探求者たちのタイムクライム   作:Okubo Masau

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 稀有なる偉業へと向かう先輩ウマ娘たちの活躍を傍目に、キングヘイローの指導を受けながら次のレースへ向けてのトレーニングに励むジャングルポケット。12月に予定しているホープフルステークスには、おそらく12月初頭にデビューを控えているアグネスタキオンも参戦してくるだろう。並みの併走相手では満足な練習にならぬ中、長期休養中のアグネスデジタルが体をならすついでにジャングルポケットの練習相手を務めていたが、その日は意外な訪問者の姿があった。


その手はとうに、柄を捉えている

 京都大賞典の日を過ぎれば、トレセン学園は10月の末まで異様な緊張感に包まれ続ける。

 

 前哨戦が終わった今、訪れるは秋のウマ娘レース最初の大舞台である。すなわち10月26日に行われる菊花賞、そして翌10月27日に行われる秋の天皇賞。

 

 例年ならば、もちろん菊花賞はクラシック級、そして天皇賞はシニア級以上、それぞれの世代にて注目されるウマ娘が話題をさらってきた。

 

 ……だが、今年度の様相は異なっていた。

 

 菊花賞に挑むネオユニヴァース、そして天皇賞に挑むゼンノロブロイ。同じくクラシック級の世代でありながら、別々の大舞台に出走する彼女らが今年の秋からのGⅠレースに関する話題の中心となっていた。

 

「ひょぉおー、もしもゼンノロブロイちゃんが勝てば、クラシック級ウマ娘ちゃんが天皇賞秋を6年ぶりに制覇することになるんですねぇ。6年前の天皇賞といえばもちろん、バブルガムフェロー大先輩の偉業ですねぇ!」

 

 スマホ画面に流れてくる、連日メディアを賑わせている話題に目を通しつつ、アグネスデジタルはウマ娘オタクぶりを全開にした声を響かせている。

 

 傍らではキングヘイローがストップウォッチを手に、練習コース上を駆けていくジャングルポケットへ視線を注ぎ続けていた。まだ立場としては見習いトレーナーとしてのキングヘイローであったが、真剣そのものな彼女の表情には既にベテランのごとき貫禄が備わっている。

 

「いやもちろん、クラシック級から天皇賞へと参戦する子は、もっと最近にもいましたけどね?私とオペラオーさんが走った去年の秋の天皇賞では、トレジャーちゃんっていう後輩ウマ娘ちゃんも居たんですよ、トレジャーちゃんは今年の安田記念にも出走していて、七着まで食い込んでたんですが……」

 

「アグネスデジタルさん?あなたのウマ娘レースに関する情報量には素直に敬意を表するけれど、今はすこし抑えていてくださるかしら?」

 

「す、すみません、つい熱くなって……ジャングルポケットちゃんのトレーニングに集中しなきゃ、ですね。」

 

 トレセン学園に入学したばかりの頃と比べれば自制が利きやすくなったとはいえ、ウマ娘のことを語らせれば止まらないウマ娘、アグネスデジタルは恐縮したように口を閉じる。

 

 キングヘイローの眼はあくまで冷静な色で満たされていたが、コース上のジャングルポケットの脚運びへ向けられるのは鋭い視線であった。彼女にとっては事実上初の担当ウマ娘、ジャングルポケットが次なる勝利を獲るには、まだ足りぬというのが現状の見解だった。

 

 デビュー戦を初戦から勝利で飾り、続いてGⅢの札幌ステークスにも勝ち、順風満帆と見えたジャングルポケットであったが、向かうべき途上に立ちはだかるライバルの存在は未だ大きい。

 

「きっと、今年度中にアグネスタキオンとマンハッタンカフェ……少なくともどちらかがデビュー戦を済ませるでしょうね。そうなれば、ホープフルステークスで確実にぶつかることになるわ……。」

 

「いやぁ、強いですよぉ、タキオンちゃんもカフェちゃんも。デビュー前の時点で、現役トップクラスのウマ娘に並びかけるほどですからねぇ。」

 

 先日、京都大賞典へゼンノロブロイが出走した日、アグネスタキオンのもとを訪れたネオユニヴァースが並走練習を行った結果については、既にアグネスデジタルも知る所となっていた。

 

 現役クラシック級ウマ娘最強格と目されるネオユニヴァースから、デビュー前であるにもかかわらず練習相手として指名されるタキオンが尋常の域に収まらぬ能力の持ち主であることは、もはや疑いようもなかった。

 

「ジャングルポケットさんはあれだけ器用にコース取りできる脚を持っているのだから、もっとコーナーを鋭く攻略できるはず。今のままでは、GⅠの舞台に上がっても最終直線前に先行から引き離されてしまいます。」

 

 他のウマ娘との駆け引き、位置取りをスムーズにこなせるのがジャングルポケットの強みであったが、コーナー攻略中の速度維持は今なお課題のままであった。

 

 直線に向いてからの爆発的な加速が最大の武器であることには間違いなく、だからこそコーナーを走る間はスタミナ消費を抑える癖がついていたのだが、しかし先頭を差しきる圏内に入れてすらいなければ、いくら渾身の末脚を披露したところで一着にはなれない。

 

「コーナーで頑張りすぎるとラストスパートで息切れしちゃうから、自分のスタミナの限界を知ることも大事ですねぇ。最後の直線の長さもレース場によって変わる条件ですし、こればっかりは場数を踏まないと……。」

 

 アグネスデジタルとキングヘイローは言葉を交わし合いながら、コーナーを回り切って練習コースの最終直線を駆け抜けるジャングルポケットを見つめていた。

 

 キングヘイローの手元のストップウォッチには、直近の練習とほぼ変わらぬタイムだけが記録されていた。むしろ0.01秒程とはいえ、遅くなっている。

 

「とはいっても、これに焦って無茶な練習を提案し続けることがあってはなりませんし、逆に怪我や故障を警戒しすぎて練習内容が緩くなりすぎても向上につながりません。」

 

「いやはやぁ、私も引退後はトレーナーさんになろうかと考えたりしてますけど、練習で怪我をさせない自信をもって、本気のレースに通用する指導を続けるってのは、かなり難しいことなんですねぇ。」

 

 自分が指導する側の立場に実際に立ってみて、ようやく実感できる部分であった。ハードな練習を重ねるたび蓄積する負荷は、練習しているウマ娘自身にも自覚することは不可能に近い。

 

 勝利のためひたむきにトレーニングへ打ち込ませることも、逆にウマ娘が自主的に申し出た追加練習を却下し、きっちり休息をとらせることも、全てはトレーナーが練習内容を把握できているからこそ下せる判断なのだ。

 

 コースを一周して戻ってきたジャングルポケットは、さほどタイムが縮まっていない実感だけは確かであったためか、息を整えながらも表情は浮かぬままであった。

 

「キングヘイロートレーナー、もう一本走ってきていいか?ゴールした後も、かなりスタミナを余らせちまってたんだ、今の感覚を忘れないうちに修正したい。」

 

「その意気込みは素晴らしいですけれど、今はクールダウンを済ませてから身体を休ませることを優先なさって。本番同様の距離を立て続けに走り抜くことなど、本来想定されない走り方なのですから。」

 

「……分かった。」

 

 ジャングルポケットの眼には消え難い執念が炎のように揺らめいていたが、キングヘイローからの指示に彼女は大人しく従った。

 

 アグネスタキオンやマンハッタンカフェといった、走る才能の塊のごとき面々を相手取る想定の中で、今ここに居る先輩ウマ娘たちはジャングルポケットにとって最良の指導者であった。

 

「焦ることないですってぇ、諦めないのがポッケちゃんの強みなんですもの!さんざん使い古された言い回しかもしれませんけど、努力にまさる才能なしですからね!」

 

「アンタの口から聞かされれば、説得力も十分だな。」

 

 かたやアグネスデジタル、覇王世代とも称されるオペラオーとドトウの二強状態を、弛まぬ努力を積み重ねた結果突き崩したウマ娘。

 

 かたやキングヘイロー、化け物じみた黄金世代の同輩たちの中で、自分だけが獲れていなかったGⅠタイトルを執念の末に手にしたウマ娘。

 

 ジャングルポケットが入学して早々、彼女らに出会えたのが単なる偶然であったとしても、この面々に挟まれて練習できる環境は勝ちを得る最良の道であると思われた。

 

「次はアグネスデジタルさん、あなたが併走していただけますか?先行する相手の想定で、ジャングルポケットさんの前を行ってもらえれば、目安となりやすいかと。」

 

「もちろん、よろこんで!ですけど、流石に私の走りだけを相手してたら、癖がついちゃいませんかねぇ?」

 

 たしかにアグネスデジタルが先行から追い込みまで自在にペース配分を変更して走れる稀有な器用さを持ち合わせていたことも、なお理想的な練習相手の条件を満たしていた。

 

 とはいえ、いくらペース配分を切り替えたとて、アグネスデジタルの走りの傾向を覚えてしまい、それへの対処だけを身につけるばかりでは、純粋な練習になり得ないだろう。

 

「と言っても、現時点ではジャングルポケットさんと対等以上に走れるお相手は、他におられませんし……。」

 

 スケジュールを調整することで、担当トレーナーの居ないウマ娘たちと合同練習することも可能であったが、ジャングルポケットの能力は既に飛び抜けており、本気のペースでの相手にはならない。

 

 前述のアグネスタキオンやマンハッタンカフェは確かに比肩する能力の持ち主だったが、いよいよ彼女らと競うことになるであろう時期も近づいている今、易々とお互いの走り方を教え合うような真似は出来ない。

 

 ならば先輩ウマ娘たちは……となれば、これまた軒並み迫る菊花賞や天皇賞秋に備えて調整中であり、気楽に併走練習を申し込める相手でもない。

 

「かくなる上は、キングヘイローさん自らが併走相手となってみる、というのはいかがでしょうかぁ?」

 

「わっ、私が、ですか?いえ、流石に現役引退して一年以上過ぎていますし……」

 

 アグネスデジタルから突拍子もない提案を持ち掛けられて、当惑するばかりのキングヘイロー。これまで通り、アグネスデジタルがジャングルポケットの併走相手となる以外に選択肢はなさそうであった。

 

 が、そんなとき、おずおずと話しかける声が練習場の入り口辺りから届く。

 

「あ、あの……今、休憩中でしょうか?お邪魔しても、よろしいでしょうか?」

 

「えぇ、どうぞ入って……あら、あなたは。」

 

 小柄な黒鹿毛、分厚い縁のメガネをかけた、他と紛うことのない姿がそこに立っていた。

 

 ゼンノロブロイ。今月末の天皇賞への出走に向け、シニア級以上の先輩たちに負けぬよう練習に打ち込んでいるはずのウマ娘が、ジャングルポケットの練習場を訪れていたのである。

 

 ここに集まっている中では最も小柄で、性格も一番おとなしいゼンノロブロイであったが、その実力は現時点からの成長の余地も含めれば、いよいよ飛び抜けた存在であった。

 

 アグネスデジタルが極度の興奮を示したのは言うまでもない。

 

「ひょわぁぁああ!ぜっ、ゼンノロブロイさん!いっ、いいんですかぁぁ、この私が、こんなに近くでお目にかかってしまってぇぇ!」

 

「いやアンタが言うなよ。」

 

 ジャングルポケットはデジタルへとツッコミを入れつつ、ゼンノロブロイの眼から視線を外せずにいた。

 

 ゼンノロブロイの太縁メガネの奥に覗く目は、勝利への執念にぎらつく光を隠しきれていなかったのである。デジタルによる奇天烈な歓迎を繕うように、キングヘイローがすぐさま場を取り次いだ。

 

「わざわざお越しになるだなんて、ゼンノロブロイさん。今日はどんなご用件ですの?息抜きに練習の見学かしら、もちろんお話をするだけでも歓迎ですけれど……。」

 

「あの、お邪魔でなければ、私と併走練習をしていただきたいのです……アグネスデジタル先輩に。」

 

 一度口を開けば、単刀直入にゼンノロブロイは望むところを述べていた。当然ながら、有効に使わず費やしていい時間など、天皇賞を控えた彼女には無かった。

 

 ロブロイ自身もまた、練習相手には困っていたところなのだろう。同期のネオユニヴァースは当然ながら菊花賞に向け練習中であるし、シニア級の先輩たちは天皇賞への出走を控えた面々ばかりである。

 

 今、トレセン学園に居るウマ娘の中で、しばらく本番への出走予定もなく、それでいて最も高い実力を有するウマ娘は、アグネスデジタルをおいて他に居なかった。

 

 それは当然の選択であった……ジャングルポケットは、自分がゼンノロブロイから併走練習の相手として見られていない事実を、戦績ゆえ当然のこととはいえ多少の無念さを以て受け止めていた。

 

 一方のアグネスデジタルは、またしてもオーバーなリアクションでゼンノロブロイからの申し出を受け止めている。

 

「わ、私でいいんですかぁ!?いやぁ、今を時めくゼンノロブロイさんにご指名いただくとは、何ともありがたやぁぁ……。」

 

「いやアンタ以上の練習相手はいないだろ……俺も走らせてもらうぜ、今まさに併走させてもらおうって所だったんだからよ。」

 

 デジタルへの応答を交わしながらも、すかさずジャングルポケットは自らも参加する旨を、主にロブロイに向けてはっきりと言い放った。

 

 もちろんゼンノロブロイは礼儀に欠けるような性格ではなかったため、ジャングルポケットからの挑戦的な視線を真っすぐに受け止めている。

 

「はい、よろしくお願いします。」

 

 返答は端的なものであった。ゼンノロブロイの目に、新たな警戒の色が浮かんでこなかったことを、ジャングルポケットは見せつけられたに過ぎなかった。

 

 併走練習のコース設定は、ゼンノロブロイが予定している天皇賞に合わせた、芝2000m。

 

 ジャングルポケットが年末に出走を想定しているホープフルステークスも右回りという違いはあれど同様の芝2000mであったため、近しい条件のもとでの練習となり得た。

 

「では、位置について……用意、スタート!」

 

 ストップウォッチを手にしたキングヘイローの合図とともに、ゼンノロブロイ、アグネスデジタル、そしてジャングルポケットは一斉に駆け出していく。

 

 宣言した通り、アグネスデジタルは先行のペースで速やかに加速し、先頭に立った。一方で、ゼンノロブロイはぐっと後方に下げ、同じく追い込みの想定で走るジャングルポケットよりも後ろに居る。

 

(今のところ、変なペースは見えねーな。シニア級の先輩たちに挑むほどの実力、どこで拝見させてもらえンだか。)

 

 アグネスデジタルが練習としてのペースを意識して走っていたため、1コーナー、2コーナー、そして向こう正面を抜けるまで、ペースは全く変わることなく維持されていた。

 

 コーナーで速度が落ち、直線で伸びやすいジャングルポケットにとっては、コースの位置に拘わらず速度維持し続ける走りの精密さ自体が、自分との実力差の片鱗として覗かれていたが。

 

(俺が前に離されないように気を遣い続けてる中で、淡々と足を運んでいく……そりゃ、そうだよな、いちいち細かく加速や減速してたら、スタミナの浪費も増えちまう。)

 

 歴然とした実力差が現れたのは、3コーナーを回り始めたあたりであった。

 

 ゼンノロブロイは、早くもジャングルポケットに並んでいた。コーナーの外側から、じわじわと上がっていく。

 

 ジャングルポケットは一瞬彼女に追走しかけ、しかし思いとどまって、自分を追い越していくゼンノロブロイを見送った。

 

(さすがに、こんなコーナーの途中で仕掛けちゃあ最後の直線でバテる。釣られるところだったぜ……。)

 

 同じ追い込みでも、コーナーを回っている最中から加速し始める作戦もあれば、直線に向いてから一気に追い込む作戦もある。

 

 ジャングルポケットは練習を重ねた今もなお、コーナー攻略時の速度に課題を残している現状を強く意識していた。直線を向いてから一気に駆け抜ける方が、自身の性格にも合っていた。

 

 が、ゼンノロブロイは決して、まだ“仕掛け”てなどいなかった。

 

 最後のコーナーを抜けて、直線に向いた時……ゼンノロブロイは、一気に加速する。

 

(マジか……!さっきのアレは、単なる位置調整かよ!)

 

 いうまでもなく、アグネスデジタルはゼンノロブロイの末脚に備え、相当前方まで上がっていっていた。

 

 ジャングルポケットも、最終直線に向いた後、負けじと渾身の力を振り絞ってスパートをかける。この併走練習を行っている三名の中、瞬間的な加速だけで見れば、ジャングルポケットが一番だったろう。

 

「いつもながら素晴らしい加速力ですけれど、この位置取りではジャングルポケットさん、先輩がたには追いつけませんわね……。」

 

 ストップウォッチを片手に、コース脇から見つめ続けているキングヘイローも呟く。

 

 コースの残り距離に応じた自らのスタミナ残量、そしてペース配分を完全に把握している先輩ウマ娘たちに、ジャングルポケットが追いつくことは無かった。

 

(クソ、こんだけ直線が長いってのに……!)

 

 一周が特に長い東京レース場の想定で設定され、トレセン学園内にて可能な限りの直線距離をたっぷりと取った練習コース。

 

 ジャングルポケットは、決してスタミナ切れを起こしてはいない。十分に、脚を動かす気力は有り余っている。

 

 それでも、いくら懸命に、可能な限りの加速を以て先輩ウマ娘たちの背を追っても、届かなかった。

 

 前方ではアグネスデジタルが、ゼンノロブロイにほぼ並ばれながらも一着でゴールしていた。それは僅差、おおよそハナ差といったところだろう。

 

 ジャングルポケットは、それから1秒ほど遅れてゴールした。1秒差、それはウマ娘レースにおいて大差を意味する。

 

「はぁッ、はァ、はァ……流石ですね、アグネスデジタル先輩。走る前のウォーミングアップ時間もさほど取れなかったというのに、私では及びませんでした。」

 

「いやぁ、そりゃあ、もう、全力も全力で走りましたから!ゼンノロブロイちゃんも、ものすごい実力ですね!京都大賞典で二着になったのも頷けます、これなら天皇賞でも十分に上位に食い込めますよ!」

 

 ゼンノロブロイは呼吸を整えて頷きながらも、表情には満足げな色など全くなかった。

 

 彼女は京都大賞典を一着になるつもりで走っていたし、今月末の天皇賞でも一着になる以外のことを考えていないのだから。

 

「……今の私に、何が足りないのでしょうか。」

 

「うーん、流石に一度走ったキリでは、断言できることはあんまり……あ、でも、最終直線に向いた時、あと僅かでも前に来られてたら、今のレース、私が差しきられてたと思いますよ!」

 

 アグネスデジタルはあくまでゼンノロブロイに対してアドバイスしていたが、それはジャングルポケットについても同様の助言であった。

 

 ジャングルポケットの場合は“僅かでも前に”ではなく“もっともっと前に”ということになったろうが。

 

 遅れてゴールし、息を整えながらコースを回って戻ってきたジャングルポケットへ、キングヘイローがアイシングの準備を済ませて手招きする。

 

「お疲れ様。いかがでした?現役のGⅠウマ娘の本気と併走して、何か掴めたかしら。」

 

「あぁ、俺に足りてない所はハッキリ見えた。……あんまりにもデカすぎる不足だけどな。」

 

 キングヘイローからアイシング用のスプレーを吹いてもらっている間も、つい先ほど見せつけられた、まるで追いつけないゼンノロブロイとアグネスデジタルの背は視野の真ん中に焼き付いたままであった。

 

 彼女らに届かずとも、まだ納得はいく。どちらも既に全国の、あるいは世界の舞台で活躍している一線級のウマ娘だ。

 

(けどよ、俺と同期のタキオン、それにカフェが、あんぐらい走るってんなら、俺は……)

 

 ……打ちのめされている場合ではない、とジャングルポケットは項垂れかけていた顔を無理矢理引き起こした。

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