人の魔法すら操る、お話好きの異端の大魔族と、まだ若い少年魔族のちょっとしたお話。
おねショタ。誰が何というとおねショタ。おねショタ界隈の者たちに「こんなのおねショタじゃない……」とすごく辛そうに言われようともおねショタなんだ。

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 時系列は黄金郷編の、フリーレンが渡された記憶を解析していてぼぉーっとしている時。ソリテールが結界を解除しようと現れた時に起きた出会い。



ソリテールと書記の魔族

 

 

 かつては城塞都市と呼ばれ、現在は失われた黄金都市と恐れられる都市、ヴァイゼ。

 

 数十年前に魔族の七崩賢の一人「黄金郷のマハト」によって都市一つを丸ごと黄金にされた都市。そこにあるのは動かぬ彫像となった人々であり、美しいだけでなんの価値もない黄金の塊となった街並のみ。

 

 現在この街は、現代の魔法使いの頂点というべき一級魔法使いが数人がかりで張り巡らせた結界によって封じられている。無論、その封印の対象は都市ではなく、その元凶たるマハトだ。

 

 そんなヴァイゼの結界の前に立つ人影がある。

 

 「ああ、やっぱり無理だ。とても入れそうにない」

 

 その姿はまだ年若い少年の形をしていた。だが、人間の少年ではない。一見すると端正な顔立ちの少年だが、その頭から生えた角が、その正体を物語っている。

 

 言葉の文脈だけ見れば残念がっているはずなのに、その表情は少しも動かず、傍から見ればまるで残念がっているように見えないところも、彼が魔族である事実をより克明にしていた。

 

 「さてどうするかな。もう少し探してみるか、もしかしたら近くに黄金化した人間があるかもしれない」

 

 期待を口にする言葉にも抑揚はなく、表情も動かない。ただ淡々と行動を起こすだけの姿には、人間らしさが微塵も見られない。やはりこれは、人に擬態しただけの別のものだ。

 

 彼は結界の周辺を歩き始める。ここはマハトを封じ込めている領域ということもあり、周囲には彼以外の人影はない。当然だ、人間ならば恐怖で、魔族ならば無関心から、こんなところに近づくはずもない。

 

 しかし、そんな誰もいない筈の場所だったにも関わらず、彼を呼び止める声が聞こえてきた。

 

 「こんな所に誰かがくるなんて、珍しいこともあるのね」

 

 それは鈴を鳴らしたような透明な声だった。透明すぎでむしろ無機質に聞こえてしまうほどの。だが、聞いたのが人類であれば、その声色に惹かれてしまっただろうことは疑いない。

 

 しかし、ここにいるのは魔族である。その「人間の耳に心地の良い」声色は、彼の心境に一切の波風を立たせなかった。

 

 「誰だ」

 

 声色に関しては特に情動を覚えなかった彼だが、唐突に声がかかった事実には警戒をしていた。

 

 「驚かせてごめんね、私はソリテール。あまり知られていないけど、これでも大魔族と呼ばれるくらいには生きているわ」

 

 淡いインディゴブルーの、絹糸のような長い髪を靡かせながら微笑むのは、少年魔族の外見よりはいくらか年上の、けれどまだ少女と呼べる外見年齢の魔族だった。これもまた少年魔族と同様に、人間との差異は、額から生えた短い角にしか見られない。

 

 短いカーディガンの下に、白の薄手のローブを身につけた姿はどこまでも線が細く、体格の良い男性が強く掴みかかれば折れてしまいそうなほど、その見た目の印象は繊細で可憐だった。

 

 人間の男性であれば、目を奪われずにいられない、そんな姿だったが。

 

 「これは失礼しましたソリテール様。ですが、貴女もお人が悪い」

 

 ここに居るのはソリテールと同じ魔族。彼女の、人に対しては特効の食虫花の如きフェロモンも、同じ魔族にとっては柳に風が吹くが如くに流されるのみ。

 

 「あら、確かに私は魔力を抑えていたけれど、完全に消していた訳ではないわ。声を掛けられるまで気づかなかったのは、あなたの魔力感知の未熟のせいよ、そうした油断は死に繋がるわ」 

 

 常に慈母の如く微笑んでいるソリテールだが、その内面はそうではない。彼女は優しい性格だから微笑んでいるわけではないのだ。

 

 ソリテールに未熟さを指摘された少年は、一瞬だけ反感を持ったが、相手は自分より圧倒的に魔力が上の大魔族。先程までは抑えていた魔力を解き放ったその魔力量は、少年の数倍以上のもので、魔力の大きさこそが絶対の魔族間のやり取りにおいて、少年がソリテールに反論するなどありえない。

 

 そしてソリテールも間違ったことは言っていない。彼の魔力探知は未熟であり、ここにいたのが強力な人間の魔法使いであったら、彼はここで塵となっていただろう。

 

 「……忠告、ありがとうございます」

 

 「どういたしまして。それで、あなたは何故こんなところに来たの?」

 

 人も魔族も近寄らない。マハトを封じ込める結界周囲に、いったい何の用だとソリテールは尋ねる。

 

 「黄金郷のマハトの『万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)』の術式を見に来ました」

 

 ソリテールの問いに対し、そっちこそ何の用だと問い返すようなことは有り得ない。それが魔族同士の、それも上下の関係が厳然としている時のやり取りだ。彼はソリテールの意に沿わない言葉は述べない。もっとも、彼がソリテールの意をきちんと把握しているかはまた別問題だが。

 

 そんな少年の言葉に、相変わらず柔らかく微笑みながら、彼女はさらなる問いを投げる。

 

 「へぇ、術式を見てどうするの?」

 

 「見て、理解します。自分の魔法はそういうものなので」

 

 「………じゃあ君の魔法は、その魔法で起こされた現象を見れば、その術式構成を理解できるものなんだ」

 

 「はい」

 

 「魔法そのもの、または発生した現象を見れば、一瞬で理解できるの?」

 

 「だいたいはそうですが、その魔法によります。マハトの『万物を黄金に変える魔法(ディーアゴルゼ)』ほどになれば、もしかしたら数十分はかかるかも」

 

 「ふぅん…… マハトの魔法はそれくらいじゃ理解できそうにないものだけど、君の魔法はそれが出来るんだね。お姉さん驚いちゃった」

 

 「理解はできません。僕が使うのは『魔法を写し記す魔法』です。理解はしませんが、術式を『読み取る』ことだけは出来るんです」

 

 「ああ、そういうこと。君はその魔法は暗記なんだね、言うなれば術式を文字化して読み取ってしまうような。だから理解しないままでも写し取れる。でも写し取るだけだから、君がその魔法を使えるようになる訳じゃない」

 

 「そうです。人間の魔法ならば、すぐに理解して使えるようになるものもありましたが、魔族の魔法はどれも無理でした」

 

 「面白いね、君のような魔法を使う魔族が生まれていたなんて」

 

 「はあ」

 

 ソリテールの言葉は嘘ではない。彼女の目の前の魔族の魔法を、本当に興味深く思っている。

 

 彼の魔法は、つまりはコピー&ペーストだ。高等数学などに置き換えると、彼はその数式の答えは理解できないし解くことも出来ないが、その数式を解いた計算式を丸ごと暗記するならば出来、それに長けている。

 

 これが紙面の試験であったら、彼は楽に満点を取ることが出来るだろう。

 

 「これも種としての防衛機能だったりするのかな」

 

 「言っている意味が分かりません」

 

 ソリテールは思う。現在魔族という種族は滅びの方向へ加速度的に向かっている。人間の成長速度と、魔族がこれまで築いていた優位性の天秤が、とうとう人間の方向へ傾き始めた結果だろう。

 

 魔王が倒され、七崩賢もマハトを残すのみ。そしてかの賢老も朽ちた現状を鑑みれば、魔族の未来は明るいものとは思えない。

 

 ソリテールとしては、シュラハトの「足掻き」がどうなるものかを見届けたい気持ちがあるが、自分がそれを見れないことも分かっている。

 

 そんな魔族の斜陽の時代に、こんな魔法を使う魔族が生まれたというその事実に、ソリテールは愉快になる。

 

 理解できないものを、理解できないまま使うのは、人類の特性であり、魔族はそうではなかった。しかしこの新しく生まれた若い魔族は、人類側の考え方に沿った魔法を使っている。

 

 錆び付いていた魔族の危機意識も捨てたものではないかもしれない。

 

 「面白いね」

 

 「何がでしょうか」

 

 「君の魔法だよ」

 

 「そうなのですか?」

 

 「ふふ」

 

 この少年の魔法は、言うなれば「保存」のための魔法だ。魔族は、自分の魔法を極めるために生きるが、その先に答えを持っているものは少ない。

 

 「その魔法を極めてどうするのか?」という問いに対しての答えは「その問いの意味がわからない」となるのが魔族だ。

 

 だが、少年の魔法は、明確に一つの方向性を持っている。

 

 「暗記した魔法は、どういう形で保存するの?」

 

 「こうします」

 

 少年が手を翳すと、一瞬魔力の光が輝き、本が現れた。表紙には「獣の耳から足音を消す魔法」と書いてある。

 

 「これは人間の民間魔法だね。どこで覚えたの?」

 

 「北部高原の猟師が使っていました。その男は魔法使いではありませんでしたが、使えたようです」

 

 「民間魔法ってそういうものだからね。君と同じで、原理は知らずとも使えるんだよ。多分職業としての口伝かな」

 

 「そういうものなのですね」

 

 「ちなみのその猟師はどうしたの?」

 

 「食べようと思ったのですが、返り討ちに遭いかけました。魔力はほとんどなかったのに」

 

 「下手な魔族より強い魔物が跋扈する北部高原に生きる猟師だもの、並みの戦士より強くて当然だわ。いい勉強になったね」

 

 「いい勉強、ですか。なるほど」

 

 「じゃあ、その本を見せてくれる?」

 

 「どうぞ」

 

 「ありがとう。どれどれ……… ふぅん、凄いね。覚え方に使い方、使用するための魔力量なんかもしっかり記されてる」 

 

 「そういう魔法ですので」

 

 ソリテールと会話する間中、ずっと動かなかった少年の表情が、僅かに誇らしげなものになる。己の生涯をかけた魔法を、上位の存在に褒められることは、魔族であっても、いや魔族だからこそ嬉しいものなのかも知れない。

 

 「本当に面白い。それで、一度に本に出来るのは、せいぜいが数冊なのかな?」

 

 「そうですね。今の僕の魔力だとそれが限界です」

 

 少年が本を具現化した前と後の魔力量の変わり方から見て、その程度がせいぜいかとあたりを付けたが、その予想は的中していたようだ。

 

 「君、ちょっと時間ある?」

 

 「別に急いだ用事はありません」

 

 「じゃあ、ちょっとお姉さんとお話しようか」

 

 無論、上位の存在の『お誘い』に、格下の少年が拒めるはずもない。少年とソリテールは倒れた大木に腰掛け、話を始めた。

 

 内容は彼の魔法について、いままでどんな魔法を覚えてきたのか。具現化した本は自在に消せるのか、または破壊できるか、同じ本を複数出せるかなど、ソリテールは根掘り葉掘りを尋ねた。

 

 その執拗さに内心うんざりとしながらも、少年は嘘偽りなく述べていく。中には少年が思いも寄らなかった着眼点からの質問もあったが、そこに深く思い至ることもなく、彼は質問に答えていく。

 

 ソリテールの質問は、彼の魔法からさらに彼自身についてにも及んだ。どこで生まれたのか、生まれてからどのくらいか、他に出会った魔族には誰がいたかなども。

 

 そうして、数時間に及ぶ質疑応答の時間が過ぎていった。

 

 

 

 

 「うん、これくらいでいいかな。長い間ありがとう」

 

 「いえ、大した労力ではないですし」

 

 「こんなに長く同じ魔族とお話したのも久しぶり。魔族は皆個人主義だからね」

 

 「そうですね」

 

 「昔はもっとたくさん友達もいたんだけど。君が生まれた頃に勇者たちによって倒されちゃってね」

 

 「友達……? なんですか、それ」

 

 「なんでもないよ。じゃあ最後に忠告しよう。一見魔力の少ないエルフの魔法使いを見たら、すぐに魔力を消して逃げなさい。君じゃ絶対に勝てないから」

 

 「どうしてそう言えるんです?」

 

 「そいつはね、魔力を隠しているの。さっきの私みたいに少しの間じゃなく、ずっと、それこそ眠っている時ですらね」

 

 「いったんなんでそんなことを、意味が分かりません」

 

 「分からなくていいの。君の魔法もそうでしょ? 理解しなくてもいいから、私の言葉を暗記しておいて。お姉さんとの約束だよ」

 

 「はあ、まあ分かりました」

 

 そうしてソリテールと魔族の少年は別れた。

 

 

 

 

 去ってゆく少年の後ろ姿に手を振りながら、ソリテールは内心苦笑する。

 

 「魔族は進歩してるのか、していないのか、ふふふ」

 

 彼の魔法は、魔族の魔法を残すものだ。人間の魔法と違い、魔族には魔道書などに記して魔法を残すという発想がない。そもそも文字化出来るとも限らない。

 

 自分が扱う魔法を、文字として変換出来る魔族が、いったいどれだけ居るだろうか。ソリテール自身は出来る自信があるが、それは彼女が魔族の中でも異端だからだ。

 

 故に魔族の魔法は当人が死ねば失伝し、後の世に残ることはない。せいぜいが「そういう魔法を使う魔族がいた」という人間側の記録に残る程度。

 

 しかし、今出会った少年魔族の『魔法を写し記す魔法』は、そんな魔族の魔法を形として残すことが出来るものだ。これまで作っては消え、作っては消えだった魔族の魔法の歴史に、初めて『遺す』という方向性を持った者が現れた。

 

 「現れたこと自体は、いいのだけどね」

 

 だが、それを扱う当人の意識ときたら、これまでの魔族と同じなのはどういうことか。

 

 「管理体制が杜撰じゃあ、やっぱりすぐに失伝してしまうわ」

 

 北部高原の猟師に対し、魔力量が低いというだけで油断したり、一級魔法使いの管理下にある結界近くにフラフラ現れたりと、人間を無意識の下に見る、これまでの魔族の在り方そのままだ。

 

 「この本が、本人が死んでも残り続けるタイプなのが、まあ救いかな」

 

 ソリテールに言われるまでもなく、彼はこれまで出会った魔族の魔法を片っ端から暗記し、そして本に変えていた。ソリテール自身の無数の剣を操る魔法も、先ほどの会話中に彼は暗記し、そして本に変えてあり、それは今彼女の膝の上にある。

 

 「私たち魔族は、やっぱり危機感が足りていないわね」

 

 魔王が倒され、大魔族の数が減ったことで、どうやら魔族という「種」も流石に危機感を覚えたらしい。そうしてこの百年の間に生まれたのが、あの少年のような魔族。

 

 その魔法の方向性は良いのだが、肝心の担い手の危機意識は、これまでと同じと来ている。

 

 ソリテールから言わせれば、まだまだ全然足りていない。

 

 「この未来を見たとき、貴方はどんな顔をしたのかしら? ねえシュラハト」

 

 自分たちの種族のどうしようもなさに苦笑しながら、ソリテールは虚空に向けて笑みを浮かべるのだった。




くどいようだが、これはおねショタです。

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