その年の2月9日は、偶然ながらも同日、後ほど大舞台のレースにて名を上げるウマ娘たちが3名も条件戦に出走した日となった。
ゆりかもめ賞に出走したシンボリクリスエス、こぶし賞に出走したノーリーズン、そして春日特別に出走したタップダンスシチーである。既にシンボリクリスエスは東京レース場にて14時30分の出走を終え、中継画面をタキオンや鷹木が見守る中で三着の結果となっている。
残るは15時10分出走予定のノーリーズン、そして16時20分出走予定のタップダンスシチーであるが、こちらは同日であるばかりか、同じ京都レース場での出走であった。
出走前のウマ娘は控室で勝負服や運動服等へ着替えるなど支度を済ませ、地下バ道へと続く廊下を軽く流す程度の限られた運動で身体が冷え切らないようにしつつ出走の時を待つのが通例であったが……タップダンスシチーは既に落ち着かぬ様子を示していた。
「Can't stay still、なぁトレーナー、レースが見れる場所まで出て行っちゃダメかな!」
「ダメですね、出走ウマ娘が指定されたエリアから出て行ってしまっては。故意であると判断されれば最悪、出走取消になるので気をつけてくださいね。」
片桐トレーナーは今日の京都レース場の条件を確認している最中、タップの妄言を穏やかな口調で諫めつつも、控室の中をウロウロと歩き回り続けるタップダンスシチーの足取りは視界の中に収め続けていた。
レース中の走りこそ正確なペースを刻むことに徹し続けてきてはいるものの、やはり普段はノリと楽しさを優先するタップならば思い付きを簡単に実行しかねないためだ。
「NoReason!!わたしも好きな名前だ!Tachyonの奴が話題に出してくるもんだから、すっかり覚えちまった!アイツの走り、一度は目の前で見たかったんだけどな!」
「レースの実況中継ならば、控室内のテレビ画面で見ることが出来ますよ。古臭い、アナログ時代の残り物みたいな代物ですが。」
言いながら片桐は控室の隅のテレビ画面へ向かい、リモコンも見当たらないため直接電源ボタンを押す。そのレトロな見た目通りの性能であろうモニターは、スイッチが入ってから画面が映るまでしばらく時間がかかった。
ウマ娘レースの控室では、ウマ娘が着替えを行うこともあって監視カメラこそつけられていないが、外部との連絡を取れるスマホ類の持ち込みも禁じられている。言わずもがな、レースの公正さを徹するためだ。
とはいえ直前まで行われているレースの状況を知ることは、コース状態を予め確認するためにも重要な情報収集である。
結果的にレース中継番組しか映らない、ネットワークへ繋げられる機能など皆無の、画面わきにチャンネルを合わせるツマミがついているような、箱型のモニターが控室の隅に設置されることとなっていた。
「Woo、マジで画質が古臭いな!Grandmaの家に置いてあったantiqueと同じ奴じゃないか!」
「文句は言えませんよ、出走前の我々に許された範囲内とはいえレース観戦が出来るんですから。さて……注目のノーリーズンさんは2番人気ですか。てっきり1番人気かと思われたんですが。」
新年早々の先月、理想的な先行のペースから2バ身差のリードをつけて堂々勝利したノーリーズンであったが、今回の1番人気は別なウマ娘に譲っていた。
さすがに先月デビューしたばかりでは出走回数も少ないと判断されたのだろうが、そのレースでの1番人気のウマ娘もまた特徴的な名前であった。アメリカ出身のタップダンスシチーには、少々読み取りづらいものであるらしかったが。
「マチカネメモ……いや、マチカネメニモミヨ、か?すげー名前だな!なんか面白い意味があんのか?」
「数々の優駿を輩出しているマチカネ冠のウマ娘ですね、名の由来は『目にも見よ』、走りをよく見ておけ、といった意味でしょうか。確かに昨年末の初勝利以来、1着か2着にしかなっていない点は高い能力の表れでしょう。」
「Yeah,Can't take my eyes off!おもしろいレースを見せてもらえそうだ!」
古びたテレビモニターは音声も粗く、レース場内に響き渡る大歓声もあまりの声量にほぼ雑音の集合体のごとき状態となっていたが、条件戦とはいえこのレースの注目度の高さは充分に知れた。
15名のウマ娘がゲートインを終え、いよいよ出走の時を迎える。
〈レース日和に恵まれまして芝状態は良となりました、京都レース場芝1600m、こぶし賞。全ウマ娘体勢完了しております……スタートしました!まずまず揃ったスタート、内枠からまずは上がっていきましたエンドレスデザート、果敢にハナに立ちました。続いて外からトニーディアマンテが2番手にて追走、その後ウチを突くようにナムラジーガー、そして外から並びかけるのはノーリーズン、2番人気のウマ娘は先行、好位置につけています。〉
タップダンスシチーは言わずもがなレースの光景を満面の笑みとともに凝視し続けていたが、いつも表情を崩さない片桐も我知らず目を見開いていた。
ノーリーズンは、まったくお手本のような先行ペースの走りであった。この京都芝1600mのコースは、向こう正面のポケットからスタートするため、外枠からの出走となっても十分に好位置を取る余裕はある。
「まるで囲まれることなく、ウチ枠の競走相手を外から抑えるように位置どって中団の先頭につきましたね。勝利へと至るための必然を意識的に引き寄せる走りです。」
「強ぇ奴のスタートだ、わたしが走るレースであんなのがいたら、流石に無視できないな!さっさと前に行ってもらうしかない!」
教科書通りの走りは他の競走相手にも読まれやすくはあるものの、磨かれ切った作戦はそれ自体が盤石の強みを有する。
逃げのウマ娘たちは早くも背後を脅かされることになり、後方の面々も先行に逃げ切られるリスクを前に追い続ける状況を強いられることとなった。
〈長い向こう正面の直線を抜け、坂を上って3コーナーへと入っていきます。先頭は変わらずエンドレスデザート、続く2番手にトニーディアマンテ。3番手のナムラジーガー、その外並んでノーリーズン、先行集団は形が崩れないまま坂を下って3,4コーナー中間へ。あとは中団をファイトブライアン、ルスナイプリンス並んでケイエムブライアン、1番人気マチカネメニモミヨはまだバ群の中、ちょうど真ん中の7番手あたりで進んでいます。〉
1番人気のウマ娘にマークが集中することを鑑みても、早々に前へと出てしまったノーリーズンの位置取りは間違いなかった。
ここから下り坂になるという京都レース場の3コーナー出口では全体のペースも上がるはずなのだが、1番人気のマチカネメニモミヨは囲まれてしまって思うように動けていない。
「Go,NoReason!前を邪魔する奴はいない!」
「レースは最後まで分からない、と言うべきですが、ここまで勝利を引き寄せればもはや結果は見えていますね。」
ノーリーズンのとった作戦は、片桐個人としても性に合った走り方であった。
かつて片桐がメイショウドトウを担当し、年間無敗を打ち立てた世紀末覇王テイエムオペラオーと競い合わせついに勝利を手にした時も、限りなく練り直した作戦が実を結んだのだ。
今担当しているタップダンスシチーに対する指導も、衝動的に足を速めてしまう生来の癖を抑え、極力正確なペースを維持するような方針に徹している。
〈残り400mをきりました、いよいよ4コーナーを回り切って直線へと向かいます!先頭のエンドレスデザート流石に苦しいか、2番手トニーディアマンテに並んで交わしたノーリーズン!後方からマチカネメニモミヨ、ようやく集団を抜けだした!残り200!中団からファイトブライアンも伸びてくるが、先頭ノーリーズン!マチカネメニモミヨ並んだ、ファイトブライアンも接戦だ、しかし先頭はノーリーズンでゴールイン!一着はノーリーズンです!先月のデビュー戦から早くも2勝目を挙げました!〉
最後はリードも詰められ、ほぼ並ばれていたものの、それは勝利に必要なゴールまでの速度を十分に分かったうえでの差であると見えた。
じわじわと2番手のマチカネメニモミヨが迫ってくる中でも、ノーリーズンはまるで焦らず、敢えて足を速めようともしなかったのだ。片桐は見事なレースを見せてもらった、とばかりに小さく拍手していたが……不意に立ち上がったタップダンスシチーに視線をむけることとなった。
「タップさん?どうしました?どこに行くんですか?タップ……!」
それはほとんど衝動的な行動と見えた。タップダンスシチーは扉を押し開け、控室を駆けだしていく。
片桐がすぐに後を追ったのは言うまでもない。レースでは作戦に忠実に脚を進めているタップダンスシチーも、レース外では衝動を抑えつづけられるとは限らない。
廊下を小走りとはいえ駆け抜けていくウマ娘に、人間はほとんど全力疾走でなければ追いつけないことは明白であったが……幸いなことに、タップは地下バ道の手前で立ち止まっていた。片桐は息を整えてから、落ち着いた声色を極力作って声をかける。
「先ほども言いましたがタップさん、出走時刻より先に出てしまうと出走取消の恐れもあるんですよ。」
「Obviously、分かってるってトレーナー。けど、アイツに会っておきたいんだ!トレセン学園に帰っちまったら、どこで会えるか分かんないだろ!」
確かにトレセン学園は膨大な量のウマ娘が在籍する場所、名前を知っていたとしても、偶然会える確率は低い。
むろん、呼び出すことが出来れば確実に会えるが……日々、学業やトレーニングに励んでいるウマ娘を呼び出すことが許されることはほぼない。それが出来れば、タキオンを担当している鷹木は、タキオンがサボるたびにあれほどに学園内をかけずりまわる必要はなかった。
それゆえ、今のタイミングは、片桐にとっても重要なチャンスではあった。
ほどなくして、今のレースの出走ウマ娘たちがゾロゾロと戻ってくる。疲れや悔しさをにじませた表情の彼女らであったが、タップダンスシチーの顔を知っている者も少なくないらしい。
「あっ……タップダンスシチー先輩だ。ほら、日経新春杯で三着になってた……。」
「ていうことは、横に居るトレーナーさんが、以前メイショウドトウ先輩を担当してた人?いいなぁ……。」
「HA、担当トレーナーが欲しけりゃマジのレースを見せつけんだな、Girls!負けまくって怪我もした私だって、担当トレーナー居るんだからよ!」
それは確かに、タップダンスシチーでなければ吐けないセリフであったろう。レースから負けて帰ってきたばかりのウマ娘たちも、タップの少々荒っぽい声を受けて意を新たにした様子であった。
そんなやり取りの数分後、観客席へと入念に手を振っていたのだろうノーリーズンが遅れて地下バ道から姿を現す。タップダンスシチーは、片桐が制しなければ出迎えの勢いのまま地下バ道へと駆けこんでしまっていただろう。
「タップさん、タップさん!それ以上踏み込んだらアウトです!」
「Oh,Sorry!Ey,NoReason!!アンタの走り、マジでPerfectだったな!あんだけ綺麗に抜けられりゃあ、他の連中もビビッて並べねぇだろうな!」
「なっ……な、なっはっはぁ!ワシの策に惚れてくれたようでなによりじゃ!えっと……ところで、お初にお目にかかるのぉ!」
明らかに、ノーリーズンは完全に想定外のタイミングにて不意打ちを受け、動揺した上でなんとか応対の口上を引き出した、といった様子であった。
それが生来の喋り方なのか、あるいはレースに出走するにあたって作っているキャラなのかは判然としなかったが、まるで戦国武将のごとき喋り方で自分を売り出しているらしい。
誰に対してもフレンドリーなタップダンスシチーは、何ら戸惑うことなく会話を続けていた。あるいは古臭い言い回しであることは分かっていても、この国には当然のように存在する喋り方だ、とアメリカ出身特有の勘違いをしていたのかもしれないが。
「So,yeah!Greetings!わたしはタップダンスシチーだ!この後のレースに出るから、見てくれよな!!」
「タップさん、レース後のクールダウンやウイニングライブの準備もあるのですから、一方的な約束は控えましょう。初めましてノーリーズンさん、自分は片桐です、今はタップの担当トレーナーをしております。」
「お、おぉ、お二方とも存じ上げておるぞ!殊に片桐トレーナー、其方はかの覇王を破りし名将を導いた、名軍師と聞き及んでおる!」
さすがにぐいぐいと距離を詰めてくるタップダンスシチーに対し、ノーリーズンは多少なりと距離を取っていた。
いくらフレンドリーとはいえ先輩ウマ娘であり、体格も成人男性並みに堂々たる相手である。タップに対しては後ずさりながら、ノーリーズンが逃げ場を求めるように片桐に対し興味の先を向けたのは無理もない。
その状況は偶然だったのだが、僅かな機会も掴む片桐のしたたかさは、好機を早くも見出していた。
「名軍師という肩書は少々買いかぶりすぎかもしれませんが、しかし腕に自信が無ければここでのトレーナー業は続けておりませんからね。あなたも見たところ、まだ担当トレーナーが決まっておられないご様子。ぜひこの片桐の名を、頭の隅にでも置いていただければと。」
「ほう、軍師、片桐、と……なんじゃ、何やらしっくりくる名じゃのう!その名、しかと脳の髄に刻み申した!」
「スカウトにしちゃ硬いじゃないかトレーナー!タップダンスシチーの名前は忘れちまってもいいぜ、ターフの上でわたしを見りゃあ、勝手にアンタの口が叫ぶからな!」
片桐とは全く対照的、ワイルドな決めゼリフをタップから投げかけられながら、ノーリーズンは丁寧にお辞儀を返して去っていった。
この邂逅がタップ自身の精神面にもかなり良い影響を与えたのか、数分後、春日特別のパドックに現れたタップダンスシチーは誰の目にも明らかな絶好調の状態となっていた。
人気も集中し、圧倒的な1番人気である。同年齢のウマ娘と比べれば丸2年の遅れであったが、ようやくタップダンスシチーの才能が認められる時期が近づいて来ていた。
「ですが何度も告げたように、1番人気にはマークが集中します。タップ、周囲との位置取りには十分に意識を払ってください。」
タップ自身にも十分に告げ、そして片桐は独りきりになってからも自分の口の中でその文言をブツブツと繰り返していた。
何せ、タップの堂々たる体格は目立つのである。押しのけられづらいことは間違いないが、一度集団に埋もれてしまっては抜け出すのも容易ではない。
〈京都レース場、第12レース、陽射しは早くも夕暮れの色に染まっています。芝1800m、春日特別、間もなく出走の瞬間を迎えます。全ウマ娘、ゲートイン完了……スタートしました!好スタートを切りました2枠タップダンスシチー、さすがは1番人気といった風格であります!外からエイシンゴンザレス、上がっていってこちらが先頭となりました。横一線に広がって駆けていきます全12名のウマ娘、最初のコーナーまで約900m、果たしてどこまでバ群が伸びるでしょうか。〉
実況アナウンサーが口にした通り、京都レース場外回りコース、芝1800mは非常に特異な形状をしている。
前半の900m以上、すなわち全体の半分以上が直線で占められているのだ。向こう正面の最も深いポケットからスタートして、900mを超える直線を駆け抜けた後、コーナーを回って正面スタンド前の直線へと向かう。
「さすがに単独での逃げとは行きませんか……ですが、タップのペースとしては想定通りです。このレース、追い込み一気の勝負には持ち込ませません。」
片桐はトレーナー用の観戦ブースの中、脚を組んで椅子に腰かけ、誰も聞かぬ中ながらブツブツと独り言ち続けていた。
結城トレーナーのごときベテランの落ち着きがあるわけでもなく、鷹木トレーナーのように冷や汗をダラダラ流しながらレースを見守るわけでもない。
片桐特有の、自分の策がどこまで通用しているのか、常時担当ウマ娘の走りを見極めるスタイルであった。
〈残り1000mを通過しましてようやく向こう正面の出口であります、先頭はエイシンゴンザレスですが少々後ろとの距離が詰まってきたか、直線出口には上り坂があります。タップダンスシチー2番手、こちらはいつも通りの安定したペース。そして3番手にはプラントタイヨオー、じわっとあがってタップダンスシチーに並ぼうというところ。あとは中団アドマイヤフレンド、そしてゼンノショウグン、メイショウゲンザンが並んで全体が徐々に詰まってまいりました。先頭は間もなく3コーナーを回っていきます。〉
やはり1番人気のタップが2番手の位置に居るとなれば、彼女をぴったりマークしようとして上がっていくウマ娘も多い。
900mを超える直線では先行と後方の差が広がり、間延びした隊形となることも少なくないのだが、今回に限ってはほぼ全ての出走ウマ娘がタップに引っ張られるかのように、前へと詰めていった。
「タップは一定のペースを刻み続けていますね。ならばこちらの有利です、向こう正面の上りを、前との間合いを詰めながら駆け上がるのは些か消耗するでしょう。」
本番で臨機応変に走りを切り替える器用さがあるに越したことはないが、しかし最初から予定通りのペースで走れることが最も余力を最終盤まで残しやすいスタイルでもある。
タップダンスシチーは、自分のペースを貫く走りに徹していた。どれほどの距離であろうとも、スタミナを使い切る瞬間にゴールラインを越えられる走りを実現できるように。
〈さぁ3コーナーの坂を下って4コーナーへ!先頭はもうタップダンスシチーへと入れ替わっています、そしてプラントタイヨオーが懸命に食らいついて並び続けている!残り600m、メイショウゲンザンも外に出して前を目指す、中団ではアスカツヨシがじっくりと脚を溜めている、まだ動かないか!最後方サンライズシャーク、そしてハートランドヒリュも前へ出る態勢に入ったか、いよいよ最終直線へと向かいます!〉
この時点で、先頭集団に迫っていたウマ娘たちは、概ねタップダンスシチーと片桐トレーナーの思うつぼにはまっていた。
向こう正面でタップを逃すまいと距離を詰めたまでは良かったものの、京都レース場の上り坂、通称「淀の坂」にて消耗を強いられている。結果、最終直線に向いた時点で勝利争いに参加できるのは後方で脚を溜めていた者たちばかりであった。
「先行で競り合った相手はすでに失速していますね。あとは、このリードをどこまで後方の面々が詰めてくるか……。」
片桐は、タップダンスシチー自身の走りを心配する必要など無かった。
彼女は想定通り、理想通りのペースで脚を運んでいる。その速度がゴールの瞬間まで衰えないのは確実である。
まるで思い描いた通りに用意した盤面の上へ、対決相手が足を踏み入れてくるのを待ち構える策略家そのもののように、片桐は残り400mの展開を見つめていた。
〈さぁコーナーを回り切って先頭はタップダンスシチーだ、脚色は衰えない!中団を抜けたアスカツヨシが迫る!そして最後方からサンライズシャーク、さらにハートランドヒリュが駆けあがってくる、物凄い末脚だ!残り200!サンライズシャーク大外から駆けあがってくる、アスカツヨシが粘る、だがタップダンスシチー先頭!このリードは覆せないか、タップダンスシチー先頭のままゴールイン!日経新春杯でも好走した、その強さを見せつけましたタップダンスシチー!〉
掲示板に次々と表示されるウマ娘たちの名、ついで上がりタイムを目にして、片桐は確かに自分たちの作戦が想定通りに進んだことを実感した。
上がり最速は、最後方から六着まで上がってきたハートランドヒリュであった。末脚の上がりだけを見れば、それぞれ三着になったサンライズシャーク、四着になったゼンノショウグンも上位に居る。
そんな彼女らでも、先頭付近で淡々と脚を進めていたタップのリードを縮め切るには至らなかったのだ。
「加速、瞬発力勝負には持ち込ませず、タップのペースを貫いてそのままゴールへ……このスタイル、いよいよ形を為したと言っても良いでしょうね。」
片桐は落ち着いた表情のまま、それでも僅かに滲んでいた汗を額から拭い、ようやく頬を緩めた。
このレース模様を、出走前の約束通りにノーリーズンもしっかり見ていたのだろう。そして片桐同様に、しっかりと策略を練って勝利を引き寄せる彼女にも、作戦の見事さは伝わったのだろう。
ノーリーズンの側からの申し出として、片桐トレーナーとの専属契約がトレセン学園にて認可されたのは、それからわずか数日後のことであった。