5月の末も近づき、日本ダービーを待ち望む観衆たちの熱量はいよいよ高まっていく。
が、その2日前にも十分に大舞台のレース日程が存在した。金鯱賞、中京レース場で実施される重賞レースである。
出走予定のエアシャカールは、金鯱賞の出走者リストが確定した時から、猛烈に嫌な予感が……いや、確信があった。
「有り得ねェだろ……18名、フルゲート出走だぞ?去年と全く同じ出走者が出揃うなんて、ロジカルじゃねェ……。」
その事実とも認めがたい事実は、金鯱賞に向けての鍛錬、最終調整に入るまでの間も、ずっとエアシャカールの思考の片隅を占拠し続けた。
ごく稀な偶然、というわけではない。綿密なスケジュール調整の上で決定されるウマ娘レースの出走予定が、去年と全く同じになることは全く非現実的な現象である。
そして、同様の例が、今年は既に2回発生していた。2月の京都記念、そして3月の阪神大賞典である。
いずれも、去年と全く同じ出走ウマ娘が揃い……そしてコース条件、レース展開、レース結果の全て、去年と全く同じものが繰り返された。
「今月の金鯱賞も、同じことになンのか?いや、有り得ねェ、有り得るはずがねェ、俺たちは全員、全力で勝ちに行くんだ、全く同じレース展開が繰り返されるわけが無ェ……。」
この件に関しては既にアグネスタキオンが着目し、彼女らしく様々に突飛な憶測を立てていたが、いずれも何らの根拠もない、妄想の域を出ない仮説ばかりである。
エアシャカールは、あくまで現実的に確認できる事項だけを元に、ロジカルにこの現象を受け止めようとしていた。そうしたところで、不可解や不条理から脱せるわけではなかったのだが。
何よりも不気味であったのは、「去年と全く同じ展開となるレースが存在する」ことを、シャカール、タキオン、そしてタキオンの担当トレーナーを除いたほぼ全ての人間およびウマ娘が、認識できていないことであった。
金鯱賞の日程が近づく日々の中、シャカールは自分の担当である結城トレーナーに、それとなく尋ねてみた。
「今年の金鯱賞はフルゲートか。去年の金鯱賞も、同じだった気がすンな。」
「そうだったかな?確か去年は、13名ほどの出走だったと思うが。」
老齢の結城トレーナーが記憶違いをしているのではないか、と追及するわけにもいかず、シャカールはすぐさまトレセン学園のデータベースにアクセスし、昨年の金鯱賞の結果を検索した。
……確かに、そこには出走数13名の金鯱賞の結果が記載されていた。一着、ミッキーダンス。二着、ダイワテキサス。三着、ブリリアントロード……下位にはイブキガバメントやエリモブライアンなど、今年も活躍を見せるウマ娘たちが名を連ねている。
しかし、エアシャカールの記憶に間違いが無ければ、それは前々回の金鯱賞の結果であるはずだった。
「ハッキリ確認できるデータには残ってねェ……けど、俺の記憶が間違ってるはずが……」
確かに去年はエアシャカールが金鯱賞に出走し、そして敗れ、二着となったはずだった。
大外から駆けあがってきたツルマルボーイの背が目の前にある状態でゴール板の前を駆け抜けた体験は、シャカールにとって今も鮮明に思い起こされる記憶である。
レース場こそ違えど、最終直線で後方から追い上げてきた競争相手に並ばれ、交わされるという敗れ方。
日本ダービーでの惜敗をなぞるような展開が、シャカールの記憶から薄れるはずもない。
「俺の記憶の中にしか残ってねェ、去年のレースが無かったことになってる、ってのか?客観的に確認する手段は……Parcae。」
エアシャカールは、Parcaeによるシミュレーションをも用いて確認した。
去年の末を最後に、なぜか新たなレーススケジュールを入力することが出来なくなり、レースのシミュレーションを行うためにはいちいち手動で条件や出走ウマ娘を入力しなければならなくなったParcae。
しかし、その予測性能は的確であり、よほどの突飛な能力のウマ娘が出走しない限りは、エラーを吐くことなくレース結果予測を表示できることに変わりはなかった。
その金鯱賞の予測も、Parcaeは演算に手間取る様子も見せず、即座に表示した。
「……やっぱ、同じじゃねェか。俺の記憶に残ってる去年の金鯱賞と……。」
一着、ツルマルボーイ。二着、エアシャカール。三着、ユノピエロ。四着、ブリリアントロード……。
忘れようはずもないツルマルボーイの勝利に加え、三着以降の面々の名も、エアシャカールの記憶を改めて呼び起こし、しっかりと事実として存在した実感に結び付く。
三着以降の面々はシャカールから5バ身ほど引き離されつつも、ユノピエロは昨年からの連覇に向けて最後まで意地を見せて食らいついてきた。ブリリアントロードは16番人気でありながら、そのユノピエロに迫り、四着まで食い込んでいた。
「間違いねェよ、確かにあったんだ、去年の金鯱賞は。なんで世間じゃ無かったことにされてやがる……なんでデータベースでは一昨年の金鯱賞に上書きされてやがる?」
自分の中で固まっていく確信とは裏腹に、Parcaeによる予測との合致を除いて、やはり去年の金鯱賞にてツルマルボーイが勝ち、シャカールが二着となった展開が実在したことを証明する手段は、自分の記憶という主観的なもの以外にない。
全く以て不本意でありながら、エアシャカールはアグネスタキオンに連絡を取ることとした。
「しゃーねぇ、こんな気分が乱された状態で、レースに出るわけにはいかねェ。」
もはやベテランウマ娘の域に入り、無意味に意地を張ることが無くなったシャカールには、レース本番時のメンタルを乱す要素を排除する手段を、自主的に採ることを優先する思考が働いていた。
すなわち、この非現実的とも思われる異変が、シャカールの精神面を大いに動揺させていたのだ。動揺を解消する手段は、同じ概念を共有する相手を見出す事である。
スマホの通話越しに聞こえてきたタキオンの声が、いかにもシャカールを待ち構えていたような物言いだったことは、改めてタキオンに頼ることを決したことについての後悔の念を呼び起こしたが。
〈やぁやぁ、これはこれはシャカール先輩じゃないか!そろそろ私に声をかける頃ではないかと思ったよ、きっと今年の金鯱賞の出走メンバーを見て、何やら気になることがあったのだろうねぇ!〉
「分かったような物言いしやがって。あんまりウゼェと、通話切るぞ。」
〈あぁ、待ちたまえ!こちらも有用な情報を得ているんだ、聞いてもらいたくて用意していたのだから!〉
その性格上、普段から構ってもらえる相手の居ないタキオンが、エアシャカールから頼られる稀有な機会をなおざりにするはずもなかった。
お互い、細かな説明は不要であった。今年と昨年の金鯱賞出走者が全く同一であることは、タキオンも当然ながら確認している。現実では決してあり得ないことが、有り得ようとしているのだ。
すなわち、2月の京都記念や3月の阪神大賞典と同じように、記憶の中の去年のレースと全く同じ展開が再現される可能性は高い、との予測も成立していた。
〈もちろん、そうと決まったワケではないねぇ。今年に入ってから行われている他のレースは、去年とは違う展開になっているものも当然ながら多い。可能性世界に定められた枠を破り、決められた運命を超えられるか否かは、実際に走るウマ娘次第だと私は考えているねぇ!〉
「……で、それが出来ンのは、お前が“特異点”って呼ぶ連中だけなんだろ?ネオユニヴァースとか、ゼンノロブロイとか。」
〈いやいや、むろんのことながらエアシャカール先輩もまた特異点……の、片鱗は見られると私は判断しているとも。ほら、一時はParcaeの予測を大きく超えて、一昨年のジャパンカップを制したじゃないか!〉
今となっては遠い昔のことにも思われる、現時点でエアシャカールが為したGⅠ制覇の最後のレースであった。
それ以降、シャカールが勝てているのはGⅡ以下のレースである。むろんそれだけでも十分すぎるほどの戦績であったが、GⅠに勝てなくなったからターフを去る、というのはシャカールの矜持が許す振る舞いではなかった。
そして、確かにジャパンカップを勝利した前後、エアシャカール自身のデータをParcaeに入力すれば、ほぼ確実にエラーを吐く状況は続いていた。
〈Parcaeによる予測は、すなわち可能性世界におけるレースの再現だねぇ。一時的にでもその予測を不可能にしたエアシャカール先輩は、間違いなく特異点の素質がある!〉
「何だよ特異点の素質って。けど、もう今年に入ってからは完全にParcaeの予測通りの走りにしかなって無ェ、お前も見ただろ。」
〈一時的に、特異点としての才が鳴りを潜めているだけかもしれないねぇ。それに、今年の金鯱賞が、昨年と全く同じ展開にはならない可能性も見出せたのさ、天気予報を確認してくれたまえ。〉
普段から突飛な仮説ばかりを喋り、今も「特異点の素質」だの「特異点としての才」だの、非現実的な理論を振り回すタキオンであったが、検証すべき題材を多角的に観察する手腕に長けていることは確かである。
天気予報を確認することなど、レース展開にばかり目を向けていたシャカールには思いつかなかっただろう。
「5月25日の中部地方の予報は、雨、だな……。」
〈そうとも、梅雨にしては気の早い停滞前線が接近している。金鯱賞の当日は雨になるとの予報さ!去年の金鯱賞は晴れ、バ場状態が良だったはず、すなわちレース条件は同じものを繰り返さない可能性が高いねぇ!〉
「……俺、どっちかっつーと悪路は苦手なンだけどよ。」
〈それは昨年一着になったはずのツルマルボーイくんも同じだろう!レースの経験ならば間違いなくエアシャカール先輩の方が上なのだから、今度こそ勝てる見込みはあるねぇ!健闘を祈っているよ!〉
若干ながら腑に落ちない部分を残しつつ、また一方的に自分の理屈だけを述べ立てて通話を切るタキオンに僅かながら苛立ちつつも、それらの情動が自分の中から不安を消し去っていることをシャカールは実感していた。
当日、5月25日、中京レース場。
空は晴れ渡っていた。シャカールにとっては悪くない条件ではあったが、タキオンによって昨年と展開が変わる予兆として示された天気予報は外れた形となる。
「タキオンの奴、いい加減なこと言いやがって……まァいい、状態は万全だ。」
それでもエアシャカールのメンタル面は完全に落ち着いていた。実際に、去年の記憶と全く同じ出走者の顔ぶれを前にしても、動揺など全く感じない。
これから始まるレースは、間違いなく自分にとって初めての走りを実現できる。作戦も、ペース配分も、そして最後の直線で追いつかれないだけのスピードも、今の自分は充分に備えている。
「勝たせてもらうぜ、今度こそ。」
地下バ道を抜け、ターフを踏む感触も、響き渡る観衆たちの大歓声も、そしてスターティングゲートに付着した芝や泥の汚れを拭きとった痕も……どれもこれも、初めて見聞きし、感じ取るものばかりである。
昨年の繰り返しにはならない。エアシャカールは確信とともに、発走の瞬間を迎えた。
〈各ウマ娘ゲートイン、揃いまして……スタートしました!まずは正面スタンド前、前に飛び出したのはアンブラスモア、デビュー7年目の大ベテランが先頭へとつきまして、その外から続くはアサカディフィート、そしてダイワジアンといった形で先頭集団が形成されています。3番人気トーホウシデンは前から6番手、最初からぐっと下げた位置、最後尾から2番手当たりの位置に、ツルマルボーイ、エアシャカールが並んでいます。〉
中京レース場の左回り芝2000mコースは、スタート位置が上り坂の途中にある。コースの後半でスピードを出しやすいこともあって、今は無理に前へ出す必要が無い。
とはいえ、ベテランであるアンブラスモアは早くも先頭へ出ていた。スタート時点でスロー気味の展開になりがちであるということは、そのスローペースを維持したまま全体を引っ張っていくこともできるということである。
(経験値は、俺よりアンブラスモアの方が上だ。けど、流石に大ベテラン様は最後の追い込みにはついてこれねェだろ。焦るわけにはいかねぇ。)
アンブラスモアは、かの黄金世代よりさらに前から走り続けているウマ娘。グラスワンダーやスペシャルウィーク、メイショウドトウ、アグネスデジタルとも競い合った経験の持ち主だ。
落ち着いたペースで、早くも集団全体をリードする位置についた彼女の背を遠くに見ながら、エアシャカールは後方集団のやや外目の位置にコースを定めた。
〈先頭集団に続きましてはパープルエビスが4番手、そのウチを突くようにイナリコンコルドが並んでいます。その後少しおくれてトーホウシデンが続き、外側からスエヒロコマンダー、タマモヒビキが並びかけます。アドマイヤカイザーとジョービッグバン、そしてサイレントセイバーにエイシンエーケン、ベテランのウマ娘が中団後ろに続きまして、各バ最初のコーナーへと入っていきます。〉
フルゲート、18名ものウマ娘の名を読み上げつつレース状況を伝える実況アナウンサーはかなり早口となっていたが、なおもエアシャカールの名は読み上げられるに届かず、最初のコーナーへと先頭は突入していった。
ベテラン揃いなだけあって、コーナーに入るまでのゆったりしたペースの中で各ウマ娘の位置取りは固まっている。
(どいつもこいつも、おとなしく走ってやがる。向こう正面から仕掛けの備えに入る気だけは、しっかり伝わってくるけどよ。)
3,4コーナーが緩やかなため、スピードが落ちにくくなっている中京レース場。金鯱賞の勝負を左右する上では、最終コーナーにてどれだけの速度を維持したまま、最終直線へと突入できるかも大きい要因であった。
コーナーを抜け、観客たちが詰めかけたスタンド前からの大歓声を浴びながら、シャカールは1周目の直線を駆けていく。
〈1コーナーから2コーナーへ、後方集団はブリリアントロードの外に並ぶようにエアシャカールが落ち着いた足取りを運んでいきます。その後ろにラムセスロード、ウチを突くようにツルマルボーイ。最後方には4番人気ロサード、そしてユノピエロがその外に付けまして最後尾、こういった形で先頭は既に向こう正面へと入っています。ハナを進みますは変わらずアンブラスモア、アサカディフィートがそれを追う態勢です。〉
まだ向こう正面に入らぬタイミングであったが、早くも後方では動き出すウマ娘たちの動きがある。
最後尾にいたユノピエロが徐々に前へと位置を押し上げはじめ、スエヒロコマンダーやタマモヒビキも前を塞ぐ集団をかわすように外側へとズレ始める。
(アイツ、焦ったな。ここで位置取り争いに入りたくなる気持ちは分かるが、巻き込まれちまったらスタミナの浪費だ。)
向こう正面の直線に入ってまもなく、エアシャカールは自分に向けられる視線を感じ取っていた。
言うまでも無く、1番人気である自分をマークする、競争相手の視線である。ここで仕掛ける予兆を見せれば、すぐさまに周囲のウマ娘たちも応じて外側へ集団が膨らみ、思うようには前に出るルートを得られなくなるだろう。
今はただ、じっと視線を前方に向け、最終コーナーにて抜け出る機会を見逃さぬことに全神経を傾けるのみであった。
〈さぁ、そろそろ全体のペースもぐっと上がり始めたか、先団への距離も詰まってきました。先頭は外からアサカディフィート、ダイワジアンも1番手争い、外に出していましたスエヒロコマンダーを追ってタマモヒビキも上がってくる!アドマイヤカイザーも前を目指す勢いですが、ここでエアシャカール、エアシャカールが中団の間を縫うように順位を上げ始めた!〉
万全を期して、シャカールは仕掛けた。
最終コーナーに突入するまで、結局外側から上がる様子を一切見せることなく、何の予兆もなしにエアシャカールは集団の中を突き抜けるように上がっていく。
(俺の見越した通りだ、ここの最終コーナーは全員が速度を出す、だから遠心力で振られて集団に隙間が出来る……!)
エアシャカールの予想外の動きに、ぴったりとマークしていたウマ娘たちも追いすがるが、1名分の隙間を器用に抜けていくシャカールのすぐ後を追うことは困難を極める。
更にその先のルートも、シャカールの頭脳はしっかりと計算していた。コーナーを抜けきった時、自分が走ろうとするコース前方を塞ぐ存在は居ない。
〈いよいよ4コーナーを抜けます、直線へ向きまして、先頭はアサカディフィートですがトーホウシデンが上がってきた!トーホウシデンが先頭!外からダイワジアンも続く、しかしエアシャカールが来た、エアシャカールが一気に追い上げてくる!既に先行のウマ娘をとらえる位置から、この加速、これは強い!エアシャカールが一気に躍り出た!〉
もはや勝ちは決まったとばかりに、ほとんど喝采のごとく沸き立つ歓声を浴びながら、エアシャカールは寸分の狂いの無い計算の通り、十分な速力で直線を駆けあがっていく。
大興奮の観客たちであったが、シャカール自身の胸中は冷静なままであった。最後の最後まで、走りを乱すことがあってはならない。
(ロジカルにレースを進めるだけだ。俺の出しきれる、全力をきっちり使って……)
過剰に速度を出し過ぎてゴール前の失速を起こすことも無く、慎重に脚を溜めすぎて前のウマ娘に逃げ切られることも無い。
上り坂でも減速する様子は一切見せることなく、エアシャカールは後方のウマ娘たちを数バ身ものリードで置き去って、独走しゴールへと向かっていく。
定められた運命などあるものか、常にウマ娘は、出走したレースで最善の結果、すなわち一着を目指して走るのだから。
……だが……これが、去年と全く同じ走りであることに気づいたのは、大外から追い込んできたツルマルボーイの蹄音を耳にした瞬間であった。
〈アサカディフィート食い下がっている、位置を上げていたユノピエロも、ブリリアントロードも差を詰めてくるが、エアシャカールは変わらず先頭……大外からツルマルボーイ!ツルマルボーイが上がってきた!ツルマルボーイとエアシャカールが並ぶ、ツルマルボーイが抜いた、差しきった!ツルマルボーイいま一着でゴールイン!〉
それと気づいた時には、既にエアシャカールはツルマルボーイに抜かれていた。
エアシャカールが茫然としたのは、その瞬間ではなく、ゴール後に減速しながら、レース結果を表示する掲示板を見たときのことである。
(ツルマルボーイと俺の差は、1.5バ身差……俺と、三着のユノピエロの差は、5バ身差……ンだよ、これ……。)
ツルマルボーイが想定以上の加速力で追い込んできたことにレース場内は動揺していたが、シャカールの動揺はそこに無かった。
Parcaeの予測、そして自分の記憶にある一年前の金鯱賞と、全く同じ結果が出ていたのだ。
これが現実であり、白昼夢でないことは、実際に今、走り切った自分の身体の感覚が、何よりも明瞭に証明していた。
(俺は、本気で走った。ツルマルボーイも、ユノピエロも、さらに後の着順の連中も、手抜きなんかしてねェ、全員が本気で走ってンだ……去年と全く同じ展開なんて、ありえねェ……。)
単なる速度だけではない、競争相手との駆け引き、位置取り、そして前へと抜け出るコース選択。
その全ては、既に定められたものであるはずがなく、このレースが行われる瞬間に初めて実行されるものであるはずだ。
すなわち、結果は常に未知であるはずだった。
(……タキオン、お前はこのレース、どう見ンだよ。俺は“特異点”とやらじゃねェ、ってのか?)
ネオユニヴァースが出走したレース、あるいはゼンノロブロイが出走したレースは、昨年と同じにはならず、完全に未知の結果がレース着順として出ている。
そのメカニズムが不可解であることには変わりなかったが、エアシャカールは彼女らと自分の間に絶大な差があることを実感させられたような感覚を抱きつつ、顔色を失ったまま地下バ道へと戻っていった。