『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」   作:照喜名 是空

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カス魔族はたまには真面目な話をする

 アウラたちと楽団は別棟で休ませて、アタシ達はソリテールからお茶でも飲みながら話しましょう、と言われて造船所に来た。

 コイツ人間のフリを楽しんでやがるな……まあアタシもそうっちゃそうなんだけど。

 

「すげー骨格標本だな。……まるでアタシ達だ」

「わかるのね。そう、これは魔族と人間の関係を表してるの。似てるけど全く別の生き物なのよ。共存なんて無駄だと思わない? あなたはどう思うかしら」

 

 品の良いくつろげる感じの空間だった。丁寧な暮らしとかしてそう。

 アタシ達は丸テーブルに三人で座ってお茶してる。うまいねこのクッキー。

 

「可能不可能で言えば可能だよ。どういう形になるかでクソさが決まる」

「へえ……マハトでもわからなかったことがあなたには解るのね。これで4人目というわけね。最初の一人は魔王様。次は私。そしてあなたが殺したシュラハトが共存の形について理解していたわ。マハトのお友達のね。あなたはどのくらい理解しているの? どういう形の共存があると思う?」

「俺もそれは気になるな。いや、ぜひ聞かせてくれ。ソリテールはそれを聞くといつもはぐらかす」

「それはあなた自身の知る楽しみを奪わないためよ。自分で実験してみなければわからないこともあるはず。で。あなたの考えは? イブキ」

 

 めちゃくちゃ早口で喋るじゃん……そんでもってナチュラルに煽りを入れてくるじゃん……

 これ話すの長くなるから面倒なんだよな。楽しい話でもないし。まあいいや話そう。

 

「パターン1、人間が魔族の家畜になる。最悪の形は人間牧場だけど、比較的穏当なのだと魔族が人間にとっての神になってたまに生け贄を捧げれば良くて、それは人間にとっての名誉にすればいい。1発2発ヤらせてやれば喜んでやるだろ」

「ええ、そうでしょうね」

 

 ソリテールは楽しそうに、マハトは困惑した様子だ。こいつ部分的にクソボケになるよね。魔族だわー。

 

「それは……俺は、何か嫌だ。共存とは思えない」

「でも共存よ? 牛と人間は共存しているわ」

「そうかもしれないが……俺は、もっと違う穏やかな形が良い」

 

 ほんとうに意識上では穏やかな生活したいんだな……もうソリテールとつきあっちゃえば? 二人で丁寧な暮らししてろよ……お似合いだよ。

 

「だからパターン2、魔族が人食いも殺人も辞める。そんだけで100年もすれば向こうから和平を申し出てくる」

「あら、あなたはそれが可能だと思っているのね。どうやって?」

「待ってくれ。なぜ人間を殺さないだけでそうなるんだ?」

「それは説明すると長くなるから後でな。とりあえずなんかわからんがそうなるってここでは覚えとけ」

「気になるな……まあいい、あとで必ず聞かせてくれ」

「わーってるよ。どうやっても長い話になるけどまあいいや……話すよ。けど酒くれ。今ちょっと正気だからよ……イラつくんだ」

 

 手が震えてきた。ねえさんもよくこうなってたな……シラフでこんな真面目な話したくないよ! 

 ソリテールは指先一つで戸棚から魔法を使ってワインの瓶を投げて寄越した。

 

「はいはい。これでいい?」

「ん。ぷはーっ! まあまあの酒だな。で、えーっと……」

「魔族が人を殺さないようにする話」

「うん、それなんだけどさ。たとえ話いくつかするね。いい? いいよねありがとう」

 

 ある冒険者の一団が広大な地下遺跡を見つけた。

 すげえ沢山の人間の街だ。たぶん億の人間が入る。

 でも誰もいない。死体もない。けど……ちょっと歩いて行ける距離ごとにすげえ派手なサーカス小屋みたいな建物があった。

 調べたらそこは娯楽施設だった。一生かけても読み切れない楽しい本。一生かけてもコースを制覇できない美食。魔族みたいに綺麗なゴーレムがそこに入ったやつの世話をしてくれる。夜の世話まで。

 冒険者達はここにこの街が滅んだ秘密があると思って調査した。徹底的にだ。

 でも誰も戻らなかった。なんでだと思う? 

 

「そこの娯楽が面白すぎたから。徹底的な調査はいつしか無限の娯楽を遊び尽くすことに変わって、みんな老いて死んでいった、でしょ?」

「そうだよ。じゃあなんでその街が滅んだかもわかるよな」

「そこの住人も全員そうやって一生遊び続けて死んだでしょうね。好奇心を利用した罠かしら。きっと魔族にも有効ね。とくにマハトのような知りたいことを我慢できない魔族には」

「恐ろしい話だな」

「アタリ。じゃ次の話」

 

 熊がガリガリにやせ細って死んでた。でも解剖したら胃には肉がいっぱい有った。傷も病気もなかった。なんでだろうな? 

 

「質問は受け付けてるかしら。たしかそう言うゲームよねこれ。ウミガメのスープ」

「そうだよ。ウミガメのスープだ。質問いいよ」

「熊は人食い?」

「人食いでもそうじゃなくても成立するね」

「じゃあ食べてたのは家畜の肉でも成立する? それは美味しいヤツよね?」

「そうだよ」

「解ったわ。熊は雑食性。でも一度人を食べた熊は人が美味しすぎて他のものを食べなくなるわ。それは家畜の肉でも同じ。雑食性というのは肉でも植物でも食べれるではないの。どっちも食べなきゃ死んでしまうわ。だから、その熊はどこかで美味しい肉を食べて、それから肉しか食べずに植物性の栄養が足りなくて死んだのよ」

「そうだよ。アタリ。そうなった熊は目の前に木の実が落ちててももう食わない。他の動物でもそういうのはいるよ。リスとかにお菓子を与えるともう今までの残飯とかが食えなくなる。まともな料理食ったらもう残飯は食えねえんだよ」

「ふふ、私たちみたいね」

「だろ?」

「……何か、掴めかけて来た気がする。続けてくれ」

 

 人間にもかかわらずエルフみたいに子作りしなくなって滅んだ国があった。なんでだろうな。

 

「そこは絵の上手い人がいた? 写真があったかしら? 製本技術は発達してた?」

「全部イエスだな」

「それはよくできたゴーレムでも成立する?」

「そうだよ。もうそれで正解だ」

「どういうことだ?」

「つまりね、性欲を満たすような絵や写真、人間の代わりにセックスしてくれるゴーレムでそこの人間は満足してしまったのよ。性欲を満たすために子作りをする必要はなかった。代用品で全部足りてしまったから本物が要らなくなった。そういうことでしょ?」

「待ってくれ、イブキが言う共存とは、そのために魔族が人を殺さなくするための手段とはー」

 

 アタシはへっ、と笑って吐き捨てた。

 

「そーだよ。アタシが魔族領でやったこと全部だ。美味い飯! 良い酒! 最高の音楽! 人殺すより楽しい事に夢中になればそのうち殺す暇なくなるだろ」

「そんなことで……? 本当に可能なのか?」

「例はもう出しただろー? これは詳細をぼかしてるけど全部本当だよ。生物はそれが自分の生存や種の存続に必要な本能でももっといい代用品があればそれで満足して滅ぶんだよ」

「イブキは魔族を滅ぼしたい……わけではないな。殺しは生存に必須というわけではない。ただ当たり前なだけだ。いやしかし……」

「『本物の料理を食べたリスはもう残飯が食べられなくなる』あなたは娯楽という代用品を本物以上のモノにしてしまうことでそれを可能にしたいのね」

「お似合いだろ? 人間の偽物のアタシ達には。偽物が本物以上になるのは自分の身で実証済みだ」

 

 ソリテールの笑顔が深くなる。こええよこの女……勘弁してよ。アタシは芸人であって喧嘩は強くないんだよ。

 

「あなたの考える共存は解ったわ。でも何故? どうして私たちが人間に遠慮して生きようという結論になったの?」

「またたとえ話で悪いんだけどさあ」

 

 人間の内臓に盲腸ってあるよな。昔は必要だったけど今はもう要らない内臓。それどころか下手すりゃ病巣になる不要品。

 アタシああいう無駄大嫌いなんだよね。わかる? 

 

「そうね、人食いの魔獣から私たちは進化したけど、今は別に生存に必要というわけではないわね」

「むしろ害悪だろ。なんで人間なんてクソ種族を敵に回さなきゃいけないんだよ。なあ。クソだろ。なんで女神直々に世界の敵あつかいされてるんだよクソが」

「あなたが人間に対して油断しない魔族なのはわかるけど、少し意外ね。あなたは人間が好きだと思ってたわ」

 

 まあ……個人的に好きなのはいるけど種族としてはカスだろ。ちょっと自分でもびっくりするくらい暴言がすらすら出てきた。

 

「いや、あいつらカスだし……まず魔族は魔力量で地位を決めるけどあいつらは金で決める。そうじゃなきゃ見た目か腕っ節だ。そんでもってそれで弱いとしたヤツを舐め腐るし、強いヤツには媚を売る。強いヤツは絶対に調子に乗るし。それがキモい。あと女は絶対に自分のせいでそうなったって事を認識できないし、男は性欲から見た目の良い女子供に優しくしてるのを認識できないし、できたとしても止められない。ヤれると思ったら自分が死ぬかも知れなくてもいくのが野郎共だ。勘弁してくれ」

 

 ソリテールは考えるフリをして溜めに溜めて煽り散らしながら笑った。

 

「部分的には魔族にも共通することね。それの例外となると……エルフ? あはは! おかしいわ。エルフになりたい魔族なんて……」

「贅沢言えば人間よりちょっと穏やかな情緒があってドワーフくらいの寿命なエルフ的なやつがいい。アタシはそういう生き物になりたい。それが人を食わない魔族が一番現実的だっただけだ。でもクソ大変だからこの世界を憎んでるよアタシは」

 

 しばらくソリテールは笑ってたし、マハトは考え込んでたし、アタシは酒を飲んでた。

 

「じゃあその魔力の変な揺らぎ……いえ、点滅している六角形の防御魔法みたいなやつもそのための自己改造かしら」

「……これ見えちゃったかー……なんでわかるんだよ」

 

 たしかに、アタシの頭上にはわかりにくくしてるけど垂れ流される魔力で作った魔力式脳チップがある。

 プリンのおっさんから教わったものだ。

 皮肉にも、天使の輪っかみたいだ。普通だったら気づかない。魔力の奔流の中に隠してるから。

 

「ええ、気になるわ。極小の迷路みたいな構造が無数にあってその中を魔力が循環して明滅してる……結界? いえ、似たようなものをどこかで……ああ、計算機だったかしら。何を計算しているの? ああそうか。それは思考を計算してるのね。人間の思考を? いえ、そうね。それは魔力で擬似的に作った脳でしょう。補助脳ってところかしら。すごいわね、どうやってそれを思いついたの?」

 

 めちゃくちゃ早口になるじゃん……別方面で人間くさいよね。それでいて魔族らしい。モテそうだよコイツ。

 

「今まで出会ったカス共の一人がこれの完成品を持ってたからだよ。解りやすく言えばそういう魔道具だ。人間の脳の代わりをしてそいつの思考パターンを完全に模倣する。そいつら自身が自分が模倣先の人間だと思い込むくらいにな」

「そう、人間の脳を模倣する道具を魔力で再現することであなたは人間の思考を身につけたのね。たった100年で千年生きた大魔族においつけたのもそれのおかげ。でも、それだけじゃないでしょう?」

「まあね、薬で自分の脳も改造ったし、脊髄内に肉体として補助脳もあるよ」

 

 ソリテールはなんか勝ち誇った顔で煽りまくってきた。おもしれーけどあんまり近い距離感で会いたくない女だ……

 

「うふふ、あははは! あなた……自分では進化した魔族のつもりなんでしょうね。ええ、そうなんでしょう。でも進化したのはあなた一人だけ。あなたは魔族でもエルフでも人間でもない、この世でたった一人の怪物よ」

「自覚はあるよ」

 

 ソリテールはマハトの方を得意げに振り向いて煽り散らかした笑顔で演説する。

 面倒だからアタシは今のうちにオニコロを補給しといた。

 

「ねえマハト。あなたもこんな風になりたいの? 人間に頭を下げて。代用品の娯楽で満足して。何がなんだかわからない怪物になって。そんな共存が良いの?」

「俺、は……」

「諦めましょうよマハト。魔族として自然に生きるべきよ。たしかにそれは人にとっては悲惨な共存かもしれないけど……それを選ぶなら、私の手をとって。魔族を辞めてまで人間と仲良しこよしに共存したいなら、あっちの手を取りなさい。ねえ、魔族の本能に従うべきよ」

「ああ、そうだな……魔族の本能に従うよ」

 

 ええ……これアタシも手を出さないといけない流れ? テーブルにアタシとソリテールの手が二つ。握手を求めるように出された。

 マハトは2秒悩んで、アタシの手を取った。

 

「……うれしいけど、やめとけよ。地獄へ道連れだぜ?」

「なんで? マハト」

 

 ソリテールの顔から表情が消えた。ざまあ! 

 

「魔族の本能に従っただけだ。魔族は知りたいと思った事を知るまで止まれないんだ。俺は、俺がどうなろうと何に成り果てようと。それでも知りたいんだ」

 

 その瞬間に、ゆらりとソリテールの魔力が揺らぎ、無数の十字剣が出てきてアタシ達を囲んだ。

 

「あらそう……それは、かなり困ったわね」

「あー……こうなる気はしてた。表に出ろよメス豚が。アタシは気の滅入る話で機嫌が悪いんだ」

「そうね、もっと『お話』しましょう。そうすればきっと解ってくれるわ」

 

 やりたくねえ-! こいつ絶対強いよ! だがここで引いたら女が! 女が廃る気がする! やってやるよこの陰険女が!

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