3月も末に近付いた頃、アグネスタキオンは独り、実験室……という体で勝手に占拠している理科準備室に居た。
翌週、3月31日にはタキオン自身が出走予定の大阪杯が控えている。トレーニングは本番に向けた最終調整の段階へと入っており、本格的な負荷が掛かる鍛錬の前準備として今日は休息となっていた。
他のことに気を取られている余裕がなくなる前に、タキオンにはやっておきたいことがあった。同じレースに出走する都合上、作戦漏洩を防ぐため暫く顔を合わせられなくなる相手とも、話をつけておきたかった。
ガラリと部屋の扉を開け、入って来たのはエアシャカールである。タキオンはPC画面に視線を向けたまま、声だけで出迎える。
「やぁやぁ遅かったねぇ、カフェ……じゃない、シャカール先輩。」
「カフェは今日の日経賞だろ、寝ぼけてンのかタキオン。」
ついいつもの癖で呼び違えてしまったタキオンであったが、別にシャカールに対し謝るでもなく、先日の阪神大賞典のレース映像を見返し続けている。
タキオンの関心がそちらへ向き続けている理由を、シャカールもまた十分に理解できていた。2年前、そして昨年と、全く同じ出走者が揃い、全く同じレース展開が繰り返されるという非現実的な現象が観測された阪神大賞典。
そこに、今年になって初めてジャングルポケットが参加した結果、レース展開は明確に異なるものへと変わったのだ。
「結果的に、可能性世界で定められた順位自体は変わらなかった、と私は仮定づけているがねぇ。おそらく、昨年までアドマイヤベガ先輩は『ジャングルポケットが阪神大賞典に出走する』という可能性を埋めるように走っていたのだろうねぇ。」
「アヤベ先輩自身は、ンなこと自覚してねェだろうけどな。んで、結果はナリタトップロード一着、ジャングルポケット二着、か。そこだけなら、俺のParcaeがシミュレーションした結果と同じだ。」
シャカールの言に、タキオンはここで初めて顔を上げ、視線を合わせた。
エアシャカールが開発したレースシミュレーションプログラム、Parcae。本来は出走ウマ娘やレース条件等のデータを入力することで、本番での展開を予想するために組まれたプログラムであり、シャカール自身は今もその目的で使っている。
が、時おり、単なるバグでは説明のつかない、想定されていない挙動を示す事もあった。殊に、レースデータなど満足に揃っていないデビュー前のウマ娘を入力したにもかかわらず、将来的に確定する順位を示すなど、ほぼ未来の可能性を示しているが如き振る舞いは、シミュレーションの域に収まるものではなった。
タキオンは、そんなParcaeの挙動に注目し、これは可能性世界で確定したレース結果を示す装置だ……と断定していたのである。プログラムを組んだ当のシャカールが、そうと認めたわけではなかったが。
「今、順位だけはParcaeのシミュレーション結果と同じ、と言ったねぇ?ということは、他の要素は異なっていたのかねぇ?」
「着差が違う。Parcaeの予測じゃ、トップロード先輩は少なくとも2バ身の差をつけてジャングルポケットに勝つとのことだった。実際には、あんだけの僅差だったけどな……ついでに、アヤベ先輩も居ねェ。」
「居ない、というのは……先頭争いに参加していない、ということかい?」
「いや、そもそも出走してねェんだ、Parcaeの中では。あの日の阪神大賞典の出走メンバー全員を入れてシミュレーションしたらエラー吐いたンだが、アヤベ先輩抜きで実行したら結果が表示された。」
Parcaeがエラーを出した際、特定のウマ娘をシミュレーションに含めず再試行する、という対処法は以前までのレースにおいてタキオンと共に確立させた手段である。
プログラムによる予測が不可能と思われるレースにおいては、予測を困難にする要素が必ず含まれている。その最たるものが、可能性世界ではレースに参戦していなかったはずのウマ娘、いわゆる“特異点”たる存在だ……というのが、タキオンの仮説であった。
ロジカルなプロセスで立てられたわけでもない憶測をエアシャカールは信じてなどいなかった。
が、実際にクラシック三冠を獲ったネオユニヴァースや同年秋シニア三冠を獲ったゼンノロブロイなど、飛び抜けた戦績のウマ娘を含めないシミュレーションが正確な結果を表示している事実は、認めざるを得なかった。
「すなわち、あのレースにおける特異点は、ジャングルポケットくんではなくアドマイヤベガ先輩、ということになるのかねぇ?」
「俺には結論は出せねェよ、お前がいっつも言ってる“特異点”とやらの存在も、俺は認めたワケじゃねェからな。」
「だがあり得ない話じゃないねぇ、同じ出走枠数で、アドマイヤベガ先輩ではない別のウマ娘が走っており、大外からの追い込みを選択するウマ娘が減っていれば……ジャングルポケット君の前方を塞ぐ競争相手の数が増えていた可能性もあるわけだねぇ。そうなれば可能性世界においては、ジャングルポケットくんはトップロード先輩にハナ差までの接戦を挑むには至れなかったのかもしれないねぇ。」
さらには、タキオンの中では別の予想も立っていた。
もとよりGⅠで自身ともしのぎを削った相手、相当に高い身体能力のみならず、拮抗する相手との勝負に燃えて想定以上の走りを実現するジャングルポケットの姿を、タキオンは間近で知っている。
阪神大賞典においても、前方を進むナリタトップロードの背中だけではなく、後方から追い込んでくるアドマイヤベガの蹄音に迫られ、可能性世界での走りをジャングルポケットは否応なしに超えた、とも考えられる……。
憶測に憶測を重ねることは、ロジカルな思考を是とするシャカールが好まぬところであったため、それ以上タキオンは言及しなかった。
が、一方のシャカールは、自身が最も信用を置いていないタキオンの仮説を元に、別の推測を組み立てていたらしかった。
「かもしれない、ついでに言っとくが……タキオン、お前の存在も関係あンのかもな。」
「私が、かい?」
「タキオン、お前は皐月賞を最後に引退してたかもしれねェんだろ。Parcaeは皐月賞より後のレースで、お前を含めたシミュレーションについては全部エラーを吐いてンだ。」
「証拠はないが、私の中でもほぼ確実視しているねぇ、可能性世界の私アグネスタキオンは去年の春にレースを止めている、と。」
「ジャングルポケットも、お前が引退しないで今後も競争できると分かったことで、可能性よりも高い能力を発揮してる……そう考えることもできるかもな、ロジカルじゃねェけどよ。」
シャカールの内心では気に入らぬ推測ではあったろうが、聞かされたタキオンは実に嬉しそうだった。
自分の存在が、可能性世界による運命の縛りから他のウマ娘を解き放つカギとなっている。さらに元をただせば、皐月賞後の引退の危機を乗り越えることが出来たのは、担当トレーナーである鷹木からの助言の賜物でもあった。
これから将来の勝利も敗北も、決して既に確定などしておらず、未来のレース結果は誰にも分からない。ウマ娘の居る現実世界は、ウマ娘たちの意思次第で可能性を切り拓いていける。
異常現象の元凶は不明なことに違いなかったが、個々のウマ娘たちの選択、奮闘によって光明が覗かれることは尽きなかった。
とはいえ、自身の名がその大それた希望の中に挙げられたのが多少照れくさかったのか、タキオンは誤魔化すように時計を見上げ、口を開いた。
「さて、そろそろじゃないかねぇ……あぁ、もう15時を過ぎている。私はこの時間がたまらなく楽しみで、だからこそ今ここにシャカール先輩を呼んだのだからねぇ。」
「あぁ、日経賞だろ。俺もカフェの走りは、同じトレーナーの指導を受けてる先輩として見逃すわけにはいかねェ。」
共に結城トレーナーの指導下にあるウマ娘として、マンハッタンカフェのことを気に掛けているエアシャカール。昨年、クラシック級のカフェがなかなか思うように調子が上がらなかった姿も間近で見ていたため、今年も春が近づくにつれ自然と気がかりになるのだろう。
とはいえ、昨年の菊花賞のみならず有馬記念を制したマンハッタンカフェが、この中山芝2500mで負けると考えているファンはほぼ居ないらしく、今回の日経賞でも文句なしの1番人気であった。
続く2番人気にゼンノロブロイの名が挙がるのも妥当な結果であったが、3番人気にはここまで地道に戦績を重ね続けたウマ娘の名があった。
「ほう!タップダンスシチーくんが3番人気とはねぇ!日経新春杯での好走のおかげか、あるいはその後の連勝か……まだ条件戦でしか勝利したことのないタップくんが、GⅡレースで3番人気とは、やはり彼女が並みのウマ娘とは違うと世間一般にも知れているのだろう!特異点の素質がある、と見た私の目に狂いはなかったねぇ!」
「そこまでファンが考えてるとは思わねェけどな。最近の好調を見てりゃ、まぁ相応の評価だろ。」
タキオンが見つめるPC画面上、次々とゲートインしていくウマ娘の中でもひときわ体格の目立つタップダンスシチーは、タキオンの言う通り条件戦でしか勝ったことの無いウマ娘とは思えないほど堂々と振る舞い、まるで場違いな感じも無かった。
一昨年の秋シニア三冠ウマ娘であるゼンノロブロイ、昨年の菊花賞および有馬記念を制したマンハッタンカフェに挟まれながらも、存在感はまるで負けていなかった。
〈天候は小雨となりましたがまだ降り始め、バ場状態は良となりました日経賞。全ウマ娘、ゲートイン完了です……スタートしました!好スタートはゼンノロブロイです、ウチを突いて2枠ハッピーパスが前に行きました。さらに3枠トーホウシデン、トーホウシデンが先手を取りました、一周目の3コーナーを回っていきます。その後固まってきましたがタップダンスシチーが2番手、その外を回ってコイントス、ハッピーパスはウチ側で4番手といった形です。〉
スタートしてすぐに3コーナーへと入る中山芝2500mのコース、ごく短い距離で位置取りを安定させなければならない展開であるが、タップダンスシチーは迷いのない足取りで2番手につけていた。
更にはゼンノロブロイもマンハッタンカフェも、さほど位置を後ろにまで下げず中団あたりに陣取っている。ゴール前の坂を二度越える必要もあるため、前よりにつけたうえでスタミナを浪費しないだけの実力が問われる長丁場となるレースである。
タキオンとシャカールの間では、そのようなことはわざわざ言及するまでもない事項であった。それよりもタキオンには気がかりなことがあった。
「この出走メンバー、過去の日経賞とは違うねぇ?昨年の時点では、同じ展開の繰り返し現象は確認できなかったため、敢えて記録してはいないのだが。」
「あぁ、去年もロブロイは出ていたが、もっと出走数は多かったはずだ。一昨年の日経賞はロブロイが出てねェ、俺が勝った……。」
そう言いつつも、エアシャカールは眉間に小さな皺をよせながら画面を見続けている。
異変は無いはずであったが、それでも何か引っかかるものを、既にシャカールは感じているようであった。
〈前から5番手ほどの位置にゼンノロブロイ、あとは半バ身差で外にマンハッタンカフェです、後方からはペインテドブラック、そして1バ身差、最後方にロードフォレスターといった形で、4コーナーを抜けてスタンド前に入ってきます。先頭はトーホウシデンです、リード1バ身で2番手にタップダンスシチー、外を回りましてコイントス、ウチを突いてハッピーパス、散らばらず固まっています、すぐ後ろにゼンノロブロイ、その外にマンハッタンカフェが並んでいます。〉
このレースについては、Parcaeはどのようにシミュレーションしたのか、とタキオンは事前に聞いていなかったことを思い出し、シャカールの方へと視線を向け口を開きかけた。
が、彼女は一旦口を閉じることになる。シャカールの表情が、明らかに平常より険しく……その胸中が、じょじょに疑惑を確信へと変えつつある様も、表情から読み取れたためである。
改めてタキオンは、日経賞の中継画面を視界の端から外さぬままに、シャカールへ問うた。
「何か気づいたのかい、シャカール先輩。私の認識においては、今のところ目立った異常現象は見出されていないのだが……。」
「待ってくれ、まだ確定は出来ねェけどよ……俺が走った時とほぼ……いや、まるきり同じ展開じゃねェか?」
「一昨年の、すなわち前々回の日経賞と、かい?」
タキオンの問いかけに、シャカールは小さく頷いた。口ではまだ事実として認めたがってはいなかったが、既に実感は湧いているらしかった。
ウマ娘は、特にレースに全力を注いでいるウマ娘は、どれだけ時が経とうとも、自分が体験したレース展開を忘れることは無い。トーホウシデンが先頭を進み、コイントスがその後に続き、順位を変えぬまま固まった隊形で一周目を淡々と進んでいく展開……。
もちろん、シャカールが日経賞を走った2年前、ゼンノロブロイもマンハッタンカフェもタップダンスシチーも居るはずなかったが、展開だけはまるきり同じだった。
〈歓声が上がります、スタンド前を抜けて1コーナーへと入っていきます。後ろから2番手のペインテドブラック、更にウチを突いて最後方ロードフォレスターという順、淡々とした流れであります。先頭はトーホウシデン変わらず、外を回りましてコイントス、2番手へと上がってまいりました。ウチをついてハッピーパス、その外並んでタップダンスシチー。マンハッタンカフェがその外を通りまして、まだウマ娘たちは一様に控えた走りといったところ。〉
エアシャカールの額が、冷や汗でじんわりと湿り始めた様をタキオンは見ていた。
今しがたハッピーパスが2番手へと上がっていった姿も、2年前の日経賞を走っていたエアシャカールは間近で見ているのだろう。
「あぁ、覚えてンぜ……ハッピーパスはあのままウチ側に収まる。残り1600はあるって所で、大胆な上がり方しやがる、って思ったンだ。」
「シャカール先輩の気のせいではなさそうだねぇ、そこまで詳細に展開を記憶しているのならば。しかし仮説は立てづらいねぇ、何せ2年前は参戦していなかったウマ娘が3名も含まれているんだ、これが特異点の影響なのか、はたまたこれこそが可能性世界における展開であったのか……。」
全く違う昨年のレースを挟んで、2年前のレース展開が再現されるという事態も異例である。
走っている当のウマ娘たちはこのことに気づく由もなかったろうが、まもなくシャカールが言った通りの位置にハッピーパスが収まる様を画面越しに見ながら、タキオンは思考を巡らせ始めた。
〈さぁ向こう正面へと入っていきます、トーホウシデンが先頭は変わらず、2番手のコイントスとの間合いは縮まって半バ身差、その外をタップダンスシチー3番手、1000mを通過。内側のハッピーパス、ほとんど差が無くマンハッタンカフェ前から5番手、ほとんど並んでゼンノロブロイ。全体がますます詰まってまいりました、先頭から最後方までの差はほとんどありません、800mを通過、いよいよ3コーナーへと入っていきます、最初に仕掛けるのは誰か。〉
一昨年の3月末、となればタキオンはトレセン学園に入学する直前の時期である。必然的に、鷹木トレーナーと出会う前のことであるし、他のウマ娘たちと一緒に観戦した記憶はない。
おそらく、自宅の薄暗い自室でスマホ画面越しに見ていたはず……とタキオンは自ら思い出していた。
「もどかしいねぇ、流石に2年前の私の記憶は曖昧過ぎる。自分が走ったわけでもなく、他の皆と共に観戦しなかったというだけで、こうも記憶に定着しないものかねぇ。」
「世間一般の観客も、同じ状態じゃねェかな。」
シャカールからそう言われて、タキオンは虚を突かれたように唸り、そして大きく頷いた。
トレセン学園に入学していない、担当トレーナーとも出会っていない状態の自分は……まさに、ウマ娘レースにまつわる異常現象に気づくことが出来ない、一般の観客と同じ認識しか持ち合わせていなかったのだろう。
あるいは、心の奥底で、明瞭にならない違和感を汲み取っていたからこそ、トレセン学園に入学して間もなくの頃は妙な実験に没頭していたのかもしれないが。
〈トーホウシデン、コイントス、2名並んで先頭でコーナーを回っていく、タップダンスシチーも3番手ではあるがほとんど先頭と並んでいる、4番手には大外から、マンハッタンカフェが上がってきた!600mを通過、前が固まってきました、ゼンノロブロイはまだ集団の中だ、先頭は4名固まっています、大きく外側に膨らんで、最後方からロードフォレスターも進出、残り400を通過です!〉
「もう間違いねェ、俺が走った時と同じ展開だ、録画でも見てるみてェだ……実況中継だよな、これ?」
「当然だねぇ、URA公式による配信画面だからねぇ。そも、カフェやタップくんが参戦するのは、初のことだねぇ。」
「だよな……こっから先頭集団は横一線に広がってく。……あぁ、そうだ、だからカフェ、もっと前に出てねぇと、完全にブロックされちまうぞ。」
シャカールの言葉を受けて、タキオンも再び画面へと凝視する。
マンハッタンカフェは、彼女が得意とする最後の追い込みに備えて外に出ようとしつつも、今まさにシャカールが言った通り、前の集団がほぼ横一線に並んでいるため思うように出られずにいる。
後方のウマ娘たちにとってはもどかしい状況の中、先行の位置で安定したペースを続けていたタップダンスシチーは順調に足を運び続けていた。
〈8名が横一線に並んで、直線コースへ向かいました!さぁ先頭はどうか、ゼンノロブロイが内側から抜け出した、コイントスさらにはタップダンスシチー、ウチを突いたのはハッピーパス、ちょっと遅れているかマンハッタンカフェ!遅れている、マンハッタンカフェが遅れている!さぁ先頭は横に広がって、コイントスかゼンノロブロイか、ゼンノロブロイ!前が並んだ!ずらっと並んだ態勢でゴールイン!これはどうでしょうか、一着は審議です!ほとんど差のないゴール、大接戦であります!しかし大方の予想を覆し、マンハッタンカフェが敗れています!〉
中山レース場内は、審議のランプが灯った掲示板の前に、幾万人ものどよめきが響いていた。
勝利確実と見られたマンハッタンカフェが、六着という結果に終わったこと……しかし、トレセン学園にて画面越しに観戦していたエアシャカールにとって、それは既に一昨年経験した展開の通りであった。
タキオンは、審議のランプが確定へと変わる前にと、急いで口を開く。
「ところで、レースの結果はどうなったのかねぇ?いや、むろん、前々回の日経賞にタップくんもロブロイくんもいない、というのは分かっているが……」
「ちょうど、俺のポジションにいたロブロイの勝ちだ。タップの位置には、たしかマチカネキンノホシが居たから……アイツが二着になる。」
シャカールがそう言い終えて数秒後、まもなく画面の向こう側には確定のランプが灯った。
ゼンノロブロイ一着、タップダンスシチー二着。ロブロイの実力が未だ健在であることを示す結果であると同時に、条件戦しか勝ったことの無いタップにとっては大きな結果でもある。
……が、マンハッタンカフェについては……単なる敗北であると割り切ることは、少なくともタキオンとシャカールだけは出来なかった。
「出走ウマ娘が入れ替わっただけで、2年前の日経賞の展開をなぞったレース……カフェは、2年前に既に敗北が確定していた、ということになるのかい?」
「まったくロジカルな考え方じゃねェな、気に入らねェ。」
タキオンの問いかけに対し、シャカールはそれだけ返して席を立った。
その吐き捨てるような口調は、タキオンの推測に対する批判ではなく、敗ける運命が決定されているという可能性に対して向けられたものであることは明白だった。
自分自身が体験したレースがまるきり再現されるような現象を前に、タキオンが口にした仮説をシャカールも否定しきることは出来なかったのである。