探求者たちのタイムクライム   作:Okubo Masau

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 エアシャカールとアグネスタキオン、探求においては全く異なるスタンスでありながら、現状にて思うところは近しかった。自分が易々と予測されてしまう可能性の範疇から逃れられず、定められた運命の通りに選手生命を終えてしまうこと、それは最も厭うべき予感であった。今後勝てずじまいのまま引退を迎える恐れ、クラシック路線に進んだ矢先に引退する羽目になる恐れ、各々表には出さないものの懸念は確かに抱えたままであった。


途上は輝きに満ちて、実現は檻

 タキオンとしては思惑通りに進まなかったとはいえ対話がひと段落したところで、鷹木はせっかくシャカールの居る練習場を訪れたのだからと併走練習を提案する。

 

 数多のGⅠレースに出走し続けてきた先輩ウマ娘と並んで走れる機会はタキオンにとっても貴重ゆえ練習を拒まれることはないだろうし、このままでは結城トレーナーの担当ウマ娘の練習時間を邪魔しただけで終わってしまうという現状もあったためだ。

 

 当のタキオンは、未だに先ほどまで語っていた内容、京都記念が昨年と全く同じ展開を示した件についてもっと喋りたそうにしていたが、走る準備を始めたシャカールを前にして彼女も席を立った。

 

 エアシャカールの方はと言えば、現時点で確たる結論を見込めない議題は既に思考内から片付けた後らしく、完全に練習モードへと切り替えている。

 

「前はカフェとアヤベ先輩も一緒に走ったが、お前とタイマンは初めてか。アグネスの冠名とはつくづく妙な縁があンだよな。」

 

「あぁ、デジタルくんは名前が同じだけで親戚ではないけれど、シャカール先輩にはフライトがだいぶお世話になっているねぇ。私は彼女ほどではないかもしれないが、張り合いのある併走になるよう努めるよ。」

 

「そりゃ謙遜か?それとも、いつもの“可能性世界”に照らし合わせての話か?お前の姉は、タキオンが世代最速になるだろうって言ってやがったけどな。」

 

 タキオンは、そう語るシャカールの横顔をチラと見つめて、何も返答せずいつもの笑みと共に小さく俯いた。相手の言葉は敢えて否定せず、しかし同意するつもりがない時の反応だった。

 

 鷹木の目から見ても、タキオンの能力の方が優れているだろうことは明白だった。

 

 アグネスフライトはクラシック級で日本ダービーを制した後、なかなか勝ちきれぬ時期が続き、また身体の状態を慮って長期休養を挟んでもいる。今のところ無敗、かつ今後負かされる気配もないタキオンとは違い、苦節が長引いている。

 

 とはいえフライトは、今なおシャカールと並ぶキャリアで現役続行してはいるのだ。長く活躍し、ウマ娘レースで競い続ける様……タキオンは、その点について言いたかったのかもしれない。

 

 練習コースのセッティングは、既に済まされていた。エアシャカールが次に出走する大阪杯と同じ、芝2000mのコースである。

 

「中山の2000mじゃねェ、阪神レース場の2000mだが、構わねェか?そっちは、今度の弥生賞に出んだろ?」

 

「問題ないさ、スタート直後およびゴール前に坂を越えなければならないという点では、似ているといえば似ているコースだからねぇ。さぁトレーナーくん、計測開始の準備を済ませたまえ。」

 

「あぁ、もう済んでる。」

 

 鷹木は、この個別練習場特有の全自動計測システムをセッティングし終えていた。

 

 オペラオーを担当していた時には、いかにしてレースに勝たせるか、ばかりを考えていたためさほど意識はしていなかったが……時おりこうしてGⅠウマ娘の練習場にお邪魔するたび、この設備の壮大さに感服する思いは募った。

 

 全国、海外も含めたあらゆるレース場のコース条件を、単なる距離のみならず起伏に至るまで再現可能なのだ。さすがに、起伏の調整には土を運び入れて芝を張り直す必要があるため、すぐその場でとはいかないが。

 

 本番に向けた練習、作戦を覗き見られぬように広大な空間は完全に屋内に収まっており、全天候に対応するため巨大な開閉式の天井も備わっている。練習するウマ娘のタイムは各ハロンごとに計測され、自動追尾のカメラによって各ウマ娘の脚運び、およびコース全体を俯瞰する映像もまた記録される。

 

 こんな規模の個別練習場が、少なくともGⅠ勝利が見込まれるウマ娘およびチームのために複数存在する中央トレセン学園は、改めて考えても一般とは桁違いの練習環境を提供できる教育機関であった。

 

 練習コースのスタート位置に向かいながら、タキオンは足元の芝を踏みしめつつ告げる。

 

「さすがはGⅠウマ娘向けの練習場……と言いたいところだったが、随分と荒れた状態の芝のままなんだねぇ。張り替えはしないのかい?」

 

「大阪杯の日の阪神レース場は、朝から未勝利バ戦やら条件戦やらオープン戦を10レースやってンだ。本番の時には、走りやすいコース内側が荒れてンのが当然だろ、練習環境も合わせてるだけだ。」

 

「なるほど、そんなところまでレース本番と条件を合わせているわけか。徹底しているねぇ。」

 

 シャカール自身が走って来た経験に加え、結城トレーナーが長年培ってきたノウハウも、この練習環境に反映されているのだろう。

 

 むろん走る経験を積んでいないジュニア級のウマ娘に、あえて荒れたバ場を走らせることは出来ないため、大多数のトレセン学園生が利用する合同練習場の芝は常に良好な状態で保たれている。

 

 芝が荒れている状態を想定して走るトレーニングは、こうして個別の練習場を与えられているウマ娘でなければ得られぬ機会であった。

 

〈位置についてください……用意……スタート。タイム計測を開始します。〉

 

 スピーカーから流れる機械音声の合図とともに、タキオンとシャカールは同時に走り出す。

 

 互いに自分の作戦を事前に伝えること無しでの併走であったが、タキオンはいつも通り先行のペース、シャカールは追い込みの位置にそれぞれついていた。

 

「スタート直後から、普段の練習の時と比べても脚運びのキレが違うな、タキオン……流石に、エアシャカールが相手ともなれば気を抜いてられる余裕もないか。」

 

 本番レースでの理想的なペースを維持したまま、最初の直線を抜けてコーナーを回っていくタキオンとシャカール。

 

 目の前の直線を駆け抜けていくタキオンの表情は、真剣そのものであった。彼女の担当トレーナーを丸一年やっていても、まずもって拝む機会のない表情である。

 

「併走相手が相手ってこともあるが、そのシャカールとの対話も影響してるんだろうか。」

 

 もちろん相応の実力を有する相手とともに駆けることが、本気の走りを引き出すという大多数のウマ娘の例にタキオンも当てはまっているだろう。しかし、タキオンは発言や行動を単一の理由で決定するウマ娘でもなかった。

 

 エアシャカールは、自身の開発したシミュレーションプログラム「Parcae」にて、ネオユニヴァースやゼンノロブロイを含めたレース予測結果が出ないことに、ずっとこだわっていた。

 

 それは、シミュレーション結果を得られないことに対するネガティブな感情ではなく、プログラムによって易々と予測される範疇を凌駕している能力に対する、ポジティブな感情を伴うこだわりではあるまいか。

 

 タキオンに対しても、シャカールに対しても、心の底を探るような真似をするだけの胆力が無い鷹木は、そこまで気づきはしたものの黙っていたのだが。

 

「タキオンは、去年末のホープフルステークスで圧勝したはいいが、Parcaeのシミュレーションでそのままそっくり再現されてしまったことを多少引きずっていた様子だったし……。」

 

 ただ勝てるだけでは、アグネスタキオンにとっては……そしてエアシャカールにとっては足りない。

 

 「可能性世界」によって定められるレース結果から脱せていない限り、そのウマ娘は「特異点」たり得ない。

 

 タキオンとは別ルートで至った考えであろうが、殊にエアシャカールにとっては、その思いは強かったろう。これまで通り、自分が出来る限りの走りをしているだけでは、今後勝利を掴む算段は見いだせない。

 

 そこに来て、京都記念が去年と今年で全く同じレース展開を見せるという異常事態である。ますますもって、ウマ娘に定められた運命に、レースでの勝敗を縛られるという恐れを、感じずにいられないのだろう。

 

「シミュレーションでは決して予測されないネオユニヴァースやゼンノロブロイの走りが、完全に何物にも縛られないレース結果を生んでいるんだとしたら、シャカールやタキオンが同じ境地を目指すのは必然か。」

 

 かく言う鷹木の中では、現実ではあり得ない現象を受け容れる準備など、まだまだ整っていなかったが。

 

 最終コーナーを回り、最初の直線へと戻ってくるタキオンとシャカール。シャカールが追い上げを開始したのとほぼ同時に、タキオンもその身軽な脚を一気に加速させた。

 

 練習量を重ね、疲労の蓄積にも細心の注意を払っているとはいえ、タキオンがほぼ本気の加速を行えば、鷹木は自ずと動悸が増す。

 

「それ以上はいい、タキオン、その速度でゴールへ向かえばいい……!」

 

 連数コース外で鷹木が呟いている言葉など届くはずもなかったが、タキオンは完全に本気を解放する一歩手前のスピードを維持したまま、ゴールへと向かっていく。

 

 エアシャカールも、ほとんど本気の領域で猛然と追い込んできたものの、タキオンとほぼ横並びの状態を保った形のまま、ゴールラインを通過していた。

 

 両者、スタート前に交わした内容を、やはり引きずっているのだろう。

 

 お互いに、自分の限界まで引き出した実力が可能性のひとつとして予測されてしまうこと……可能性を凌駕する「特異点」に自分が成れないことを、まだ確かめたくはなかったのだろう。

 

 それでも、まだ精神面には幼さが残るタキオンの方が、敢えて先にゴールラインを越えるような体勢を取ってはいたが。練習場の大型モニターには、タキオンの鼻先が僅かにシャカールよりも前に出ており、先着していることを示すハイスピードカメラの画像が表示されていた。

 

「いやはや、ハナを持たせてもらって済まないねぇ、シャカール先輩!本気で来られれば、多少上体を突き出しただけでは届かない差をつけられてしまっていただろうにねぇ。」

 

「そっちも、まだ本気じゃねェだろ……さっさとクールダウンしとけ、お前の担当トレーナーが不安で顔色失くしてる。」

 

 シャカールに促され、タキオンは走り終えた直後の昂揚で先ほどの不安を包み込みながら、鷹木の元へと向かう。

 

 映像やタイム等の記録を自動で端末に入力してくれる個別練習場のシステムにデータ整理を任せ、鷹木はアイシングの用意をした状態でタキオンを待っていた。

 

「問題ないか、タキオン?今の走りもかなりの負荷になったはずだ、僅かでも違和感があれば伝えてくれよ、アーリントンカップの中継観戦なら保健室でも出来るんだから。」

 

「心配し過ぎだねぇ、毎度毎度似たようなことを聞かされると飽き果てるよ。私の走り自体に注文を付けないのは殊勝なことだが、私としては併走相手について語り合いたいものだねぇ。」

 

「あぁ……シャカールの走りから、何かつかめたのか?」

 

「もちろん、先行の位置につきがちな私としては、存分な実力者の追い込みを経験できたのは稀有な練習体験だったがね?トレーナーの視点からの意見をも求めたいねぇ。シャカール先輩は、今後勝てると見えるかい?」

 

 鷹木は思わずタキオンの顔を見たが、彼女はいつになく真剣な表情のままであった。

 

 次いでエアシャカールの方へも鷹木は視線を向ける。喋っている内容を鷹木の表情から読まれぬようタキオンが気をまわしたためか、シャカールはちょうどこちらに背を向けてバッグからスポーツタオルを取り出しているところであった。

 

 思うところは、鷹木もタキオンも同じであったろう。今の質問をした意図は、タキオン自身にも重ね合わせて感じるところを、鷹木に確かめたいというものだと思われた。

 

「先のレースの勝敗なんて、実際に走って見ない限りは分からない……だが、今年のシニア級ウマ娘たちの走りと比べてしまうと、勝てるビジョンは正直なところ……厳しいと言わざるを得ない。」

 

「今の走りを続けている限り、可能性世界の定めからは抜け出せないねぇ。私自身も同様だよ、勝ち続けるにしても、可能性を凌駕しきれなければ早晩限度が来る、その予感はある。」

 

「タキオン、お前はまだまだ今からクラシック路線に入るってところじゃないか。脚の状態も、常に万全なんだから。」

 

 タキオンの脚のアイシングを行いながら鷹木は、本番が近づくのを前にして不安がっているウマ娘を元気づけようとするトレーナーが口にしそうな、典型的な言葉ばかりを吐いていた。

 

 あのアグネスタキオンが確信も無く不安を口にすることなどあり得ない、と鷹木も分かってはいた。不安に確信を持たれたところで、口先で否定する他に自分に出来ることはない、という現実も分かっていたが。

 

 結局、クールダウンを終えてエアシャカールと並んで座り、大型モニターにアーリントンカップの中継が映り始めるまで、タキオンと鷹木の間には沈黙ばかりがあった。

 

 さすがに間が悪くなってきた鷹木は、トレーナーとしては無難な内容、すなわち今回ダンツフレームが出走するレースについての情報を口にする。

 

「アーリントンカップは阪神レース場の芝1600mだ、外回りコースのゆるやかなコーナーから、一気に最終直線の下り坂で加速する瞬発力勝負ってのが定番だな。」

 

「ダンツくんが少々苦手とするペース配分かもしれないねぇ。以前の私との練習や、きさらぎ賞で感覚は既に掴んでいるかもしれないがねぇ。」

 

 ゲートインが進み、レース発走時刻が目前となるにつれ、普段から表情をあまり変えないエアシャカールもアグネスタキオンも、明確に目に熱がこもり始めた。

 

 むろんあらゆるウマ娘レースが注目されるべきではあるのだが、このクラシック級ウマ娘のみが参加できるレースは、決して前年度と同じ結果にはなり得ない。

 

 タキオンが言うところの「可能性世界」で定められていたにせよ、全く新たなる可能性を見出せるレースには違いなかった。

 

〈1600mの距離を14名が走ります、アーリントンカップ……ゲートイン、完了しました……スタートしました!全ウマ娘揃っての好スタート、まず先頭に立ちましたのはキタサンチャンネル、すぐ外枠からリキアイタイカンが並んで先行争い、3番手にはユノピエロ、そしてコウエイマーベラスといったところ。そのすぐ後にトシザボス、あるいはマイネルジャパンが並んでいます、〉

 

 スタート直後から直線が続く阪神レース場の芝1600m、ペースに差があまり出ないだけに、速やかに有利な位置を取らなければ、最終直線で前に上がりづらい位置に押し込まれてしまう。

 

 先頭からしんがりまで詰まった集団の真っただ中、ダンツフレームの大柄な体はコース外側の位置を死守していた。

 

「位置取りは悪くないねぇ、あれがジャングルポケットくんであれば、もはや現時点で勝ちも同然だろうけれどねぇ。ダンツくんは、周りと同タイミングで加速し始めても届かないかもしれないねぇ。」

 

「あぁ、ダンツ自身も、意識して早めに仕掛けンだろうけどな。」

 

 きさらぎ賞において、渾身の追い込みを見せたダンツフレーム。あの時は、あと僅かというところでアグネスゴールドが先着し、惜敗となった。

 

 彼女ならば、きっと自らの敗因を徹底して克服してくるだろう。タキオンと併走練習を行った際の、あの熱い瞳の輝きを鷹木は眩しく思い出した。

 

 1600mの勝負は、コーナーを回り切ればもう最終直線である。シャカールが先ほど述べた通り、周囲より一足早くダンツフレームはラストスパートを開始していた。

 

〈さぁ4コーナーの出口、下り坂、最初に大外から仕掛けてきたのはダンツフレーム!中からマイネルジャパン、そしてラガーサンライトも中団から4番手あたりにまで上がってきている!直線を向きました、先頭はかわらずキタサンチャンネル、そしてリキアイタイカンが並んで粘っているが、ダンツフレーム外からぐんぐん上がってくる!続けてメイショウドウサンも追い込んできた、残り200、ここから上り坂だ!〉

 

「凄いもんだねぇ、ここまで来ればダンツ君は勝てるねぇ。」

 

「瞬発力勝負で劣らないよう、粘り強く速度を維持できる強みを活かしているな。ゴール直前の上り坂は、まさにダンツが勝てる要素そのものだ。」

 

 そういったコース条件に合わせた作戦は、本来は担当トレーナーが立案し、担当ウマ娘に指示するものである。

 

 もちろん、級友の多いダンツフレームは周囲からも知識を取り込んでいただろうし、それこそタキオンからの入れ知恵もあったかもしれない。

 

 しかし、トレーナーが居ない状態で有効な作戦を本番にて実行できるダンツフレームは、勝ちのために本気になれるウマ娘に違いなかった。

 

〈外からダンツフレーム!ダンツフレームが来た!ウチ側でキタサンチャンネル、リキアイタイカン粘っている、3番手争いはユノピエロ、メイショウドウサンか、先頭にダンツフレーム並んだ!先頭はダンツフレーム、キタサンチャンネルとほとんど並んでゴールイン!ハナ差での勝利です、勝ちましたダンツフレーム!きさらぎ賞では涙をのみましたが、これにてGⅢ初制覇です!〉

 

 ダンツフレームがゴール板前を駆け抜けていった瞬間、タキオンはパチンと大きな音を立てて両手を打ち合わせ、席から立ち上がっていた。

 

 ここがレース中継を映した画面前ではなく、現地レース場の観客席そのものであれば、拍手喝采の渦中に参加していただろう。

 

「やったじゃないかダンツフレームくん!可能性世界においてはキタサンチャンネルとダンツフレーム、どちらが勝ってもおかしくない状態だったろう!そこで勝ちきるのは、その作戦も含めダンツくん自身が切り開いた道だと言えるのではないかねぇ!」

 

「接戦だったら全部そう考えンのかよ、タキオン。にしても、ついにGⅢで勝っちまうとはな、ダンツ。さすがに、トレーナー無しの状態で放っておくことはしねェんじゃねーか、トレセン学園も。」

 

「確かに、そろそろダンツフレームには専属の担当トレーナーがあてがわれていい頃だな。」

 

 専属のトレーナーが居ないウマ娘は、集団担当のトレーナーから他のクラスメイトとまとめて指導を受ける事が多いが、流石にGⅢクラスのレース勝利まで到達したウマ娘を専属無しのまま済ます事はあるまい。

 

 それに、担当トレーナーを得るということは、単にトレーニングの質を上げるだけの意味に留まらなかった……タキオンの仮説に従えば、の話であったが。

 

「担当トレーナーとの出会いによって、我々ウマ娘は定められた可能性を逸脱し、運命的な敗北すらも乗り越えうるかもしれない!ダンツくんはますます勝利へと近づくかもしれないねぇ!尤も、こちらのトレーナーくんのごとく、これといって特異点へと導く雰囲気も見せぬトレーナーも居るけれどねぇ。」

 

「悪かったな、凡人トレーナーで。」

 

 タキオンが期待するような働きを示してやろうにも、やはりどう頑張っても一般的な指導を真面目くさって行うばかりが関の山の鷹木であった。

 

 しかし、ウマ娘レースの歴史に刻まれた明確な特異点、あのテイエムオペラオーと共に歩んだ経験に、アグネスタキオンが寄せる期待は未だ色褪せていないことに変わりはないらしかった。

 

 少なくとも、タキオンは入学前から望んでいた通り、鷹木を自らの担当トレーナーとし続けていたのだから。

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