探求者たちのタイムクライム   作:Okubo Masau

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 アグネスタキオンは、レース観戦とともに“特異点”を見出すための試みとして、シャカールの組んだシミュレーションプログラム、Parcaeが示す予測を参照するようになっていた。可能性としてあり得る展開を、いかにして覆し、勝利するウマ娘が現れるのか。その日行われた日経賞では勝利間違いなしと見られるゼンノロブロイが出走していたが、Parcaeの予測はそれと異なっていた。


予測の埒内、塗り替えて

 新年度からの入学を予定する新入りウマ娘たちの姿もポツリポツリと敷地内にて見られるようになった3月末、もちろんアグネスタキオンは皐月賞に向けていよいよ本格的な調整へと入るべき時期である。

 

 しかし相も変わらず彼女は、自分以外のウマ娘への期待が思考の内を大きく占め、練習の合間に挟む休憩のたびに校舎の方へと視線を向け、新入ウマ娘の姿を漁っていた。

 

「可能性を秘めたウマ娘は選りすぐれば、かくも溢れているものだ!縛られぬ個性は全く教室に収まっていられるかどうか実に不安だが、今年も面白そうな子がいろいろと入ってくるねぇ!」

 

「“今年も”って、タキオン、新入ウマ娘の後輩が来るのはお前初めてだろ。」

 

 どの立場から物を言っているのか、とばかりに呆れ顔の鷹木を背後に、タキオンは自前のノートPCを操作する……フリをしながら、その外付けカメラで入学予定ウマ娘たちの姿を撮影し、早々とデータ収集に励んでいた。

 

 彼女が、自分以外のウマ娘へ向ける期待をより強めている理由は、新学期の始まりが近いばかりが理由ではないことを、今の鷹木はしっかり理解していた。

 

 タキオンが希求するのは、可能性世界によって辿らされる結末を超越できる存在、特異点たるウマ娘。完全に諦めてしまったわけではないはずだが、それでもやはりタキオンが自身を特異点だと信じることは難しいのだろう。

 

 そもそもが現実的に立証された考えではなく、タキオンの勝手な仮説に過ぎないため、鷹木の立場からは何とも助言出来ないのがじれったいばかりであった。

 

「活気にあふれた面々は多いが、それでも私が今のところ可能性を強く感じるのは、先日学園内を案内したシンボリクリスエスくんに他ならないねぇ!結城トレーナーの見立てでは本格化も遅めの晩成型だとのことだが、しかし現時点での堂々たる体躯を見ただろう!」

 

「あぁ、あれでもまだ体づくりの途上だって言うんだから、行く末が楽しみなウマ娘には違いないな。」

 

「そう思うならば鷹木トレーナー、キミが彼女の担当トレーナーを希望する、と名乗りを上げればどうだい!幸いにも先日の私の行動のおかげで縁が出来たんだ!まぁ本音を言えば私が間近でシンボリクリスエスの観察を行いたいためなのだがねぇ。」

 

「いや、シンボリクリスエスの担当は俺じゃないだろ……」

 

 海外から留学してきたウマ娘も今や珍しくはないが、シンボリクリスエスの場合は個々の意思でトレセン学園に来たのとはワケが違う。

 

 彼女の存在を知って以降、鷹木もトレセン学園の昨今の動きについて調べた。所属トレーナー向けに上層部が決定した方針がちょくちょく公示されているのだが、あくまで抽象的な内容が示されるばかりであり、ただでさえ多忙なトレーナーたちがいちいち目を通すことはない。

 

 国内ウマ娘レースのレベルを引き上げるため、そして世界クラスの選手と肩を並べるウマ娘を輩出するため、強化選手として名門シンボリ家により招聘されたのがシンボリクリスエスであった。

 

 アグネスデジタルが香港やドバイで名を馳せた昨年、ウマ娘レース熱の盛り上がりを国内のみに留めておくことが勿体ないと鷹木も感じ始めていた。

 

「トレセン学園どころか、ウマ娘レース全体からの期待を背負ってやって来たんだ、シンボリクリスエスは。結城トレーナーが担当しなくても、もっとベテランのトレーナーが見ることになるだろ。」

 

「おや、かの世紀末覇王テイエムオペラオーを担当していたという実績を持つトレーナーくんは、ベテランというわけではないのかい?」

 

「いやあれはオペラオーが強かったんだって……。」

 

 真っ当に授業やトレーニングに顔を出さぬ問題児をあてがわれ、奔放な彼女らに鷹木が振り回されつつも担当ウマ娘が戦績を積み重ねた結果、鷹木の指導の手腕が果たしてどの程度寄与したか分からない……という流れは、オペラオーの時と同様、アグネスタキオンを担当している現状においても再び経験することになりそうだった。

 

 それに、鷹木には、単にまだチームを任されるほどベテランの域に達していないということ以外に、新たなウマ娘を担当し始めるわけにいかない理由があった。

 

「何よりも、今年はタキオン、お前がクラシック路線で勝ち進めるように俺も全力を尽くさなければならない。他のウマ娘の指導まで引き受けている余裕は無いんだ。」

 

「おや、しかしトレーナーとしては途中からヒマになってしまうんじゃないかねぇ?私は皐月賞で脚に限界が来るだろうと予測しているのだけれど。」

 

「前も聞かされたが、だからこそ、そうならないようにトレーニングメニューを組んでいる。」

 

 本日のタキオンのために組んだ練習スケジュールをタブレット画面に表示して差し出し見せながら、間髪を入れず返す鷹木の語調はごく自然に強まっていた。

 

 大抵の返答の端々に気弱さが覗く鷹木の中でも、トレーナーとして譲れない一線がそこにあることは明白であった。

 

 むろんタキオンとてそれは理解していたが、減らず口が十八番の彼女があえて言い返さなかったのは、単に休憩時間が終わるタイミングだったためだけではあるまい。

 

 担当ウマ娘が引退、レースを続けられない状態となれば、その時点でトレーナーは役目を失う。

 

 タキオンが弥生賞にて感じ取った将来、皐月賞で脚の限界が来てそのまま引退すること……それが現実となれば、鷹木は4月に入って早々に指導すべき担当ウマ娘が居ない状態となってしまうのだ。

 

 しかし、そのことへの懸念は鷹木の中に全く無かった。

 

「今のうちに、私の後に担当するウマ娘を探しておくには、丁度良い頃合いじゃないかとは思うけれどねぇ。」

 

「既に4月から5月末までのスケジュールは組んであるんだ、タキオンが日本ダービーに出走するまでの予定は固まってる。さぁ練習再開するぞ、筋肉の熱が引ききったらまたウォーミングアップを挟まなきゃならない。」

 

 タキオン自身が感じている、脚が負荷に耐えられる限界の近さを思えば、鷹木はあまりに将来を楽観視していると言わざるを得ないのかもしれない。

 

 今度はタキオンが呆れた表情を浮かべる番であったが、しかしその笑みは口元を歪めてはいない、温かな類の笑顔であった。

 

 その日も、春の天皇賞に向けての重要な前哨戦が行われた。3月末の大舞台、日経賞である。

 

 約50年前から続く由緒正しき重賞レース、過去にはメジロライアンをはじめライスシャワー、セイウンスカイ、メイショウドトウといった名だたる面々が勝利ウマ娘に名を列している。先ほど話題に上がった名門シンボリ家の皇帝、シンボリルドルフも18年前の日経賞勝者として名を刻まれている。

 

 練習コースから戻ってきたタキオンのアイシングを手伝う鷹木は、既に日経賞の配信画面を表示したノートPCをテーブルの上に置いていた。

 

「やっぱり1番人気はゼンノロブロイくんだねぇ!2番人気はウィンジェネラーレくん……いやしかしロブロイくんの票の集まり方は桁違いだろうねぇ、何せ昨年の秋シニア三冠ウマ娘なのだからねぇ!」

 

「たぶん10倍近くは人気度が違うだろうな、1番人気と2番人気で。フサイチランハートやアクティブバイオといったベテランウマ娘も出走しているが、もう観客のほぼ全員がロブロイの勝利を確信してるだろう。」

 

 ゲートインが既に始まっている画面下部には、各ウマ娘の人気順が表示されていた。

 

 鷹木やタキオンでなくとも、誰しもが予想しうる状況がそこにある。昨年、クラシック級ウマ娘でありながらシニア三冠を独占したゼンノロブロイの実力を、疑う余地はなかった。

 

 タキオンはしばらく画面を凝視していたが、ハタと何かを思い立ったように自分のパソコンを立ち上げ、手早くテキストを打ち込んでいる。

 

「どうしたんだ?」

 

「いやなに、シャカール先輩へと質問のメッセージをね。きっとこの日経賞についても、Parcaeによる予測を既に行っていることだろうし。」

 

 喋りにおいては自説を長々と冗長に語る癖のあるタキオンも、パソコン上のメッセージは簡潔かつ最低限に済ませるのがシャカールの性にも合っているのだろう。

 

 エアシャカールからの返信を受け取るまでに、数秒も要しなかった。タキオンは、興味深い事実に気づかされた彼女がいつもそうするように、耳をピンと立てて口角を限界まで引き上げる笑みを浮かべた。

 

「……Parcaeの予測では、2番人気ウィンジェネラーレが勝利する、らしいねぇ……!すなわち、可能性世界においてゼンノロブロイは二着になるはず、ということだ!」

 

「マジか、誰がどう見てもロブロイを脅かすほどの強敵は居ないのに。」

 

 Parcaeのシミュレーションに、妙な信憑性があることはこれまで経験してきた通りである。

 

 タキオンがホープフルステークスや弥生賞で勝利する様の再現や、先日の阪神大賞典にてアドマイヤベガをジャングルポケットに置き換えた際の着順着差の正確な再現など、Parcaeが示す可能性は非現実でありながら奇妙なリアリティを伴っていた。

 

 その予測の通り、誰もが勝利を信じて疑わないゼンノロブロイが二着となってしまうのか、あるいはロブロイがParcaeの予測を裏切って勝利するのか、レースは間もなく発走時刻となった。

 

〈……スタートしました!綺麗に揃いました、さぁ先行争いに入ります、集団はまだ固まった状態、外目からじわっとマーブルチーフが行きかけましたが、ウチからウィンジェネラーレ、今回2番人気のウィンジェネラーレが上がっていきました。半バ身のリード、そして1番人気、昨年の秋シニア三冠覇者ゼンノロブロイがその外に並んでいきます。ゆったりした流れでアクティブバイオ、トレジャーハンターも並んでいる、ほぼ混戦状態で最初のコーナーへと入っていきます。〉

 

 中山レース場の芝2500mは、言わずもがなウマ娘レースの最高峰、有馬記念と同様のコースである。

 

 とはいえ年末とは違い、春めいてきた今の時期には芝の生育もよく、ウマ娘たちが踏みしめる脚の下を弾力のある芝が支えている。

 

「全体のペースはまだ抑え目だが、しかし誰も彼もが強気の位置取りだねぇ。先行集団はもはや団子状態じゃないか。」

 

「差しのイメージがあったゼンノロブロイも、逃げウマ娘に並ぶぐらい前に出てきているな。やっぱり、スピードの出しやすさのおかげで最序盤から位置取り争いも激しいのか。」

 

 ここから最初のスタンド前直線までは、平坦なコースから僅かな下り坂が入る。

 

 ますます速度の出しやすい条件の中、中山レース場名物の上り坂へと差し掛かるまでに好位置を取ろうとするのは、どのウマ娘にも共通した作戦であったろう。

 

〈さて5番手にはウチ側からチャクラが追走、その後にはワールドスケール、その外にゴールデンメインが追走、ウチ側から進むのはダービーレグノ、4コーナーを回って正面スタンド前へと出てまいりました。先手を取ったのはウィンジェネラーレ、リードは2バ身としてハナを進んでいます。2番手はトレジャーハンター、そのウチ側3番手にゼンノロブロイが居ます、ゼンノロブロイ、今回はかなり前にでて最初の坂へと差し掛かっていきます。〉

 

 先頭集団は序盤からかなり飛ばしたペースとなっていた。3番手につけたゼンノロブロイから後のウマ娘までは、更に2バ身ほどの間が空いている。

 

「トレーナーくんは、どう見るかねぇ?ゼンノロブロイ君の今回の作戦を。」

 

「ロブロイが最後に差す作戦を得意としていることは間違いない、どこかのタイミングで後ろに下がるだろう。今は、先頭に圧をかけてペースを調整してるところか。」

 

「だろうねぇ、ウィンジェネラーレが何としてでも先頭を取りたがっていたから、ロブロイくんの意図としては思うようなペースに持ち込ませまいとしているところだろうねぇ。」

 

 1番人気を昨年幾度も経験したゼンノロブロイは、自分にマークが集中することも想定しているだろう。

 

 差しの位置に留まり続けて、包囲され前に出られなくなる状況も避けねばならなかった。その点では、3番手にまで上がっておく作戦は功を奏していた。現状、ロブロイを取り囲もうとして無理に上がってくるウマ娘は居ない。

 

 しかし、それはゼンノロブロイにも序盤から少々難しいペース配分を強いる作戦であった。

 

〈中団後方にはユキノサンロイヤル、後はサンライズジェガー、3バ身開いてアマノブレイブリー、そのウチからはオンユアマーク、そして最後方にはポツンとフサイチランハートといった形であります。1コーナーを抜けて2コーナーへ、ゆったりと流れます。ウィンジェネラーレが全体のペースを作り続けている、1バ身半のリード。2番手も変わらずトレジャーハンター、3番手にはマーブルチーフが上がってきました。ゼンノロブロイはそのウチ側、徐々に下げ始めたか。〉

 

 タキオンと鷹木が共に想定していた通り、ゼンノロブロイは位置を下げ始めた。

 

 正確には、向こう正面からの展開に備えて上がりはじめた面々を、前へと見送り出したと言った方が近かっただろうが。

 

「あぁ、下がるなら今だろうな。これ以上先頭を追い立てても、ロブロイ自身が最後にスパートをかけるだけのスタミナを残せない。」

 

「だが……作戦は思惑通りの効果を発揮できていないようだねぇ。ウィンジェネラーレの意図通り、全体がかなりゆったりしたペースで流れている。逃げウマ娘は余裕のある状態で進めているねぇ。」

 

 ゼンノロブロイ自身は、じわじわと上る1コーナーでも無理に加速をせず、コーナーを最短で回れるウチ側に位置取り続けているため、スタミナの浪費はない。

 

 しかし、先行するウマ娘に間合いを詰めプレッシャーをかけるという戦法は、まだロブロイ自身慣れていないのだろう。結局、先頭のウィンジェネラーレは必要以上に脚を速めることなどなかった。

 

〈さぁ向こう正面を抜けまして、最高峰フサイチランハートは前から5バ身離れたところ、全体のピッチが徐々に上がりはじめました。ウィンジェネラーレ1番手、リードは半バ身まで迫られていますが先頭の位置をキープしています、残り800を通過。そして2番手にトレジャーハンター、更に間が詰まってきましたマーブルチーフが3番手、ユキノサンロイヤルも外から上がって来た!ウチ側にはチャクラ、その後ろにゼンノロブロイ!一気に全体が固まりはじめました!〉

 

 ここから、走っているウマ娘たちにとっては勝敗を左右する、そして最も苦しい区間となる。

 

 コーナーを回り切って、最終直線に向き、中山の急坂を駆けあがるまで、速度を緩めることは出来ない。

 

「先頭のウィンジェネラーレ……上手い逃げだねぇ。無駄なスタミナ消費が今のところ全く無い、2番手以降のウマ娘がギリギリ並べる程度の速度で進んでいるねぇ。」

 

「本当に、逃げ作戦の教科書にでもしたくなるほどの模範的な走りだな。この分じゃ、途中でスタミナ切れを起こして失速することもないだろう、ロブロイは差しにいけるのか?」

 

 今は6番手にまで下がったロブロイの前には、一気に前へと上がっていったウマ娘たちの集団が壁となっている。

 

 いや、それを交わすだけならば、昨年の激戦を制したロブロイにとって難はないだろう。問題は、完全に理想的なペースで進んでいるウィンジェネラーレに逃げ切られる可能性が濃厚となってきたことであった。

 

〈さぁ後方のウマ娘たちもどんどん前方へと詰めてきた!ほぼ一団となりまして4コーナーを抜ける、ウィンジェネラーレは先頭でリードを1バ身半まで広げた!2番手はマーブルチーフ、ユキノサンロイヤル、その外にゼンノロブロイ!ついにゼンノロブロイが上がって来た!直線を向きました!ウィンジェネラーレが先頭ですが、外からゼンノロブロイ!残り200を通過!〉

 

 中山レース場の観客席は、熱狂の渦にあった。

 

 もちろん1番人気のゼンノロブロイ、その走りを目の前で拝めるためでもあったが、圧勝間違いなしと見られていたゼンノロブロイの前方にて、逃げ続けていたウィンジェネラーレが想定以上の粘りを見せていたためだ。

 

「おぉ!これはひょっとすると、Parcaeの予測が確定してしまうかもしれないねぇ!ウィンジェネラーレは余裕がある!」

 

「出走前はまさかと思ったが、ここまで走って来たのを見ると、確かに、ゼンノロブロイより先着できるか……!?」

 

 この時点で、幾戦ものウマ娘レースを見てきたトレーナーとしての判断を下した鷹木は、ウィンジェネラーレ優勢と見ていた。

 

 4コーナーを抜ける時点で、後方からのリードを1バ身以上にまで広げているのは、それだけウィンジェネラーレのスタミナに余剰があるためだ。ここでも、ますます加速は続いている。

 

 ゼンノロブロイが常識の埒外にある脚を持っていなければ、ウィンジェネラーレは逃げ切っていただろう。

 

〈ウィンジェネラーレが先頭だ!ゼンノロブロイが外から並ぶ!だが変わらずウィンジェネラーレ先頭!まだ伸びるか!ウィンジェネラーレ!ゼンノロブロイ完全に並んだ!ゼンノロブロイとウィンジェネラーレ!ほとんど並んでゴールイン!確定のランプが点灯しました!一着でゴールしたのはゼンノロブロイ!昨年の有馬記念から続いて4連勝を挙げました!しかしウィンジェネラーレも粘った!僅差でのゴールです!〉

 

 大歓声が響き渡る中山レース場の観客席を前に、ゼンノロブロイはしばらく脚を進め、息を整えてから腕を上げて歓声に応えている。

 

 さすがの彼女も、全力を振り絞っての走りの直後、すぐにファンへと応じる余裕が残ってはいないのだろう。

 

 一方で、画面のこちら側、鷹木とタキオンは顔を見合わせていた。タキオンはいつものノイズが走ったような目に、常に似ず興奮の輝きを浮かべていた。

 

「シャカール先輩のシミュレーション、Parcaeの予測……すなわち、可能性世界が確定させようとした結末を、ゼンノロブロイくんは覆したねぇ……!やっぱり、彼女こそ特異点じゃなかろうか!」

 

「ゼンノロブロイの実力が、勝利を掴んだと見るのが素直な考え方だとは思うけれどな。」

 

 鷹木は言い返しながらも、安易な予測の中に収まってしまわないほどの実力を発揮するウマ娘として、ゼンノロブロイを評価すべきであることについては同意していた。

 

 タキオンが、戦績を予測され得ないウマ娘を“特異点”と呼び、タキオン自身がそうであることを易々とは期待できない思いも、分かる気がしていた。

 

 特異点であれば、予測される脚の限界、早々の引退という運命も、覆せるかもしれないのだから。

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