ダンツフレームの出走した神戸新聞杯から5日後、アグネスタキオンもまた遂にレースの舞台へと戻ることとなる。
9月28日、オールカマー。既に夏合宿の時点でキングヘイローには見抜かれており、また先日カフェからも推測されていた通りの出走であったが、世間は出走者リストにさらりと名を連ねていたアグネスタキオンの出現に騒いでいた。
そもそも、オールカマーに誰が出走する予定であるかについては事前に周知されており、秋の天皇賞のステップ競走となるために世間からの注目度も十分だったはずだが……まるで、当日になってその事実が確定したかのごとく、俄かにトピックは沸き立ったのである。
「なるほどこれは、可能性世界に存在しない現象を私が引き起こし得たのだ、と推測して良さそうだねぇ。勘違いでも何でもなく、いよいよ避けがたい現実となって初めて世間に認識されるのだから。あるいは、私の注目度に相応しく大々的に復帰記者会見でも開いてやったほうが親切だったかねぇ?」
「それは俺の神経が持たないから……トレーニング時間の確保が難しくなるって点でも、また衆目にさらされるって点でも。」
「ついでに、私が世間に対してさほど愛想良くない印象を与える点に関しても、かねぇ?」
新潟レース場内部、出走ウマ娘とトレーナー用の控室にて、勝負服に着替え終えたタキオンは、その長く余らせた袖をくるくると振り回しながら機嫌良さそうに語っていた。
確かに、彼女にとっては愉快な状況だったろう。自分の発見が他者の思考の死角を突いていることを喜ぶのと同様に、自分の出走が世間一般に全くの予想外として受け止められている様は。
とはいえ、人気度については2番人気どまりであった。いくら今年度の初旬、無敗のまま皐月賞を制したウマ娘だと言っても、暫くレース本番から離れていたタキオンには思うほどの票は集まらなかった。
「……それでも2番人気にまで届くのは尋常じゃないんだがな。なにしろ、シニア級以上の先輩ウマ娘たちと競うことになるんだから。」
「もとより私は人気度など気にしてはいないねぇ、マークが集中してしまうという実レース中の悪影響については考慮に入れておくけれどねぇ。そう考えれば、1番人気でなくて助かったと考えるべきかねぇ。」
「いや、タキオン、お前が何番人気であろうと関係なく、マークが集中することになるだろう。トレセン学園内での評価は、世間一般とは違う。」
何しろ、お互いレースを走るプロ同士である。タキオンがほぼ全速力で駆け抜けた弥生賞も、鷹木による指示で速力を加減して勝利した皐月賞も、現役レースウマ娘ならば走り方を見るだけで相手の強さが分かる。
そのうえ、同世代ではなくシニア級以上、すなわちアグネスタキオンよりも先輩にあたる面々ともなれば……このオールカマーでの結果は、先輩としての沽券にも関わってくる。
「構わないさ、私がこれからも長らく走り続けることを期待されているのならば、レース中にマークされブロックされることは必然として経験することになるのだから。そう、世紀末覇王こと、テイエムオペラオー先輩のようにね。」
「……あぁ。そろそろ時間だな。勝ってこい。」
鷹木の喉の奥には、まだまだ言い足りない思いが山のように詰まっていた。
確かにオペラオーは周囲からブロックされ、完全に包囲されてなお勝利を得ていた。が、それはまさにタキオン自身がオペラオーのことを特異点と称するように、レースの神に愛されてでもいるかのごとき才覚と強靭さを、その小柄な身体の内に備えていたためだ。
タキオン、お前はオペラオーとは違う、何をしても壊れない身体の持ち主じゃない。
このオールカマーへの参戦だって、何度も繰り返した検査の結果、万全を期して決めたことだ。
勝つよりも、怪我なく無事に帰ってくることを優先してくれ……。
嘘を吐けない鷹木の性質は、そんな形にならない言葉、レース直前のウマ娘に与えるにはあまりに弱気すぎる言葉を、何よりも雄弁に目で語ってしまっていたのかもしれない。
「意思が可能性を見出せば、それは必然へと近づくのさ、トレーナーくん。」
「え……?」
「忘れたとは言わせないよ?他ならぬキミが、皐月賞の直前に、私が運命を超え得る可能性を示したのだからねぇ。」
タキオンはあえて、いつも使っている“可能性世界”という表現ではなく“運命”と口にしたらしかった。
鷹木は言われて、今さらながらに思い出していた。皐月賞で自らの、そしてウマ娘の限界の先を見ようとしていたタキオンに対し、それは担当トレーナーに出会わずとも採っていた選択ではないかと告げたのだ。
タキオンに予め定められていた運命が皐月賞を最後に引退することだとすれば、それはタキオンの思考の外で判断を下す、担当トレーナーの存在があって初めて覆せる。
皐月賞を最後にしてもいい、との覚悟を決めていたタキオンに、鷹木はそう伝えたのだ。
「あの日キミが示した可能性を、私が実証しに行く。その晴れ舞台なのだよ、今日のレースは。喜ぶ準備だけして待っていてくれればいい、トレーナーくん。」
「……分かった。楽しみにしている。」
泳いでいた視線が定まり、鷹木が真っすぐ見つめ返してきたのを確認したタキオンは、満足げに頷いて地下バ道の方へと歩き去っていった。
……と言っても、タキオンに表情を見られぬ状況となれば、たちまち弱気な色が顔に表れるのが小心者の鷹木に根付いた本質であった。
「例年の中山レース場での開催と違って、今年に限って新潟レース場での開催に変更されてるんだよなぁ……あまりに違う、コースの起伏や直線コーナーの配分が……。」
中山レース場の2200mならば、タキオンが実際に勝利した弥生賞や皐月賞と同じ条件での腕試しともなる。
天皇賞への参戦も視野に入れたアグネスタキオンの復帰戦としてはうってつけであるはずだったが、今年は中山レース場の改修工事に伴いオールカマーは新潟レース場での開催となってしまっていた。
今年の秋の天皇賞もまた、例外的にいつもの東京レース場ではなく、中山レース場での開催となっている。いわば、例外に例外が重なったための結果であった。
「夏合宿では、キングヘイローに俺の魂胆を見抜かれていたけれど……そういや、あの時点で分かっていたんだよな、今年はオールカマーの開催場所が変更だってこと。」
アグネスタキオンがオールカマーから天皇賞へと向かうことを目指している、と夏合宿中にキングヘイローによって言い当てられたのは、鷹木がタキオンに指示した練習距離が2200mであること、どちらも右回りで行われる中山レース場での開催であることが合致したためであった。
その際には、鷹木も何らの違和感なく頷いていたのだが、レース場の改修工事に伴う開催場所の変更は、急に行われるものではない。夏の時点で告知されていたはずである。
オールカマーが新潟レース場で行われる、という既知の事実が、何故かその時のやり取りでは認識から抜け落ちていた。
「これもまた、タキオンが言うところの『可能性世界』と、この現実世界のズレによる影響なのか……?『可能性世界』では、この年のオールカマーは本来通り中山レース場で開催されていた、とか……。」
ぼやぼやと考えながら、トレーナー用のスタンド最前列のブースへと入った鷹木は、レース場全体の歓声や空気を前にして気を取り直した。
今は目の前のレース、タキオンが走るレースをしっかりと見届けなければ。
当然ながら今日にいたるまでのトレーニングは、新潟レース場のコース構成を想定して行っている。このコース最大の特徴は、いわずもがな国内最長クラスの直線である。
「2200mのコースは直線部分をフルに使うわけではない、途中からのスタートだが、それでも636mもの直線がほぼ起伏のない状態で続く。速度を落とす要素も無い、前半はハイペースで進むが、コーナーを挟めば途端にペースが緩む、というのが例年の運び……タキオンの器用さなら、有利に駆けられる……はずだ。」
聞かせる相手が自分自身以外に無い、孤独な観戦ブースの中で、鷹木は冷や汗を早くも全身からにじませながらブツブツと呟いていた。
レース全体の緩急が激しい走りの中では、逃げや先行のウマ娘が苦労することになる。一定のペースを保とうとしても、スタート直後には後方から追い立てられ、中盤には脚を溜められ、そして終盤辺りからまたも追い上げられる。
ペースが乱されればその分、スタミナ管理の難度も上がる。そういったレースでこそ、器用にペース調整を行い、なおかつ全体の流れを冷静に俯瞰できるタキオンの頭脳は役立つだろう。
そして何よりも、GⅠクラスのレースで悠然と勝ちきる、あの飛び抜けた末脚も。
「……タキオンには、伝わっただろうか。まぁ、俺の内心なんて、読み取れているよな、あいつなら……。」
鷹木の本心は、勝つことが確定する状況ならば、走りを緩めて脚への負担を軽減することを優先してほしい、というものであった。思い切り走りたいという気持ちを抑えて、1か月後の大舞台も鑑みて加減してほしい、と。
数カ月ぶりに、レース本番のターフ上へ向かうウマ娘に対して……いつになく、その瞳を輝かせている担当ウマ娘に対して、掛けられるはずのない言葉であった。
〈曇天の空の下、いよいよ発走時刻を迎えましたオールカマー。人気を集めますアグネススペシャル、ゴーステディの走りにも注目が集まる中ではありますが、やはり世間を驚かせたのは突然の復帰となりましたアグネスタキオンの参戦でしょう。期限未定の活動休止宣言から5カ月、脚の故障はすっかり癒えたのかパドックでも好調な様子を見せていましたアグネスタキオン、本日は2番人気での出走となります。〉
独りでくよくよやきもきし続けているトレーナーとは対照的に、アグネスタキオンはまさに絶好調、以前まではさほど愛想よい態度を見せなかった観客たちに対しても、軽く手を振る程度の仕草は示していた。
クラシック三冠の夢を自ら潰したような形で活動休止していたタキオンではあったが、彼女がレース本番の舞台に返り咲くのを待ち望んでいたファンも少なくないらしい。都心からははるか遠い新潟という地にも数多くの観客が詰めかけていた。
「見せてやろうじゃないか、何者にも確定され得ない、真なる可能性というものをねぇ。」
ゲートイン直前に呟いたタキオンの言葉は、誰に聞かせるためのものでもなかった。
強いて言うなれば、この世界、摂理そのものへと突きつける挑戦状であった。
〈全ウマ娘、枠入り完了……スタートしました!外枠から一気にゴーステディ、ゴーステディが先頭に立ちました、続いてクラシック級からの挑戦者シアトルリーダーが2番手、3番手にはホットシークレットがウチ側に並びます。その後に大ベテランのアメリカンボス、そしてエアスマップが並びまして、ウチを突くようにアグネススペシャル、ピタリとつけてビッグゴールド、ハッピールック並んで中団を形成。注目のアグネスタキオンは中団後方に位置どっています。〉
やはりスタート直後からかなりのハイペースで進んでいくレースでありながらも、果敢に先頭を取っていったのは比較的若い世代のウマ娘たちである。
特にシアトルリーダーはアグネスタキオンよりも後輩なのではないかと思われるほど、小柄なウマ娘であった。当のタキオンがクラシック級なのだから、それより下の学年であるはずがないのだが。
「任せて正解だった、悪くない位置だ、タキオン。」
相変わらずレースのこととなると凡庸なアドバイスしか出来ない鷹木は、トレーニング時にもひとしきりデータ上で言えることを告げた上で、実際のレースでどこに位置取るかはタキオンの判断に任せることとしていた。
前年度までの傾向こそ参照できても、まだ行われていないレースの展開など想定できるはずもない。未確定の事象の中でこそ頼れるのは、実際に走るタキオンの判断力であった。
〈さぁ長い長い直線を抜けて、1コーナーへと入っていきます。先頭は変わらずゴーステディ、しかし中団以降が追い上げて先行集団は早くも詰まり気味、ホットシークレットが外から並びかけてシアトルリーダーと2番手争い、アメリカンボスとエアスマップもほとんど差が無く4番手5番手あたりで1コーナーから2コーナーへ。ビッグゴールドも前へと上がっていく、アグネススペシャルに並んで中団は混戦模様であります。〉
起伏の無い、のびのびとスピードを出せる国内最長の直線で存分に加速してきたウマ娘たちは、最初のコーナーで前方の競走相手に追いつき、団子状態となってコーナーを回っていく。
密集隊形となれば接触事故に気を遣わねばならず、更には相手に譲って自分に有利なルートを潰されるわけにもいかず、スタミナと神経をそれだけすり減らすこととなる。
「タキオンは、後ろ目につけたままだな。混戦に巻き込まれない、良い位置……いや、アイツ、それでも前方にプレッシャーをかけているのか?」
鷹木としては安全な位置でレースを進めてくれれば御の字であったのだが、当のタキオンは安穏とした走りを是としてなどいないらしかった。
前から9番手辺りをキープしていたアグネスタキオンもまた、じりじりと前方に迫っていく。そのまま上がって行っても集団のど真ん中に突っ込むだけであり、自分を警戒視する面々を追い立てることが主たる意図であるのは明白だった。
案の定、タキオンより前に出ようとしている競争相手達は更に前へと位置を押し上げ、先頭集団はいよいよもって詰まった隊形となりつつあった。
〈向こう正面に入りまして1番手ゴーステディ、続くシアトルリーダーは2番手ですがかなりの混戦模様であります、先ほど上がってきたホットシークレットを抜いて、エアスマップが2番手シアトルリーダーと並んでいるという展開。残り1000mを通過、ビッグゴールドがエアスマップのすぐ後ろ、外から前へと出そうという形で、アメリカンボスも続いて早くも前を目指しています。アグネススペシャルは少し後ろに下げたか、そこに並んでアグネスタキオンもじわっと前へ位置を詰めています。〉
同じアグネス冠とはいえ、アグネスフライトのようにタキオンと血のつながりはないだろうが、それでもいち早くタキオンの思惑を察したのかアグネススペシャルが位置を下げていく。
このまま先頭集団内での位置取り争いに参加し続ていては、余計なスタミナを費やすだけだと気づいたのだろう。
多くの競走相手がアグネスタキオンに先行されることを強く警戒して前方に殺到した結果の混戦模様ゆえ、好位置で最終コーナーを回ろうと固執することに対し、得られるリターンは極小となっていた。
「あの動き……ゴール前の争いでは、アグネススペシャルが来るぞ。気づいているよな、タキオン……!」
それはレース開始時から徹底して最後方に位置取り続けているウマ娘にも同様に言えることだったろう。
本番レースを走ってきた経験ならば名実ともに大ベテランの域にある、トシザブイもオースミブライトと並んで最後方で脚をじわじわと進めていた。
〈800の標識を通過、3コーナーを回っていきます、先頭のゴーステディ逃げているがリードはほとんど無い!2番手にシアトルリーダー、しかし外から上がってきたエアスマップが完全に並んでいる、現在2番手はエアスマップ。ホットシークレットは少し位置を下げたか、かわってビッグゴールドが3番手につけた、2番人気のアグネスタキオン、3番人気のアグネススペシャル、外に出て前を目指す態勢ではあるがまだ仕掛けない!〉
本来ならば、最終コーナーを回る頃には既に前へと仕掛けていなければならない。
最長の直線距離を誇る新潟レース場ではあるが、2200mのコース2周目は直線の途中にゴールがある。コーナーを抜けてからゴールまでの直線距離、359m。後方から一気に仕掛けるには、心許ない距離である。
「一周目の感覚で構えていると、先行している面々に逃げ切られる。だからこそ、最終コーナーに入る前に好位置を取る争いが激化したんだろうが……」
だが今、タキオンや他のベテランウマ娘が後方に控え続け、追い立てられ続けていた先頭集団の面々はほぼほぼスタミナを浪費してしまっていた。
やはり、ここに来て警戒すべきはあえて位置取り争いに参加せず、後方で待機し続けていたウマ娘である。
タキオンもそのことに気づいているはず、と鷹木は祈りながら拳に力を込めた。手加減して走れなどと指示を出さなかったことを、この時だけは後悔しなかった。
〈いよいよ残り400mを切りまして、最後の直線へと向きます!先頭はゴーステディ、ゴーステディだが、厳しいか!エアスマップが変わってハナに立つが、3番手で安定して走り続けていたホットシークレットが前に出た!そして大外からアグネススペシャル、そしてアグネスタキオン!アグネススペシャル、アグネスタキオン、揃って外から追い込んできた!大歓声が沸き起こる!最後方からトシザブイも続いている!〉
鷹木が想定していた通り、タキオンもアグネススペシャルに対しては警戒の目を向けていたのだろう。
アグネスの冠名を有する2名は、ほとんど並んだまま大外を上がっていった。もはや、コース内側で先行争いを続けていた集団など眼中にない様子で、互いの末脚を競い合うようにみるみる前へと出て行く。
「いや、行ける!タキオン、コンマ1秒もスタミナの無駄遣いが無かったお前に分がある!勝て!」
観客席は、ついに完全復活を遂げたアグネスタキオンの激走に大歓声を贈っている。が、鷹木の目には、ゴールへ向かうタキオンが、珍しく慎重な走りを披露しているように見えた。
このレースでの勝利に対して、ではない。このレースに勝った後、秋の天皇賞に出走することを鑑みて、の慎重さである。来月のレースとはいえ、余力を残しておかなければ大一番で全力を出し切れない。
鷹木の見込んだ通り、タキオンは終始、前方の集団を追い立てるポジションに徹していた。途中で作戦を変えたアグネススペシャルとは違い、確かにスタミナに余裕がある。
だからこそ……オペラオーからの助言を受けた皐月賞での走りが活かされていた。
タキオンは、最も勝ちに近い競争相手の、僅か前に鼻先を出す程度の速度維持に努めていたのである。
〈残り200を切った!先頭のホットシークレットをかわして、アグネスタキオン、アグネススペシャルが並んで先頭を目指す!アグネスタキオン、アグネススペシャル、ほとんど並んでいるが、僅かにタキオンが先頭か!アグネスタキオン、更に加速してゴールイン!ほぼほぼ僅差という所でしたが、アグネスタキオン!ゴール直前にアグネススペシャルより前に出て、見事に勝利しました!約5か月ぶりの復帰戦、栄光で飾りましたアグネスタキオン!〉
おそらく、視認の難しいほどの僅差では審議のランプが点灯することをもタキオンは見越していたのだろう。余力を見せつけるようにタキオンはハッキリと前に出て、クビ差での勝利となっていた。
観客スタンドを埋め尽くす歓声と喝采は、このレースでの勝利を讃えるものばかりではない。オールカマーにて、現役復帰したアグネスタキオンが勝利したことの意味に、気づかないウマ娘レースファンはいない。
「よくやった、タキオン……天皇賞だ、次は。」
観戦席に向けて片手だけを上げ、口元だけは笑みを浮かべつつ余らせた袖をゆらゆらと振っているタキオン。これは新たな可能性を開いた第一歩ではあるが、より大きな節目となる天皇賞を前にしたタキオンにとっては通過点に過ぎない。
例の如く愛想をさほど振りまくこともない担当ウマ娘をターフ上に遠く見つめながら、鷹木はいよいよもってタキオン自身を特異点たるウマ娘へ昇りつめさせるだけの覚悟を固めていた。