前作「覇王のドラマトゥルク」から引き続き、ナリタトップロードの口調が公式とは大きく異なるものとなっています。ナリタトップロードがウマ娘化していない時期に投稿された、前作と地続きの内容のためです。
常より交流しているトレーナーが限られていたこともあったが、鷹木が片桐トレーナーのもとをよく訪れるようになったのは一種の必然であったろう。
12月も半ばを過ぎたばかり、いよいよ来週にせまる有馬記念に備え、ウマ娘たちの練習場はおのずと差すような緊張感に包まれる。それは平常からおっとりした性格のメイショウドトウについても例外ではない。
彼女は今、トレーニングというよりも確認の意味を込めて、中山レース場と同様の坂を駆け上がっていた。鍛え上げられた体力のほどは言わずもがな、足取りの一歩一歩まで気を抜かぬ集中力が、離れて見ている者の元にも刺すほどに伝わってくる。
その様子を凝視している片桐トレーナーにも、並みならぬ気迫が籠っている。いつものどこかふざけたような笑みは鳴りを潜め、真剣そのものの眼差しをドトウに向けている。
……でありながら、鷹木が見学先にドトウの練習場をよく選んでいることについては既に片桐トレーナーにも察されていたらしい。
ドトウが練習コースのゴール板を越えたあたりで、片桐は鷹木へ唐突に声をかけた。
「ドトウのトレーニングばかり見学に来られても、先行策を想定した調整しかお見せ出来ませんよ。追い込みを得意とするエアシャカールやアドマイヤベガの練習場所など、見に行かれないんですか?」
「……そう、ですね。いずれ、機会があれば。」
唐突な指摘に口籠った鷹木は、曖昧な返答を示すだけであった。
当然ながら、アドマイヤベガやエアシャカール、彼女らを指導している結城トレーナーの元を訪れることも時間のある現状は十分可能だったし、桂崎トレーナーがアグネスデジタルの海外遠征につきっきりのため単独ないし併走練習を黙々と続けているナリタトップロードも鷹木の見学を拒みはしないだろう。
彼女らのトレーニングを見学できること自体、相当に稀有な機会であることに違いはなかった。それでも、この場と同等あるいはそれ以上の緊迫感に包まれることを想像するだけで、鷹木はしり込みしてしまうのであった。
そして、そんな彼の胸中など、片桐は充分にお見通しだったらしい。
「結城トレーナーだって、あなたを邪魔扱いするような真似はなさらないでしょう。トップロードも、見学しにきたトレーナーを歓迎しない子じゃありますまい。」
「えぇ、それは、分かってます。」
「ま確かに、自分だけが完全に蚊帳の外に置かれた状態で、手持無沙汰に練習風景を見つめ続ける状況、相応の精神力が無いとキツいかもしれませんけどな。」
「……。」
鷹木とて、見学に際してはそれなりの体裁を保てるような準備は怠っていない。メモを取り、担当トレーナーからの許可が得られるならば練習風景の記録撮影を行えるようなタブレットを持参し、咄嗟に走り書きを残すための紙のメモ帳も携えている。
結局のところそれらは、見学という体裁を保つ名目で持ち込んでいるに過ぎなかったのだが。
真剣そのものの空気を纏って走り続けるウマ娘と、彼女らのために全力を尽くして指導に当たるトレーナー。その背後で、何もせずただ立って見ているだけの自分の姿を思い浮かべるだけで、鷹木の顔は自然と俯くのであった。
トレーナーであるにもかかわらず、誰のトレーニングも担当できない状態はしばらく続く。
それは鷹木トレーナーの経歴に見合わぬ実績、彼を世紀末覇王の玉座の傍らにまで引っ張り上げてしまったテイエムオペラオーが、浮かぬ顔で危惧していた状況のひとつだったのかもしれない。
「鷹木さん、タブレットの画面、消えてますよ。」
「あ……」
練習をひと段落させたドトウの元へ歩み寄り、片桐トレーナーがあれこれと留意点について喋っている間、鷹木はメモを書き込むためのタッチペンを構えたままぼんやりと立ち尽くしていた。
一定時間操作されていなかったタブレットの画面は既に真っ暗になっていた。指摘を受け、慌ててタブレットを立ち上げ直している鷹木の心境も全て見透かしているように、片桐は笑顔を見せつつ言葉を継いだ。
「そろそろですね、あのレースが始まる時刻です。椅子を出してきましょうか、ドトウ。レース中継を観戦するセッティングは、こちらでやっておきますので。」
「はいぃ、椅子、持って来ますぅ。」
「あ、いや、自分が。ドトウが、わざわざ準備にかかることは……ちょっと、待って……!」
備品倉庫へと小走りに向かうドトウを鷹木は慌てて追ったが、小走りであろうとウマ娘が人間に追いつかれるはずもない。
大舞台のレースを控えたウマ娘に、それもどんなドジをやらかすともしれないドトウに、サラリと椅子を準備するよう告げる片桐トレーナーの鷹揚さに追いつける鷹木でもなかった。
結局のところ、ドトウは転びもせず畳まれたパイプ椅子の束を抱えて倉庫から出てきた。この練習場には3名しか居ないにもかかわらず、両腕に5脚ずつ、計10脚と、量があまりに過剰だった点はさておき。
「よいしょ、よいしょ……持って来ましたぁ。」
「すみません気が利かず。今日行われる香港カップの観戦、ですよね。椅子ぐらいは自分が準備すべきでした。」
「いやいや、鷹木さんは見学に集中なさってたんですから。」
皮肉とも取れる言い回しではあったが、片桐の口から出てきたのであれば常のこととしてさしたる抵抗なく受け取れた。
せめて椅子を設置する手伝いぐらいは、と鷹木が並べたパイプ椅子へ真っ先に腰掛けながら、片桐トレーナーはつい先ほどまで取得していたドトウの走りのデータをタブレット上で整理している。
集中のため片桐が黙してしまうと、共に喋り下手の鷹木とドトウ以外に沈黙を埋め得る存在はない。鷹木が言葉を探している間、先におずおずと口を開いたのはドトウであった。
「鷹木トレーナー、先週はトップロードさんのところで一緒に観戦してましたけどぉ、今日は呼ばれなかったんでしょうかぁ?」
「……あぁ。」
ドトウとしては純粋な疑問を口にしただけかもしれなかったが、鷹木が気に掛けているデリケートな部分へ単刀直入に切り込む鋭い突っ込みに他ならなかった。
香港カップという大舞台、それも桂崎トレーナーが担当しているアグネスデジタルが出走する、海外の一大レース。いよいよ今日、その当日となっても、鷹木に再び中継観戦の誘いが届くことはなかった。
トップロードは積極的に他者を遠ざけるような真似など決してしないだろうが、いよいよ本気で向かい合うべき大舞台を来週に控えれば、ただ見ているだけの人間を招いている余裕などさすがに無いと判断された……のではないかと鷹木は考えていた。
すかさずフォローを入れたのは、やはり片桐トレーナーだった。
「結城トレーナーの真隣りに座らされた鷹木さんの緊張ぶりを、察せないトップロードじゃないでしょう。同じような心労を味わわせまいと、彼女なりの配慮をした結果じゃありませんか?」
「なるほどぉ、確かに、私でも気づけましたぁ。鷹木トレーナー、冷や汗びっしょりだったんですぅ。」
「……そうでしたか。」
URA界のレジェンド結城トレーナー、その存在感に当てられた鷹木が顔を蒼ざめさせ、担当無しトレーナーでありながら同席している場の不相応さに痛いほど感じ入っていたことは、ウマ娘たちにも筒抜けであったらしい。
片桐の推測がおそらく当たっていたことは、間もなく練習場の扉がノックされ、入り口を開けてナリタトップロード自身が姿を現したことによっても裏付けられた。
「お邪魔します。きっと、ドトウの方も香港カップに合わせて休憩してる頃じゃないかと思ったんだ。」
「トップロードさん!よかったですぅ、ひとりっきりで観戦してるんじゃないかと思いましたぁ。あと、鷹木トレーナーがトップロードさんから前みたいに招待されなかったこと、気になさってたみたいでぇ。」
片桐に似て観察眼も鋭くなっていたドトウだったが、自らの読み取った内容を多少なりと婉曲に示す器用さまでは、まだ身に着けていないらしかった。
ドトウの発言に慌てている鷹木に、トップロードは多めに置かれていたパイプ椅子に腰を下ろしつつ、楽しげな眼差しを送っている。やはり人間と比べても、ウマ娘はずっと早く大人になるようであった。
「いや、そんなこと、気にしていたわけではなくて、トップロードも大舞台が目前だし、練習に打ち込みたいのかと思っただけで……。」
「アヤベとシャカールも、今回は自分たちの個別練習場で香港カップの中継を見るらしいからね。私はついさっき、皆と一緒に見たい気分になっただけ。鷹木トレーナーも偶然居てくれて、良かったよ。」
爽やかにトップロードの言葉が鷹木の焦燥を吹き流し、まもなく枠入りが始まったレース画面へ皆の視線は自然と集まった。
当然のことながら出走リストには海外のウマ娘ばかりが並んでいる。その只中に、2番人気にまでつけたアグネスデジタルの名がある様は、実際に目の当たりにすればますます晴れがましく映った。
「デジタルさん、あんなすごいレースにまで出るなんてぇ。」
「彼女も、苦節を幾度も経験したうえで、世界に注目される舞台にまで上り詰めた。観客席で憧れていただけのウマ娘が、本当に強くなったよ。」
デビュー当初、そして同じ担当トレーナーの下で共に駆けてきただけに、トップロードの言葉はサラリとしていながら並みならぬ感慨が込められているようだった。
一方で、片桐トレーナーの方は、また違った目を画面に向けていたが。
「……鷹木トレーナー、アグネスデジタル以外で香港カップに出走するウマ娘の名前、どれだけ知ってます?」
「えっ。」
唐突に自分を試されているのか、と思わず身構える鷹木。
見返してみれば、確かに鷹木は1番人気のウマ娘名すら知らなかった。日本からはるか遠い、石油産出国出身のウマ娘。
皮肉を言ったり揶揄ったりすることが常の片桐も、さすがに鷹木へ明確な嫌味を与えることはしない。片桐の真意を測りかね、同時に実際のところ答えられる内容も無かった鷹木が黙り込んでいると、片桐は再び口を開いた。
「ほとんど知らないのは、自分も同じです。さすがに1番人気のウマ娘は知っていますがね。」
「…………そうですね。」
「我々自身の勉強不足というよりも、これが現状のURAの性質によるものと考えるべきかもしれません。すなわち、ウマ娘をデビューさせ、クラシック級、シニア級……名だたるレースへの出走を目指して必死になっている中では、世界に目が向かない。」
鷹木が自らの知識不足を吐露できずにいる一方で、片桐はもう少し高い視座を有していた。
国内のウマ娘レース、そこに出場するだけでもトレーナーとしては手一杯なのだ。海外のレースにまで足を伸ばすことが可能なのは、一流のウマ娘の中でも更にごく一部、抜きん出た脚の持ち主だけである。
世界と同じ舞台で競い、走ることを視野に入れた時……URAのレースが海外レースと肩を並べているとは、断言しづらい現状にあった。
「ま、あまりにスケールの大きな話は、簡単に把握できるもんでもありませんがね。共に駆けたウマ娘が世界に通用するのだと、胸を張って誇れる日が来ることを願うばかりです。」
「えぇ。」
結局のところ、相槌だけを返すので精一杯の鷹木。
いよいよ中継画面の中ではレース出走時刻となり、その後の沈黙が気まずいものとならなかったのが、世界どころか今自分がいる場所だけで精一杯の鷹木にとっては救いであった。
〈さぁ、枠入りの方は完了したようです、沙田レース場は熱狂に包まれております。いよいよ香港カップ……スタートしました、ほぼそろいました、アグネスデジタル好スタートを切りました!おぉっと果敢に前に行きましたアグネスデジタルです、僅かに第1コーナーカーブのところでは前に出たような感じですが、ここで後ろから来た3名、いや4名を前へと見送りました。外目を回りつつ現在五番手につけています。〉
「外枠だったから、第1コーナーに入るまえに一気に前に出て、外に押し出されるのを防いでるね。迷いのない判断だ。」
「それでも、ウチ側には入られちゃってますぅ……先行は難しいですぅ。」
スタート直後、即座にコーナーへと入る沙田(シャティン)レース場の特徴を当然ながらアグネスデジタルは把握している。先行策でありながら一時的に先頭へ出るほどに加速し、他の逃げウマ娘たちに慌てて抜き返させていた。
ダートと芝の両方、そしてあらゆる距離のレースで走りを模索し続けてきたデジタルであればこそ、自らのスタミナを管理しつつもレース全体の流れを制御する高度な技量を身に着けていたのだ。
〈第2コーナーをも綺麗に回っていきます、アグネスデジタル。中団前寄りをバ群に巻き込まれることなく、理想のポジションと言ったところでしょうか、現在前4名を見る形となっています。先頭までの距離は5バ身のところ、先団からは2バ身ほどの差を見ながら、これより向こう正面へと入っていきます。先手を取ったのはトボッグです、二番手とのリードは2バ身と言ったところ。〉
「正確には『トブーグ』と読むべきところですな、綴りはTobouggですから。これもアナウンサーの技量というより、国内のウマ娘実況者が海外ウマ娘に触れる機会の少なさゆえ、でしょう。」
「さすがに、目まぐるしく変わる状況を実況しながらとなると、難しいのかもですね。当然のことながら、アグネスデジタルにのみ注目している視聴者が大半でもあるでしょうし。」
実況アナウンサーも、手元に渡された出走リストが英語のみで書かれている様に直面しながらも読み上げているのだろう。片桐が指摘した通り、ウマ娘レースの現状は国内にほとんどの意識が向いているようであった。
一方、レースの方はアグネスデジタルの想定した通りの運びと言える状態であった。坂を上りながら到達する向こう正面、そこでも順位は変わっていない。
〈二番手には、二頭並んでいますが……バッハ、二番手、アイルランド出身ウマ娘のバッハが二番手、三番手にはピークパワー、香港のウマ娘です。そして四番手にはハウスマスター……こちらも香港のウマ娘です。そして前4名を見る形、五番手の位置、2バ身差で、アグネスデジタルが追走しています。URAから来たりし英雄アグネスデジタル、じっくりとレースを見ています。〉
「なんだか実況の人、他のウマ娘さんの名前を読む時に詰まってますぅ。」
「仕方ないさ、私達もまだ聞いたことの無い名前なんだから。それよりも、いよいよ第3コーナーに入っていくよ。」
アグネスデジタル以外のウマ娘については、上位の名前を読み上げるだけで済まされ、中継においてもアグネスデジタルへの応援に注力する形へ切り替えられたようであった。
向こう正面からは、下りとなってコーナーに入る。一気にスピードを乗せて、最終直線への勝負へと向かう……アグネスデジタルは、先頭集団との差を焦らずキープしながら、冷静な脚運びを示し続けていた。
〈アグネスデジタルをマークするように、2名のウマ娘が徐々に接近して来ておりますが、アグネスデジタルは変わらず順位を五番手としまして、第3コーナーを回っていきます。先頭までは4バ身のところまで上がってまいりました、アグネスデジタルです。さぁ、アグネスデジタルの動きはどうか、四番手、三番手、いや二番手の大外に取り付いてきた!先頭までは2バ身といったところ、まだまだ行ったアグネスデジタルだ!〉
「ベテランの風格ですな、安定した走りだ、あの小柄な体格で……他のウマ娘は、早くもデジタルに追いすがるといった風体じゃありませんか。」
「えぇ、本当に。他のウマ娘に並ばれないほどの、多くのレースを経験してきただけのことはあります。」
鷹木は、今年の秋の天皇賞を思い返していた。あの時もオペラオーは、次元の違うスパートを披露していた。スタミナが割かれるような展開も無い、ずっと先団の好位置につき続けて、もはやドトウを覗いて並ぶ者はないはずの走りであった。
ゴール板を目前にして、それを大外から差したのがアグネスデジタルであった。あの時は超常現象でも起きたのではないかと感じた鷹木だったが、今、こうして中継画面越しに落ち着いて見るほどに理解は深まる。
アグネスデジタルは、レースの全体を掴み切っていたのだ。スタミナの配分や位置取りは当然ながら、"いかにして勝つか"を漠然とした能力や精神に拠ることなく、具体的に理解していたのだ。
〈ぐんぐん上がって行ってアグネスデジタル、今度は先頭に立つ勢いだが、先頭はトボッグ、トボッグ先頭だ、リードは1バ身ぐらい、そして……後ろをちょっと振り返ったぞアグネスデジタル!余裕があるのか、余裕があるか、第4コーナーを回ってまいりまして、さぁこれから直線の勝負になりました!かなり外目、バ場の三分どころへと持ち出した!一気にアグネスデジタル先頭だ!アグネスデジタル先頭だ!〉
「わぁぁ……あれは、もう追いつけないですぅ……。」
「余裕が十分に見える走り、だね。もちろん、他の子も全力で食い下がってくるだろうけれど、スタミナの猶予が十分に残っているデジタルが、差し返されることはないよ。」
メイショウドトウとナリタトップロード、一流のレースを幾度も経験してきた彼女らが、画面内で直線に向いたウマ娘たちの状況を見て、即座にそう口にした。
それがアグネスデジタルの強さであった。一介のウマ娘ファンとしてトレセン学園に踏み込んできた彼女は、誰よりもウマ娘を、走っている彼女らの姿を強く己が瞳に焼き付けていた。
レースに臨むウマ娘が、どのタイミングで、どれぐらいの本気を出すのか、全てが既に盤上にて見えているのだ。
〈アグネスデジタル先頭だ!!リードを1バ身ほど取った!さぁ二番手はどうだ、各ウマ娘、各ウマ娘突っ込んでくる!二番手争いはどうか、外から突っ込んでくるが、同じような脚!アグネスデジタル、リードを徐々に詰められながらも、並んでいる!並ばせている、残り200mを通過、アグネスデジタル先頭だ、ウチからも並びかけられて半バ身差だが、アグネスデジタルは焦りがない!〉
「覇王テイエムオペラオーの走り方を吸収した、そんな印象も受けますな。あの子も、僅差で勝つことが多かった。」
「焦りなく、自分に並んでくる者を認識しつつ、本気を出すための余力を残している……。」
あるいは、ナリタトップロードと共にトレーニングに励んだ影響もあったのかもしれない。トップロードはオペラオーとドトウという二強ウマ娘に挟まれながらも、実直に、そして確実に結果を出し続けていた。こちらは、オペラオーとは違い、二着以降との着差を広げられるならば可能な限り広げる作戦であったが。
いかなるコース、バ場の状態であっても、正確に自分の走りを実現すること。ダートと芝の両方を走り、思い通りに結果が出せぬレースを幾度も経験したアグネスデジタルが見いだせる成果であった。
〈アグネスデジタル先頭だ、並ばれているがアグネスデジタル先頭!もうゴール前だ、アグネスデジタル頑張れ、頑張って頑張って……ゴールイン!頑張ったぁ!アグネスデジタル勝ちました!やりましたURAウマ娘!凄いことになりました!ウチから……13番のトボッグ、来ましたけれどもしのぎ切りました!さぁ本当に……世界の舞台で、URAウマ娘が見事な勝利を飾りました!〉
「ですから、トボッグじゃなくてトブーグ、ですよ、そのウマ娘の名前は。画面越しに言っても仕方ありませんけどね。」
「しかし、本当に、凄い……何もかも、自分の糧として吸収したんですね、アグネスデジタルは。」
片桐は相変わらず実況アナウンサーの読み方にツッコミを入れていたが、その声が興奮で震えるのを止めることは出来ていなかった。無論、鷹木も同様で、こちらは知らぬ間に熱くなっていた目頭を押さえている。
勝てないままにダートと芝の両レースを繰り返していた頃のアグネスデジタルは、普通のウマ娘トレーナーの目から見れば迷走ともとらえられかねない様ではあった。が、現にURAを代表して世界の舞台に立ち、栄冠と称賛を浴びている画面の向こうの彼女は、間違いなくウマ娘レースへ向ける情熱が本物であったことを自ら証明する姿であった。
あるいは、アグネスデジタル自身が度々口にしていた言い方を借りれば、ウマ娘のキラキラを追ってたどり着いた頂点、とも呼ぶべきかもしれなかった。