『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」 作:照喜名 是空
マハトの隠れ家は入り口あたりに黄金化した弓手のいる廃村だった。
たぶんマハトが虐殺したんだろう。あちこちに人骨がある。
後で埋めておこう。面倒くさいけど。
「そもそも『魔族系バンド』って何よ?!」
「こう……人間があえて魔族の格好して女神への反逆を歌う、みたいな……」
「どっちみち火あぶりにされるじゃない!?」
「まあそこはアタシがギリギリ許されるかなって範囲内で歌詞つくるからさ……」
「私もチェックします。そういった所ではイブキ様は信用できません」
「リーニエのほうがまだ安心できるわ……絶対チェックもれしないようにね!」
「はい、命がかかってますから」
ちなみに、今は村の中央の広場でそのへんで狩ってきた獣の肉を焼いてみんなで酒飲んでる。いいよねキャンプファイヤー。
もちろん、肉には例の薬……長いから「
「いや、ちゃんとカバーストーリーは考えてあるんだって! 『私たちは魔族に村を焼かれたエルフなので魔族の格好をして魔族の愚かさを伝えています』っていうアレでさ……」
「良い魔族の恥さらしじゃない!?」
「今更だろそれは」
「そうだけど! 人間の格好して普通に楽団やる方が丸いじゃない」
「じゃあ聞くけど、お前ら常に魔力偽装ずーっとやんの? ずっと年取らないのどうやってごまかすの? 人間じゃあり得ない量の魔力してて年取らない存在って魔族以外にはエルフしかいないじゃん」
「じゃ、じゃあエルフの楽団でいいでしょ! なんでそんな回りくどいことを……」
「そう思うからだよ。まさかそんな回りくどくてバカみたいな事を本気でするヤツいないだろって思うからするんだよ」
「悔しいけど理にかなってるじゃない……えー、でも納得がいかないわ……」
「じゃあ十年単位で魔力偽装ずっとする? 毎日石のベッドで寝るくらいにはキツいと思うけど」
「絶対嫌」
「だから一目見て魔族っぽいけど明らかに間違った格好してるだけのアホだなって思われた方が得なんだ。角も紙でちゃっちい偽物つくる。ちなみにエルフの格好も微妙にズレたやつにする。リアルすぎないのがいいんだ。人間が考えるエルフ、みたいな感じにしよう」
「たしかにもうそこまでいくと本当は何かとか考えるのがバカらしくなるわね……」
「だろ!? だろ!? 真実を隠すならめちゃくちゃ沢山のウソと半分くらいの本当を混ぜるんだよ」
「角はどう隠すの? まさか上から紙を貼るとか……嫌よ本当に」
「さすがに嫌だろうから、ウチのメイク係にがんばってもらう。なあメイウェザー!」
「はい。え? 俺ですか~?」
メイウェザーはガタイのいい一見気は優しくて力持ち風の男魔族だ。軍神リヴァーレにぱっと見似てる。
こいつは「ちょっとだけ姿を変える魔法」を持っててこれで角を隠したり顔を変えたりして潜伏するのが得意なやつだった。
まあ今はメイク係兼チェロ奏者なわけだが……
「メイウェザー、そういうわけでお前が毎日魔法で全員の角を隠すか、アタシも『ちょっとだけ姿を変える魔法』を覚えるか。どっちがいい?」
「毎日……うーん、毎日ですかぁ~……? わかりました、イブキ様も覚えて下さい。それからアジシオベルドを月にもう2瓶ください~」
「うん、悪いけど頼むわ。これでイザとなれば全員顔変えてエルフでーすと言っても良いし魔族系バンドですと言っても良いわけ」
「ぜひエルフで通したいわ……リーニエもそう思うわよねえ!?」
「エルフのほうが若干ましです。本音を言えば人間の振りが楽ですけど、バレる可能性を考えたら……」
「じゃあそれでいこう。ハイみんなかいさーん。今日はお疲れー。肉と酒は好きなだけ取っていっていいよ。調味料もあるだけね」
『有難ッス!』
みんな肉と酒を手にとってそれぞれ適当な家に入っていく。魔族は基本的に一人飲みが好きだ。ぼっち種族なのだ。
残ったのは『なんで殺人を止めたら和解できるか』をアタシがメモした紙を音読しているマハトと面倒くさそうにタバコを吸っているアウラだけだ。
実質幹部会になるね。
「どうよ、捗ってる? マハト」
「ダメだ。掴めたと思ったらその内容をすぐに忘れる。やはり補助脳とやらが必要だな。早くその薬をくれ。ナーノマシーンだったか」
だろうね。バイアスってそういうものだ。思考が逸れるしすぐ忘れちゃうものなんだ。
「今日中にやるけど、ちょっと確認な。この村お前が襲った? それからそこの弓手のキンキラはお前がやったの?」
「そうだ、それは悪い事か?」
「いや、ならちょっと言うことがあるわ。お前がこれを飲んだら少なくとも3日はアタシたちといろ。自殺防止だ。はっきり言ってお前は心の痛みってやつを舐めてる。味わったことがないから仕方ねえんだけど。だから今のうちにこの言葉をやるよ。『狼が鹿を食べたとして、それは善でも悪でもない』覚えておけ」
「……わかった。覚えておく」
「もう一つ。ソリテールの言ったことだけど『楽しい戦いがしたい』ってやつな。アタシもそうだと思うよ。お前は穏やかな生活が好きなのも本当。それはそれとしてたまにはヒリつくような戦いがしたいのも本当。どっちも好きなんだよお前は。矛盾してるけど、矛盾した願望を両方持ってるのは当たり前だ。それが心ってもんだ」
「そういうものなのか」
「だから私はお前の『
「それは少し興味があるな。たしかに楽しそうだ」
「アウラ、お前の出番だよ」
「えっ、私?!」
「アタシとお前で『
「やっぱり回りくどすぎない……?」
「でも確実だ。全員裏切りの心配が少ないよ」
「いや、それならば俺が魔力を絞った状態でそれを命令してくれ。俺は信じたい」
「……本当にそういう所だぞ……わかった、その覚悟受け取ったよ。やっちまえアウラ」
「はいはい、もー本当に気軽に使ってくれるんだから……『
天秤が傾き、マハトの目がぼんやりした。命令受付状態だ。
「マハト、『今後一生『
キイインという音と共にマハトの目が戻る。
「これで終わったのか?」
「試しにちょっと使ってみたら? 性能変わってるかも」
「そうだな」
マハトは指先をちょっと地面につけて『
「……性能が上がっている」
「やっぱな。リスクを上げた分は何かしら得になる。『
マハトは次にマントから黄金の剣を作り出してぶんぶん振っている。まるで空間ごと切れそうなすごい勢いだ。
さすが正面からの魔法戦最強じゃん……
「扱いやすいな。黄金化の速度、魔力効率、使いやすさ……全て『軽く』なった感じだ」
「だろうね、たぶん術式を一部削除して容量削った分リソースが空いたんだろ」
「お前はたまに良くわからないことを言うな」
「そのうちそれもまた説明するよ……」
「っていうかお姉様! なら私の『
「あー……いいけど。怒らないで聞いて下さいね。それさ、多分コンセプト……設計思想としては『魔族の倫理規範である魔力量による上下関係をきっちり守らせたい』だよね多分」
「意識した事は無いけど、そうかもね。そういうのは気分良いわ。良いことした気になるもの」
「お前本当に魔族基準では良いやつだよな……」
「ありがと。で、改善案は?!」
「うん。その設計思想に真っ向から喧嘩を売るんだけど……本当に身も蓋もない話なんだけど……それ、武器を作る要領で鎧を作ってさ……それを大量に使役すればよくない? 別に服従させなくても大量の兵士作れるよねそれ。だって生前の技術とか別に生かしてないし……要は人形が沢山あればよくない?」
アウラは豆鉄砲くらった猫みたいなぽかんとした顔で宙をしばらく見た後、真剣にプレゼントを悩む時のエルフみたいな顔になって、それからマジ焦りの顔になった。
「えっ……? あ……そうね、できてしまうわね……え? あれ? え? あれ? あれ? ねえ、じゃあおねえさま、あたしの500ねんって、ぜんぶ……」
「落ち着いて! 落ち着いて! タバコ吸う?」
「すうわ」
タバコ吸う指がめちゃめちゃ震えてた。ウケる。
「いや、無駄じゃないから。魔力量多いほど沢山鎧人形作れるし、大量の人形を扱う技術は絶対無駄にならないから。ね。大丈夫大丈夫。深呼吸しよう?」
「すー……はー……あは、あはは……うふふ……そうね、ええ、そうね……」
しばらく乾いた笑いをしてるアウラの介護を一時間くらいした。酒を一〇杯くらいのんで据わった目でタバコ吸っては肉食ってる。
「あの、あのさ……怒らないでね? 怒らないできいてくださいね。もう一つ改善案があるんだけど。聞く?」
「聞いてやろうじゃないー! もうここまで来たら何でも来いよ! あれ以上の衝撃は来ないでしょ! あははははー!」
「まず穏当な方から行くね。さっきのマハトみたいに『双方合意があれば魔力勝負なしでも約束事を絶対に履行させる魔法』として運用するとかさ……」
「もーやっちゃったものねえー! いいんじゃないですかあー!!」
アウラが肩くんで耳元で叫ぶ。うるせえ。
「どーせまだろくでもないものあるんでしょー! 言えコラー!」
「あー、うん。怒らないで聞いて下さいね。本当に怒らないで聞いて下さいね。『魔力勝負以外の勝負でも何らかの勝負に負けたヤツに命令を一つ実行させる魔法』でよくない……? これなら格上食いできるよ。設計思想と逆だけど」
「あっはははは! あーははは! 私の魔法がレイプされてるー! あははは! おっかしー! ねーどう思いますかー! 七崩賢最強のマハトさーん! 私の魔法がファックされてるわー!」
めんどくさい酔い方してるじゃん……悪い酒だ……
アウラは今度はマハトに酒臭い息を吹きかける。
「魔族の良識としてどうかと思うがたしかにその方が強くなるな」
「だってさー! 常識ないんですかー! なかったわよね! ロックンローラーですものね! あはは-!」
アウラがアタシの首をぐらっぐら揺らす中でアタシは面倒臭くなってオニコロをちびちび飲んだ。
きっと後で二人そろって吐きまくると思う。
「ねえナノマシン飲むの明日にしよっか。この勢いの人2人介護するのアタシは無理なんだけど」
「どうやらその方がよさそうだ」
そしてその翌朝。二日酔いのアタシの耳にマハトの叫び声が聞こえた。
「うわああああ!」
「あー……やっぱり飲んじゃったの? 薬」
ドア開けてマハトの部屋に入るとベッドの上で身体を起こして頭を抱えてた。
「お、俺は……俺はなんということを……助けてくれ。胸が……苦しい。これが心の痛みというやつなのか……?」
「そうだよ。死ぬほどつらいだろ。だから言ったじゃん。それがアタシ達に永劫に課された罰だ。だから死のうとか思うなよ」
「これを抱えて生きるのか……」
「それが罰だ。だからそれ以上の罰はアタシは要らないと思う。生きろ。生きて償え。そもそも、言ったじゃん『狼が鹿を食べても、それは善悪じゃないし罪でもない』って。それでも足りないなら。誰が許さなくてもアタシがお前を許すよ」
「許される事じゃない……!」
「お前がお前を許さなくても、アタシは勝手にお前を許すよ。だから生きて、その上でこれからは繰返すな。そんだけ」
寝室に静かにマハトの泣き声が響いた。
アタシはベースを出して、静かに子守歌を弾き始める。
「小さな人の子よ 森へ迷い込んだ 大きなこの羽がぼうやには見えないのね」
「何も知らないまあるいほっぺよ。ねむれやねむれ。しずかな水辺においで」
「う、うう……あああ……!」
いいんだ。今は泣け。胸くらい貸してやるから。そういうのは女の役目だろ?
冬の近い寒村に静かな子守歌がずっと響いた。