探求者たちのタイムクライム   作:Okubo Masau

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 結局、ぼんやりと自分の体の一部が光って見えた、程度の症状は何の問題も無しと診断を下されてしまい、タキオンのトレーニングへと戻る鷹木トレーナー。サボりついでに医務室まで来ていたタキオンが、練習相手を待たせていることを今初めて知らされた彼は、またしても自分自身への心配を放り投げることとなった。その相手が、タキオンとは対照的に物分かりもよく正直かつ真面目なダンツフレームであったことは、鷹木の精神状態を大いに安定させてくれたのだが。


仮説は整頓の枠を求めない

 医務室にて診察を受けていた鷹木を、先にウォーミングアップを始めているよう言われていたタキオンがわざわざ覗きに来ていたため、その日の練習開始は遅れてしまっていた。

 

 とはいえ、こうした状況にて、ウマ娘もトレーナーもお互いにとって単独の担当であることは、まだ気が楽な部分もあった。もしも合同で練習する相手のウマ娘を待たせてしまうようなことになっていては、それだけ相手の時間を無駄にしてしまうことになる。

 

 また、練習用のコースやトレーニング機器を使う予約を取っていたにもかかわらず到着が遅れたりなどしたら、予約できなかった他のウマ娘が練習施設を使えないままに時間ばかりが過ぎる羽目になる。

 

「俺の事を心配して医務室まで来てくれたのは良いが、ウォーミングアップだけは先に始めておいてくれと言っただろ。今は、誰かを待たせるようなことにはなっていないから良いが……。」

 

「ふゥむ、トレーナーくんの認識には二つの誤りが含まれるねぇ。まず私が医務室の様子を窺いに向かったのは、心配したためではなく、いかなる症状にトレーナーくんが見舞われたのか興味があったため、ただそれだけだ。」

 

「だろうな。分かってた。」

 

「また、誰かを待たせるようなことにはなっていない、という認識も誤りだねぇ。」

 

「……待たせてるのか!?練習相手を!」

 

 そこまで言われて、ようやく鷹木は今朝目を覚ましたときに抱いた懸念を改めて思い起こした。

 

 今日は、京都記念が行われる日である。言わずと知れたGⅡの一大レース、昨年度での引退もささやかれながら現役続行を決断したナリタトップロード、アドマイヤベガが出走する。

 

 このレースの実況中継を観戦するという状況で、タキオンが誰も誘うことなく済ませる可能性は低い……と起床したばかりの時の鷹木は危惧していたのだ。

 

 その後、自分の体内がうっすら光っている様に驚愕して医務室へ向かうこととなり、その考えはすっかり抜け落ちていたのだが。

 

「い、急いで練習場に!せめて、俺が遅れるって連絡を入れた返信にでも、練習相手を呼んだ旨を入れておいてもらえるか!?」

 

「そう慌てるような相手じゃないからねぇ、向こうも気長に待ってくれているだろうし。」

 

 下手をすればGⅠクラスの先輩ウマ娘相手だろうが平気で待たせるような真似をするだろうタキオンの言葉は、鷹木の焦りと急ぎ足を止める役には全く立たなかった。

 

 人間の急ぎ足は、ウマ娘にとってジョギングにもならない。鷹木にとっては大急ぎで、タキオンにとってはかなりのノンビリした速度で入っていった練習場の中、待たされていたのはダンツフレームであった。

 

 きさらぎ賞での激走に、「レースをひっくり返すほどの可能性」を見出したタキオンが騒いでいたのも、同時に鷹木は思い出す。

 

 棟のダンツフレームは、おそらくタキオンに呼ばれた状態のまま特に説明もなく放っておかれただろうに、彼女なりに時間を無駄にすまいと、ウォーミングアップを済ませて軽く走りこみを終えたところだった。

 

「……ふー……心拍数を上げ過ぎないように、この辺で一旦ゆるめよう。あ、おかえり、タキオンちゃん。それから、お邪魔してます、鷹木トレーナー。」

 

「お邪魔も何も、邪魔したのはこっちのタキオンの方だ。済まない、呼びつけるだけ呼びつけて放置するような真似をしてしまって。」

 

「いえ、やっぱり担当トレーナーさんが医務室で診察を受けてるって聞いたら、心配になっちゃうのも仕方がないですよ。」

 

「私は心配などしていないねぇ、あくまでトレーナーくんが見舞われた症状に好奇心を抱いただけであって……。」

 

 即座にひねくれた反論を展開しているタキオンと、彼女に純粋な表情で応対しているダンツフレームを見比べながら、鷹木は心の中で嘆息した。

 

 自分なりのトレーニングに励み、自分を待たせるようなことをした相手の事情も慮り、不満も抱くことなく愚直かつ懸命に練習へと打ち込むウマ娘。

 

 元よりトレセン学園に在籍するウマ娘が曲者揃いであっただけに、これほどにも素直な性格のダンツフレームは鷹木の視界に眩しく映った。普段から見ている担当ウマ娘のことを考慮すれば、なおさらだったろう。

 

「タキオンも、ダンツフレームと同じぐらい素直だったら……。」

 

「おや、この私に何か不満でもあるのかい?私はいつもいつも素直にトレーナーくんへ接しているじゃないか。」

 

「そりゃ自分の好奇心に素直なだけだろ。」

 

 毎度の減らず口を叩くアグネスタキオンであったが、もはや担当し始めて丸一年が経とうとしている鷹木との掛け合いばかりは円滑なものとなっていた。

 

 ダンツフレームは苦笑にも似た表情を浮かべながらも、担当トレーナーとの距離感をしっかりと確保しているタキオンには憧憬の眼差しを向けていたようだった。

 

 その後鷹木は、脚運びの確認がてらの走行練習を、負荷を掛け過ぎぬようタキオンとダンツに行わせた。

 

 つい5日前にきさらぎ賞にて全力の走りを行ったばかりのダンツフレームには、あまり重めのトレーニングを指示するわけにもいかない。

 

 ダンツフレームの走行フォームは、普段タキオンの走りを見ている鷹木の目には殊に重く感じられた。むろんダンツの堂々たる体格ゆえの体重差もあったが、筋肉量が多すぎるのではとの印象もあった。

 

「筋力トレーニングを頑張りすぎかもしれないな。たしかにコース取りや加速には重要な能力だが、あまり筋肉をつけ過ぎると体重が増えてしまう。スローペースで進んだレースなんかは最後の上がり、身軽なウマ娘に先を行かれてしまうだろう。」

 

「確かに、そう……ですね。こないだのきさらぎ賞でも、アグネスゴールドちゃんに末脚で及びませんでしたし……。」

 

「現状での筋肉量は十分すぎるから、スピードのために多少体を絞ってもいい。普段からダンツフレームは、自分でトレーニングメニューを決めてるのか?」

 

「はい、基本方針は集団指導トレーナーさんに教わっていますけれど、今年に入ってからは自主的にメニューを決めることも増えています。」

 

 担当トレーナーの居ないウマ娘は、苦労することも多い。

 

 先日のきさらぎ賞においては現地でゼッケンを紛失しかけてしまったダンツフレーム。偶然応援に駆け付けたネオユニヴァースに拾ってもらっていなければ、出走取消の憂き目に遭うところでもあった。

 

 トレーニングにおいても、専属のトレーナーが居ない以上、合同練習での集団指導を担当するトレーナーに見てもらう他ない。

 

 もちろん、特定のウマ娘と専属契約を結ばないトレーナーとて、指導能力に劣るわけではない。数々の不得意分野や各々異なった課題を抱えたウマ娘たちを一挙に把握する必要があるため、むしろ相応の経験を積んだトレーナーばかりである。

 

 とはいえ新年度が近づけば必然的に、集団指導トレーナーたちも新入学ウマ娘を担当する時間を優先することになる。入学2年目となるダンツフレームは、担当トレーナーを得られない以上は自力でトレーニングメニューを組むことも身につける必要があった。

 

 そんな彼女に対して、鷹木が出来る事は助言を与える事ばかりだった。まだまだ彼には、学園から指名されていないウマ娘を勝手に担当とする権限などない。

 

「追い込みでのタイムをしっかり記録していった方がいい。コース全体のタイムが変わらずとも、速度が落ちていることにも気づけるだろう、自分ひとりで計るのは難しいだろうから協力してくれる仲間も必要だが。」

 

「そうですね、同じクラスの子たちと一緒に計るようにします。時々、こうやってタキオンちゃんの練習場にお邪魔させてもらうかもですけど。」

 

「……タキオンの練習相手になってくれるのなら、こちらは歓迎するが……タキオンでいいのか?もっと付き合いやすい友達のほうが」

 

「心外な物言いだねぇトレーナーくん!この私以上に、練習相手として相応しいウマ娘がどこに居るというんだい、ンン?探求心に溢れ、ライバルの観察能力にも優れ、何よりも同世代においては最高クラスの実力をも兼ね備えている、この私にいかなる短所が見いだせるというのかね!」

 

「そういうところだぞ。」

 

 ちょうどコースを走り終えてきたタキオンが汗を拭きながら、鷹木が差し出すストップウォッチの画面を覗き込みつつ、いつもの減らず口を淀みなく吐き出す。

 

 確かにアグネスタキオンの能力を持ってすれば、いずれ今世代のクラシック路線において、三冠ウマ娘となる最有力候補となるだろう。

 

 あまりにも遠慮のない態度と、変わり者にも程がある性格が、付き合える相手の選択の幅を大きく狭めてしまっていたが。

 

「そういやタキオン、練習相手として今まで引っ張ってきていたジャングルポケットやマンハッタンカフェはどうしたんだ。遂に断られるようになってしまったのか?」

 

「そんなことはないとも、どちらも取り込み中だったから、私も分別を働かせて声は掛けなかっただけだねぇ。カフェはエアシャカール先輩と共に練習を続けていたし、ジャングルポケットくんはアグネスデジタル先輩とともに走っている最中だった。」

 

 それぞれ、アドマイヤベガを担当する結城トレーナー、ナリタトップロードを担当する桂崎トレーナーが、京都レース場へと向かったためだろう。残された面々は、同じトレーナーの下で指導を受けている者同士で、切磋琢磨を続けているのだ。

 

 その時点で練習相手が居ないのは、タキオンだけであった。ダンツフレームは担当トレーナー無しとはいえ、同じクラスの仲間たちと共に集団で指導を受けるのが常である。

 

 ダンツフレームが今回の誘いに乗らなかった場合、アグネスタキオンだけが孤独に、いつも通り鷹木からの退屈な指導を受け、京都記念の中継観戦も友と一緒に見ることが出来なかったというわけだ。

 

「……タキオン。お前と付き合ってくれるウマ娘は、このうえなく貴重だ。ダンツフレームとの関係は、本当に大事にしろよ……。」

 

「何を今さらなことを言ってるんだいトレーナーくん、こんなにも私の言いなりになってくれる……もとい、物分かりの良い相手を大事にしないわけがないじゃないか。」

 

「それ、言いかえた意味あるか?」

 

 相変わらずのタキオンであったが、ダンツフレームはやはり笑みながらも鷹木との関係性を羨ましそうに見つめていた。

 

 そして、自分の胸中を秘めたままにする性格でもなかったからこそ、ダンツフレームは確かに付き合いやすい存在であった。一通りの練習を終えて休息している時、彼女はポツリと口を開く。

 

「私も、担当トレーナーさんが決まったら、タキオンちゃんと鷹木トレーナーさんみたいにお喋りできるのかな……?」

 

「私みたいな喋り方は真似しない方がいいねぇ、付き合ってくれる友達が大幅に減ってしまうだろうからねぇ。」

 

「自覚あるのかよ。……いやタキオンが自覚していないはずないよな。」

 

 またしてもタキオンの発言へと即座にツッコミを入れる鷹木。

 

 自身では意識していなかったが、タキオンに振り回される一方だった担当し始めたばかりの頃と比べれば、確かにスムーズな掛け合いが出来るようにはなっていた。

 

 すかさず、ダンツフレームは二人の言葉が交わされた空間に身を乗り出すように語る。

 

「そう、今みたいな感じ、です。私に担当トレーナーさんが居ないのは、まだ実力が足りてないから、かもしれないんですけど、私自身が積極的にトレーナーさんを探し始めていないせいでもあるんです。」

 

「あぁ、トレセン学園からトレーナーをあてがわれなくとも、ウマ娘自身が学園へと申請を出せば担当トレーナーを得ることは出来るからな。」

 

「レースに出るからには勝ちたい、その一心でトレーニングするわけですから、真剣なご指導を希望するのは間違いないんです。けど、なんというか、真面目なトレーナーさんが傍に居ると、こうして休憩するときも気を張りつめてなきゃいけなくなる、かなーって……。」

 

 それは新たに担当トレーナーとの契約を結ぼうとするウマ娘たちに共通する悩みでもあったろうが、ある種、鷹木にも刺さる言葉でもあった。

 

 もちろんトレセン学園には様々な個性を持つトレーナーが所属しているが、担当ウマ娘を勝たせることについて不真面目なトレーナーは居ない。鷹木の同期の中でも随一の曲者、片桐トレーナーもまた、その行動の全ては担当ウマ娘の戦績を引き上げる目的に尽きる。

 

 鷹木自身はといえば小心者な側面が目立つトレーナーであったが、だからこそ生真面目さによって自らの判断に確証を得ようとする節があった。

 

 サボること、ふざけることを極力排除することで、自分の担当ウマ娘がレース本番の舞台で勝利するだけの条件を確実に積み上げてきたのだ、と自身にも実感させ、不安を払拭しようとするのである。

 

 そんな鷹木が、中央トレセン学園の所属となってすぐの頃、担当したウマ娘はある程度の戦績……デビューを果たし、条件戦の出走までには確かに届いていた。が、それ以上の戦績には進めなかった。

 

 トレーナーとして真面目であることは美徳ではあったものの、しかしだからこそ……。

 

「トレーナーくんは、退屈だよ。」

 

 アグネスタキオンは、ダンツフレームの言葉を聞き終えてすぐ、迷うことなく言った。

 

 ダンツの言葉を聞いて、これまで自分が過去に担当してきたウマ娘との関係性を思い返していた鷹木は、分かり切っていたものの触れまいとしてきた真理を突かれた思いであった。

 

「タキオン……?まぁ、その通りだけどさ……。」

 

「決して話し上手ではないし、口にするのは必要なトレーニングの提案ばかりだ。トレーニング内容も無難なものばかりだねぇ、確かに練習結果や身体機能の記録と管理を担ってくれるのは助かるが、それだけであれば情報端末一つあればいい、わざわざトレーナーを得る必要はない。」

 

「でも、他に、たとえばレース出走の登録とか、レース本番の日にサポートしてくれたり、とか……」

 

 アグネスタキオンの容赦ない言葉に、なんとかトレーナーへのフォローを入れようと口をはさむダンツフレーム。

 

 彼女の優しさゆえの発言であったが、あくまで優しさが為せる発言に過ぎなかった。

 

「しかし、ダンツくんは独りきりでのレース出走登録から、本番での出走を、少なくともこれまで5回は繰り返しているねぇ?すなわち、レースに出るだけであれば、やはり担当トレーナー必須というわけではないということだよ。」

 

「こないだのきさらぎ賞でゼッケンを失くしかけた時は、サポートしてくれる人がいれば、って思ったけど……ドジをしなければ、良いだけ、かもね……」

 

「であればこそ!私は考えているんだ、こんな退屈なトレーナーが、何故ウマ娘を担当しているのか。何故、彼は、かのテイエムオペラオーを担当し、世紀末覇王と呼ばれるまでの軌跡を走らせることに成功したのか。」

 

 タキオンから「退屈なトレーナー」だと指さされる状況に不満が無いわけではなかったが、鷹木は彼女の喋りに傾聴せずにはいられなかった。

 

 思えば、新米トレーナーだったとき、退屈していたのは自分に担当されるウマ娘たちだけではなく、自分自身でもあったかもしれない。業務としての忙しさに埋もれていたが、実際のところはトレーナー試験合格に向けて勉強した内容を、改めて吐き出していたに過ぎなかったのだから。

 

 それが大きく変わったのは、まさにタキオンを担当する前、テイエムオペラオーの担当が決まった時のことだった。

 

 彼女は全くと言っていいほど、担当トレーナーに聞く耳を持たぬウマ娘だ……と最初は思われた。実際のところは、オペラの真似事や自己陶酔のような振る舞いを繰り返す中で、オペラオー自身が担当トレーナーの人となりを見極めていた、というのが正しい所だった。

 

 鷹木が、自分の告げる指導指針ばかりでなく、自分自身に意識を向けるようになったのは、テイエムオペラオーを担当した経験ゆえでもあっただろう。

 

 担当トレーナーがいかに正しい指導を行おうとも、ウマ娘がその担当トレーナーと共に歩みたいと考えるか否かは、別の話である。常識の埒外へとオペラオーに連れ出され、鷹木はようやく気付いたのだ。

 

 そのことを今からタキオンが指摘するのかと思いきや、彼女は全く異なる持論を展開し始めていた。

 

「可能性世界における既存の観測結果を破るため、さ!我々ウマ娘は、皆レースで勝つためにトレーニングを積んでいる!そう、誰しも勝利の可能性を秘めているんだねぇ!だが、実際のレースでは勝敗が決する、順位が定まる!これはレース結果が出るまでは確定していないが、可能性世界によって導かれるのではないかと私は仮定している!」

 

「そ、そうなの……?」

 

「そうとも!ダンツくんに分かりやすくするため『運命』と称してもいい!私はそんな非科学的な表現は好まないがねぇ、しかしまるで運命に定められたかのように勝ち、あるいは負ける……そして時には、引退を余儀なくされるのがウマ娘だ。むろん我々がウマ娘である以上、未来のレースの結果は誰にも分からない、しかし、それを揺るがす要素こそ、トレーナーという存在ではあるまいか!」

 

 一気にまくしたてるアグネスタキオンを前にして、ダンツフレームはポカンとした表情を浮かべている。

 

 もちろんタキオンが言っている内容が理解できないというのが大きかったろうが、あまりに早口で情報が垂れ流されたため、そもそも状況についていけていないというのが実際のところだったろう。

 

 一方の鷹木は、これまでタキオンの考えに幾度となく触れてきたためか、なんとか言わんとするところは理解しかけていた。

 

「担当トレーナーは、ただウマ娘のトレーニングを管理するだけではなくて、レース結果や、運命……みたいなものも、変える可能性がある、ってことか?」

 

「そうとも、トレーナーくんには散々語り聞かせているのだから、今さら理解されても遅いぐらいだねぇ!私は、そうやって自ら未観測の可能性を乗り越えた存在を特異点と呼んでいる、当然ながら年間無敗を成し遂げた世紀末覇王テイエムオペラオーは代表格だし、昨年のクラシック三冠かつ宝塚記念を獲ったネオユニヴァース、そして秋シニア三冠覇者のゼンノロブロイも、特異点だと睨んでいるねぇ!」

 

「た、タキオンちゃんが言ってること、難しくて分からないけど……良いトレーナーさんと出会えれば、それだけの凄い戦績にも届く、ってことかな?」

 

 そう喋るダンツフレームに対し、アグネスタキオンは口を閉じたまま、両の口角だけを引き上げて歪な笑顔を作っていた。

 

 タキオンとの付き合いが長い鷹木には分かった、タキオンが伝えたかったことはダンツフレームの認識に収まっていないのだろう。そして、ダンツフレームにこれ以上複雑な説明を与えても混乱させるだけだろうから、訂正したいのをこらえて一応の正解としたのだろう、と。

 

 とはいえ、ダンツフレームの認識でも間違いではなかった。

 

 練習メニューを作り、トレーニングのデータ管理、レースの出走登録をする……それ以上のことが出来る存在こそが、担当トレーナーとしてウマ娘と共に歩んでいけるのだ。

 

 タキオンに代わって、鷹木はいちおうながら力強く頷いて見せた。

 

「あぁ、俺自身はまだまだかもしれないが、トレセン学園には個性的なトレーナーが大勢所属している。それぞれ色んな指導のスタイルがあるから、自分の目でトレーナー達をじっくり見極めてもいいだろう。」

 

「まずは私が、トレーナーさんを選ぶ立場になるだけの戦績を出す方が先、かもですけれどね……。」

 

「ダンツフレームくんなら問題ないだろうけれどねぇ。今のところ、二着と一着にしかなっていないのだから。自ら担当トレーナーを選べる状況は存分に活用したまえ、かく言うこの私はトレーナーを選ばせてもらう余地もなく、入学早々に鷹木トレーナーをあてがわれてしまったからねぇ。」

 

「あんだけ問題行動を起こしたら、ほぼ俺に担当が押し付けられるのが確定したようなものだろ。というか、入学前から俺に目をつけていたようだし、わざと問題児アピールするため入学式にあんな薬品爆発を起こしたんじゃないのか?」

 

 実際のところは、鷹木が担当ウマ娘の脚への負荷を神経質なまでに気に掛ける方針であったため、脚への不安があるタキオンを担当させることを理事長が決めていたのだが、鷹木はかねてより考えていた可能性を今になって問うてみた。

 

 当のタキオンは聞こえないフリをしたままに、休憩の椅子から立ち上がって練習場へと向かっていたが。

 

「さて、そろそろ京都記念の中継時刻も近づいてきた。もう一走りした後の休憩時間で見ることが出来そうだねぇ。きちんと準備しておいてくれたまえ、トレーナーくん。」

 

「おい、待てって、答える気ないのか……」

 

「あはは……タキオンちゃん、難しいこと喋るけれど、心の中は分かりやすいかも、ですね。」

 

 ダンツフレームも和らいだ表情に戻って立ち上がり、タキオンの後を追って練習コースへと向かう。

 

 鷹木からの問いかけに答えることなく、そそくさと練習を再開しているタキオンの様子はこの上なく明確に、鷹木が図星を指していたことを示していた。

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