大陸版のペナンスのコーデがすごくよかったので、一夜を共に過ごす話を書きました。R18にはいかないスケベさです

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クリスマスコーデのペナンスと聖夜を過ごす話

「ドクター。今夜飲みに行きましょう」

 

秘書であるペナンスがそう言った。

 

お堅い表情で仕事を黙々とこなし、シラクーザでは裁判官という役職に就いていた彼女だが、こういった誘いは特段珍しいわけではない。別にプライベートまで厳しいわけでもなく、むしろ物に頼ってストレス発散したいなどとフランクに言っていた。

飲みの誘いなら今までもあった。普段なら二つ返事で誘いを受けるのだが、今日はさすがに事情が違う。

 

今日は……聖夜なのだ。

 

 

     ◆

 

 

オペレーターたちが思い思いの飾り付けをしている中、私たちは執務室で普段と変わらず仕事に追われていた。そんな最中に先ほどの言葉を言われた。

 

「……私でいいのか?」

「どういう意味です? よくないなら誘いませんよ」

「いや、だって今日はクリスマス」

「他に約束がありましたか?」

「一応今日の夕方にあるクリスマス会には出る予定だ。それが終わったら特にない」

「なら終わってからで構いませんよ。それにレオンも誘う予定ですし」

 

あ、さすがに二人きりではなかったか。うぬぼれた考えを持ったのは反省。

 

「わかった。それまで何とか仕事を終わらせよう」

 

また仕事に戻り、書類仕事を終わらせる。

 

そして夜……。

 

「え、来られない?」

 

情報端末にて、レオンことヴィジェルと会話をすると、予想外の答えが返ってきた。

 

「すまないドクター。今日は他に約束があったんだ」

「うーん仕方ないな」

「それに姉さんの介抱をしたくない。怖い」

「どういう意味?」

「俺と姉さんの関係上怖いという話だ。雰囲気にあてられそうな今宵は特にな」

 

何を言ってるのかわからん。

 

「しかし困ったな。ヴィジェルが来られないなら男女二人きりになってしまうぞ」

「ああ、心配だな。ドクターが」

 

え? 私?

 

「ドクター。無事に帰ってくることを願う」

「ちょ、ちょっと」

 

疑問も解消されないまま電話は切れた。一体何事かと、白いため息を吐き街を見る。

 

ロドスが停泊している都市で、この街も例外なくきらびやかなイルミネーションが飾られている。街路樹につけられた明かり、店のオリーブの飾りや赤いリボン、あらゆる緑と赤が、この街に聖夜が来たことを知らせてくれた。雪は降っておらず、大通りから見上げる細い空には、街の輝きに負けないくらいの星が光っていた。

 

通りの向こうを見ると、こちらに駆け寄ってくる女性がいた。私に向かうように走ってきて、ずいぶん急いでるなと思っていると、私の真ん前で膝に手を突いて息を整えた。そこでその女性の正体に気づく。

 

「はあ……はあ……ドクター。お待たせしまして申し訳ありません」

 

顔を上げると、ペナンスだとはっきりわかった。いつもの服装とは違い、黒いセーターの上に白のカーディガン、黒のロングスカートという淑女の格好。すぐに気づかなかったのは普段の格好と違うのもあるが、結っていた髪を解いているのが最大の理由だろう。長い髪になるだけで、ここまで印象が違って見えるのか。

 

「あ、あのドクター」

「すまない。人違いかと思って戸惑っていたんだ」

 

と、言い繕ってみる。

 

「ところで、ヴィジェルが来られないそうだが」

「レオンですか。急に用事が入ったそうですね」

「私たち二人なんだけど、大丈夫?」

「何がです?」

 

髪をかきあげながら、平然と言った。

 

「あ、いや何でもないです……行こうか」

 

なんか意識してるのが恥ずかしくなり、そそくさと店に行く。

 

彼女が事前に調べたという店は、大通りの横道にあるらしい。薄暗い通りに、ぼんやりとしたランプだけが扉の前につり下がる、隠れ家のような造りの建物だった。

 

中に入ると、間接照明のみが入った横に広いバーだった。洒落た観葉植物やジュークボックスがあり、そこからジャズが流れてモダンな雰囲気が醸し出されている。長いカウンターには、当たり前だがカップルがいっぱいだった。普段なら入らないだろう店の雰囲気に気圧されながらも、入口近くの席に座る。

 

「ビールと何かおつまみを」

「ウイスキーをロック。アイスボールで」

 

最初からロック!?

 

「どうしたんですぎょっとして」

「いや、最初からウイスキーのロックかと思って」

「それでしたら私もビールを頼まれたのは驚きましたよ。普通はカクテルじゃないんですか?」

「ビールを飲めばそのバーの質がわかるんだ。だから最初に頼む」

 

どこかの受け売りを得意げに語った。

 

「そうなのですね。あまり男性とバーに行く機会はありませんでしたから知りませんでした」

 

注文したものが届く。

 

「では」

「乾杯」

 

チンとグラスを鳴らし、場になじむように語らいを始める。仕事の愚痴、ロドスに来てからの苦労など、冗談交じりに言いながら会話を続けた。バーに流れるBGMも相まって居心地がいい。

 

以前飲みに行ったことを思い出す。

 

あの日はロドス内のバーで飲んだのだ。酔った勢いで、ベッローネの先代のドンの話をした。つまり、彼女の後ろ盾となっていたファミリーのトップの話。

 

「あの人が恨めしいんです。ですが、そう思えば思うほど、私は、あの人を……」

 

よくは聞こえなかったが、ペナンスはそんなふうに零していた。彼女がここまで弱々しい姿を見せるとは思わなかったから驚いたのを覚えている。その後、私は彼女を宿舎へと送り届けた。

 

今はあの時と違い、楽しそうに飲んでいる。聖夜に暗い表情は似合わないから、これでいい。

 

「そうですねえ。なんか判決って言葉だけ聞くと卑猥な言葉に聞こえますよね。ふふふ……」

 

ただちょっと羽目を外しすぎやしないか?

 

ウイスキーロックに始まり、テキーラ、モヒート、カミカゼ……まだ一時間と経ってないのに、これだけの量を飲んでいる。そしてたった今、二杯目のウイスキーグラスを空けた。

 

「飲み過ぎじゃない?」

「大丈夫です。大丈夫ですよ」

 

こくり、こくりと首を動かし、今にも船を漕ぎそうだ。ああ、これはダメだ。前に宿舎と運んだ時と同じ状況だ。

 

「もう一時間経つな。そろそろ帰ろう」

「嫌ですよ。せっかくの夜なのに」

「ロドスに帰ってからでも楽しめるだろう」

「ドクターと一緒にいたいんですよ」

 

え?

 

言い返そうとした口が閉じる。今、完全に告白みたいな文言が聞こえたんだが。

 

「と、とりあえず外に行って頭を冷やそう」

「はい……」

 

ひどい酔いをしているわけではないが、これ以上はさすがに危ういと思い、支払いを済ませて外に出る。それにヴィジェルの会話もここで気になってきた。

 

(俺と姉さんの関係上怖いという話だ。雰囲気にあてられそうな今宵は特にな)

 

雰囲気にあてられそうな時が怖いとは、どういう意味だろう。それにペナンスより私の身を心配していたし。

 

「うーん……」

「肩につかまるんだ」

 

病人を連れるように肩を貸して外に出た。

 

店に入る前よりも、寒気が肌に染みた。通りの賑やかさは相変わらずだが、この通りだけは静けさに満ちている。店や少ない街灯のみがぽつぽつとあり、あとは宵闇が続く。

 

「大丈夫か? ロドスまではちょっと距離があるが」

 

ペナンスに問いかけるも、心ここにあらず。とろんとした目は向こうの建物をただ見据え、頬は赤らんでいる。

これは重労働になりそうだと思っていると、

 

「あそこに行きたいです」

 

と、建物を見ながら言った。

 

「何のお店なんだ?」

「休憩できる場所です。このバーを調べた時に出てきました」

 

改めて建物を見てみる。その建物はただの四角い石造りの場所で、おそらく五階建てほどの高さだ。なぜか窓は全くなく、一つあるドアを明かりが照らしている。一見すると何のお店かは全くわからないが、隠れ家的なお店なのだろうか。もしそうなら、そこで酔い覚ましの料理や飲み物を頼めばいいかもしれない。

 

「わかった。ちょっと休んでから帰るか」

 

そうと決まれば歩くしかない。しかしペナンスも割と長身だから重い……。

 

店までやってくると、すぐにドアを開ける。

 

「……ん?」

 

目の前には狭い廊下があり、突き当たりに受付のような場所がある。壁はなぜかピンク色で、とても飲食店とは思えない内装をしている。

 

なんだここ? しかも、受付には黒い仕切りがあって顔が見えないようになっている。

 

「ここで合ってるのか?」

「はい。受付に進んでください」

 

疑問に思いつつも、受付と思われる場所に行く。

 

「ご利用時間は?」

 

低い男の声が聞こえた。

 

「休憩二時間でお願いします」

 

それにペナンスが一切動じずに、財布を出して答えた。

 

「な、何を言ってるんだ?」

「いいですから」

「二階の205号室です。左側の通路を進むと階段があります」

 

そう言われ、ガラス棒みたいなタグのついた鍵が、仕切りの下から出てきた。

 

え? ホテルなの? しかしホテルにしては内装に派手な色を使ってるし、仕切りがあるのもよくわからない。そもそもホテルは泊まるところで、休憩なんて聞いた覚えが……。

 

ここで自分の頭に電流が走る。

ピンクの壁、顔の見えないようになっている受付、そして休憩という概念のあるホテル。

 

 

ラブホや! ラブホやないか!

 

 

ラブホには、日付をまたがず利用できる休憩のメニューがあると聞いた覚えがある。え? なんでペナンスはここに入ろうと思ったの?

 

「行きましょう。早く休みたいです」

 

もう一人で歩けるようになったペナンスが、私の腕をつかんで廊下を歩く。

 

私も酒が入っているせいか理性が働かなくなっている。それでもこの状況がヤバいのはわかってる。

まずい! オペレーターとなんていかがしい場所に来てるんだ! これじゃあ聖夜じゃなくて性夜だよ。こんなこすられまくったギャグを体感するとは思わなかった。

 

階段を上がると、細い通路にいくつかの扉。ペナンスは私の手を離し、扉につかつかと歩いて鍵を差す。

 

「お、おい」

 

こちらの静止の声も聞かず、そそくさと中に入る。

 

私も慌てて入ると、狭苦しい廊下から一転、開放的な部屋が目の前に現れた。ムーディーな音楽が流れ、ちょっと赤みがかった照明が全体を照らしている。ベッドはなぜか円形だし、右手にあるお風呂場は、なぜか一部がくもってるガラス張り……。

 

 

ラブホや! 完全なラブホやないか!

 

 

「ふーん」

 

意味のわからない言葉を発し、ペナンスはベッドの上にうつ伏せで倒れた。もふっと擬音が聞こえてきそうな白い毛布だった。

 

「あ、あのー。ペナンスさん?」

 

おそるおそる近づいてみると、見えない顔からは小さな寝息が聞こえてくる。

 

もしかして、本当に休憩したかっただけなのか? 本当に眠かったから、ラブホだと知ってようが構わずここに来たかったのだ。二時間だけ眠り、酔いを覚まして帰りたかったのだ。

そう確信し、ため息を吐く。今のため息は、安堵か、無念から来たものかは自分でもわからない……いやいや残念なんて思ってないぞ。

 

何か飲み物でもないかなと、備え付けの冷蔵庫を見ると、いくつかのペットボトルがあった。一応声をかけてみる。

 

「おーい、何か飲み物いる?」

「うーん……」

 

ごろんと仰向けになり、腕を広げる。照明がまぶしいとでも言うように、左手の甲をおでこにつけた。

起こしてしまったのは申し訳ないが、さすがに水も飲まず寝るのはまずいだろう。そう思い、水を持って近づく。

しかし近づいて彼女の無防備な姿を見た瞬間、理性が足を止めた。

 

仰向けになったせいか、前の開いた白いカーディガンがはだけ、黒いセーターから見える二つの山があらわになった。

 

うお……でっか……。

 

あまりのでかさに衝撃を受けた。元々あれほどぴっちりとしたスーツでも存在感があったのに、今は黒のセーターだ。布と比べて毛糸は伸縮性が高いから、二つの山は鼻で笑うようにその存在をさらに強調してきた。

厚手のロングスカートのせいで露出は足にかけても全くないはずなのに、なんでこんなエッチなんだろうか。着てるのにエッチ。いや、着てるからこそエッチなのだろうか。色んな要素を引き算しているから、シンボルである二つの丘陵がより目立つのか。

 

目を奪われている自分に気づき、首を思い切り振る。

 

やばいやばい。私もだいぶ酔ってるぞ! こんな時に劣情を抱いたらほんとにまずいって! ただでさえムーディな雰囲気の中にいるから一線を越えてしまう! 敵が防衛拠点になだれ込んでビービー鳴っちゃう!

 

「ドクター……」

 

苦しそうに息を吐き、こちらを見る。その紅潮した顔を見ると余計に劣情が駆られてしまう。

 

「とりあえず水を飲んでくれ。多少は楽になるだろう」

 

抵抗だけでもしようと、目をそらしてペットボトルを手渡そうとする。すると突然手首をつかまれ、一気に引き寄せられた。

 

「うわ!」

 

ベッドに横向きに倒れ、気づいた時にはペナンスの顔が間近にあった。

薄く開いた目は涙がたまり、こちらを見ていた。紅潮した顔に見惚れ、体の奥底から沸き立つ何かを止めるので精一杯だった。

 

彼女は手を伸ばし、私の頬に触れる。その体温を感じた時、自分の鼓動がはっきりと聞こえた。彼女はそのまま手を首の後ろに回し、途端にぐいっと体を引き寄せる。

 

「ひゃ!」

 

ペナンスが胸に飛び込み、私は凍結でもしたみたいに硬直した。

先ほどガン見した二つの山が腹部を圧迫する。柔らかいはずなのにとてつもない圧力で腹を押す。吐息の熱さが胸に伝わり、さらには人の体温を直に体全体で感じた。その体温と柔らかさがとても愛おしくなり、思わず自分も抱きしめてしまった。

 

……そうすると、自分が抱きしめている物の大きさがわかる。どれだけの体温があるかがわかる。いつもは裁判官として毅然としているが、ここにある体温はただ一人の人間だ。酒に酔い、愚痴をもらすこともある等身大の女性だ。

 

「ドクター」

「ん?」

 

顔を出し、うるうるとした上目遣いで言った。

 

「……このまま寝ましょうか」

 

理性は吹っ飛び、そこからの記憶は無くなった。

 

 

     ◆

 

 

目を覚ますと、ホテルの天井がまず目に入る。いつの間にか眠ったらしく、ちゃんとベッドに入って寝ているのに疑問を持った。さっきまで横になってたのにおかしいぞと思い体を起こすと、隣にふくらみがあるのがわかった。

 

もうその時点で、まだ残ってる酔いや眠気が全部頭から吹き飛んだ。

 

隣を直視するのは、体が否定していた。どうしても現実を見たくなかった。だけど見なきゃいけない。決意を固めて隣を見る。

 

ふくらみは、明らかにこちらから顔を背けて寝ている女性のものだった。ぴんと立った耳、昨日他人と見違えたくらいに印象深かった長髪。

まごうことなきペナンスだった。毛布から出た肩は露出してあり、向こうの床には黒いセーターとカーディガンがちらりと見えている。

 

ああ! やってしまった! オペレーターと一線越えてしまった。

 

どうしようどうしようと備え付けのデジタル時計を見る。今は午前5時となっている。

 

その時間を見てからの判断は素早かった。すぐさま布団から起き上がり、彼女の物だろう衣服を取っていく。スカートもあったのは驚きだが、不幸中の幸いか下着まではなかった。

 

彼女を起こさないよう、なるべく見ないよう、黒いセーターをまず着させる。万歳をさせ、なるべく寝た状態で着させる。途中すごい主張してくる肌色と、それを包む黒のブラジャーが見えたが、必死に目をそらして着させる。

その後毛布の中に入り、ロングスカートを穿かせる。この時間がとんでもなくエッチだった。見えないし、変に温かいから余計に妄想が駆り立てられた。

 

ここまで来たらもういい。カーディガンを脇に持ち、荷物を確認してペナンスをおんぶする。二つの山の圧力はなおも主張してくるが、もう今は構っている精神状態ではなかった。

 

早く、早く誰にも気づかれずにロドスに帰りたい。

 

彼女は深く眠っているせいか、全く起きる気配がなかったのは好都合だった。彼女を起こさないよう、腰を落として、なるべく揺らさないように廊下を進んでいく。

 

「あ、あの……」

 

階段を下りて受付に向かうと、申し訳なさげに尋ねた。

 

「すみません。昨日休憩二時間と言いましたが、延長料金はどう支払えばよろしいでしょうか」

 

そう言って鍵を返す。

 

「205室の方ですか? それでしたら今日の深夜辺りに時間変更のお電話はいただいておりますよ」

「え? 誰がですか」

「お相手の方ですよ」

 

嘘だろ。しれっと延長していたのか。

 

「追加分の料金は帰る際にと説明したはずですが」

「あ、はい」

 

追加の料金を払い、そそくさと帰る。

 

通りはすっかり賑やかさが消え、東の空が若干白んでいた。街灯だけが点いた通りをひたすらに歩く。まるで逃避行みたいだと思いながら、まだ朝は来るなと願いながらもロドスに戻る。

 

「うーん……」

 

ようやく街を抜けたところで、背中から声が聞こえた。

 

「あれ? ここは……」

「そ、外だよ」

「す、すみません負ぶってもらって。もう大丈夫ですので」

 

その言葉にはもう酔ったような調子がなかったので一安心した。下ろしてカーディガンを渡す。

 

「恥ずかしい。おそらく酔ってしまい寝てしまったのでしょうね。今何時です?」

「今は六時くらいだな」

「大変。早く帰らないと」

 

焦った様子でカーディガンを着て、早足で前を行く。

 

「ご迷惑をおかけしたようで」

「……いや。それよりもそんなに急いだらこけてしまうぞ」

「大丈夫です。それに朝帰りはさすがに誤解されそうなので、人がいない隙に帰りたいもので」

 

おや?

 

その言葉に、今までの不安が吹き飛んだ。よかった。昨日のあれは覚えてなかったか……。

いや、そもそも行為なんてしておらず、ただ一緒に寝ていただけなんじゃないか。そうだ。そうに違いない。

 

「こうしましょう。私が先に帰るので、ドクターは後でお帰りになってください。その方が目についても言い逃れができます」

 

頬が赤いペナンスが、こちらを振り向いて言った。まだ酔いは残っているようだ。

 

「あ、ああ……」

「では、私はこれで」

 

そのまま駆け足でロドスに戻っていった。

 

言われたとおり、私はしばらく道端で待ち、ロドスに帰る。

朝方というのもあり、仕事をしているオペレーターは通路にはいなかった。誰にも会うなと願いながら、執務室に到着した時には、もう心の底から安堵した。

 

「危なかった……」

 

雰囲気も相まって、本当に理性が吹き飛びそうだったな。よくぞ耐えた自分の理性よ。

 

そのままいつもどおりの仕事に入る。さりげなく今日の秘書に聞いてみたが、朝帰りなのはバレていない模様だったので、もう何も心配はない。眠気は安堵感がすっかり消し去り、むしろいつも以上に仕事が捗った。

 

「ドクター、いるか?」

 

そんな中、ヴィジェルが昼前に尋ねてきた。

 

「ん? どうしたんだ?」

「姉さんに何があったか知らないか?」

 

内心ドキリとする。

 

「ど、どういう意味?」

「姉さんの様子がおかしいんだよ」

「おかしいって、どんな風に?」

「朝起きてみたら、姉さんが通路の壁にガンガン頭を打ち付けていたんだ。やってしまった。やってしまったってつぶやきながらな」

「……」

「姉さんは昨日ドクターと飲んでそのままロドスに来たと言っていたが、もしかして何かあったか? 何かされなかったか?」

「……ナニモサレテナイシ、シテモナイヨ」

「なんで急にカタコトなんだ。姉さんが迷惑をかけたわけじゃないんだな?」

「それは誓って言う。ペナンスは何も悪くない」

「そうか……ならいい」

 

ヴィジェルが腑に落ちない顔をしながらも、礼を言って執務室を出た。そのドアが閉まる音とともに、とてつもない罪悪感に襲われた。

 

ああ、そうなんだ。彼女は覚えていたんだな。帰り際の赤い顔も、酔いが残っていたわけじゃないんだな。

 

やってしまった。

 

これの意味を察し、私はしばらく放心した状態で頭を抱えた。


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