探求者たちのタイムクライム   作:Okubo Masau

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 初夏、世間の話題は近づいてくる宝塚記念で染まりつつあったが、出走者のリストに目を通していたアグネスタキオンは早くも一つの懸念を見出していた。本来ならば非現実的な現象、すなわち昨年と全く同じ出走者が揃うこと。綿密なスケジュール調整の結果、出走が決まるウマ娘では確実にあり得ない出来事である。異変が待ち受けているかもしれないと警戒しつつ、先に行われるのはアグネスデジタルが出走する安田記念であった。こちらは1年以上の休養を終えたデジタルが戻ってくる大舞台ゆえに、観戦するタキオンと鷹木は一時ながら不安から離れていられるのであった。


閉ざされうる先行きへ、勇者の蹄音

 6月の初頭、早々に訪れる大舞台は安田記念である。

 

 中でも話題の中心にあったのは、一年以上もの長期休養を経て復帰したアグネスデジタル。先月のかきつばた記念では四着という結果に終わったものの、本番レースの感覚は充分に取り戻せたことだろう。

 

 かつてドバイや香港にて世界を沸かせた、変幻自在のオールラウンダーなウマ娘。アグネスデジタルの本領発揮を世間は待ち望んでいた。

 

 むろんトレセン学園の中でも、デジタルの本気の走りを再び見られるという期待への熱は高まっていたが、一方でその先にあるレースを睨み……若干ながら危惧をも抱いている面々もあった。

 

「トレーナーくん。今月末に行われる、宝塚記念の出走予定者リストには目を通したかい?」

 

 日々の習慣となっている、脚の筋力維持のためのトレーニングを開始しながら、アグネスタキオンは鷹木へと問うた。

 

 皐月賞以降、歩けこそすれど脚の完治は遠く、未だ復帰の目処がたたないタキオン。とはいえ、それがウマ娘としての本能ゆえか、自分が出走できずともレースの情報には隅々まで目を通さずにいられないらしい。

 

 鷹木は、タキオンが話題を持ちかけてきた時点で、彼女が言わんとしている内容をおおよそ察していた。

 

「まさか……また、去年と全く同じなのか?」

 

「自分の目で確認したまえ。私の懸念は、今年の京都記念や阪神大賞典、さらには金鯱賞で見いだされた現象の際に抱かれたものと同一ではないねぇ。」

 

 相変わらず、自分の担当トレーナーを試すようなタキオンの物言いを前にしつつ、鷹木は手元のPCでURA公式の発表した出走者リストを閲覧する。

 

 ……果たして、そこには昨年と同じ出走メンバーが名を連ねていた。エアシャカール、ツルマルボーイ、ローエングリン、マチカネキンノホシ、アクティブバイオ、テンザンセイザ……。

 

「これは、また……昨年と全く同じレース展開をなぞる現象が発生してしまう、ってことなのか?」

 

「それだけでも十分に異常だが、私の危惧は別にあるねぇ。昨年と全く同じ出走者ということは、特異点として最たるウマ娘だったはずの存在……ネオユニヴァースくんが入っているはずだ。」

 

 タキオンが言った通り、ネオユニヴァースも宝塚記念の出走者リストに含まれている。

 

 忘れようもない昨年、宝塚記念での勝利を果たしたネオユニヴァース。クラシック級のウマ娘が宝塚記念を制するのは、初の快挙でもあった。

 

 それほどの実力者ともなれば、今年また宝塚記念に出走すること自体は充分にあり得る事態ではあったが……タキオンには、鷹木と一緒でなければ確認することを恐れている事項があるらしかった。

 

「トレーナーくん。ネオユニヴァースは特異点だ、と私が語ったことは忘れていまいね?」

 

「あぁ、さんざん聞かされたからな。実際、クラシック三冠と同年に宝塚記念も獲るだなんてウマ娘が、並みであるはずがないし。」

 

「だが、今の私は……そんなネオユニヴァースくんという特異点までもが、既に結果が決まっているレースの中に呑まれてしまったのだ、と考えずにいられないんだよ。」

 

 その文言を口にする時、タキオンはトレーニングの動きを一旦止めていた。

 

 軽い重量だけを負荷として掛け、脚を踏み出す筋肉を鍛えるトレーニング。タキオンが脚から力を緩めるたびに、本格的なトレーニングの一割にも満たない軽いウェイトが、床をコトリと鳴らす。

 

 その軽い音さえも、タキオンの発言が含む危惧、警鐘の響きを十全に阻害してしまうかのようであった。

 

「分かるかい?これまでは、ネオユニヴァース、そしてゼンノロブロイが参戦したレースは、完全に未知の結果となった。可能性世界で確定した結末をなぞるかのごとく昨年と全く同じ結果となるレースが他に行われていても、ネオユニヴァースが出走すれば、可能性は新たに拓かれた。」

 

「あぁ、これまでは……。」

 

「これからは、そうではなくなってしまうんじゃないか?ウマ娘レースにあってはならないこと、既に未来のレース結果が確定しており、どれだけ懸命に走ってもその結果を覆せないということが……特異点であるはずの、ネオユニヴァースの身にも起きてしまうんじゃないか?」

 

 語るタキオンは表情を極力変えまいと努めていたようだったが、声色にはハッキリと懸念が、いや不安が現れていた。

 

 自分がウマ娘である以上、そしていずれレースの場に復帰することを企図している以上、ウマ娘レースの結果が常に未知というわけではないという可能性は、憂いの源以外の何物でもない。

 

 殊にタキオンにとっては、かつて弥生賞で自身の限界に限りなく近づいた時、未来に起こりうるはずの皐月賞での光景を垣間見た実体験は、その不安な仮説に一層の確証を与えていただろう。

 

 何を言っても気休めでしかないとは知りつつも、鷹木は口を開く。

 

「だが、まだそうと決まったワケじゃないだろ。同じメンバーが集まっていても、ネオユニヴァースは去年とまったく違う走りを披露するかもしれない。」

 

「事前に確認を取るための、最も確実な手法が他にある。これまでの法則に従えば、世間は去年と全く同じレース展開が発生したことに気づかない。去年の宝塚記念のデータを確認するためのあらゆる手段は、既に失われている。」

 

 タキオンに言及されたことで、ようやっと鷹木も気づいた。

 

 昨年と全く同じ展開になったレース、今年は京都記念、阪神大賞典、そして金鯱賞でその現象がおきたのだが……いずれも、昨年のレースの結果を検索すれば、一昨年以前のデータしか出てこなかった。

 

 世間で騒ぎにならなかったのも道理である、2年連続で全く同じレースが行われたことを客観的に確認する方法がないのだから。

 

 鷹木は慌てて去年の宝塚記念のデータを閲覧できるページを開いたが、そこにはメイショウドトウが勝利した宝塚記念、すなわち2年前の結果しか表示されていなかった。

 

「今さら慌てても遅いじゃないか、私は既に昨晩の時点で確認したよ。」

 

「いや……どう考えても、おかしいだろ。ドトウは一昨年の有馬記念で引退してるんだぞ。なのに、去年の宝塚記念のデータにドトウの名前があるだなんて、世間の観衆たちも異常だとは考えないのか……?」

 

「それだけじゃないねぇ。ネオユニヴァースが昨年の宝塚記念を勝利したという結果は、前代未聞、唯一無二の快挙であったはずだ。」

 

「……だよな。クラシック級のウマ娘が、宝塚記念に出走して一着になったことは、これまでになかったんだ、そのジンクスをネオユニヴァースが打破したんだ……それすらも、無かったことになってるのか?宝塚記念を勝ったクラシック級ウマ娘は、存在していないってことになってるのか?」

 

 クラシック級から出走できる宝塚記念ではあるが、単なる速さだけではない、コーナーや坂道の配置、そして競争相手との駆け引き等、シニア級ウマ娘との経験の差は大きな壁である。

 

 ゆえにクラシック級ウマ娘が宝塚記念を制することなどあり得ないとされていたのだが、ネオユニヴァースは昨年のクラシック三冠路線の最中、見事に勝利したはずだった。

 

 ……今、鷹木が閲覧しているPC画面からは、その事実は完全に消されてしまっていたが。

 

「我々が想定していた以上に、この現実世界の歪みは大きくなっているのかもしれないねぇ。」

 

 茫然とノートPC画面を見つめる鷹木の耳に、タキオンがトレーニング機器を動かす音が再び届き始めた。

 

 アグネスタキオンの内面でも不安が解消されてなどいないだろうが、この世界の摂理そのものに異常があるのだとなれば、もはや自分が焦っていてもどうにもならないとの考えに至るようだった。

 

 それに、現状に明確な異常を見出しているタキオンの内面に、まだ状況を楽観視できるだけの判断要素は確かにあった。

 

「そう蒼ざめないでくれたまえよ、トレーナーくん。キミに倒れられたら、誰が私の面倒を見るんだい?」

 

「あぁ、分かってる、だが、流石にこれほどにもなると、単なる思い違いや記憶違いだと考える余地も無くなって……」

 

「まだ、そんな消極的な説に逃げることを考えていたのかい、今さら蒼ざめだすのも当然だねぇ。さほど強く懸念する必要はない、まだ可能性は潰えていないだろう?」

 

 何についての可能性であるか、タキオンは具体的に口にはしなかったが、鷹木には十分に伝わった。

 

 ウマ娘レースの未来が閉ざされてしまうのではないかという懸念を、すっかり解消してしまえる可能性である。

 

 既に確定していたレース結果を再現することに終始するのではなく、ウマ娘たち自身が懸命に走り、そのレース、その走りでしか成し遂げられない結果を見出すこと。この世界で、それが常に実現すること。

 

「この世界は、ウマ娘レースを中心に回っている。ウマ娘の走りには、世界を変える力がある。いずれも既に実証済みの事実さ、少なくとも私はそれに気づいているし、気づいていない面々にも特異点たる可能性はある。」

 

「……だな。少なくとも、今年のクラシック路線を走っているジャングルポケットやダンツフレームのレースは、過去でも未来にも、絶対に繰り返されるものじゃない。」

 

「さらには来年から本格的に走り始める、私たちの後輩ウマ娘も同様だねぇ。多少の異常現象が見いだされても、トレセン学園に新たな息吹が見いだされ続ける以上、ウマ娘レースの未来は無限に拓かれているはずだ。」

 

 特定のレースで去年と同じ展開が繰り返され、さらには昨年のレース記録が無かったことになるという異常。その根本的な原因を探る術がないことには変わりはない。

 

 だが、気休めに過ぎないかもしれないが、未来を担いうるウマ娘たちがトレセン学園にて新たなレースへの道を歩み続けている事にも違いなかった。

 

「この私が気づいているんだ、おそらくネオユニヴァース自身も異常に気付いているだろう。今は宝塚記念の本番に向けて余念のない時期だろうが、宝塚記念が終われば直接尋ねてみたいものだねぇ。」

 

「もしかするとネオユニヴァースは、同じレース展開を繰り返す異常に巻き込まれながらも、新しい展開を切り拓くことができるかもしれないな。既に、この異常に気づいているのなら。」

 

「可能性はゼロじゃないねぇ……だから私も、再び走らなければならない。また、ウマ娘レースの舞台に戻って。」

 

 脚の筋力トレーニングの予定されていたセット数を終えて、タキオンは小さく息を吐き出してからトレーニング機器を降りる。

 

 休憩スペースにて鷹木がテレビ画面を点ければ、既に安田記念の中継番組は始まっていた。

 

 その日出走するアグネスデジタルは4番人気であったが、パドックに姿を現した際の歓声は全出走者の中でも最大であったろう。

 

 もちろん、画面越しにレース出走ウマ娘を見つめるアグネスタキオンの視線は以前同様に真剣そのものである。と同時に、以前には無かった、焦がれるような輝きも今は含まれていた。

 

「トレーナーくん。」

 

「何だ?」

 

「皐月賞の時、私の考えを引き留めてくれたこと、今さらながらに感謝するよ。」

 

「……トレーナーなんだから、当然の判断だ。」

 

 アグネスデジタルは、相次ぐ海外遠征の後、1年以上もの長期休養を経て、またしてもウマ娘レースの舞台に上がっている。

 

 走り続けられる限り、ウマ娘の可能性は拓かれ続ける。既に定まった運命ばかりをなぞることを是とせず、自分とトレーナーで鍛えた走りだからこそたどり着ける未来を希望できる。

 

 限界のその先を見ようとして、自分自身が走る道を断ちかねない選択を採ろうとしていたタキオンは、将来の可能性が残された現状がいかに貴重であるか、じわじわと実感しつつあるようだった。

 

〈長い休止期間を経て、ついに戻って来たアグネスデジタルの姿、東京レース場に詰めかけた何万人もの観客の皆さんから盛大な歓声が浴びせられています。いよいよ発走時刻が近づいてまいりました、安田記念。18名、フルゲート出走の中でもGⅠ勝利経験のあるウマ娘が5名、伝統の府中マイル、ゲートインが続々と進んでいきます。〉

 

「まったく、デジタルくんを4番人気にしておいて、歓声だけは盛大に浴びせるとはねぇ。一般の観衆というものは、感情で事実を糊塗するのがお得意らしい。本心では、デジタルくんの実力を信じ切れていない連中が多いことの証だ。」

 

「GⅠレースで4番人気なんだから、十分に人気ウマ娘だってことは証明されているんだけれどな。」

 

 鷹木が入れた補足では、タキオンは全くと言っていいほど納得してはいない様子であった。いつも通り、口角を歪める笑みと無言で流したのみである。

 

 それほどに、今のデジタルは可能性の塊であると見えたのだ。自分よりも先輩、既に多くのレースを走り抜いてきて、世間からは全盛期を過ぎた、そろそろ限界だと見られるアグネスデジタルの存在が。

 

〈全ウマ娘、体勢完了……スタートしました!おっと6枠、ダンツジャッジ転倒!ダンツジャッジ転倒、怪我はないでしょうか、ダンツジャッジは競争中止、17名にてレース続行です!冒頭から波乱の展開となりましたがまずは先行争い、外から上がっていったのはミデオンビット、先頭に立ったのはミデオンビットです。続く2番手はローエングリン、そしてビリーヴ、今年の高松宮記念を制しましたビリーヴが3番手についています。〉

 

 スタート直後のダンツジャッジの転倒に場内がどよめいている中、アグネスデジタルのひとつ後輩、水色に赤のラインが入った勝負服のビリーヴが先頭集団を追っている。

 

 スプリンターズステークス、そして高松宮記念と、アグネスデジタルが休養期間に入っていた間に短距離マイル路線で活躍していたウマ娘である。

 

「ほう、果敢に攻めるものだねぇ、ビリーヴくん。東京レース場はマイル戦といえど持久力が要求されるコースとなるが、この作戦がどう出るかねぇ。」

 

「だが進んで理想的な位置につけている、東京レース場の長い直線を把握しているから採れる作戦だな。」

 

 最初のコーナーの前には、550mにも及ぶ直線コースがある。

 

 大抵のレース場は、位置調整が難しくなるコーナーに入る前に位置取り争いも激しくなるものだが、これほどの直線の長さとなれば、各々が走るコースを定めるのにも余裕がある。

 

 それよりも、下り坂になって突入するコーナー部分で速度が落ちない状況の方が、スタミナ面での厳しさを生む。

 

〈外を突きましてアドマイヤマックスが4番手、そのウチ側にハレルヤサンデーが追走、アグネスデジタルはかなり密集した隊形となりました中団のやや前方、コース内側についております。さぁ先頭は早くも3コーナーを回っていきます、外から懸命にタイキトレジャーが上がっていきました、直後にはウインブレイズがおります。外にはミレニアムバイオ、おっと更に外を突きましてテレグノシスが前を窺って上がってまいりました!〉

 

 マイルや短距離の実況は出走ウマ娘の名を読み上げつつ刻々と変動する状況をも報せねばならぬため、かなりせわしないものとなる。

 

 そして、やはり3コーナーに入ると同時に、下り坂での加速に乗って一気に仕掛けだしたウマ娘たちの争いに、実況も観客スタンドも熱が上がりはじめた。

 

「マイル路線のウマ娘らしい決断の早さだ、脚を溜めるべきかと迷っている暇など無いというわけだねぇ。一方で、さすがにデジタルくんは落ち着いているねぇ。」

 

「東京レース場の3コーナーは確かに速度が上がるんだが、そこから残り1000m、ゴール前の上り坂もあるわけだからな……。」

 

 アグネスデジタル自身、殊にデビュー直後から2年目までは、どれだけ懸命に脚を動かしても最後の直線で他の競争相手に届かないという経験を幾度も重ねてきていた。

 

 だからこそ、他に遅れまいと上がっていくウマ娘たちの背を追いつつも、気持ちを急かすことなく状況を見極める集中力が切れないのだ。

 

〈さぁ大ケヤキを回りまして4コーナーへ、最後方におりましたイーグルカフェも前に出ようとするところ、後方集団ではミスキャスト、さらにはボールドブライアンといった並びとなっております!600の標識を通過!現在先頭はミデオンビット、ミデオンビットが逃げます1バ身程のリード、さぁ直線を向いた!2番手にはローエングリン!外へ持ち出しているのはビリーヴ!懸命にビリーヴが前を追う!〉

 

 最終直線、観客たちが詰めかけたスタンドからの歓声もひときわ高まるレースのクライマックスである。

 

 が、東京レース場はここからが長い。残り600の標識が、コーナーの出口、まもなく直線に入るという地点に立っているのだから。

 

「デジタルくんのことを実況も注目していないようだねぇ。観客たちも、先頭争いをしている面々にばかり注視していそうだ。」

 

「仕方ないだろう、完全に中団のど真ん中に位置どっているんだから。だが、それこそデジタルの作戦でもあるだろうな。」

 

 最もスタミナの浪費なくコーナーを回れる最ウチ、あるいは前方を塞がれることなく抜け出せるコース外側。

 

 そのいずれでもない、下手をすればブロックされて前に出られなくなる恐れもある、集団のど真ん中にアグネスデジタルは位置どっていた。

 

 普通のウマ娘ならば、そのようにリスクのある走りを選ばなかっただろうが……アグネスデジタルには、十分すぎるだけの技術が備わっていた。

 

 残り500mの距離を以て、中団に埋もれた状態から先頭を奪うだけの走りも。

 

〈残り400を通過!ここから上り坂だが、ローエングリンが更に速度を上げて抜け出してくる!先頭のミデオンビットは苦しいか!外からビリーヴが来る!先頭争い固まっているがローエングリンが抜け出して残り200を通過!そして懸命にアドマイヤマックスが上がってきた、いやアグネスデジタルだ!集団のど真ん中を抜け出して、アグネスデジタルだ!アグネスデジタル一気に先頭に立ってゴールイン!アグネスデジタル勝ちました!変幻自在のオールラウンダー、アグネスデジタル、依然として健在であります!〉

 

 先頭の位置を狙える3番手集団の中に潜み、ゴールまで残り200mといったところで一気に加速して先頭に立ったアグネスデジタル。

 

 まさに死角から飛び出す奇襲のごとき作戦に、場内は大いに沸いた。中継画面を眺めていたタキオンもまた、知らず立ち上がってレース展開を凝視していた。

 

「さすがだねぇ、デジタルくん!全く以て玄人の走りだよ、先頭を圏内に捉えながら、誰からも警戒されないとはねぇ!」

 

「元から器用な脚質だったが、経験を積んだことでますます自在に速度も位置取りも操れるようになってると見えるな。」

 

 翻せば、アグネスデジタルがそういった策を活用する必要性を見出していることの証でもあったが……1年以上もレースから離れており、そしてもはやデビューから5年というウマ娘が、GⅠレースを勝利した事実には変わりない。

 

 その走りが、見る者に希望を与え、未来への可能性が開かれていることに確証を与えることもまた、同様である。

 

 振り返ったタキオンの目の中で、鷹木はもはや自分が蒼ざめていないことを見てとっていた。

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