でお前達を……殺さねばならない……だが、俺にはもう、お前達を殺せない」

「だろうね。予知で何回アタシ達の歌を聞いた? 100回? 200回? もう手遅れだよ。お前はアタシのファンだ」

「だろうな……今もお前の曲を聴きたくて仕方がない。せめて、歌ってくれ。あの歌を」

「良いよ。これはファンへの手向けだ! 聴いてくれ! 『魔族を歌で殺せる魔法(ワタシハサイキョウ)』」

 

 バックコーラスが歌い始める。バックバンドが演奏を。そしてアタシ達は弾き、歌った。

 魔力が猛り狂い、輝き歌う。魔法による光と映像の演出が暴れる。

 その時、歌が届いた近くの魔族の街で実に53人の魔族が塵に帰った。

 

「ああ、最高だ……やはり、歌は良いな……」

「なあ、お前の予知でもこれしかなかったの?」

「なくはなかった……だが、魔王様へのケジメをつけた上でお前を殺さないという選択は……これしかなかった……」

「そっか」

「これで、少しは魔族の存続を……魔王様の理想……千年後の共存を……考えてくれるか……」

「頭には入れとくよ」

「そうか……ならば、この戦い、私の勝ち……いや、痛み分けだ……」

「ふーん、ま、安らかにね。地獄で会おう」

「……ああ、先に」

 

 シュラハトは歌による過剰興奮で脳が焼き切れて死んだ。

 まあ……多分勝ったんだろう。

 っていうか魔族全体や人類全体なんてアタシには知ったことじゃない。

 少なくとも、今は。

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