当然ながら、オペラオーはこっそりと忍んできたのだろう。何の騒ぎも無く学園に居られるのも、このごく一部のウマ娘しか入ってこれない個別練習場エリアであるためだ。
「いやはや、偶には鷹木の顔も見に来ようかと思ってね!そして、彼の今の担当ウマ娘……アグネスタキオン君の練習風景も。だがどうしたことだろう、どの練習場にも彼らの姿がないじゃないか!」
「ありゃ、そういやそうでした!実はタキオンさん、個別練習場を与えられててもいい戦績なんですけど、なにぶん休養期間が長かったもので……今なお一般の練習場を使っておられるんですよ。」
「なんと、そうだったのか!差し支えなければボクを彼らの元へ案内してもらえるだろうか、聡明なる勇者よ!」
「もちろんですとも!お教えしましょう、探求者が籠る岩山への道を!」
「道を教えてくれるんだね、森の小鳥よ!どこへでも行くよ!キミが飛んで行く所なら!」
いちいち芝居がかった物言いでの応酬になりながら、何故か普通に話すよりもスムーズに進む会話を展開しつつ、オペラオーとデジタルは屋外のグラウンドへと出て行った。
ひとつひとつの練習場がウマ娘向けのサイズであるため、莫大な敷地面積となるトレセン学園内ではそうそうすぐに噂は広がらない。
オペラオーがタキオンの元を訪れた時も、実に静かな邂逅となった。それは勝負服も耳飾りも外したオペラオーが、思いのほか地味な外見であり、どこにでもいる栗毛のウマ娘だとしか遠目には見えなかったためでもあろう。
デジタルがオペラオーを連れて近づいていく間、鷹木はタキオンと共に次の練習内容について話し合っていたところであった。
完全に話しかけられるまでの距離に来てもなお、遠くから見た際の姿勢のまま静止画の如く動いていなかったのは、実際に鷹木がオペラオーの姿を認識した瞬間から完全に固まっていたためである。
当然、タキオンが挨拶を投げかける方が先であった。
「これは……これは、これは!世紀末覇王、私が知る限り最大の特異点、テイエムオペラオー先輩じゃないか!トレーナーくんが微動だにしなくなったから、また何がしかの異変が起きてしまったのではないかと危惧していたところだねぇ、しかしウマ娘の歴史上最たる特異点が、今まさに目の前まで来たとあらば無理もない現象だねぇ!」
「やぁ、初めましてだね!確かに鷹木が固まってしまっている、ボクはどんなに深く眠っている者をも目覚めさせる歌を知っている。だが、キミ以上の知恵を持つ者は、誰もいない……命うごめくところ、必ずキミの息はそよぎ、思念の及ぶところ、必ずキミの想いが注がれている!だから、キミは、トレーナーくんを眠りから覚ますのだ!」
「確かにその通りだねぇ!この歴史的な邂逅を前に、トレーナーくんがフリーズしっぱなしでは勿体ない!ちょうど水飲み場にはホースが用意されている、この冷水を注げばきっと目を覚ますだろうねぇ!」
オペラオーは冗談交じりに返したつもりであったが、タキオンの方は思いついたことをしっかり実行してしまうウマ娘であった。
実際に、一端に蛇口がねじ込まれているホースを手に取り、その先端を鷹木へと向けたときには流石のオペラオーも止めに入ろうとしかけたが、鷹木が我に返るほうが幸いにも早かった。
「わっ、ま、待て!大丈夫だって、気絶したわけじゃないから!」
「おや、残念だねぇ、覚醒状態にある人間が意識散漫となった際の反応を観察しても見たかったのだが。」
「ジャパンカップ前だってのに、他のことに注意力を逸らすんじゃない、タキオン……えっと、その、オペラオー。久々だな。」
鷹木は蒼ざめかけていた顔色を元に戻し、若干きまり悪そうにしつつも視線はそらさずオペラオーを迎える。
引退から2年であったが、オペラオーの体格は現役時からさほど変わっていなかった。以前、皐月賞前に会いに行った時、もはや引退してもなお自主的なトレーニングを続けている姿を見せていたが、今なお続けているのだろう。
一方でオペラオーの顔つき、その風貌はますますおとなびたように鷹木は感じた。
「ボクとしては、さほど久々の再会というわけでもないけれどね!天皇賞でも、実況席からキミとタキオンのことはずっと見ていた……そう!その賛辞を伝えるのも、今日ここに来た目的のひとつだ!秋の天皇賞、見事な勝利おめでとう!アグネスタキオン!」
「おや、賞賛の言葉は誰が口にしても同じ内容だと考えていたが、特異点から告げられると少々重みが違ってくるねぇ。あるいは、デジタルくんからの言葉の比率が大きすぎたためかもしれないが。」
「ありゃりゃ、私、おめでとう言いすぎてゲシュタルト崩壊させちゃってたかもですね!」
テイエムオペラオー、アグネスデジタル、そしてアグネスタキオン。この場に居合わせているのはトレセン学園内でも癖の強い面々ばかりであったが、想定以上に和やかな会話が進行していた。
その一方で、鷹木は今しがたオペラオーが口にした内容も気になっていた。
「オペラオー、今日ここに来た目的のひとつ、って言ったが……トレセン学園に来た理由、他にもあるのか?」
「おっと、我が聡明なる理髪師は結論を急ぎすぎじゃないかい?だが、舞台は展開をもったいぶっても観客は飽きてしまうからね、お伝えしよう。アグネスタキオン、ボクと併走してくれるかい?」
ここに来て初めてタキオンは明確に驚きの表情を見せた。いや、そもそもタキオンが驚く事自体、まず普段からお目にかかるものではなかった。
当然デジタルも鷹木も絶句していたが……今回は、鷹木が先んじて口を開いた。
「オペラオー……?それは、本気……で?」
「むろん本気だとも、冗談をレースや練習に持ち込むボクじゃない。ボクも引退して怪我を治したあと、しばらく自主的に走っていたからね。自分がどの程度回復したのか知りたいし、何よりもタキオンくんの走りがどこまで磨き上げられたのか、見せてもらいたい。」
さすがにオペラオーのことを担当していたとはいえ、鷹木にも彼女の意図は読めなかった。むしろ担当していたからこそ、オペラオーの思考について安易な結論を出せなかったといった方が正しかったが。
後輩ウマ娘の走りを確認するだけであれば、鷹木と共にコース外から見れば良い。レース本番では競走相手達のペースに合わせて走りを変えるタキオンゆえ、本番前の練習風景を見られても支障ない。
既に引退したオペラオー自身が走りたいとは、どういうつもりか……ウマ娘の本質らしく、練習コースを前にしてどうしようもなく走りたくてたまらなくなったのか。
鷹木の返答より先に、タキオンが目を輝かせて頷いていた。
「願ってもない僥倖だねぇ!かの特異点の走り、私の間近で直接味わえるとは!トレーナーくん、構わないだろう!?」
「……あ、あぁ、こちらは問題ないが……オペラオー、走る準備は充分なのか?」
「心配せずとも良いさ、咄嗟の思い付きではないのだから!今日は、そのために来たんだから!」
オペラオーが手早く上着を脱ぐと、その下には既にランニング用のウェアが着こまれていた。
現役時代から小柄だったオペラオーは、今こうしてタキオンと並べばより明確に、その華奢さが露わになっていた。さすがにより小柄なアグネスデジタルと比べると、むしろ引き締まった筋肉が目立ったが。
当のデジタルは、思いもよらぬ展開、そして急に露わとなったオペラオーの足つきを前に、失神しかかった自分をどうにか取り戻していた。
「ひょわぁあぁ!私、実は寝起き前のベッドで寝てるとかじゃないですよね、いきなり目覚まし時計が鳴って、この最&高な夢を覚まさせたりしないですよね!?」
「ハーッハッハッハ!夢だとしても、ボクの現れた夢は永劫に記憶へと刻まれるだろう!」
高笑いするオペラオーを見るにつけても、この細い身体で、あの丸三年にわたる激闘を走り抜いたのか……そう考えると、鷹木は当時の自分がいかに恐れ知らずであったか、思い知らされるようであった。
今、タキオンに対して過剰に怪我の心配を抱くようになった理由は、確かにオペラオーの引退原因となった骨折がもとではあったが。
「コース条件は、もはや言うまでもないね!東京レース場、芝2400mだ!」
「堪らないねぇ!世紀末覇王がその名を刻んだ、ジャパンカップと同じ条件で、当の世紀末覇王に挑めるのだから!さぁ!トレーナーくん、計測の準備を頼む!」
興奮に任せて大声で語りまくるタキオンとオペラオー、そしてデジタルの声は響きもよく、個別練習場でもない場所ゆえに他のウマ娘たちが異変に気付いてこちらへ視線を向け始めていた。
「わかった……速やかに進めた方が良さそうだしな。」
「あっ!遠いほうのゴール標識は、私が設置して来ますよ!」
今から実戦形式の併走開始することを知らせるのも兼ねた、スタートとゴールの標識を抱え、鷹木とデジタルは練習グラウンドへと駆け去っていく。
その間、タキオンとオペラオーはウォーミングアップの運動をしつつ言葉を交わしていた。
「ところで……どうだい、鷹木は。トレーナーとして、励んでいるだろうか。」
「敢えて歯に衣着せぬ物言いをすれば、実に頼りない人物だと言わざるを得ないねぇ。勝利の確信よりも常に不安ばかりが勝ち、私の怪我への心配も過剰、なによりもレース中の作戦はこちら任せだ、私の想定を超える作戦を提案してくれるわけでもない。」
「ハッハッハ!実に相変わらずじゃないか!レース中の作戦に関してはタキオン、キミの判断能力を信頼してくれている証だろうね!」
「おそらく、オペラオー先輩の時も同様だったのだろうねぇ。担当ウマ娘の個々の勝利に対するトレーナーとしての貢献は、ひとつひとつを挙げれば地味と言わざるを得ないが……。」
タキオンは、視線をコース上の鷹木の方へと遣る。
鷹木はスタート標識を設置し終えて、こちらへ駆け戻ってくるところであった。グラウンド一周以上の長さとなる2400mの設定は、練習場の直線部分を二度通ることとなる。
ずっと遠い、直線の出口に置かなければならないゴール標識の設置はデジタルが担ったとはいえ、ウマ娘競技スケールの巨大な練習場は人間が走るにはあまりに広すぎる。息を切らしてこちらへ走ってくる鷹木の必死さを目の当たりにしながらタキオンは言葉を継いだ。
「……だが彼のおかげで、私は今なお現役続行できている。ジャングルポケット君との再戦が叶ったのも、トレーナーくんの皐月賞での助言あってのことだねぇ。」
「きっとそうだろう、とボクも思っていたよ。さぁ、あまりギャラリーが増えすぎない内に、共に駆けようじゃないか!」
既に、アグネスタキオンが併走練習する相手が、世紀末覇王テイエムオペラオーである、という噂は広がりつつあるらしい。練習場の至る所で、トレーニングを中断して足を止めているウマ娘たちの集団が出来ていた。
肩で息をしながら戻ってきた鷹木は、練習コースへ入っていく両名を前にして、汗をぬぐう暇もなくストップウォッチを構えることとなった。
「さぁ、鷹木!見ていてくれたまえ、今日限りの覇王の舞台を!」
「私がいかに特異点へと接近したか、着実な観測を頼むよ、トレーナーくん!」
「わ……分かった、じゃあ、準備いいな?位置について……用意、スタート!」
同時に駆け出していったタキオンとオペラオーであったが、先頭に立ったのはタキオンの方だった。
直線での加速を完璧に磨いてくるであろうジャングルポケットを意識し、前目につけるレースを想定している……そのことをオペラオーも既に分かっていたのか、オペラオーはタキオンを背後から追う位置につけている。
「タキオンも、オペラオーも、先行の位置で走るのが得意……だが、オペラオーはほぼ後方からの差しも出来るんだ、引退して2年とはいえ強敵だぞ、タキオン。」
「いやはやオペラオーさん、ほぼほぼ引退後の衰え無しじゃないでしょうか!!」
ゴール標識の設置から戻ってきたデジタルも、久々に覇王の走りを目の当たりにして目を輝かせている。鷹木は自分自身が口にして、初めてそのオペラオーのブランクの大きさを意識したようであった。
そう、オペラオーが引退してからもう2年になるのだ。にもかかわらず、練習コース上を走っていくタキオンとオペラオーは、遠目から見ても分かる相当なハイペースで、コース外に退いたウマ娘集団を沸かせていた。
ペースの維持も正確であり、両者はほぼ差が開かぬまま、一定の間合いを保って駆け続けている。
「思えばタキオン、自分がペースを観察される側に立ったのは初めてじゃないか?」
「ですよねぇ、いつもタキオンさんは先団あたりにつけて、他の子たちのペースを見回してる感じですし。」
向こう正面を駆けていくタキオンの脚運びを凝視しながら、足を速めてゴール位置へと急ぎつつ、鷹木とデジタルは共に頷いていた。
速度の揺らぎは皆無であったが、それでもずっと担当してきたトレーナーであればこそ、見抜ける脚運びの迷いが……言うなれば、食らいつく先の無い牙を持て余したような感覚が、遠目から感じ取れたのである。
タキオンを先頭に行かせて、ぴたりと背後につき続けるテイエムオペラオー。この一度きりの練習でこそ、タキオンが最も苦手とする競走相手を彼女は演じているのだ。
……演じるだけの余裕がオペラオーにあることについて、鷹木はまた驚いてもいた。
「ジャングルポケットが来るのを想定するなら、タキオン、もう加速し始めてないといけない頃だが……当然、オペラオーにも見越されているな。」
最終コーナーに差し掛かりながらじわじわとペースを上げていくタキオン。その背後に、やはりオペラオーは間合いを一定に保ったままぴったりとつき続けていた。
他ウマ娘のペースに合わせ、そして競り合い続けること。テイエムオペラオーが最も得意とする戦法であるのは、担当していた鷹木が一番よく分かっている。
これが単なる練習であることを忘れたように、鷹木は全身にじっとりと汗をにじませていた。
「オペラオー……さすがに現役のときと比べれば、多少鈍ったか?……だが……このペースで来られると、タキオンは差しきられるぞ……!」
「いやホントそうなんですよ、あそこからのオペラオーさんが強いんですよ!今のタキオンさんに勝てる走り、オペラオーさん自身が分かっておられる様子ですし!」
手元のストップウォッチに視線をチラと向けつつ、鷹木は全盛期のオペラオーの走りよりも多少タイムが遅くなっている様を見出していた。
が、それはタキオンを先に行かせ、その背後に付き続ける作戦に徹しているためでもある。
まもなく最終直線へと向いた後も、懸命に駆けるタキオンの横に、オペラオーはすぐさま並んでいた。
タキオンが懸命に駆けていることについては、鷹木は不安を感じていなかった。全速力で走ることによる故障のリスクは……今ばかりは、運命に見逃されるように感じていた。
「タキオン!まだ脚を動かせる!理想通りのペースだ!」
「オペラオーさん!並び続けてください!!」
鷹木やデジタルが叫んでおらずとも、既にそのラストスパートはグラウンド中の視線を釘づけにしており、あちこちから歓声が上がっていた。
何しろ、先月の秋の天皇賞を制したアグネスタキオン、それが一切のブロックもなくスタミナ浪費もなく駆け抜けていく速度に、ぴったりとオペラオーがついて猛然と並び続けているのだ。
タキオン自身は、想定通りに作戦が運べば……ジャパンカップにおいても、コーナーでの加速で十分にリードを稼ぎ、ジャングルポケットが直線で駆けあがってくるのを待ちつつゴールする絵面をイメージしていた。
だが、現にこうしてぴたりと背後に張り付かれ、最終直線で完全に並ばれるというシチュエーションを経験した今、必死にならざるを得なかった。
(私の想定をはるかに超えてジャングルポケット君が速度を伸ばし、食らいついてくる可能性もある……何を呑気に構えていたんだろうねぇ、私は。)
(そうだ、そして直線ならばこそ、全身全霊で翔るといい!ボク自身、そうして走り抜いたんだからね!)
お互いの心の声が聞こえるはずもなかったが、タキオンが既に本気の領域に入っている蹄音を真横に聞きながら、オペラオーも自らの脚を駆り立てていた。
ウマ娘がレース中に引き起こす脚の故障は、最後の仕掛けどころ、全力で加速へと向かう際に、脚へウマ娘の限度を超えた負荷がかかって発生する。
それも、最終コーナー。遠心力で外側へ振られる体重も含めて支えねばならない片脚に、尋常ならざる負担がかかり、腱や骨が悲鳴を上げることが多いのだ。
オペラオーは、それを伝えに来た。
たしかに先行の位置につけ続けるのは悪くない作戦だ、だが競技寿命をすり減らすほどの全力の走りならば、直線ですべきだ、と。
「ゴール!!ハナ差だ、タキオンの先着!」
「ひょわあああ僅差!いや頑張りましたよタキオンしゃん!」
鷹木とデジタルの声が響くと同時に、練習グラウンドでは本番レースもさながらの歓声が沸き起こる。いつしか練習中のウマ娘のみならず、集団指導中のトレーナーたちも共に、タキオンとオペラオーの併走に見入っていたようだ。
お互い息を切らしつつも減速後、オペラオーはタキオンを讃えるように拍手し、彼女の手を取って戻ってくる。
タキオンはと言えば、これまで全力に近い走りを行った後、いつも無意識に見せていた足を庇うような歩き方を、今回は示していなかった。
まるで、オペラオーと共に走り、オペラオーが見守る中であれば、故障の恐れなど起きないように確信しているかのようだった。
「いやはや、学ばせてもらったねぇ、世紀末覇王……いや、オペラオー先輩。全く、小心者なトレーナーくんの指導では、私の中に全速力への躊躇いが残ってしまっていたかもしれないねぇ。」
「確かに、それは……否定できない。」
「一度きりで伝えられることなど実に僅かだ、鷹木の指導は引き続き信じたまえ!今回は、ただボクが走りたくなったという思いが多分にあるのだからね!」
鷹木へのフォローも入れながら、オペラオーは汗を拭きスプレーでアイシングしつつも、遠巻きに寄ってくる見物のウマ娘たちに手を振ってみせている。
余り騒がせてはトレセン学園の迷惑になると考えたのだろう。手早く支度を済ませて上着を羽織ったオペラオーは、早くもこの場に背を向けた。去り際、タキオンへの激励は忘れなかったが。
「ジャパンカップ、楽しみにしているよ!そして、実に羨ましい、あの面々と競えるのは!今でもボクは、ジャングルポケット君とジャパンカップで直に競う夢を見るんだ!」
「……それは、可能性世界での出来事、かねぇ……?」
「さて、もう引退してしまった今は、有り得ない状況だろうけれどね!そして、デジタルくんの更なる走りも応援させてもらおうか!キミの走りに、世界は震えるだろう!」
「ひょぉお!オペラオー!何という幸運でしょう!このようなめぐり逢い、誰が予測できたでしょうか!」
アグネスデジタルの甲高い声を筆頭に、オペラオーはいよいよ膨れ上がり始めた野次ウマ娘の群れが上げる歓声を背に、颯爽と去って行ってしまった。
その一方で、タキオンは鷹木の隣で先ほどオペラオーから投げかけられた言葉の内容についてしばらく考え込んでいたが……間もなく、得心が言ったように笑みを浮かべた。
「トレーナーくん、今ならば私の身に、覇王の魂がとり憑いているかもしれないねぇ。」
「な、何を言い出すんだ、いきなり……。」
「聞いただろう、可能性世界においてはおそらく、ジャパンカップにてジャングルポケット君と世紀末覇王テイエムオペラオーが競うはずだったんだ。さしずめ、この現実世界においては、私が覇王の役を引き継ぐことになるのだろうねぇ。」