『本編完結』「魔族でも美味しく酒が飲める魔法」   作:照喜名 是空

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休養期間の話が思ったより長くなったので三部に分けます。
閑話って感じなんですが、すいません…


カス魔族は休養する:中編

 

 落ち込んだマハトとアタシに魔法をファックされてブチ切れてるアウラの介護で一週間を消費してしまった。

 ちなみにアウラの『服従させる魔法』の改善は普通にすぐできた。

 アウラはそれを見てしくしく泣いていたがそのうち鎧のデザインに凝り出した。

 どっちでもよさそうなのをねえどっちがいい? とどっちでもよくない顔で死ぬほど聞いてきたのでめんどくさかった……

 そんなこんなもようやく落ち着いたある日の晩。

 

「……」

 

 マハトが弓手の黄金像の肩に手をかけようとしていた。

 アタシは魔力隠蔽をしつつ最速で飛んでその手を掴んだ。

 

「死ぬ気か? やめとけよ、そんな死に方してもつまんねえだろ」

「……違う、と思う。俺にはそれでも生きて知りたい事がまだあるようだ。これもその一つだ」

「なら止めないよ」

「……お前は俺を止めるためにこの雪の中で酒を飲んでいたのか?」

「ただの雪見酒だよ」

「そうか。そうだな」

 

 弓手にかけられた『万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)』がパキパキ音を立てて解除されていく。

 弓手は呆然とした顔で目線だけで周囲を見渡すが、すぐに鬼神の顔でマハトに弓を撃った。

 マハトはマントを黄金化してそれを防ぐ。

 

「あれからそれなりの時間が経った。俺も考えを改めたよ。発動条件をつけたんだ。お前のように名乗りを上げてたった一人で向かってくるような勇士には使えないことにした」

「戯れ言を」

「信じないだろうが、本当だ。俺はもうお前自身には『万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)』を使えない。たしかヴァールハイトだったか。これなら戦いになるな」

 

 この時点でめっちゃ弓矢と黄金剣の応酬が続いてる。高レベルの戦いでなにやってんだかわかんねえ……

 双方が距離を取って仕切り直した時にマハトはマントを今度は大斧槍に変えて構えた。

 

「元七崩賢、黄金卿のマハト。参る」

「人間のふりを……!」

 

 そこからヴァールハイトとマハトの戦いは3日3晩続いた。

 楽団のみんなはめちゃくちゃビビりながら遠巻きに見てた。

 

「村を乗っ取って今度は魔族の村か。おぞましい」

「そうだな、おぞましいことだ。だが、彼らを殺すのは俺を殺せた後にしろ。俺も彼らに加勢させない。魔法で契約してもいい」

「白々しいウソをつくか」

「取引だ。もし本当なら受けてくれるか」

「本当ならば悪い話ではない。俺にも勝ち目が出てくる」

「そうだな。受けてくれ」

「本当ならばな」

「そういうことだアウラ。魔法を」

 

 楽団のみんなを守るために大量の騎士人形を出して壁にしてたアウラに振るマハト。

 

「ああもう、しょうがないじゃない……『契約を履行させる魔法(アリューゼ・ディストーション)

 

 縛りで魔法を強くするのを、いつしか楽団のみんなは『増歪(ディストーション)』と呼ぶようになった。

 逆に威力を落したり、コンセプトに反してでもでも縛りを緩くするのを『暈歪(ファズ)』とよんだ。

 

「……たしかにそのようだな」

「ああ、そうじゃないと『つまらない』」

「変わった魔族だ。お前も、こいつらも。感情の模倣が上手いのか?」

「俺は人の心を知るために自らの脳をいじった。魔族は知りたいと思った事は何をしても知りたくなるんだ」

「おぞましいな」

「そうだな。今ならそう思う。だが、そのおかげでこんなにも戦いが楽しい」

「哀れなやつだ」

 

 ヴァールハイトは真顔で、マハトは憂いを帯びた笑顔でずっと戦っていた。

 ちなみに二日目からみんな慣れて適当にそのへんで曲の練習したりしてた。

 

「まるで人間だ……頭がおかしくなりそうだ」

「だが、人間もまた、人間を殺せるだろう。戦争ならば」

「そうだな。これは戦争だ」

 

 そして、三日目。精根尽きたヴァールハイトは膝をついた。

 

「もうやめよう。お前に勝ち目はない。これ以上は楽しい戦いじゃない」

「俺はまだ負けていない……!」

「そうだな。可能性はある。最後の気力を振り絞るとか、逆転の奇策を持っているとか、油断を誘うとかだ。だがそんなのは嫌だ。そういうもので負けたくない」

「お前の都合だろうそれは」

「そうだ。だがお前に取っても都合がいい。見逃してやる。もっと強くなって俺を正面から倒してくれ。お前と戦って気づいた。俺はどうやら極限の技の競い合いの中で全力をもってして戦って負けたい。不意打ちや騙し合いとかそういうのは楽しくない。だから、いつかお前か他の人間が俺より強くなってくれることを願っているんだ」

「薄汚い身勝手な魔族め……! 殺してやる」

「失せろ。ああ、それからもう一つ。この村の事は黙っててくれ。それが見逃す条件だ」

「勝手な事を……」

「どうする」

「生きていれば、チャンスはある……俺は諦めんぞ」

「ああ、諦めないでくれ」

 

 そういうわけでアウラにまた『契約を履行させる魔法(アゼリューゼ・ディストーション)』をかけさせてヴァールハイトは解放した。

 ヤバ女に見つかるリスクはあるが、この流れで口封じできるアレじゃないじゃん……

 帰って行くヴァールハイトをいつまでも見送りながらマハトはすげえ爽やかな笑顔でこう言った。

 

「すばらしいな。人間は素晴らしい。お前達の言うとおりだった。俺は楽しい戦いがしたいやつらしい」

「いい汗かいたって顔でいうなよ……」

 

 新しいおもちゃの箱を開けるときの人間の顔だった。

 まあいいか! これで自殺しないだろう! きっと! 

 死にに行くような戦いをするやつになるだろうけど……

 

 ●

 

 結局、アタシが『姿をちょっと変える魔法』を習得するまで半年くらいかかる見込みになった。

 アレ思ったより高度だわ……でもそれ以上時間をかけたら間違いなくヤバ女に見つかる。

 アタシの見立てではアレが全力で探せばそんくらいだ。この村にかけた隠匿結界とかと、ヴァールハイトを逃がしたことを合算しても。

 でも、アレのことだから新しい脳の性能を試しがてら遊びまくる可能性もあるんだよね。

 その場合でも3年くらいで見つかると思う。

 

「やあ素晴らしい演奏だったよ。私は南の勇者だ。ちなみにこれは秘密だが未来が見える」

 

 そんなある日。南の勇者が尋ねてきた……

 

「や っ て く れ た な ヒ ロ イ イ ブ キ」

 

 めちゃくちゃアタシの頭をアイアンクロウで持ち上げながら目が笑っていない笑顔で持ち上げてるダンディなヒゲの勇者(オフィシャル髭男dism)

 

「えーと……どのやらかしについてかな……」

「ソ リ テ ー ル の 件 だ」

 

 あー……それは、悪い事したなあ……

 

「私はあのクソ女のやることの半分を対処し、それだけで生涯の大半を使うことになる」

 

 ぽいっとアタシを地面に投げてアタシの顔に顔を近づけてブチ切れた笑顔で言う勇者。

 

「ど う し て く れ る ん だ ね」

 

 アタシはとりあえず埃を払って立ち上がり、そして全力の土下座をした。

 これだけ本気の誠意ある土下座は人生で初めてだと思う。

 土下座の師範に2,3人出会ったけど、学んでてよかった~! 

 アタシでもこの域の土下座には20年かかったよ。

 

「あー……それは……うん。その件についてはマジですいませんでした……深く反省しています……」

「うん、まあ立ちたまえ。腹パン一回で今は許そう」

「ッス……」

「歯を食いしばりたまえ」

 

 痛った~! アバラ折れたよぉ……ゲロ吐いたんだけど。すげえ痛いよ……

 

「これは腹いせに言うのだが残り半分は君がやることになる」

 

 ゲーゲー吐くアタシを見下ろしてめちゃくちゃ良い笑顔で南の勇者はそういった。

 

「ウッソだろ……嘘と言ってくれよ……」

「イヤだね。そしてそれが君を殺さない理由でもある。アレは君をおちょくる事にかなりの意識を割いているからね。君を殺した場合、そのすべてが人類に向かうよ。その未来は……見るに耐えなかった……最初の勇者クラフトと相打ちだが……それまでに……うう……」

 

 南の勇者は思い出すだけで胃が痛むって顔でおなか抑えてた。

 

「う~わっ……だろうねってのとマジかっていうのこころがふたつある……」

「ああそうだ。安心したまえ。これも嫌がらせで言うのだが君の死に方はすごくロックなものになる。楽しみにしていたまえ」

「どうなんの?! アタシ一体どうなんの?!」

 

 南の勇者は腹立つ顔で無言で舌を出していた。

 

「教えないよ。君が悩むのがすごく楽しみだ」

「やらかした事の大きさから考えると何も言い返せねえ……」

 

 ◎

 

 それから、現段階で起こっている事を言っておこう。

 新しい七崩賢が就任した。そのうちの一人『福音』のデュエラはソリテールの分身体だ。

 君があいつにくれてやった補助脳で分身魔法を実用レベルまで高めた結果だ。君のせいだね。

 

 そしてそれがやったことだが。

 まず手始めに南部では君の友人だとウソをついて君の血から培養した特別な薬、と言って補助脳をばらまいた。

 自殺者が大量に出たそうだよ。

 それでも、度胸試しに飲むバカが絶えないそうだが。南部の魔族は本当に下品でバカだな。

 

 その上で七崩賢に就任して、君の真似をして北部で歌を歌いまくった。

 君とは方向性が逆の魔王を称える賛美歌をね。その上で魔王教を作った。

 全てはそうすれば君が嫌がると思ったからだ。愛されているね。

 

 ちなみにアレが主張している教義だが……

 

「魔力の高い者を尊敬しよう。上下関係を大切にして礼儀を尽くそう」

「自分の魔法に誇りを持とう。そして他人の魔法への敬意も忘れないようにしよう」

「人間を狩るのは尊い行い。狼が鹿を食べることで森の命が回るように、魔族が人を狩るのは女神が決めた自然なルール」

「酒や怪しい薬を飲んではいけません。それは女神が定めた健やかな生き方を歪めるものです。魔族らしい健やかな生活をしましょう」

「公正なる決闘による狩りはあなたを成長させてくれます。攻撃を受けた事に対する『自衛』として戦う人間のような『対応者』になるのではなく、目的のために自分から殺すことを選択する『漆黒の意志』こそ我々を聖なる領域に高めてくれるでしょう。そこには魔力隠匿のような卑劣さはどこにもなく、ただ清々しい気高さがあるでしょう」

 

 だそうだ。反吐が出るね。

 その上で「南部の逆徒共が音楽で我々を批判するならば、こちらも音楽で魔族らしい正しさを主張しよう」と言って魔族の賛美歌を歌いまくって北部に一大賛美歌ブームを起こしたそうだ。

 

 それから、自らの部下として十歌仙というグループを集めた。

 魔族基準で歌って踊れるセクシーな男女らしいよ。そいつらの人気は今のところ君以上だ。

 もちろんそいつらも士気高揚と人心掌握を兼ねて北部で慰問と称したライブツアーを巡業している。

 そこで売られているのが『音を記録する魔道具』だ。飛ぶように売れてるらしいよ。写真もバカみたいな値で売れてるね。

 ちなみに君の歌も一曲出されている。君がアレと最初に戦った時の歌だ。『録音魔法』でやったんだろうね。

 それを根拠にアレは「南部魔族のリーダーたるヒロイイブキも歌で私に負けました。つまり、どちらが正しいかは明白です」と主張して南部魔族に少なからず動揺が走っている。

 そのタイミングで南部魔族を「鬼族」と呼称して魔王教から破門宣告を出させた。

 君らはもう魔族じゃない、だそうだよ。よかったね。

 

 ちなみにこの数ヶ月後、春に君のファンがその魔道具を持ってくる。君がアレの歌に反論する歌を歌って欲しいそうだね。

 逃げるなよ。君はアレと何年も歌でディスりあう事となる。楽しんでくれたまえ。

 まあそのおかげで魔族と鬼族の歌文化は盛り上がるから君にとっては喜ばしいことだろう? なあ。笑えよヒロイイブキ。こうやるのだよ。

 

 それから。アレのせいで人間領北部最前線の学徒動員隊が5つ消えた。おおよそ3000人の少年少女だ。司令官の大人も含めれば3500人程度だな。

 アレは『黒金の翼を操る魔法(ディガドナハト)』を解析してその亜種である『白金の翼を操る魔法(ディガトモルゲン)』を習得して自らを女神の使いだと嘯いて人間を連れ去ったのだ。

 どうするか考えたくもないが、見たよ。あいつは「魔族の味方をする人間の軍団」を作る気だ。その最たるものとして「魔族の補助脳を持つ人間」を作るよあいつは。

 

 ……最悪だと思わないかね。君はそれを止められない。君ができるのは歌を歌い酒を飲むことだけだ。

 それが結果的にはあいつへの最大の抑止になる。せいぜい良い酒を飲むことだな。

 

 ◎

 

 そう言って南の勇者は旅立っていった。

 最悪だよあのヤバ女! イェニチェリ軍団作りやがったよ……レコードまで……絶対ヤバいことになるやつじゃん……? 

 とりあえず、気分は落ち込んでるけど曲作るかー。

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