探求者たちのタイムクライム   作:Okubo Masau

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 京都大賞典は、昨年まで前年度と全く同じ展開が繰り返されるという異変に見舞われていたものの、今年はそれが解消されるだろうとの目処が立っていた。以前までは条件戦やOPクラスで頑張っていたタップダンスシチーが、いよいよGⅡレースへと参加できるようになり、今年初めて京都大賞典にも出走することになったためだ。同じことの繰り返しを打破し、可能性の停滞を脱すること。そのための要因は揃っていたが、事態はそう単純に解決するものばかりではないらしかった。


扉は、開く前に、まず辿り着かねば

 毎日王冠の決着から数分後、場所を京都レース場に移せば同日開催となった京都大賞典の発走直前である。

 

 このレースは、昨年の段階でも、一部のウマ娘たちに異変を気づかせていたレースでもある。すなわち、毎年ほぼ同じ出走者が揃い、そして展開も結果も、殆ど同じ内容を繰り返しているということ。

 

 むろんGⅡレースの本番であり、さらには天皇賞秋にも繋がる前哨戦ということもあり、全員が本気で競い合い、勝利を目指している。それでもなお、毎度似たような結果へと帰着してしまうのだ。

 

 今年も、もはや京都大賞典の常連と化しているナリタトップロードは出走していた。が、その他の顔ぶれには変化があった。

 

「おや、アドマイヤベガ先輩は出走していないのかい?いつも、トップロード先輩と競っている姿が印象に残っているんだがねぇ。」

 

「あぁ、俺も詳しい話は結城トレーナーから聞いていないんだが、おそらく十分に休養期間をとるためだろう。アドマイヤベガも、もうデビュー7年目だからな。」

 

 タキオンに返答しながら、鷹木もまた今さらながらに京都大賞典の出走ウマ娘のリストに視線を向ける。

 

 毎年ほぼ変わらないメンツが揃うということは、それだけ現役続行期間が伸びているウマ娘も多いということだ。ナリタトップロードがベテランクラスであることは言うまでもないが、更に1年上、もはやデビュー8年目となったスエヒロコマンダーもしっかり参戦している。

 

 そこに今年、新たに加わったのが、ほかならぬ今日出走するタップダンスシチーであった。京都レース場からの配信画面を見つめながら、ヒシミラクルが声を上げる。

 

「お、出てきましたよ、タップさん。すごいなぁ、あんだけ大ベテランの先輩たちに囲まれても、堂々としてる……下手したら一番の経験者です、みたいな風格ですねぇ……。」

 

「彼女は天皇賞に参戦しないとのことで、先日はほぼ本気で2000mを競う併走練習をさせてもらったが、あの精密なペースで回っていく走りが更に磨き上げられていたねぇ。私の見たところ、今世代ではクリスエスくんに次ぐ能力の持ち主ではないかねぇ。」

 

 タップダンスシチーは現状の戦績だけを見れば、GⅡレースで三着や二着に入ったことこそあれど、勝利した記録はほぼ条件戦レースに固まっており、先月の朝日チャレンジカップでようやく重賞初勝利を得たばかりである。

 

 それ故に、現時点では名実ともに間違いなく最強クラスのシンボリクリスエスに次ぐ能力……と評価するのは時期尚早かとも思われたが、語るタキオンの表情は大真面目であった。

 

 世間的にも、タップダンスシチーというウマ娘の勢いは認められるところであったのか、1番人気ナリタトップロード、2番人気ツルマルボーイに続き、タップダンスシチーは3番人気という評価を得ていた。

 

 ヒシミラクルは配信を映しているパソコンの画面に顔を近づけ、ついでに耳も傾けながら言う。

 

「もしもタップさんが勝っちゃったら、そりゃ物凄いことですよ。GⅠウマ娘2名を抑えて、これまで条件戦を何度も繰り返して来たウマ娘が勝つってんですから。」

 

「まったくだねぇ、タップくんがトレセン学園に入学した当初から間近で見てきた私としても楽しみなところだよ。むろん、強力なライバルが増えてしまうことには違いないがねぇ。キミも無縁の話ではないよ、ヒシミラクルくん。」

 

「いやいやいや、私はまだまだ同じレースには届きませんて……ところでトレーナーさん、なんか音量低くありません?ちょっとボリューム上げていいですか?」

 

 ますます耳をパソコンのスピーカーに近付けつつ、こちらの返答を待たずに音量調整をいじっているヒシミラクルの一言を前にして、タキオンと鷹木は互いの目を見合わせる。

 

 もはや、わざわざ教えずとも、そしてヒシミラクルのように細かなことを気にしないウマ娘でも、気づいてしまうほどにこの異変は拡大しているのだ。確かに、GⅡレース、それも歴史ある京都大賞典の発走直前だというのに、レース場内の観客たちの喧騒は異様なまでに静かであった。

 

 ほどなくして、実況アナウンサーの声がスピーカーから響いてきたため、スピーカーの音量設定は問題ないことが判明したが。

 

〈今年も目前に迫りました、天皇賞の盾へと向けて、まずは競い合う前哨戦、京都大賞典であります。曇り空ではありますがバ場状態は良、8名のウマ娘たちが競い合います京都レース場第11レース……〉

 

「うわ、アナウンサーさんの声デカッ……しっかり音量あがってたんですね、すんません、音量もとに戻します。」

 

「どうやら、URA公式の収録環境の問題だろうねぇ。実況の声が邪魔されぬように、観客席側に収録マイクを置いていないんだろうねぇ。」

 

 タキオンが、とりあえず思い付きの説明を喋りつつも、鷹木へと目くばせを送る。

 

 鷹木は小さく頷き返し、自分もしっかりと配信の画面に集中しはじめた。タキオンが求めているのは、同じ情報を共有できる観測者であった。

 

 画面内では既に枠入りも完了し、いよいよ発走間近という状態になっている。

 

〈さぁ2400mのスタート地点、各ウマ娘ゲートイン完了しました……スタートです!まずまず揃いまして、大きなアクションでナリタトップロード最ウチ1枠から飛び出していきました。果敢に前に出ましたのは3枠のアラタマインディ、しかし外から一気に先頭に立ちましたのは大ベテランのスエヒロコマンダーであります。スエヒロコマンダー、アラタマインディに続きまして、ウチへ持っていったタップダンスシチーが3番手、その後ろホットシークレットが4番手といった形で、一周目スタンド前直線を駆けていきます。〉

 

 コースの一番内側からのスタートとなったナリタトップロードは、そのまま落ち着いたペースで最ウチを進み、ちょうど中ほどの位置に収まっている。

 

 一方、タップダンスシチーは先頭を逃げウマ娘たちに譲りつつ、こちらも速やかにコース内側へと陣取っていた。

 

「タップくんは、内側に閉じ込められて思うように抜け出せない、という苦境を何度も味わっただろうがねぇ、それでもコーナーでの有利を考えればあの位置を取るほかにないようだねぇ。」

 

「京都レース場って、コーナーで一度ついた差をひっくり返すのが難しい感じします。わたし、未勝利戦を繰り返してた時に何度か京都でも走りましたけど……やっぱ、3コーナーからぐいぐい上がってくペースについてけなくなるんですよ。」

 

 タキオンの言葉に頷きながら、ヒシミラクルも語る。

 

 未勝利バ戦に挑んでいた頃のミラ子は、今よりも更に最後の加速に難のある状態だったため、ますます京都レース場中長距離特有のペースを厄介に感じたことだろう。

 

 長い直線ゆえに競り合いは激しくない、しかし下り坂から急にペースが上がる終盤ではそれまでの走りの組み立てによる影響が如実に表れる。タップダンスシチーが磨き抜いてきた、精密な速度維持が活かされるレースでもあった。

 

〈注目のナリタトップロードは、インコースぴったりを5番手であります。その外へ、テンザンセイザが居て、さらにすぐ外ならんでヤマニンリスペクト、しんがりにはツルマルボーイ、こういう展開になりまして1コーナーを回っていきます。さぁ先頭のスエヒロコマンダー、逃げて7バ身から8バ身の大きなリードを取りました、離されて2番手がアラタマインディ、4バ身ほど開いて3番手タップダンスシチー、そこから後はほとんど差が無く続いています。〉

 

 実況が言う通り、先頭のスエヒロコマンダーは掛かり気味ではないかと思われるほど大きなリードで逃げ、さらに2番手のアラタマインディも中団からたっぷりとリードを保って進んでいる。

 

 この中では最も多くの戦績を残しているベテランのナリタトップロード、そして今年になって条件戦から一気にGⅡまで駆け上がってきたタップダンスシチー、この両名の存在が先頭のペースを急かしていたも同然の光景であった。

 

「しかし全く焦る様子がないねぇ、さすがはタップくんだ。これこそ、彼女の本質が逃げではなく、自らのペースを貫いた結果として逃げになることもある、という走りの証明だねぇ。」

 

「たぶん、先頭で逃げてる面々のペースは維持できない、ってのが分かり切ってるんでしょうね。これ、だいぶ実戦を重ねないと、本番で自信もって速度維持できませんよ。」

 

 ヒシミラクルもまた本気のレースをここまで経験してきただけに、タップの走りの凄さは実感的に理解できるようであった。

 

 黙ったままの鷹木であったが、自信に裏打ちされたタップの走りを見るにつけても、片桐の手腕を思い知らされずにいられなかった。

 

 実戦を可能な限り繰り返し、理論だけの作戦に実経験という裏付けを与える方針。それは、現在のタップの担当である片桐トレーナーの十八番でもある。

 

 本番レースの出走回数を増やすということは、それだけ休養期間を削らねばならないということでもあり、ウマ娘の身体の頑健さを注意深く見積もることが出来るトレーナーだからこそ可能な方針だった。

 

〈まもなく向こう正面に入りまして、前半の1000mを通過いたします。スタートして今59秒、いやほぼ1分ちょうどで通過しました。先頭は変わらずスエヒロコマンダー、ポプラの並木を背景にして、先頭を飛ばしていきますスエヒロコマンダー、しあkしリードは少々縮まって5バ身であります。そして2番手以降は固まりました、アラタマインディ、続いて3番手にホットシークレットが外側から上がってまいりまして、内々をタップダンスシチー、その向こう側に今回も1番人気のナリタトップロードであります。〉

 

 ベテラン揃いであるだけに、大きく逃げているスエヒロコマンダーを除けば、ほぼ同じペースに位置取りが集中しつつある。

 

 タップダンスシチーの位置に他のウマ娘たちも並びかけているということは、やはり彼女のペースは正確であったということだ。じわじわと包囲されながらも、タップの走りはより強く確信を得たように安定していた。

 

 画面内の状況に指さしつつ、タキオンは口を開く。

 

「分かるかいヒシミラクルくん、タップくんの表情が……このカメラワークからでは確認しづらいが、今一番周囲との位置取りに集中していることだろう。」

 

「あー、やっぱ、この辺りで一番、競っている全員がお互いの位置を意識し続けてるんですね。そりゃー、私みたいにわかりやすく上がっていこうとしたら、牽制もされちゃいますね。」

 

 じりじりと互いに間合いを詰め合いながら、まだ大きく動いたり、先走って加速を仕掛けたりしない区間。

 

 下手に動けば勝利は遠ざかるし、かといって仕掛けどころに遅れれば、もはや先頭に追い付けなくなってしまう。必死で前に上がっていくだけではない走りを、ここで観戦しているミラ子も既に理解できるようになっていた。

 

 GⅡ、そしてGⅠの舞台で競い合うつもりならば、競走相手の出方を見ることをおろそかにはできない。そして、タップダンスシチーは既に余裕をもってそれが可能なまでの域に至っていた。

 

〈さぁ3コーナーの下り坂にかかりまして、先頭は依然としてスエヒロコマンダーですが、既にリードはかなり縮まっている、2番手アラタマインディが外から、内々を通ってタップダンスシチーが前へと詰めていく、その間に挟まれる形でホットシークレット!そしてナリタトップロード、5番手の位置から先行集団の競り合いを見つつ、こちらもじわじわと上がってくる!さぁナリタトップロード外に出して、今4番手に上がってまいりました、外を通ってこのまま先頭に出るか、間もなく最後の直線へと向かいます!〉

 

 さすがの経験と実績、ナリタトップロードは前を塞ごうとする集団をするりと交わし、外を通ってあっけなく先頭へと駆けあがっていた。

 

 一方で、タップダンスシチーは事前に察されていたリスクのまま、コース内側に入り込んだままで前へと出られなくなっていたが……4コーナーの出口、勢いのついた面々が遠心力で外側へ振られたのを見越したように、最ウチを突いて抜け出していた。

 

「良い抜け方だ、タップくん!しかしキミの瞬発力では、トップロード先輩に届くかどうか怪しいねぇ!」

 

「いや完璧すぎますもん、トップロード先輩のコース取り!先行争いに巻き込まれないで、さらに集団が膨れる前に外から抜けていくなんて、あそこまで見えてたんですねぇ……!」

 

 感嘆の声を漏らすヒシミラクルと共に、タキオンももはやナリタトップロードの勝利がほぼ確定した局面に視線が釘付けとなっている。

 

 鷹木はその傍ら、この展開が果たして昨年や一昨年と同様であったかどうか、思い出そうとしていた。たしかに、スエヒロコマンダーが大逃げを見せ、ナリタトップロードが最後に抜け出して勝つ……という流れを以前も見たような気がする。

 

 にもかかわらず、違和感はまるでなかった。これが既存の展開をなぞる異変ではなく、全くの初見、本来のレース展開そのものであったように感じたのである。

 

〈ナリタトップロード先頭に代わった!ナリタトップロード先頭!残り200を切ってスエヒロコマンダー2番手、大外からテンザンセイザ、間を割ってツルマルボーイ、ウチを突いてタップダンスシチー!2番手争いはツルマルボーイとタップダンスシチー、ほとんど並んでいる!しかしナリタトップロードの先頭は揺るがない!世代交代、なんだそれは、関係ない!ナリタトップロードです!今年の京都大賞典、勝利したのはナリタトップロード!堂々と、秋の中山、天皇の盾へナリタトップロードが名乗りを上げました!〉

 

 圧倒的な実力が健在であることを示してナリタトップロードが一着でゴール、大ベテランたちを相手に健闘したタップダンスシチーは、ツルマルボーイにほとんど並んでいたが惜しくも三着という結果に終わっていた。

 

 が、異変はレース結果以外の所で起きていた。

 

 トップロードがゴールラインを越えた瞬間……すなわち、レースが決着した瞬間、まるで今初めて収録マイクのスイッチが入ったかのごとく、急激に京都レース場の大歓声がスピーカーから響き渡ったのである。

 

「わっ!?うるさっ!急に大歓声が聞こえてきたんですけど……え、観客さんたち、ゴールする直前までメチャ静かにしてたってこと?」

 

「いや、そのようなことはあり得ないねぇ、最終直線こそ、レース場が最も沸き立つ区間なのだから……まぁ、URA公式の配信機材の問題だ、と考えるのが現実的だろうねぇ。」

 

 耳を抑えているヒシミラクルの隣で、タキオンは中継を映していたパソコンの音量を更に下げている。

 

 タキオンの解釈が実際のところ自然であったろうが、現地でも実際に異変が感じられたことは、画面内に映るウマ娘たちの仕草で見てとれた。

 

 さすがにゴールするまではレースに集中している彼女たちが気を散らすことはなかったが、ゴール後に減速し終えた面々は、何かに戸惑ったように顔を見合わせていたのだ。

 

 殊に、自分の感じたことをすぐに言葉にして喋るタップダンスシチーは、すぐさま訝し気な表情でトップロードやツルマルボーイに話しかけている。ちょくちょく観客席の方に視線を向け、歓声に応えるように手を振り返しつつではあったが。

 

「今回のレースの件、タップくんやトップロード先輩が帰ってきたら、ちょっと話を聞かせてもらわなければねぇ。」

 

「ですねぇ、なんか観客の皆さんの様子が変ですし。静かに観戦しましょう、だなんて張り紙でもされてたんでしょうか?」

 

 未だにピンときていない様子のヒシミラクルはさておき、鷹木とタキオンは顔を見合わせて頷き合っていた。

 

 観客たちが上げる歓声が、この世界によるウマ娘レースへの関心そのものを示しているとしたら……今回の京都大賞典の結果は、可能性世界による既定との一致を見る事になるのだろうか?

 

 そもそも別世界が存在するという仮説自体、タキオンの脳内にしかない概念であったし、直接確認する手段も無かったが、異常な現象が起きたことだけは事実であった。

 

 この日、事実を前にして明確な判断を下さざるを得なかったのは、タキオンたちばかりではない。

 

 京都大賞典と同日開催された、中山レース場での毎日王冠。

 

 レースを終えて戻ってきたダンツフレームを前にして、結城トレーナーはハッキリと言い放った。

 

「ダンツフレーム、今年の秋の天皇賞は回避すべきだ、と僕は考えている。」

 

「えっ……。」

 

 天皇賞、秋。マイル路線にも足を踏み入れていたダンツフレームにとっては、同期の面々とGⅠで競い合える稀有な機会であった。

 

 自分が同期の仲間たちから引きはがされずにいることを確かめる機会とも言えた……そんなレースを回避すべきと語る結城トレーナーを前に、ダンツは少なからず衝撃を受けた様を隠せずにいられない様子であった。

 

 とはいえ、重要な決断を告げるのを後回しにせず、即座に担当ウマ娘へと告げる姿勢があればこそ、信頼されるのも事実であった。

 

「もちろん、精密検査をこの後受けてもらった結果次第だ、判断を確定するのは。けれどね、さっき走り終えた時の様子を見たところ、呼吸が想定以上に荒くなっていたじゃないか。」

 

「それは……思った以上に、終盤がハイペースで……いえ、その通りです。」

 

 URAの歴史と共に歩んできた、最も経験豊かなトレーナーの言葉は、的確であった。

 

 ウマ娘のトレーニング方針について、口出しするのを最低限にとどめているトレーナーだからこそ、ここにきて出走回避を明言することの意味は大きかった。

 

「脚の故障だけじゃない、呼吸器系の異常もまた、放置するほどに悪化することには変わりない。取り返しがつかなくなってからでは遅い……勝つことよりも優先されることがあるとすれば、レースを終えた後もウマ娘が無事でいられることだ。」

 

「はい……。」

 

 数多くのウマ娘を担当し、あるいは担当せずとも間近で見てきた経験ゆえに、結城トレーナーの言葉が有する説得力は尋常ではなかった。

 

 手の施しようのないほどに症状が悪化したウマ娘を、過去に見てきた経験があるのだろう……と、言外に信じさせるほどに、彼の声には重みがあった。

 

「もちろん、検査でなにも問題が見られなければ、天皇賞へは予定通り出走しよう。だが、ライバルたちも、万全の状態のダンツフレームと競うことを望んでいるだろうからね。」

 

「その通り、ですね。分かりました、天皇賞回避も視野に入れます。」

 

 最初は受け入れがたく感じた判断を前に、首を縦に振った時、ダンツフレームは将来を遮っていた暗がりがすこし軽くなったような心持ちを抱いた。

 

 出走するはずだったレースをひとつ諦めるのは、将来の選択肢を狭める決断に違いないのに、むしろ通れないはずの未来が開かれていったような、不思議な感覚であった。

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