探求者たちのタイムクライム   作:Okubo Masau

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 世間的にはネオユニヴァースがクラシック級にもかかわらず参戦したことが話題となっていたが、その年の宝塚記念はエアシャカールにとっても重大な舞台であった。ツルマルボーイをはじめ、数々の後輩ウマ娘たちが台頭しつつある状況。ひとつ上の覇王世代や、同期の勇者アグネスデジタルの陰で奮闘を続けてきたシャカールは、まだまだ第一線を退くつもりなどなかった。


新星に追われ、地平は近づく

 実況席に特別解説ゲストとして呼ばれたメイショウドトウの声が、実況放送の開始前からレース場内に響き渡るというアクシデントこそあったものの、プロたる実況アナウンサーは落ち着いた調子で実況解説を開始した。

 

 既に幾万人も詰めかけた観客席には笑い声が溢れており、当のドトウは実況ブースの中、すっかり自ら動揺を隠せぬ状態となってしまっていたが。

 

〈さていよいよ発走時刻も近づいてまいりました、春シニア三冠の最後を締めくくる大舞台、宝塚記念。今年も名だたる優駿たちが集まりました、阪神レース場。解説を担当していただくのは、皆様お馴染みのこの方であります。〉

 

〈はい、スペシャルウィークです!いよいよですね、今年度の宝塚記念!毎年熱いドラマが繰り広げられるこのレース、去年のレース模様は特に観客の方々の記憶に残っているんじゃないでしょうか……その、つい先ほどの記憶にも鮮やかに刻まれたかもしれませんけれど!〉

 

 特別ゲストを呼び込むための前置きとして用意していた口上を述べるスペシャルウィークであったが、既にその特別ゲストであるメイショウドトウが自ら存在を露呈してしまっていたため、もったいぶる意味はほぼ無かった。

 

 とはいえ、多少なりと呼びこまれるドトウの緊張を和らげることには繋がったらしい。

 

 実況席に座ったままマイクに向かってしゃべればいいものを、何故かスタンドのマイクを手に取って立ち上がろうとしていたドトウは、コードを踏みつけて転びかねない状況に自ら気づいて座り直した。

 

〈えぇ、ではさっそくお呼びいたしましょう、今回のスペシャルゲストは、前回の宝塚記念にて勝利を収め、昨年の有馬記念にて有終の美とともに引退されたこの方、メイショウドトウさんです!〉

 

〈ど、ど、どぅもぉ、メイショウドトウですぅ……阪神レース場にお越しの皆さん、ご、ご機嫌はいかがですかぁぁ……?〉

 

〈見ての通り、ドトウちゃんの登場で、いや登場前から、大盛況ですよ!〉

 

 既に笑いの渦は巻き起こっていたが、そのうえ更にトボけた呼びかけをするメイショウドトウ、気の利いた返しを披露したスペシャルウィークに応えるように拍手喝采と歓声が湧き上がる。

 

 オドオドした雰囲気に変わりはなかったものの、常人ならば確実に気後れして言葉に詰まるだろう状況で、迷わず幾万人もの大群衆に向けて話しかけられるドトウには充分すぎる貫禄が備わっていた。

 

 現地たる阪神レース場ではなく、トレセン学園内から中継番組越しに観戦しているアグネスタキオンとマンハッタンカフェも、それぞれ独特の反応でドトウの言動を評していた。

 

「やはり並みならず特異点に近づいたウマ娘には、自身が意図せずこの世界に記憶として刻み付けられやすい特質のようなものが備わっているのかもしれないねぇ。大舞台での実況中継という、滅多に音声トラブルなど起きるはずもない場でアクシデントを引き起こすなど、もはやメイショウドトウの特異な体質ではあるまいか!」

 

「ドトウ先輩にも、あるいは、お友だちがぴったりと付き添い続けているのかもしれません……直接見ないことには、わかりませんが……。」

 

「トレーナーくん、その点どうなんだい?キミは、メイショウドトウのライバルたる覇王テイエムオペラオーを担当していたのだろう?現実では考えられないほどの現象を目の当たりにすることは無かったのかい?」

 

 隣でトレーニング結果の記録をまとめる作業を続けていた鷹木は、タキオンからの問いに答えるため、一瞬だけ手を止めた……が、まもなく具体的に思い起こすことの困難さを実感する。

 

 メイショウドトウの近くに居る間、予測しやすいものから予測できないものまで、ありとあらゆる類のアクシデントを経験することになる。ひとつひとつ思い出して列挙するには、あまりにもその数が多すぎた。

 

 鷹木は明確な答えを見出すことを諦めて作業の手を再開しながら、タキオンに答える。

 

「今となっては思い出せない、ドトウの顔を見るたび、なにがしか起きていたからな。もはや、それが当然のようになってしまって、逐一覚えていない。」

 

「ますます気になるじゃないか!一度ドトウ先輩には会いに行かねばならないねぇ、うまくすれば現実の物理法則を逸脱した現象を観測できるかもしれない!」

 

 メイショウドトウの異次元のドジと、アグネスタキオンの好奇心が合わさった日には、ますます災難が拡大するのではないか、と鷹木はありもしない不安を増大させるばかりであった。

 

 中継画面内では、せまる宝塚記念の発走時刻に向け、ゲートインが進んでいく。

 

 実況アナウンサーも、安定した解説を披露するスペシャルウィークからコメントを引き出しつつも、何を喋るとも知れぬメイショウドトウに話を振るタイミングを慎重に見計らっている様子であった。

 

〈さて枠入りが進んでいきます宝塚記念、人気投票で選ばれた12名のウマ娘が勢ぞろいであります。さてスペシャルウィークさん、今回はどのウマ娘に注目されているでしょうか?〉

 

〈やっぱりトレセン学園2年目のネオユニヴァースさん、そしてローエングリンさんには注目ですね!シニア級の先輩たちに囲まれてどこまで走れるか……けど、エアシャカールくんにも勝ってほしい気持ちがあります!〉

 

〈今年の宝塚記念では珍しく2名もの参戦となりましたクラシック級のウマ娘たちに期待が寄せられるところです。一方、今回1番人気の注目ウマ娘であるエアシャカール、後輩たちにはまだまだ追い越されない意地を見せてくれるでしょうか。メイショウドトウさんは、エアシャカールさんとも親交があったとのお話でしたね?〉

 

〈はいぃ、すごく優しくてよく気が付いてくれるんですよぉ。毎日、私が登校するときに、忘れ物に気づいて教えてくれてましたぁ。〉

 

〈まっ……毎日忘れ物してたんですね!〉

 

 スタート目前といったところで並み居る観客たちが固唾を飲みつつある中、彼女らしいノンビリとしたエピソードを観客席に流しているメイショウドトウ。

 

 会場に響き渡っているだろうドトウの声と笑いは、出走ゲート周辺においては全くシャットアウトされているかのごとく、スタート位置についたウマ娘たちの表情はまったく乱されぬ集中力を保っていた。

 

 先ほど言及は無かったが、2番人気に控えているウマ娘、ツルマルボーイの名を画面上の表に見つつ、タキオンが口を開く。

 

「クラシック級のネオユニヴァースとローエングリンだけじゃないねぇ、ツルマルボーイの存在も、エアシャカール先輩にとっては自分を追い越そうとする後進のなかでは一番の脅威だ。」

 

「世間は、もう世代交代を謳おうとしているでしょうけれど……。」

 

 マンハッタンカフェも、来年から参戦しようとしている自分たちの立場を鑑みつつ応える。

 

 これから輝こうとする新たな世代のウマ娘たち、そして世紀末覇王が去った後の次代にてようやく輝きを放ち始めたウマ娘。

 

 全霊の実力がぶつかり合う表舞台は、全員が目立てるほど広くないのだ。

 

〈全ウマ娘収まりまして体勢完了……今スタートが切られました!12名、まずは先行ポジションの探り合いです、まずはホットシークレット、ミツアキサイレンス、その外からトウカイポントが上がってこようとするところでありますが、ローエングリンがウチから、ローエングリンが先を行く、並んでトウカイポイントが2番手につけました。エアシャカールは早めに3番手の位置であります。〉

 

〈スタート直後からスピードに乗っていますね!ハイペースで進めば、かなりレベルの高いレースになりそうです!〉

 

 宝塚記念はホームストレッチ、ポケットからの下り坂を伴うスタート。直線の途中には上り坂も待ち受けているとはいえ、スタートから500m以上の直線が続く中ではスピードも上がりやすい。

 

 先月の金鯱賞で見せた走りとは対照的に、エアシャカールはスタート直後から先行の位置、それもほぼ逃げウマ娘に迫るほどの勢いで前に出ていた。まるで、彼女がデビューしたばかりの3年前に戻ったかのような走りである。

 

 この走りを見せているのが経験の少ないウマ娘であれば、焦りによって前に出過ぎたものと取られかねないほどのハイペースであった。

 

「しかしエアシャカール先輩には、しっかりとレース全体が見えているはずだねぇ、なにぶんあれだけ正確に配分を想定してレースを運ぶウマ娘だ。それに、去年の宝塚記念も実際に体験しているのだから。」

 

「あぁ、今年アドマイヤベガが見せている作戦に近い走りじゃないだろうか。追い込みを得意とするうえに経験豊かなウマ娘が、スタート直後から前に居れば必然的に競争相手は焦らされる。」

 

 ウマ娘レースにおいては、実際の脚運びのみならず、その走りを実行しているウマ娘自身の存在感も大きく周囲に影響を及ぼす。

 

 皐月賞と菊花賞の二冠、さらには昨年のジャパンカップにてオペラオーをも破ったエアシャカールの走りともなれば、ペース配分のミスと断じてシャカールに先行を許し続けることも難しいだろう。

 

 ゆえに、同じく追い込みを得意とするはずのネオユニヴァースが、シャカールのすぐ後ろにまでつけているのは焦りゆえとも取れた。

 

〈エアシャカールに続いて4番手、ここにネオユニヴァースが居ます。エアシャカール、ネオユニヴァース、共に珍しく先行の位置につけています、さらにホットシークレットも前から5番手、並んでミツアキサイレンス。その後ろには大ベテランウマ娘のマチカネキンノホシ、後方にはアクティブバイオ、テンザンセイザ、トウカイオーザは後ろから3番目、ツルマルボーイにフサイチランハートが最後方という形です。〉

 

〈さぁ一周目のスタンド前を走り抜けていきます!この声援が、力になる感じ、今ここで聞いていてもワクワクしますね、ドトウさん!〉

 

〈は、はいぃ、私は走るのに必死でしたけどぉ……。〉

 

 ドトウらしい返しも大歓声の中に笑いを沿え、初夏の阪神レース場は一段と沸き立っていく。

 

 集団は微妙に間延びした形で、最初のコーナーへと向かっていた。

 

 経験の浅いローエングリンやネオユニヴァースが脚を急かすように先頭集団についている一方で、ツルマルボーイは自分のペースを守るように最後方で足を運んでいる。

 

「どう見るかい、トレーナーくん?私の見立てでは、かのネオユニヴァースが易々とハイペースに釣られてスタミナを浪費するような真似をするとは、考えづらいんだがねぇ。」

 

 即答できないながらに、鷹木も頷く。

 

 以前タキオンと会話を交わしていたネオユニヴァースは、口にする語彙はほとんどが難解で内容を簡単に理解できないものばかりであったが、ともあれ浅慮なイメージからは程遠いウマ娘であった。

 

「……シニア級以上の競争相手に囲まれた状況では、クラシック級と比べてもいっそう抜け出すのが難しいと予測したのかもしれないな。前の日本ダービーのように、ガラ空きのコースを悠々と抜け出るような状況は無いだろう。」

 

「なるほどねぇ、あるいは彼女は確定事項として、そのレース展開を観測したのかもしれないねぇ。万が一の可能性に賭けるような性格には、以前話した時はとても見えなかったものだから。」

 

 鷹木には、自分が述べた予測と、タキオンが言うところの観測に何の違いがあるのかは分からなかった。

 

〈1コーナーを回っていきます、まずはトレセン学園2年生、ローエングリンです、ローエングリンが快調に飛ばして5バ身のリードを取って先頭、2番手にはトウカイポイント、更に4バ身あいてエアシャカールは3番手の追走、その後にネオユニヴァースがぴったりとつけています。更に2バ身開いてホットシークレット、こちらもベテランです、昨年の宝塚記念にも出走しています。〉

 

〈スピードを維持している先頭集団に、期待されるウマ娘たちが集まっていますね!これは激戦が予想されます!〉

 

 向こう正面の直線に入っても速度が緩む気配は無く、ローエングリンを先頭にエアシャカール、ネオユニヴァースら人気度上位の面々が全体を引っ張り続けている。

 

 彼女らの中では、ジリジリとスタミナの削られていく実感が続いていることだろう。

 

 もう少し後ろに居れば、まだ最後の直線に残しておけるスタミナに余裕は出来る。が、実力者、ベテラン揃いのレースでは、直線に向いた時、おあつらえ向きに抜け出るコースが用意されていると考えるべきではない。

 

 鷹木もトレーニング結果をまとめる作業の手をすっかり止めて、ゴールまでの2分強、極限にまで高められた集中力のもと続く駆け引きの様を、じんわりと滲む汗を手のひらに感じながら凝視していた。

 

「……ネオユニヴァースさん、迷い、無いですね……。」

 

 ポツリとマンハッタンカフェが口にした言葉は、その時の鷹木には、ネオユニヴァースへの純粋な賞賛として聞こえた。

 

「あぁ、あれだけ先輩たちに囲まれながら、普段から得意とする作戦以外を選ぶというのは、かなりの不安を伴うはずだ。」

 

 ……が、ふと横からの視線を感じ、改めてマンハッタンカフェの方を見れば……彼女の横顔の向こう、アグネスタキオンがこちらへ見開いた眼を向けていた。

 

 正確には、タキオンはカフェの発言の真意を見抜こうとして、カフェの表情を凝視していたのだろう。

 

 安易な相槌を入れてしまった自分が、また思考の邪魔をしたと叱咤されるのでは……と鷹木は身構えたが、タキオンは進行していくレース模様の鑑賞の時間の方が惜しかったらしく、すぐさま画面の方へ自らの視線を戻した。

 

〈いよいよ1000mを迎えます、ローエングリン変わらず先頭でリード3バ身に縮まっています、トウカイポイントがじわっと前に詰めています……そしてエアシャカール動いていきました!エアシャカールが3番手から2番手へと並んで、3コーナーへと入っていきます!ネオユニヴァースも4番手ながらエアシャカールを追って徐々に上がってきた!〉

 

〈早めの仕掛けです!ネオユニヴァースちゃんも遅れず加速してますが、後ろの子達は追いつけるんでしょうか!〉

 

〈しゃ、シャカールさんん……!がんばってくださいぃ!〉

 

 一気に動き出したレース展開に、いっそう強く湧き起こる歓声、そしてスペシャルウィークとメイショウドトウの声もレース場内を反響する。

 

 無謀な加速ではなく、エアシャカールは確信とともに脚を速めていた。ここからコーナーを抜け切り、直線に向き、そしてゴール前の上り坂を駆け上がるまで、十分にスタミナは残されている。

 

 ネオユニヴァースが、ピタリとシャカールのタイミングに合わせるかのごとく、ほぼ同時に前を目指し始めたのだけは予測になかったが。

 

「シャカール先輩は、アドマイヤベガ先輩の走りも取り込んでいるのかな?コーナーを回りながら加速していく走りは、よく似ているように見えるねぇ。」

 

「あぁ、先行寄りの走り以外にも、アドマイヤベガの近くで練習し続けている時期が長いからな……。」

 

 鷹木はアグネスタキオンの疑問になかば上の空で答えつつも、画面に視線は釘付けとなっていた。

 

 エアシャカールが加速し始めたのに多少遅れつつも、他のウマ娘たちも前へ前へと上がりながら、コーナーを回っていく。

 

 ゆえに全体の順位自体はさほど大きく入れ替わりはしなかったが、エアシャカールが並びかけたローエングリンが、まだ抜かれていない様が鷹木には目に留まった。

 

 逃げウマ娘が追い込みを得意とするウマ娘に並ばれれば、そのままなすすべなく追い越されてしまうのが常だというのに……。

 

〈中団も固まってまいりました、後ろから上がってきたアクティブバイオ、ツルマルボーイもじわっと動いて、テンザンセイザ、フサイチランハートが最後方ではありますが、前との差はかなり詰まってきています!残り600を切りました、今度はエアシャカールが先頭か、ネオユニヴァースも連れて上がってくるが、ウチ側でローエングリンが食い下がっている、ローエングリン、まだ粘っている!〉

 

〈ずっと先頭で逃げ続けていた子が、まだ余力を残してますね!最後まで残るかもしれません!〉

 

 エアシャカール、ローエングリン、そしてネオユニヴァースが先頭付近で並んだまま、最後のコーナーを抜けようとしている。

 

 クラシック級でありながら先輩ウマ娘に挑む面々に、あるいは2年おくれてデビューした後輩たちに挟まれたエアシャカールに、それぞれ向けられた大声援が画面越しにも響いてきた。

 

「やっぱり、先輩たちに混じって走るだけあって、おふたりとも、強いです……。」

 

「いや、見たまえ、忘れてはならないよ、追い込んでくる実力者の存在を!」

 

 目を見開いているカフェの隣で、タキオンが画面の端、最後方集団から猛然と上がってくるツルマルボーイを指し示す。

 

 やがて直線に向く時、エアシャカールはローエングリンとネオユニヴァースに挟まれたうえ、大外からツルマルボーイにも差されようという形の中に身を置いていた。

 

〈4コーナーから直線!先頭ローエングリンが頑張っているが、エアシャカール、ネオユニヴァース、並んでいる!エアシャカール、ネオユニヴァース、後ろからマチカネキンノホシも上がってくるが、また突き放したぞローエングリン!ローエングリン、ここに来て更に速度を上げた!後方からはツルマルボーイ追い込んできた、ツルマルボーイ追い込んでくる!〉

 

〈この逃げと追い込み!今までにないレベルです!〉

 

〈シャカールさん!前に!行ってくださいぃ!〉

 

 メイショウドトウのほとんど叫びとも取れる声が響く中であったが、ほぼ追いつかれたと見えるローエングリンがさらに逃げ、観客たちの意識が向いていなかった最後方から追い込んできたツルマルボーイの出現に、レース場全体が震えるほど観客たちの叫びがこだましていた。

 

 エアシャカールは、新たな世代のウマ娘たちに取り囲まれたまま、懸命にゴールへと力を振り絞りつづけていた。……既に、並んでいた蹄音は、彼女より前へと出ていたが。

 

「逃げも、追い込みも……先行も、理想的な位置です……!」

 

「なるほど、あの位置でなければならないわけだ!」

 

 カフェの言葉に呼応して、タキオンはゴールまで残り数秒といったタイミングで、我が意を得たりと自らの掌を打ち合わせる。

 

 彼女が真っすぐ向ける視線、画面上にはネオユニヴァースの姿があった。

 

 大外のルートは、ツルマルボーイ。最ウチは、ローエングリン。そしてすぐ内側にエアシャカールが居る状況で、ネオユニヴァースはごく必然のように、開かれたコースと順当なスタミナ量をもって駆けていった。

 

〈ウチからはローエングリン、しかしネオユニヴァースが先頭に出た!外からネオユニヴァース、そしてツルマルボーイが並んでいるが、ネオユニヴァースが前だ!まだまだ伸びるか、ネオユニヴァース!ネオユニヴァース、ツルマルボーイ、並んでいるが……ネオユニヴァースだ、ゴールイン!やりましたネオユニヴァース、シニア級のGⅠ制覇!史上初、宝塚記念をクラシック級ウマ娘として初の制覇であります!〉

 

〈すごい……!えっ、史上初……ですよね!おめでとう、ネオユニヴァースちゃん!〉

 

〈お、おめでとうございますぅ……!〉

 

 これまで、宝塚記念をクラシック級ウマ娘が制覇したことなど無かったし、今後もあり得ないだろうと考えられていた。

 

 が、ネオユニヴァース、あのどこか奇妙な、異才のウマ娘はそれを成し遂げたのだ。

 

 中継画面の向こう、カメラに寄られた彼女の顔は、いつも通りに表情が動いていないようでもあったが、しかし僅かに紅潮しているようにも見えた。

 

「我々もうかうかしていられないねぇ、トレーナーくん!前代未聞の戦績が打ち立てられたんだよ、たった今!こうしてはいられない、ネオユニヴァースくんがトレセン学園に帰着し次第、彼女を観測しに向かう準備をせねば!特異点が再び現れようとしているかもしれないからねぇ!」

 

「……いや、そこは自分もトレーニングに専念しよう、って言うべきじゃないのか。」

 

 宝塚記念の中継を見終えたタキオンが、いつも通りに多少ベクトルのズレた興奮を示している様にツッコミを入れつつも、鷹木は画面からしばらく目を逸らせなかった。

 

 二着になったツルマルボーイ、そして三着のローエングリンに遅れ、四着となったエアシャカール。

 

 ペタリと折れた耳で、シャカールが顔を俯けている時間は、いつも以上に長く続いたようであった。

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