『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」   作:照喜名 是空

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カス魔族はヤバ女を爆誕させる

 マハトが床を蹴って粉々にしたやつを黄金化させてその破片で壁をぶっ壊す。

 二人して壁の穴から外に出るが、後ろから次から次に十字剣が飛んでくる。

 まだ本気で当てる気はないのか、マハトの黄金片でなんとかなってる。

 

「すまん、まさかこうなるとは」

「アタシはなんか嫌な予感はしてたよ! まあいいさ、アタシの喧嘩だ。まあ見てなって」

「わかった。どちらに行く?」

「海だ! ちょっとした考えがあるからさ。どうなるかはまあ賭けなんだけど」

「ならばそこまでは守ろう」

「頼んだ!」

 

 後ろからはソリテールがなんかいい笑顔でうふふふふとか笑いながら飛んでくる。

 だからこええよあの女! しっとりするな! 

 

「追いかけっこは終わり? じゃあ、『お話』しましょう」

「肉体言語でお話しようか」

「ええ、それも大好きよ。とっても素敵。あなたの魔法を見せて? 武器は何かしら? やっぱり楽器なのかしら」

「喧嘩っていったらこれだろ。歯ぁ食いしばれ!」

 

 アタシはおおよそ20mの距離から拳を振り抜いた。

 拳の先からボールみたいな魔力の塊が飛んでいってソリテールに向かう。もちろんこんなジャブが通用するとは思ってない。

 実際、剣で防がれた。少し驚いた様子だが余裕だろうアレは。

 

「驚いた。こういう所も逆なのね。まるで鏡みたいね私たち。写しているものは同じなのに、向かう方向が逆ね」

「そこの所は同感だね。見解は同じだけど、選択が逆だ」

「そう、私は武器は華やかで面白い方が良いわ。繊細で精密でお洒落なものがいいの。あなたは逆でしょう?」

「殺しの道具なんざ、シンプルで実用的だったらいいんだよ。派手にやるのは舞台だけで十分だ。ああ、でもそういうことなら……」

 

 ソリテールは祈るように合わせた手の平の間に見慣れた魔力のボールを出した。

 アタシよりずっとずっと高密度なやつをだ。

 

「やっぱりか、驚いたね。奇しくも同じ構えってワケか」

「ええ、それはねこう撃つの」

 

 やっぱ速い! 手慣れてやがる。こういう所で年月の差が出てくるな。

 アタシは身体を覆う魔力を盾にして防ぐ。

 

「あら、それもできるのね」

「あんたもやるよなそりゃあ……」

 

 そこからはまるで指導試合みたいだった。

 撃てば余裕で防御され、打ち合えば完全上位互換の弾が飛んでくる。

 飛びながらお互い撃ちまくるが、タイミング、位置取り、全て上回ってきやがる。

 

「あらすごい。もう覚えてきたのね。素敵だわ。でも解っているでしょう? 私が剣と魔力の弾、二つの武器を持っているって事はあなたももう一つ持ってるはずよね? 出し惜しみしてたら死んじゃうけどいいのかしら」

 

 まだ軽症だがあちこちボコボコだ。キャットファイトでやっていい絵面じゃない。

 

「そんじゃあリクエストに応えてやるよ! 酒呑童子!」

 

 あたしは姉さんからもらったベースの魔法で作ったコピーを構える。

 

「わあ、やっぱり楽器なのね。シュラハトを倒した技を見せてくれるのかしら。とっても興味があるわ。ああ、それとも……」

「すこぶる付きのウルトラソニックウェイブだよ。堪能してってくれ」

 

 手の内読まれてる感じはするが、それでも出さなきゃどうにもならねえ。弦をかき鳴らしてソニックウェイブを出す。

 ソニックウェイブは避けもしないソリテールに直撃するが、頬をわずかに斬っただけだ。

 一応防御壁を抜けられはしたが……

 

「音を消す魔法」

 

 やられるよなそりゃ。いっぱい魔法知ってるヤツなら音波攻撃には絶対するわ。

 静かなにらみ合いが続く……かと思ったらソリテールは余裕の顔で空中にグランドピアノを出してイスに座ってこっちを見た。

 

「このまま封殺してもいいけど……そうね、どうせだから最後にセッションでもしましょう。辞世の句というやつであなたが何を歌うのか気になるの。きっと良い曲になるわ。録音魔法もセットしたから……今日みたいな天気の良い日にはきっと聞くわ」

「絶対3日くらいで忘れるだろあんた」

「それはあなたの歌次第ね。どうするの? このまま死ぬのかしら。それとも歌の勝負で素人の私から逃げるのかしら」

「やってやるよ。先手は?」

「あなたに譲るわ。好きな曲を歌って。ああ、そうそう……まさか芸人ともあろうものが曲の最中に毒ガスなんて使用しないわよね?」

「うるっせえー!! 知るかボケェ! 黙って聞きやがれ! これがアタシだ!」

 

 酒呑童子をかき鳴らす。気分乗らないなあ……

 

「無明に唱うは外道の回向ー!」

 

 叫ぶ。この茶番じみた流れの中で。

 

「私の業がこれだというなら、アタシは鬼だ」

「光溢れる世界でも、呪われた者には何も見えやしない」

「呪いを飲み干し、無明の中ですべての鎖を引きちぎる。それがアタシの道だ」

「私が背負う、赦しはいらない」

「アタシは三毒を殺す毒。厳しい道になるだろう。アタシは世界を照らす鏡になりたい」

 

 アタシが弾くのはコテコテな激しいロックだ。古典的ですらある。

 姉さんがいうにはクイーンとかアイアンメイデンってバンドに似てるそうだ。

 アタシの演奏が終わり、ソリテールがピアノを弾き出す。普通にうまいじゃん……何ならできないんだよあんた。

 

「命に善悪はないわ。それはただの命。輝かしい命。リンゴのように、ただ落ちるままに落ちるだけ」

「見たこともない輝く世界よりも、誇りある闇の中を私は飛びたい」

「光を拒むわけじゃなくて、ただ私たちも命の鎖の一部だと信じてるだけ」

 

 賛美歌のように透き通る声。アタシはちょっと気圧されてしまう。上手いじゃん……

 ちょっとの隙を挟んでアタシは無理矢理レスポンスをぶち込む。

 

「アタシは飛ぶ。アタシは地を這う者達の翼になりたい。高く、高く。輝いて。誰も迷わないくらいに。私はここにいるんだ!」

 

 チッ、すぐに曲を取り返しやがった。しかもちゃんと曲として違和感ないのが腹立つな。

 

「輝ける青空よりも、私は誇りある夜を飛ぶわ。私たちはただここにいていいんだと。風になびく花のように。ただ自然に」

「私たちが命の鎖の一部だと信じてる。私は世界を写す鏡になりたい」

「全てが見えるように高く飛んでも、そこに光はないわ。私たちは雪のように落ちていく。暖かい光の中でただ溶けていくだけ。それが運命。例外はないのよ」

 

 すんごい爽やかな歌うたうよね。

 EDMと賛美歌混ぜたような感じ。シンフォニックメタルかも。あくまで人間の感性ならそうってだけでだいぶ魔族よりな音感だけど。

 いよいよラストのメロディか……アタシは少しづつ近づいて、目の前で歌う。

 

「もしアタシが運命に飲み込まれて、消えていく事をよしとするなら。その時はアタシはきっと十分に抗ったはずだ。なら、アタシの塵から新しい花が咲くのを願ってる」

 

 アタシはかみつくような顔、ソリテールはいつもの薄い微笑みだ。

 

「どうかしら、歌合わせは私の勝ちのようだけど」

「あんたレスバ上手すぎなんだよ……口達者が過ぎるだろ」

「あなたが言えたことかしら」

「違いない」

「言い残すことはある? ぜひ聞きたいわ」

「後悔一つねえよ」

「そう」

 

 アタシの首筋を十字剣がかすめる。これだ! ここまではお互い予定調和だ! 

 大筋はお互いに読み合ってただろう。

 武器と魔法による序盤、問答っていうかさすがにセッションは予定外だったけど、近づいて煽ってくるだろうとは思った。

 アタシの動脈から血が吹き出て、ソリテールにかかる。

 技を借りるぜリュグナー!

 

ただの血の目潰し(バルテーリエ)!」

「やっぱりこうなったわね。血に何の毒を混ぜたの? あなたが反撃できるタイミングはここしかないものね。鼻から脳を垂れ流す蛇の神経毒? それとも心臓を止める蜂の毒?」

 

 ソリテールはアタシの血をぺろりと舐めて余裕の様子だ。

 ちなみにマジでただの血しぶきでしかないので魔法じゃない。

 短期間で「血を操る魔法(バルテーリエ)」を完全に習得できるわけないじゃん!

 できるけど、半端になるから魔力を入れないほうが油断を誘える分まだマシ。

 

「『毒の種類を判別する魔法』」

「毒じゃねえよ。それは薬として作られたからな」

「へえ、確かに解らないわね。なら『薬効を消す魔法』どうかしら? まだ何かしてくれるのかしら」

「そうだな、じゃあそれの解説するよ」

「時間稼ぎ? なんのために?」

「それもすぐわかるよ。ある街ではアタシと同じように人が人には認識できない感覚を認識するための研究が行われてた。その方法の一つとして頭に海水をぶち込むという方法があった。どうなったと思う?」

「なぜか成功したんでしょう? でもどうして? 普通は死ぬわよね」

「特別な海水だったからさ。神と言われるほどの魔獣の死体の浸かった海水だ」

「魔力がしみ出ていたのかしら。いいえ、それだけじゃないわね。ああ、寄生虫? なら大丈夫よ『寄生虫を殺す魔法』さあ、これで終わり? 続けて?」

「でだ、アタシが補助脳の一つに超精巧な魔力塊を作れるのは知ってるよな? ところで寄生虫を模してそういう砂粒より小さいサイズのゴーレムを作る技術の延長なんだこれ。ナノマシンっていうんだけど」

 

 おっ、顔が青ざめたなソリテール。

 

「そうだよ! 『薬として作られた寄生虫のように働く極小サイズのゴーレム』だ! そんなもんを打ち消す魔法なんてないだろう! ……ところで血液感染(ブラッドボーン)って知ってる?」

 

 獲物の前で舌なめずりしてメチャクチャ煽りまくるのたのしー! 魔族の性だね。悲しいね。

 ソリテールは真っ青な顔をして海に飛び込んだ。

 

「あんたに投与したのはもうわかるよな? 『人間の脳を模した補助脳を作るナノマシン』だよ。ちなみに麻酔してないから死ぬほど頭が痛くなると思う。それでちゃんと泳げるか見物だな」

 

 ソリテールは必死の顔で血を洗い落としていた。だが、その手が止って頭を抱え始め……やがて、沈む。

 

「がぼがぼっ! 頭が……! 割れる! こんな、死に方……!」

「ああそこ離岸流だから気をつけてな。バイバーイ」

 

 マハトが飛んできた。

 

「勝ったのか、あのソリテールに」

「2度と戦いたくないねあの女とは。ああ、その……悪いな、知り合いを2人も殺しちゃって」

「……思うところがないわけではない。だが仕方なかっただろう」

「……そうだな」

 

 アタシは劣化版の「血を操る魔法(バルテーリエ)」で止血しつつ止血軟膏を塗る。

 そんな風に黄昏れていると……

 海から水柱が上がった! マジか。もう品切れだぞ。

 

「うふ、うふふふふ……あははは! 素晴らしいわ! ありがとうイブキ! これが悪意! これが罪! ああ、なんて熱く甘いのかしら! とっても良い気分よ……! よくもありがとう! これでおそろいね……!!」

 

 こっわ! 笑顔こっわ! 鬼の顔じゃん。

 ヤバい。ヤバいヤバいヤバい! あのソリテールが悪意を学習した。仕留めきれなかった! 油断だ-! やっちまったよー! 

 アタシたち二人に向けて容赦ない十字剣の弾幕が飛んでくる。

 

「マハト!あなたの本当にやりたいことはね……!」

「マハト! 殺らなきゃ殺られる!! なりふり構ってられねえ! 海ごといけ!」

「……残念だ。ソリテール。『万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)』」

 

 笑顔のソリテールが黄金に染まる。いや、おかしいぞ。これまさか。

 

「さようならお二人さん! そのお家はあげるわ! 私はやることができたから! たくさんたくさん素敵なことを思いついたの! ああ、素敵よ……!」

 

 とお──ーくの方で手を振ってるソリテール。やられた。分身だ。

 マハトの方を見た。首を振る。

 

「範囲外だ。もはや追いつけん」

「やっちまったなあ……」

 

 バチクソヤバい女を爆誕させちまったよ……

 

「これは……」

「マハト?」

 

 そこでアタシは見てしまった。十字剣に書いてある文字を。

 

『マハト、あなたは戦いが嫌いではないの。あなたの嫌いな物はつまらない戦い。あなたのしたいことは、命を賭けるような楽しい戦いよ。楽しんでね』

 

 最悪だよあのヤバ女-!もう悪意を使いこなしてるよ。

 

 ★

 

 とにかく、その日はアウラたちを休ませて朝に早々にマハトの別の隠れ家に急いだ。

 

「ど、どうするのよ-!! 遠くから見てたけど今の私じゃ絶対あのヤバ女に勝てないじゃない……! 『服従させる魔法(アゼリューゼ)』でも魔力量ギリギリだし、兵隊がいない『服従させる魔法(アゼリューゼ)』じゃあ普通に火力負けするわ! 楽団だって私よりも全員弱いのよ-!」

「……うん、マジでごめん。だからさ、人間領いこう」

「どうやって入国するのよ-! 魔族なのよ! 戦争中なのよ-!」

 

 ゆっさゆっさ揺らさないでくれよ……やけ酒のんだから吐いちゃうよ……

 

「『魔族系バンドをやってるエルフです』でいこう!」

「ええ……」

 

 また始まったよ、という顔を全員してた。




ここらでシリアスパートは終わりです。また酔っ払います。
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