過酷で理不尽な世界にて、一人の奔放人が生を往く。
 死にそうな人を助けるのが趣味の青年がたくさんの死にかけてる人を助けるお話。御照覧あれ。


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自由奔放のリベルタス

◆◇◆

 

 

 

 

 

 暗雲ひしめく悪心の箱庭。

 そこには懸命に生きる矮小な生き物たちがいた。

 彼らは災害や天敵、はては同族に苦しんでいた。

 

 それを造物主は天から鑑賞するだけだ。

 彼らが苦しみの果てに死のうと、自ら死を選ぼうと愉快の一言で片づけるだろう。

 救おうなどとは思わない。何故なら、彼らは苦しんでいる時の方が輝いているからだ。何千年、何万年と彼らを見てきたからこそ知っている。

 

 我らが愛しき『人間』はこの世で最も尊い芸術だ。

 

 生きるも死ぬも絵となり音となり物語となるだろう。

 

 それらは語り継がれ、後世に継がれ、いつしか忘れ去られていく。

 

 しかし、我らはそれを忘れない。忘れてはならない。

 

 ──見守っている。

 それだけが我らの役目と知って。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「やだ、ヤダヤダヤダヤダヤダヤダっ、嫌だ……っ! 嫌っ! こっちに来ないでッ!」

 

「そう言うなって。俺たちも別に嬢ちゃんを取って食おうってんじゃねぇんだ。ちょっと腕の紋章を確認したいだけなんだよ」

 

 暗い鬱蒼とした森の中、厳かな装備を着込んだ男たちが独りの少女を囲っていた。

 その中の一人が少女に軽く声をかける。仕事で仕方なく、そんな言い方だった。

 しかし【腕の紋章】とは何の事だろうか。

 

「何たらたらやってんだよギラン。嫌がろうが何だろうが関係ねぇ、これはお国の仕事なんだぜ? こんなガキ一人に構ってるほど俺たちは暇じゃねぇんだ。さっさと済ませろダボ」

 

「わかってるっつの。な? 俺らは別に悪もんじゃねぇんだよ。ちょっと見せてくれたらそれでおしまい、それ以上は何もしない。だからさ、ちょっとは俺たちのことを信用してくれ──ぶふっ」

 

「イヤァッ!!」

 

 追い詰められた少女が地面に転がっていた石ころを手当たり次第に投げた。それが問答する優男の頬に直撃する。

 男の頬が少し赤くなり、その優し気な目が急激に冷める。

 

「はぁ、そんなに嫌なら仕方がないな。無理やりがお好きならそうしてやる。おい、服を引ん剝け」

 

「へいへい、最初っからそう言やいいんだよ。おら、大人しくしなガキ、じゃねぇとぶん殴るぞ」

 

「い、嫌……」

 

「ご、ごめんね、悪く思わないで欲しいんだな。これも、お、おいらたちの仕事だから、ね、ね?」

 

「あんたはいっつも手つきが犯罪者なんだよ。だからモテねぇんだよデブ」

 

「リリー、ちゃんは、相変わらず厳しいんだな。もうちょっと優しく言ってくれた方がおいらは嬉しいんだけどな」

 

「てめぇに優しくしても一銭にもならねぇだろーが。ちんたら言ってないでさっさと脱がしちゃいな。どーせ着せ直すのはあたしなんだから脱がせるのぐらいあんたたちでやんな」

 

 少女を囲っている人間は四人。リーダーらしき優男に粗暴な男、肥満体系の男に子供体形で口調の悪い女だ。異色の四人ではあるが、いずれもどこかの隊服のようなものに身を包んでおり、同じ部隊に所属していることがわかる。

 

「いやぁぁぁああ!!」

 

 少女の抵抗など知れたもので、数分もせずに彼女は下着のみに剥がれていた。着ていた素朴な村人風の服がその辺に捨てられる。

 露わになった肌に対して、しかし少女が手で隠そうとしているのは肩。もっと厳密に言えば二の腕の辺りだった。まるでそこに何かがあるというように。

 

「やっぱり【腕章】か。気を付けろよ、その子が手をこちらに向けてきたら……」

 

「わかってるっつうの。どんな力を持ってるかわかったもんじゃねぇ。なにせ、このガキが暮らしていたはずの村はこいつ意外もぬけの殻! 人っ子一人いやしなかったってんだ」

 

「ほ、ほんとうにこの娘がやったことなんだな。お、おいらにはとてもそんな風には見えないんだな」

 

「バッカだねぇ、女なんてどいつもこいつも武器の一つや二つ隠し持ってるものなんだよ。演技も嘘もあたりまえにするんだよ。女に理想を求めるのはよしな」

 

「リリーちゃんはいつも一言多いんだな。でも、いつも正しいんだな。うん、おいらも気を付けるんだな」

 

 言い合っている様子の四人だが、その言動に反して彼らにも信頼と呼べる仲があるように見受けられる。

 そんな彼らの手がとうとう少女へと近づき、その隠している秘密を暴こうとしていた。

 

 

「──おっと、もしかしてかなり事案な場面に出くわしてしまったかな?」

 

 

 そこに現れたのは、黒い髪の平凡な顔をした青年。

 敵意はなく、武装もなく、一見して何の変哲もない旅人のようであった。

 彼は四人の後ろから現れるや否やそう呟いた。

 

「「「「──ッ」」」」

 

 それに咄嗟に反応したのが四人だ。

 四人とも別々の方向に散開し、青年から距離をとった。

 何故ただの青年に対しそれだけの回避行動を行ったのか。

 

 それは彼が四人の背後を取るまでその一切の気配を悟らせなかったからだ。

 

「あれ、皆さんそんなに驚いてどうしたんです? いやだなぁ、俺はただの旅人ですよ。そう警戒なさらんでもいいじゃないですか。ていうか、もう立ち去りますから、なんかごめんなさいね。邪魔しました」

 

「……旅人だと? 俺たちの警戒を軽々と潜り抜けたというのに? 能力か? だろうな。背後に来るまで俺たちが気づかないなんてことは有り得ない。ならば奴の能力はなんだ。【無音】の脚章か? あるいは【誘導】の眼章? 俺たちは幻術にかかっているのか? おい! ザッシュ! 俺を思いっきり殴れ──ぶへっ!」

 

「はっはぁ! どうだ目は覚めたかクソギラン!? ぶつぶつ一人で喋ってんじゃねぇ悪い癖だぞ。んで? 幻術だったのか?」

 

「ほ、本気で蹴りやがって、ったく。その答えだが、ノーだ」

 

「へ~! ほ~ん、やるじゃん。てことはお前、技術だけで俺らの警戒を掻い潜ったのか? 能力を使わずに?」

 

「いやだなぁ、いくら俺がエンターテイナーだからって見ず知らずの人を驚かすためだけに能力を使ったりしないですよ。そんなことしたら貴方方【騎士】に捕まってしまいますし」

 

「俺らが騎士だなんてなんでわかった?」

 

「え、そりゃあ見りゃわかりますよ。俺もこの国に居ついて長いですからね。この国の騎士隊の隊服くらい見たことがあります」

 

「お前面白いこと言うなァ、俺ら【暗殺部隊】の隊服を見たことがあるって?」

 

「……あんさつぶたい? え、あの巷で存在が噂されてる暗殺部隊ですか? へー、本当にあったんだなんて驚きだなぁ! こりゃ酒のつまみにできる話ができた。さて、そうとなれば善は急げ、酒場にゴー! って……」

 

「行かせると思ってんのかい? あんた、あたしらの存在がなんで公表されてないかわかってんの?」

 

「はて……秘密だからですか? すみません。なら酒の席では話さないよう口を慎みますので」

 

「し、信じられないんだな。お前みたいな年上のお姉さんウケしそうなクソガキ信用できないんだな!」

 

「私情を挟むなデボラン」

 

「うっ、すまないんだなギラン」

 

「おい坊主、俺たちは今忙しい。お前が酒の席でうっかり俺たちのことを口にしないかどうか、信用に足るかどうかを判断している時間がない。だから、そうだな、こんなのはどうだ? ──お前の【能力】を教えてくれたらみのがそ──────ぶしゃぶしゃぶしゃしゃしゃしゅわー」

 

「は?」

「え?」

「なん、だとォ!?」

 

「嫌だなぁ、全く全く。見ず知らずの人に【能力】を教えろ、だなんてそんなのそんなの。──死にたいってぇ言ってる様なもんだぜ、お兄さん」

 

 どこからか“刀”を振りぬいた様子の青年と、首から上を失って噴水の如く血を吹き出すリーダー格だった男。

 

「てめぇ! 喰らえ──ごはっ!」

 

「うーん、【脚章】、それもかなりレベルが高い。随分と使い込まれてるんですねぇ、それだけ生き物を殺したわけだ」

 

 弾けるように飛び出したザッシュと呼ばれた男を、蹴り一つで文字通り蹴散らした青年。

 

「っ、あんたっ! こっちを見な!」

 

「次は【眼章】ですか。それも【硬直】、これもレベルが高い。いいですねぇ。でもごめんなさい。俺に眼章は効かないんです」

 

「が、眼章が効かない!? そんなまさか──ぁ」

 

 青年の指が彼女の首に突き刺さり、糸が切れたように倒れ伏した。

 

「リリーちゃん! みんな! う、うぅ、許せないんダナ。オイラのリリーちゃんを、テメェ、ブチ転がすぞクソガキがァ!!」

 

「わぁ、もしかして【怪力】の【腕章】では? いるんですよねー、身体強化系の能力使うと人格が変わる人。能力者あるあるですよねっと」

 

「黙れクズが! 今すぐその首叩き折ったる──あうん」

 

「そういう人は大概足元がお留守なんです。学びですね」

 

 腕を肥大化させて襲い来た巨漢の足の腱を青年は切り裂き転ばせた。

 

「このっ! クソガ──ぐふっ」

 

「うん、脳まで筋肉な人は頭を潰すに限りますね」

 

 その頭に刀を突き刺して沈黙させた。

 

「さてさて……またやってしまいました。おかしいですね。今日は喧嘩を売らなかったのに。んっん、なら話し方変えても無駄かな? せっかく丁寧に話してたのにさ。はてさてどうしたもんか。四人も殺してしまった。できるだけ苦しまないように一撃で()ったから怒ってないと良いなぁ。さてさて、早くしないと時間が…………あ」

 

「ひっ」

 

 そこで青年はようやくこの場に残ったもう一人の存在に気づいた。

 

「あらー、見られちゃってた。なんかごめんね、怖かった?」

 

「………………い、いえ」

 

「そっか、意外とこういうことに慣れてる? あ、そりゃそうか、襲われてたんだもんね。参った参った。最近の若い子は経験豊富なんだねぇ」

 

「……あ、あの」

 

「ん?」

 

「たすけて、くれたんですか?」

 

「は? えーいやいや違う違う! そういうんじゃないよ。俺人助けとかしない主義だから。今日はたまたま、ていうか、そこでくたばってるお兄さんが俺の能力を聞いたりするからさ、仕方なく……そう、仕方なくなんだよ!」

 

「は、はぁ……」

 

 誰に言い訳しているのかわからないが、とにかく機嫌を損ねないようにと少女は相槌を打った。

 能力を隠したい気持ちは少女にもよくわかったから。

 

「んで、君はこんなところで何してるの?」

 

「あの、そこの人たちに追われて、逃げて、追い付かれて、それで……」

 

「ふーん、なんで追いかけられたかとかはまあ別にどうでもいいか。俺には関係ないし。てことで俺はやることやったらもう行くから好きにしなよ」

 

「へ……? いいん、ですか?」

 

「? いいも何もそれは君の【自由】だろ。さぁさ、好きなところに行って、好きに生きて、好きに死にたまえ。俺は君がどう生きようと興味がないし、心底どうでもいい。何処へなりとも行っておしまい」

 

「は、はい……! ありがとう、ございます」

 

「あ、うん。なんかよくわかんないけど、変な子だね。可哀そうだからこれあげる、お金。ちょっとだけだけど」

 

「ありがとう、ございます」

 

「ご飯いる? 服は……そこに落ちてるのがそうか。あれ、靴はないの? えーっと、じゃあこれ、前回の街で仕入れてそのまま売れ残ってた奴。あとはそうだなぁ魔物除けのお香とか持ってく?」

 

「え、え、いいん、ですか」

 

「いいよいいよ、もっておゆき」

 

「あの、あの、ありがとう、ございます!」

 

「うんうん、よく食べてよく寝てよく生きるんだよ」

 

「はい……!」

 

 無邪気に喜ぶ少女の頭を撫でる青年。

 

 

 

 

 

 暫くお礼を言い続けた後、少女は服を着直してもらった荷物を抱えてこの場を離れていった。最後の最後までお辞儀とお礼の言葉を言い続けていた。

 いい子だ。

 

「無駄な善行もたまにはいいもんだよねぇ。ほら、悪人どもも反省して帰ってらっしゃい。

 ──【復活(リヴァイヴァル)】」

 

 青年が四人の死体に向かって手を掲げ唱えるや否や、死体の損傷が回復していく。

 

「無暗な殺生しちゃったら俺がお天道様に顔向けできないんだから。ほんともう! しっかりしてよね!」

 

 一人くだらないことを呟く青年。いつものことだ。

 いつものこと、青年はいつも一人なのだから。

 

 

「さて、やることもやったことだし、さっさと町に戻るとしますかね。そんで新しい街に移らなきゃだな。いやぁ、しかし暗殺部隊の隊服だったのかぁこれ。俺ってばこの隊服しか見たことなかったから知らなかったわぁ。今度からそういう常識はちゃんと身につけていかないとなぁ。いやぁでも面倒臭ぇ。いっか。またバレたら殺せば、どうせ生き返らせるし痛みもないだろうし。面倒くさいことは殺せば万事解決! 死こそ最たる自由! 俺は世界一自由な男だ! あーはっはっは! はーっはっはっは!」

 

 

 男はくだらない戯言を吐きながら道なき道を往く。

 その足取りを追う者は誰一人──いや、ほんの小さな影を除いていなかった。

 

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 

 

「ぷはぁ! 死ぬかと思ったぁ!」

 

「ごふっごふっ、くそっなんだったんだアレはッ」

 

「あたしの眼章が効かなかったんだ、まず只者じゃない」

 

「ぐすっぐすっ、おいら、役立たずだったんだな。面目がないんだな……ぐず」

 

 四人それぞれが起き上がり言葉を交わした。

 だが不自然なことに彼らの誰にも()()()という記憶はなかった。

 彼らはただ一瞬で意識を奪われ、気づけば意識を取り戻していたのだ。

 

「俺たちがただ一人に負けるなんてな。平凡な見た目、珍しくはあるが特別でもない黒髪。俺たちに気づかれずに近づいたのはあいつの技術だとして、なら能力はなんだ? 刀を振るっていたな。ならば身体強化の肢章か? あるいは動体視力を上げる眼章? だが目元にそれらしき紋様はなかった……くそ、情報不足だ」

 

「あーあ、女のガキも逃がしちまったな。追うの?」

 

「ダリぃ、いいだろあんなガキほっとけほっとけ。それよりあんな危険な奴がいることを早く上層部に伝えるのが先決だ、そうだろギラン」

 

「ああ、その通りだザッシュ。だが気になるな、本当に何者なんだ?」

 

「お、おいらたちとは別の暗殺部隊とかじゃ、ないんだな」

 

「あたしらにも知らされてない暗殺部隊があってあのガキがその一員? ないね、ないない。うちの上層部はどいつもこいつも脳筋ジジィばっかだ。そんなしゃらくさいこと考えたりしないよ」

 

「暗殺部隊……? 暗殺者……黒髪、平凡な見た目……ああっ!」

 

「なんだよ、なんか思い当たることがあったのか?」

 

「ああ、今思い出した。殉職した先輩が昔言っていたんだ。この世界で最強の男は誰かって話の時だ」

 

「あん? それがなんだってんだよ。この国で最強なのは当然【騎士団長】だろ? あのおっさんに勝てる奴なんざ俺は想像もできないね」

 

「ああ、俺もそう思ってた。でも先輩は言っていた。最強なのは確かにそうでも、一対一ならその限りじゃないって」

 

「勿体ぶるなよ、答えをさっさと言え」

「そうだよ、早く言いな」

「気になるんだな」

 

「曰く、そいつは誰にも従わず、何処にも属さず、何も求めず。曰く、最凶の剣闘士も最強の騎士も最恐の冒険者も奴には敵わない。曰く、そいつはとある王族貴族を根絶やしにして今日まで生き延びている。付いた異名は【死神】──」

 

「だぁもう勿体ぶるなっつってんだろ!? 言え! そいつの名前は!?」

 

 

「──リベルタス。【自由な死神】リベルタスだ」

 

 

 

 

 


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