探求者たちのタイムクライム   作:Okubo Masau

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 普段からサボりがちなアグネスタキオンが練習へ向かう意気込みを失っていない、稀有な機会を逃さぬうちに鷹木トレーナーはマンハッタンカフェとの併走練習を指示した。以前はタップダンスシチーと野良レースの形で走る姿を披露したタキオンであったが、マンハッタンカフェほどの実力者を相手取るのは初のことである。お互いにデビュー前とはいえ、既に類稀なる脚の持ち主。彼女らの本気の片鱗を、鷹木は目の当たりにすることとなる。


違和の楔は、まだ刻んでいない

 休息を挟み、いざ併走練習を開始させるというタイミングでも、鷹木は入念にストレッチと軽いウォーミングアップを指示した。

 

 香港からの中継、大舞台本番におけるアグネスデジタルとエイシンプレストンの力走を目にしたばかりだったこともあるが、翻って今ここにいるアグネスタキオンとマンハッタンカフェを見れば、いよいよ彼女らの脚は華奢で繊細なつくりであった。

 

 本気の走りがぶつかり合う本番に、今のまま送り出すのはリスクが高すぎるようにも感じられた。ほんの少しの衝撃も許されぬ、精密機器を扱うような感覚が求められるようだった。

 

「実際に走る際の脚の向きも意識して、ゆっくりと負荷をかけるんだ。地面を蹴るとき、どの角度から衝撃が加わるかイメージして……。」

 

「私はいい、カフェ君を見ていてくれたまえ。」

 

「う……体操は、いい加減に済ませるんじゃないぞ。」

 

 担当トレーナーであるにもかかわらず、すげなくタキオンから距離を取られる鷹木。

 

 とはいっても確かに、タキオンの準備運動は適切な形で行われていた。彼女自身が己の身体の性質を理解していたために、自分の脚がついに負荷に耐えきれなくなる時期を可能な限り先に延ばす努力については、十分に慣れているのだろう。

 

 カフェの準備運動についても大きく修正すべき点は見いだされなかったが、指摘すべき点は鷹木の目にも見えた。普段から、手本としてアドマイヤベガやエアシャカールの練習を間近で見ている影響だ。

 

「……マンハッタンカフェ、そこまで力をかけすぎなくていい。そこまで体重が掛かりすぎることもない、あまり筋肉を伸ばし過ぎては、むしろ蹴り出す力が弱まってしまう。」

 

「分かりました……。」

 

 既に走るための筋肉が完成しているアドマイヤべガ、エアシャカールに関しては、その体重を支えるだけの柔軟性を保ちつつ、筋肉の収縮にて十分に前へ進む力が得られる。

 

 しかし、そんな先輩たちと同等の負荷を柔軟体操で掛けすぎると、殊に体重の軽いマンハッタンカフェは駆け出した際に思うような加速が得られなくなってしまうだろう。

 

 専属の担当ではない鷹木からの指摘にも、カフェは従順であった。あるいは、彼女の言う“お友だち”もまた、鷹木の発言に頷いていたのかもしれない。

 

 体が温まってきたタキオンは、軽く足を踏み出す練習をしながら、沸き立つ思いを抑えているように半ば上ずった声で練習条件について話し始める。

 

「さて、カフェとの併走はどういった距離で行おうか?興奮冷めやらぬ先ほどのレースと同様、2000mの距離で競うというのも面白そうじゃないか。」

 

「いや、ダメだ。距離設定は1000mにする、今の時点で本番同様の負荷を掛けるには早い。」

 

 これに関しては、鷹木も譲ることは出来ない。彼自身が最も危惧する状況、まだ入学したばかりの、脚の筋肉が万全の状態ではないウマ娘が、無茶なトレーニングで怪我をすることだけは絶対に避けねばならない。

 

 さしものタキオンも、そんな鷹木の真剣さについては充分に受け取ったらしい。仕方ないとばかりに肩をすくめて、カフェと連れ立って練習コースのスタート位置へ向かっていった。

 

 新入ウマ娘たちがいつも練習に用いるコース、すなわち鷹木が言った1000mの距離はトレセン学園グラウンド半周分である。

 

「そういえば……他の皆さんも利用する、このグラウンドで……タイムは正確に測れるのでしょうか?」

 

 スタート直前のカフェがボソッと呟いた疑問も、尤もである。

 

 万全の計測環境が整っている、GⅠ級のウマ娘たちにのみ与えられる個別練習場とはワケが違う。共同利用のグラウンドでは他のウマ娘たちも練習のために走っており、ゴールラインの通過を自動で記録する設備も無い。

 

 一周で2000mにもなる巨大なグラウンドは、スタート位置から半周した先のゴール地点まで相当の距離がある。

 

「トレーナーさんが、ここでスタートの合図を出すにしても……私たちがゴールするところまで、かなり離れてしまっていますが……。」

 

「案ずることは無いさカフェ、我らがトレーナー君は、すでに幾たびもここで計測を行っているのだから!そうだろう、鷹木トレーナー!」

 

「あぁ、慣れてはいる……それなりに体力は使うけどな。」

 

 それは担当ウマ娘がまだまだGⅠに手の届かない間、ほぼ全てのトレーナーに課せられた肉体労働のようなものでもあった。

 

 すなわち、併走練習を行うウマ娘たちにスタートの合図を出すと同時に、すぐさま広大なグラウンドを横切って走り、可能な限りゴール地点の近く、真横の角度からゴールの瞬間を確認できる位置にたどり着き、ストップウォッチでの計測を完了する……という手順である。

 

 むろん、サブトレーナー、あるいは練習相手のトレーナーがいる場合は、スタートとゴールそれぞれの位置で待つことは出来るのだが。

 

 ウマ娘のスピードには人間の脚でとても追いつけるものではなかったが、彼女らがトラック半周している内に、一直線でグラウンドのど真ん中を突っ切るならばどうにか間に合うのであった。

 

「現時点でのタイムをきちんと計るのがトレーナーとしての役目だ、遠慮なしに走ってもらっていい。」

 

「とのことだ、カフェ。存分に駆けようじゃないか!キミの走り、私は間近で見たくてたまらなかったんだ!」

 

「私の方が、タキオンさんに先行してもらう形にはなりそうですが……では、遠慮なく……。」

 

 疑念も解消し、ウォームアップも済み、スタートする体勢を整え、スッと視線を前方へ向けたマンハッタンカフェは顔つきが変わった。

 

 いつも伏し目がち、低く籠った声で静かに語っている彼女と同じウマ娘とは思えない、ぎらついた闘志が瞳の中に閃いたようであった。

 

「では、位置について、用意……スタート!」

 

 鷹木の合図とともに、両者は同時に飛び出した。が、カフェがスタート前に口にした通り、先行のペースで前に出たのはアグネスタキオンの方であった。

 

 最初の直線をあっという間に駆け抜け、コーナーへと入っていくタキオンとカフェへ視線を注ぎながら、鷹木もゴール地点へと脚を急がせる。

 

 確かに貴重な併走練習であった、タキオン自身のサボり癖もあったが、彼女が後ろから追い立てられる状況を見るのも初めてであった。

 

「実戦では逃げウマ娘が前に居るだろうが、相手のペースを把握しながら走ることが出来ない状況、タキオンはどうするんだ……?」

 

 今のところ、鷹木の目からはかなり抑え目にタキオンが足を運んでいるように感じられた。

 

 それは普段の練習から、自分の脚に不用意な負荷を掛けまいとするタキオンの癖でもあったが、前を行く者が居なければ可能な限りスタミナ消費を抑えようとする傾向があったためでもあろう。

 

 カフェもまた、追い込みを得意とするウマ娘なのか、落ち着いて淡々とコーナーを進んでいく。

 

「タキオン、相変わらず直線と同じ脚運びでコーナーを回っているな。遠心力の影響を受けない程度に負荷を抑えているのだろうが、もしも後ろを進んできた競争相手に並ばれたら、どうするつもりだ。」

 

 練習コースの周りでは、併走練習を開始したタキオンとカフェのために、他のウマ娘やトレーナーがコースを空けて見守っている。

 

 彼らとしても、注目すべき光景ではあった。そもそも共同の練習場で真面目に走る姿を見せるのが珍しい両名ではあったし、入学式の日から何かと目立つタキオン、レジェンド結城トレーナーに見いだされたカフェ、各々の能力のほどについても気に掛かっていたのだろう。

 

 とはいえ、周囲から感じ取れる視線には、どこか興ざめな雰囲気もあった。タキオンとカフェ、双方がスローペースで進んでいたためでもあろう。

 

「新入ウマ娘のレースは、逃げが基本だからな……タキオンが本気を出すつもりも無ければ、このままのペースでゴールまで行くだろうが。」

 

 ストップウォッチを手に、そろそろコーナーの出口、直線に向かおうとするタキオンとカフェに間に合うよう、鷹木は考えを巡らせつつも懸命にゴール地点へと真っすぐ駆けていく。

 

 逃げの手を打つウマ娘が新入りに多いことには、単に先行や差しが考えることの多い作戦だからというだけではない。タップダンスシチーが直面している課題のように、逃げにも相応に複雑な作戦が絡む場合もある。

 

 それ以上に、デビュー戦が短距離に分類される1000m前後である場合が多いためであった。短距離のレースであれば、逃げも追い込みもスタミナ消費の差がさほどなく、必然的に前方に位置どっている方が有利である。

 

「……それでも、あのスタート直前のカフェの目つき……やっぱり、その気になって走り出した……!」

 

 コーナーを抜けきる寸前のことであった。黒い長髪を風に流しているマンハッタンカフェのシルエットが、僅かに揺らいだように見えた。

 

 直後、何の予兆も示さず、物理の法則を無視したかのように、マンハッタンカフェは急加速した。

 

 他のウマ娘ならば、多少なりと脚の踏ん張り方に変化があったり、じわじわと位置を上げ始めたりと、スパートをかける前兆が見えるはずのところ、カフェは唐突に別のウマ娘へと変貌したかのような速度の切り替わりを披露したのだ。

 

 足取りの軽さは変わらぬものの、その加速は容赦のない物であった。どこか退屈したような視線を注ぎつつあった周囲からも、どよめきの声が上がる。

 

「結城トレーナーが目を付けるわけだ……!タキオンが緩く取っていた程度のリードなどあっという間に追いつかれ……タキオン?」

 

 カフェの走る姿に視線が釘付けとなっていた鷹木は、タキオンが走っているはずの位置へと狭窄した視界を動かし、そこに彼女の姿を見いだせなかった。

 

 タキオンもまた、カフェの蹄音に呼応するかの如く、猛加速を開始していたのだ。

 

 こちらは自在に速度を切り替えられるよう、入念に準備した結果を披露しているようであった。当然ながら抑え目の走りゆえスタミナは温存されている。

 

 自分の背後から追ってくるマンハッタンカフェが、いずれ急襲してくるであろうことを見計らった備えが、タキオンの中にはあったのだ。

 

「あのカフェにも、並ばれない……いや、待て、タキオン、ダメだ!」

 

 一瞬だけ、鷹木はマンハッタンカフェに追いすがられながらも、未だに追いつかれることのないタキオンへ称賛を投げかけようと考えかけた。

 

 しかし、その思いは直ちに訂正されることとなる。走行フォームを確認する時、あるいはスタミナ配分がまだ管理できていないタップダンスシチーを相手取った時、タキオンが見せた軽々とした足取りと、今の走り方は全く異なっていたのだ。

 

「そんな全力で、走るのか、タキオン!!」

 

 マンハッタンカフェと並んで駆ける彼女は、その細い脚を、一歩一歩ごとにターフの上に釘のように打ち込むがごとく、鋭く地面を蹴って前に進んでいた。

 

 その走りのおかげで、これまでにないスピードをタキオンが示していることを鷹木は十分に理解した。だからこそ、タキオンに制止を呼びかけざるを得なかった。

 

 彼女の脚が壊れてしまう。あんな負荷を、一気に掛けていては……。

 

「……たっ、タキオンッ!ハッ、ハァ、ハァ、ゼェ、ゲッホ、タキオン、大丈夫か、脚は……!」

 

 当然ながら、ゴールしたポイントまで鷹木が懸命に走ってたどり着いた時には、とっくにタキオンもカフェもゴールラインを駆け抜けた後であり、呼吸も整えて談笑を始めようかといったタイミングであった。

 

 周囲からは、見る者を圧倒する走りを披露したタキオンとカフェに小さく拍手が送られ、彼女らのもとに転げ込むようにして駆け寄っていった鷹木に心配そうな視線が送られた。

 

 血相を変えて息を切らしている鷹木の、その必死な形相の理由はタキオンも気づいていたろうが、彼女は変わらぬ調子で喋るのみである。

 

「いやはや、あのような走りで迫って来られては、臆面もなく私も本気になってしまったよ。私の見込んだ通りだカフェ、キミこそが新たな世代を牽引するウマ娘となるだろうねぇ。」

 

「そうありたいものですが……タキオンさんも、速いです……鷹木トレーナー、私達のタイムは、いかがでしたか?」

 

「ゼェ、ゼェ、タ、タイム?ちょっと、待て、ハァ、ヒィ、ハァ……。」

 

「問うても仕方がない、我らがトレーナーくんは、心配事で必死になってしまっていたようだからねぇ。」

 

 両手に膝をつき、咳き込みながらも息絶え絶えの状態となっている鷹木の首からは、ストップを押されることなく今なお計測が続いているタイマー表示がぶら下がっていた。

 

 鷹木なりの全速力でゴールラインへと駆け寄っていく視界の中では、辛うじてタキオンにぎりぎり追いついたカフェがほぼ並んでゴールした様しか見えていなかった。

 

「心配しないでくれたまえトレーナー君、私とて単なる練習で選手生命を賭すほど考え無しではないさ。ほら、何ら痛みも違和感もなく、普通に脚を動かせる。」

 

「エッホ、ゼェ、ハァ、そ、そうか、今は、息を整えて、ハァ、ハァ、心拍数を、ゆっくり落ち着かせて、ハァ、ハァ、それから、休息だ……ゲッホ。」

 

「そう言っているトレーナーさん自身も、息を整えてくださいね……。」

 

 担当ウマ娘を心配して駆け寄っていったはずのトレーナーが、この場で一番心配されているという矛盾した結果を実感しつつも、鷹木は頷いた。

 

 マンハッタンカフェが、結城トレーナーのもとでの練習を選ばず、アドマイヤベガやエアシャカールからいったん離れてアグネスタキオンとのトレーニングを希望した理由を明かしたのは、その後の休息時間のことである。

 

 練習グラウンドに併設された休憩エリアは、既に傾いた陽射しが長々と伸びるグラウンドの塀の影を映しこみ、一足早く天井の照明が点けられている。

 

「……アドマイヤベガ先輩について、なのですが……。」

 

 スポーツドリンクのボトルから口を離し、会話の切り出し方に慣れていないマンハッタンカフェは、ボソッと前置き無しにそう切り出した。

 

 長い黒の前髪が被さりながらも喋っている彼女の顔は、夕暮れの陽射しで更に影を追加され、薄暗い校舎の中でふいに遭遇したとしたら悲鳴を上げる自信が鷹木にはあった。

 

 アグネスタキオンはといえば、たちまち常通りの好奇心を発揮し、身を乗り出して続きをせがむ。

 

「おや、世紀末覇王と伯仲し、その最大のライバルが引退してなおも現役を続けている、アドマイヤベガ先輩かい?やはり、カフェとしても追い込みの走りの手本としたいのかねぇ?」

 

「いえ、また別の話です……そもそも、最近のアドマイヤベガ先輩は、先行寄りの作戦が多くなっています……最近、アドマイヤベガ先輩に、お友だちがずっとくっついているんです。」

 

 アドマイヤベガの友人と言えば、ナリタトップロードだろうか、あるいはエアシャカールだろうか、と考えを巡らせた鷹木は、カフェが"お友だち"と表現する存在のことを思い出し、その認識を訂正することとなった。

 

 すなわち、アドマイヤベガの身に、非現実的とも思われる、視認できないような何かがとり憑いているのだ。

 

 普段の鷹木ならば不気味がりながらも話半分に聞き流したろうが、既に本番レース中、アドマイヤベガの顔つきが別のウマ娘のように豹変する現象を目にしている今、あながち聞き流せる内容ではなかった。

 

 今、カフェがそれに言及したことで、鷹木には尋ねてみたいことがあった。

 

「なぁ、アドマイヤベガには、死に別れた妹がいるという話なんだが……カフェが見た『お友だち』っていうのは、アドマイヤベガに姿が似ているのか?」

 

「いいえ……姿が全く違います。アドマイヤベガ先輩の妹さんなら……いつも、離れたところで見守っています……ときどき楽しそうに、ちょっと不安そうに……。」

 

 以前、アグネスデジタルが話していた推測は、正しかったのかもしれない。アドマイヤベガの妹が憑依しているのなら、アドマイヤベガに似ても似つかぬ顔つきになることなどあり得ない……という憶測である。

 

 カフェが喋る内容を真実だとするのなら、アドマイヤベガの妹と思しき霊は、自分の姉がレースで活躍する様を純粋に応援したいのだろう。

 

 なればこそ、アドマイヤベガに直接とり憑いている存在が何者なのか、ますます不気味であった。

 

「ふゥん、カフェ、そのお友だちは、どのような姿をしているのかな?容姿の似ているウマ娘が過去に居たのなら、関連を見出せるかもしれない。」

 

「それが……こんなことも、今までに経験したことが無いのですが……毎回、見るたびに、そのお友だちは、姿が違っているんです。毛並みの色も、体つきも……」

 

 あくまでカフェは確定できない内容を口にしたのみだったのだが、聞かされた鷹木の中ではますます不安が掻き立てられるばかりであった。

 

 "お友だち"を視認することができるマンハッタンカフェにとってすら、未知の存在だというのなら……いったい他の誰が、その正体を見出すことが出来るというのか。

 

 アドマイヤベガの身体にとり憑いた目的も、このままでは知り得ない。タキオンは、そんな返答を聞いてますます、探求心をくすぐられた様子ではあったが。

 

「へぇ、先駆者たるカフェにとっても未踏の地というわけだ、面白いじゃないか!姿が違う、ということは、これまで区別できる程度には姿を確認し得たということだろう?あるいは、受けた印象が共通している場合もあり得るじゃないか。」

 

「時には、私にも似た姿になり、あるいは、栗毛の姿にもなり……印象としては、そこにいたはずの存在のような、ここにいないはずの存在のような……すみません、こんな言い方、余計に混乱させてしまいますね……。」

 

「構わないさ、不明瞭な領域が多いほど、探求のし甲斐があるというものだ!カフェ、これから私たちの研究室に向かおう、そして夜を徹し、語り明かそう、我らに見えざる存在への思索を!」

 

 鷹木もまた深く考え込んでいたため、タキオンがカフェを連れて校舎内で徹夜して過ごそうとする試みを、危うい所で中断させることなく通してしまうところだった。

 

 彼女らにすぐ寮に帰って身体を休めるよう言い含め、鷹木もまたタブレットや記録ノートの束を抱えてトレーナー寮へと帰る。

 

 自分が担当トレーナーではないにせよ、覇王と競い合ってきた好敵手、アドマイヤベガに起きた異変の正体は不明瞭なまま、いよいよハッキリとした事実として鷹木の脳内の中心に据えられつつあった。

 

 アドマイヤベガも含めたGⅠウマ娘たちにとっての大舞台、春の天皇賞はもう来週に迫っていた。

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