闇の書ー失われたモノ達ー   作:子持ちオタク

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 誰かの為に何かをする。
 確かに素晴らしい考え方だと思いますね。でも場合によっては良い事ばかりではないです。
 受けた方がどう感じたか、仮に善行を受けてもそう感じなければそれは偽善です。
 むしろ悪です。その逆も然り。





第四話 ヴァイゼンハオス

 

 

 

 

 その背には羽根が見える。

 錫杖を左手に握り、元は()()()()()()()()ドレスに身を包んでいる。

 美しい…… 見る者を魅了する何かを感じさせる。

 全身が血に染まっていなかったならば……

 

 

 

 

 

 

【闇の書ー失われたモノ達ー】

 第四話 ヴァイゼンハオス

 

 

 

 

 

 

 子供達を保護回収する為に私ら108部隊が現場に向かった。

 その頃には施設内部の構造データは完成されとったのですぐに着いたんやが彼女がいない……

 

「補助管理3課の隊長はどうしたん? 他の部隊にでも行ってるんか?」

 

 補助管理3課で先行突入メンバーは4人、この場所で私らが来るまで待機しとったのは3人。

 仮に他の部隊に向かうとしても一人で移動は危険すぎる。

 

「隠し通路を発見したのでそちらに、逃走用通路の可能性もありましたので」

 

「解析の結果では行き止まりみたいですのでこの施設の首謀者が隠れている可能性の方が高いです」

 

 この人らは何を言っとるんや? 自分らの隊長を一人で危険な場所に向かわせるんか?

 しかもそれが当たり前のように?

 

「すぐに向かうで! 一人で行くなんて無茶や!」

 

「その必要はないです。子供達の護送が優先ですので」

 

 隊員が私らを制止する。その表情からは焦燥感は全く感じられへん。

 しかし……

 

「彼女は片腕やねんで? 誰かがサポート付かなアカンやろ?」

 

 私の言葉に一瞬顔を顰めた隊員。

 周りにいた他の隊員も手を止め、こちらを見る。

 まるで私が言った事が理解できないとでも言う様な……

 私の言った事はそんなけったいな事か?

 

「通信が入りました。3課隊長が首謀者を拘束。こちらに戻ってくるみたいです」

 

 108部隊の通信士の言葉を聞いて彼等は持ち場に戻っていった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦日から二日経った。

 施設内部の解析や資料の押収、その後の証拠物の保管も私達の仕事……

 補助管理3課で端末操作の音ばかりが響いている。皆の表情も暗い。

 今回に限らず、保護された子供達や動物はそれぞれ親元や元の世界に戻される…… でも全部がそうできる訳ではない。

 投薬処置をされている者、体の一部を改造されている者、精神異常を起こしている者等……

 場合によっては親が、保護者が受け入れを拒否する事もある。

 管理局で保護したと言ってもその場合にはその子達は証拠物と同じ扱いになってしまう…… 言い方は悪いが。

 

「……あなた達に弟や妹ができても良いかな?」

 

 端末の操作音は途切れない。でも心なしか表情が軽くなった。

 言葉の意図を察してくれたんだと思う。

 私達の家…… アンタールの家族になる事。

 

「こちらの仕事は引き続き行いますので課長は手配をお願いします」

 

 一人が私の作業データを受け取りに来た。

 

「歓迎会開こうぜ」

 

「俺、姉ちゃんの鳥料理食いたい」

 

「じゃあ私手伝いたいなぁ」

 

「お前はそれを先に終わらせろよ」

 

 話しながらも端末操作を止めない。

 本当に優秀な子達だ……

 

「もう…… また姉ちゃんって言ってるよ! 今の作業が終わったら私は抜けるから何かあったらすぐに連絡ちょうだい」

 

 私の口調も砕けてしまっている。

 普段からかなり無理をさせているのに申し訳ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 書類上の手続きはすぐに終われるけどその前に確認をしておかないと……

 孤児院の運営上、どうしても許可が必要なんだから。

 私は()()()戻っていた。

 休日以外はほとんど戻らない…… 事実休日も少ないので戻るのも久しぶりだ。

 

「お兄様…… 私の勝手で申し訳ありません」

 

 お父様はいなかったが代わりに兄が受けてくれた。

 兄も私と同じく養子としてアンタールに入った人だ、私の気持ちをわかってくれている。

 

「ラッへももう少し頻繁に戻ってきていいんだぞ? 子供達も会いたがっているし、トヴィーとルックも愚痴っていたぞ?」

 

「ごめんなさい、なかなかお休みが取れないので……」

 

「『お姉さんが休みを取ってくれない』って聞いてるが?」

 

 必要な書類を受け取りながらも苦笑いで返すしかない。

 休みを取ると他の部隊に迷惑をかける事になるので実質取ってないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 父と兄、私とトヴィーとルック…… 15年前に5人が家族になった。

 当時まだ7歳だった私だけど随分と荒れていた。

 父が管理局を退局し孤児院を設立した当初も父と兄に当たり散らしていた記憶がある。

 それを変えてくれたのは子供達だった。

 今でこそ、多少は大きくなったとはいえ小さな孤児院だったので私も手伝いをしていたのだけど……

 その時の子供達はなんて言っていいか…… とてもいい子だった。

 朝決められた時間に起きて、決められた食事をとって、決められた行動をする、そして決められた時間に寝る。

 わがままなんて一切言わない。そんな状態を見て一週間もしないで私の心が折れた。

 

「いい? あなた達は私の弟で妹なのよ! やりたい事をしなさい! わがままだって聞いてあげるわ! お姉ちゃんに任せなさい!」

 

 それまで自分が一番不幸だと思って憎悪だけでいっぱいだったが子供達を守るのが生きがいになっていった。

 当時の子達には今でもお姉ちゃんと呼ばれるし、小さい子にはママと呼ばれる事もある。

 子供達の事情を知ったのは数年経ってからだったが中には犯罪絡みで親元に帰れない子もいた。

 そんな子達を守るために、そしてそんな子達を新たに生み出さないようにする為に私は管理局に入った……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり俺…… 許せない」

 

「でも良くないよ」

 

「じゃああんたはやんなくてもいいよ」

 

 武装隊情報補助管理4課と書かれた扉の中から声が聞こえる。

 複数の男女の声……

 

「ぼ、僕もやるよ……」

 

「父さんが悲しむかも」

 

「「…………」」

 

「父ちゃん達の為にやるんだろうが!」

 

「3課の奴らも誘うか?」

 

「……やめとこう」

 

「なんでよ?」

 

「俺達の独断でやった方がいいからな。お姉ちゃんにも迷惑かけたくない」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その日、管理局内での不祥事が起きた。

 局員数名が襲撃を受けたのだ。

 しかし場所が管理局地上本部敷地内だった為にすぐに周りは気づいた…… が! 幾重にも重なった封鎖結界に侵入が困難になっていた。

 時間にして1時間程して結界が解かれたが…… 見えたのは悲惨な光景だった。

 地に伏して意識のない局員達数名。

 軽傷を負っているが武器を持ち佇む局員2名。

 そして襲撃者と思われる者達が数名。

 周囲は真っ赤に血塗られていた……

 他でもない、襲撃者達自身の血で。

 物言わぬ骸となった襲撃者達と武器を持つ局員の2人、襲撃を受けてそれを撃退したであろう事は見たとおり。

 しかし本来は非殺傷設定をするはずの局員の攻撃で死傷者が出るだろうか?

 逆に襲撃を受けて気絶している他の局員達は無傷と言っていい。

 過剰防衛もしくは故意によるもの……

 

 そう判断されるのも仕方ないのだろう。

 二人の局員は一時拘留される事になる。

 局員の名前は……

 

〈八神シグナム〉

〈八神ヴィータ〉

 

 2人は元“闇の書”の守護騎士、そして現“夜天の書”の主である八神はやての家族。

 

 襲撃者達の詳細も判明した。

 “時空管理局地上本部所属 武装隊情報補助管理4課”に勤務する局員の半数。

 そしてその全員が“アンタール孤児院”の出身者であった。

 “アンタール孤児院”の経営者とその家族は元“闇の書”の被害者達である。

 これが何を意味するのか……

 

 とある噂が囁かれている。

 “闇の書事件”は終わってないと。

 

 

 

 ……時空管理局に不穏な空気が流れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 何人か名前だけで登場してない人物がいますが、今回の話で導入部分は終わりですね。
 すごく遠回りした感がありますが次回からがメインの話に入っていきます。
 アンチ闇の書……




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