探求者たちのタイムクライム   作:Okubo Masau

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 トレーナーの気も知らず、遠慮なくネオユニヴァースの専用個別練習場で走り始めたアグネスタキオン。ネオユニヴァースとしては、タキオンの走りを見極め、鷹木トレーナーへと助言をすることが目的であるらしかった。アグネスタキオンは将来的に脚の負担を無視できぬほど抱えるだろうと、明確にユニヴァースから伝えられる鷹木。リスクを背負ってでも彼女を本番の舞台にまで送り出す覚悟を新たにしつつ、戻ってきたタキオンとともに今年度の秋の天皇賞を観戦しに入るのであった。


天高き軌道の先を、見送って

 複数のウマ娘が利用する合同練習場とは異なり、ネオユニヴァースの個別練習場の芝はほぼ傷んでいない。

 

 理想的な状態の芝の上、アグネスタキオンは軽々と駆けていった。

 

 ネオユニヴァースからの許可は得られたとはいえ、他者の練習場で遠慮なく走り始めたアグネスタキオンの足元に蹴立てられる土が見えないか、鷹木はそればかりが気になっていた。

 

「……何だったら、タキオンが走った後の、張り替え用の芝の搬入を俺が担当しようか。」

 

「マージナルだよ、タキオンの走りは『すごく軽い』だから。」

 

 それは鷹木が、本来タキオンの得意とする走りを認める方針でトレーニングを進めた結果、より際立つこととなった走りの特徴であった。

 

 アグネスタキオンは、相変わらず直線からコーナーへと入っていっても、全く脚運びを切り替えることなく走り続けていた。直線と同様の走り方のまま、遠心力をまるで感じさせず軽々とコーナーを回っていく。

 

「でも、鷹木トレーナーは“TRGDY”に備えるほうがいい。」

 

 またも、ネオユニヴァースは鷹木にとって難解な語彙を口にする。

 

 しかし、その語句については以前も用いられているのを聞いたことがあった。

 

 それを口にするときの、ネオユニヴァースの声の響き、そしてほぼ動かぬ表情の中にも覗く僅かな翳りから、ウマ娘にとって好ましからぬ事象を指しているのだろうことは読み取れた。

 

「……あの走り方を続けたタキオンが、いずれ脚に故障をきたすことになる、って話か?」

 

 ネオユニヴァースはコクリと頷く。やはり、彼女の眼から見ても、アグネスタキオンは危うい橋を渡っているのだ。

 

 平均的なウマ娘よりも筋肉がつかずほっそりした脚で、その軽さを活かして走り方もいちいち切り替えずコーナーを抜けていく。一度のレースで問題はなくとも、幾度も走りを重ねるごとに脚への負担がかかることは間違いなかった。

 

 そも本番に至るまで、出走を予定するレースと同じ条件にて何度も練習することになる。

 

 右回り、左回りのいずれのコースであるかもレースごとに決まっている以上、コーナーの外側、遠心力で振られる体重を支える片足に負荷が偏るのも必然である。

 

 いつしかタキオンの脚が芝に損傷を与えないかという懸念は去り、タキオンの脚運びに異変が見られないか、という一点に鷹木も集中して視線を注いでいた。

 

「トレーナーとしては、リスクも承知の上での判断だ。故障を恐れていたがために練習不足気味になってしまっていたし、筋肉量や体重をもっと増やそうとしてタキオンの得意ではない走り方を強要しようとしてしまっていた……それに気づいたから。」

 

「“UNDY”担当トレーナーが決めたことなら、タキオンが信じるなら、『わたし』は口出ししないよ。」

 

 鷹木に返答するユニヴァースの青い目は、向こう正面を抜けてこちらへと戻ってくるコーナーを駆けるタキオンの脚に変わらず視線を注いでいた。

 

 彼女の言うところの“観測”とやらが、タキオンの脚にどれぐらいの負荷が蓄積する猶予が残されているのか判断できるか、と鷹木は本気で信じてもいないのに尋ねようかとまで考えていた。

 

 ネオユニヴァースが知るのはあくまで目の前の現象が辿る可能性であり、未来予知のようなものでは決してないことは、これまでの言動からも、また現実的に考えても明白であったが。

 

 その後もタキオンは休憩を挟みつつ、普段は味わえない良好な状態の芝の上を走り、きっかり今日の天皇賞の中継が開始される時刻になって戻ってきた。

 

「いやはや、いつになく、走りに熱中してしまったねぇ!さすがの私も、これほどまでに理想的な練習環境の中では、走らずにいられないらしい!トレーナーくん、明日からもユニヴァースくんの練習場へお邪魔しようか!」

 

「トレーニングに打ち込んでくれるのは良いことなんだが、厚かましすぎるだろ。」

 

 鷹木は周囲を見回しながらタキオンを窘めた……結局、ネオユニヴァースの担当トレーナーは、その姿を物理的に現さぬままであった。

 

 仮にその人が姿を見せれば、勝手に練習場に押しかけて居座っている非礼を詫びなければならないと鷹木は考えていたのだが。

 

 ネオユニヴァースは、ひとりきりで中継観戦の準備をしていた。手慣れた様子で個別練習場に備え付けられている、本番同様の大スクリーンへとリモコンを向け、中継番組のチャンネルに合わせる。

 

〈いよいよ発走の時刻が近づいてまいりました、盾の舞台を彩りますは18名のウマ娘たち!今年の秋シニア3冠最初のレース、天皇賞でありますが、今年はクラシック級より参戦した、あの英雄からも目が離せません!実況席には毎度おなじみ、あの解説者さんにお越しいただいております!〉

 

〈はい!スペシャルウィークです!いやぁ今年の天皇賞は、なんだか凄い予感がしますよぉ!実力ウマ娘たちが勢ぞろいしているのはもちろんですが、そんな先輩たちの中にひとり、飛び込んできたあの子の存在が際立っていますからね!〉

 

 画面全体にはゲートインへと向かうウマ娘たちがターフの上を進む様が示され、すっかり当たり前の光景となった、スペシャルウィークが実況アナウンサーの隣に座っている姿が画面端の小窓に映されている。

 

 が、画面端に小さく映されていても……この個別練習場の大画面では拡大されていたおかげもあって……実況席に並んでいる面々のなか、やけに見覚えのある3名目の姿はすぐに目を惹いた。

 

「おやぁ?あれは世紀末覇王であり特異点、テイエムオペラオー先輩じゃないかねぇ?」

 

「……そうか。現役引退した中では、オペラオーが最も呼ばれやすいよな。」

 

 以前は春の天皇賞においても、スペシャルウィークに並んでの解説ゲストとして呼ばれていたテイエムオペラオー。

 

 前年度の秋の天皇賞にて勝利したのはアグネスデジタルであったが、彼女は未だ引退しておらず、トレセン学園に在籍している。ゆえに特別ゲストとして呼ばれるならば妥当な選出ではあった。

 

 鷹木は、自分がつい去年まで担当していたウマ娘であるにもかかわらず、オペラオーがずっと遠くまで行ってしまったかのような心持ちであった。

 

〈えー、さて、既に画面には映っておられますが、あらためて今回のスペシャルゲストをご紹介いたしましょう。前々回の天皇賞秋にて一着、更にはその年のグランドスラム、かつ無敗を成し遂げられたウマ娘、テイエムオペラオーさんです!〉

 

〈ああ!神聖なる三女神よ!高貴なるターフよ!この熱烈に満ちた中山レース場を見て、微笑んでおくれ!高笑いまでもは望まない、それはボクの役割だから!ハーッハッハッハ!また来させてもらったよ!〉

 

〈あ、相変わらず独特な口上ですね、オペラオーくん。今日の天皇賞、一緒に応援できるのが楽しみです!〉

 

 まだ呼び込みが為されていない時点から、オペラオーが腕組みして大袈裟にうんうんと頷いている様は画面内にて十分すぎる存在感を放っていた。

 

 またしても奇矯な言い回しとともに笑い声を響かせた彼女であったが、段取りを遵守するあたりは、メイショウドトウと比べてもスタッフ側を安心させる存在であった。隣に座っているスペシャルウィークも、ドトウが来た時と違いまるで言葉選びを迷う様子が無い。

 

 中継画面をタキオンと並んで見つめているネオユニヴァースは、このやかましくも常に自身満々な態度を見せる先輩ウマ娘の振る舞いを前に、いつになく表情を緩めていた。

 

「“覇王”が出てくれば、途端に場が明るくなる。“AWAK”だね。」

 

「偉大なる特異点は、視野に入るだけで心を照らしてくれるものだねぇ。時がたつほどに、その存在感をいや増すものだよ。」

 

 アグネスタキオンも同様に、表情を明るくしてユニヴァースと言葉を交わしている。こちらは、普段から笑顔を見せることは珍しくもなかったが。

 

 中継番組内では、実況アナウンサーがオペラオーに対して話を持ち掛けている。

 

〈さてテイエムオペラオーさん、今回の天皇賞は数々の優駿たちが勢ぞろいといった様相ではありますが、特にどのウマ娘に注目しておいででしょうか。〉

 

〈むろんトップロードくんも、アヤベさんも、シャカールくんも、ボクにとっては忘れ難き好敵手だ!しかし、今日の舞台は、英雄ロブ・ロイのために開かれたと言っても構わないんじゃないかな!〉

 

〈やっぱり、ゼンノロブロイちゃんに注目ですよね!ダービーや京都大賞典では二着でしたけれど、今一番勢いのある子だと私も思います!〉

 

 聞く者によっては、オペラオーは単に自ら覇王を称しているため、小説に登場する英雄の名を冠したロブロイに言及しただけだとも感じたかもしれない。

 

 しかし、スペシャルウィークもオペラオーに肯ったように、数々のレースを走り抜いてきた先輩ウマ娘たちの眼から見ても、ゼンノロブロイの秘める能力は本物であった。

 

 単なる戦績だけでは測れない、異様なまでの成長力は、この秋の天皇賞にて発揮されるだろうとの予感が共有されていたのである。

 

 それは、彼女の同期であり、たった今中継番組を見つめているネオユニヴァースにおいても同様であったらしい。

 

「ロブロイ……“ビジョン”は、近いよ。」

 

「ほう、ほう!ここまで先輩ウマ娘たちの予感が揃えば、いよいよ何かが起こりそうだねぇ!私はネオユニヴァースくんこそが現在の特異点に違いないと感じたが、あるいはロブロイくんが……?」

 

 ネオユニヴァースの呟いた言葉の意味も、タキオンが何に反応して興奮しているのかも、傍から見ている鷹木には判断できなかった。

 

 1番人気は、それでもナリタトップロードであった。ツルマルボーイが2番人気に入り、ゼンノロブロイは3番人気である。

 

 鷹木としては、オペラオーのライバルとしての印象が強かったためか、エアシャカールもアドマイヤベガが人気度3位以内に入っていないだけで過小評価ではないかと感じる部分もあったが、現在の実力差は自分の既存の感覚とはズレているのかもしれない、と考えなおす。

 

 何にせよ、このレースにて全ての答えが出る。

 

〈ゲートイン、全ウマ娘が収まりまして……スタートしました!ほぼ揃いました、秋の天皇賞、中山レース場のまずは正面スタンド前を18名のウマ娘たちが駆けていきます。先頭に出ていきましたのはゴーステディ、並んでテイエムオーシャン、ウチからはアラタマインディです。前3名はほぼ固まった感じ、テイエムオーシャンは前年度桜花賞、秋華賞の二冠を獲ったウマ娘であります。〉

 

〈ボクと同じ冠名の後輩だ、むろん応援しているとも!先行のペースで進むつもりのようだね、位置取りは落ち着いたようだから期待は持てるだろう!〉

 

〈後方に下げている面々も、位置は安定していますよ!またしても、実力を伴う落ち着いた走りが披露されそうですね!〉

 

 オペラオーが実況席に入るのは春の天皇賞に続いて二度目のことであったが、早くも解説者としての振る舞いは板についているようであった。

 

 隣席のスペシャルウィークも、安心してオペラオーとの掛け合いを含めた解説を口にすることが出来ている。

 

「ロブロイくん、これまた随分と前に出ているねぇ。追い込みが十八番だったはずだが、今は先行争いに加わろうとするほどの位置じゃないか。」

 

「けれど、スターフルイドは“STS”だよ。きっと、本気を出せる。」

 

 タキオンが指摘した通り、ゼンノロブロイは先団のすぐ後、ほぼ差が無く着いていく中団の先頭付近に陣取っていた。

 

 ネオユニヴァースが口にした言葉自体は鷹木も相変わらず理解できなかったが、言わんとすることは画面内の状況から推察出来た。入れ替わり、位置取り争いが早々に落ち着いたベテランたちの中では、ゼンノロブロイも無駄にスタミナを費やす恐れがない。

 

〈トーホウシデンが4番手、続くブレイクタイム、そしてそのウチ側に3番人気、現在注目を集めているゼンノロブロイが6番手で進んでおります。あとはイブキガバメント、外から上がっていきましたサンライズペガサス中団です。あとはエイシンプレストン、テンザンセイザ、ウチを突きましては内枠の二名、ナリタトップロードとアグネスフライト、さらにぐっと下げた位置にアドマイヤベガ、最後方にエアシャカールそしてツルマルボーイといった形です。〉

 

〈にしても、挙げられる名前を聞いているだけでも、豪華すぎるレースですね!〉

 

〈ホントに、今集まれる限りの最高の演者たちが集結した舞台のごとく、だよ!このステージを前に喝采を上げられる全員が幸いだ!〉

 

 その年の人気ウマ娘が集結する有馬記念にはまだ早い時期であったが、既に天皇賞の時点で現役最強クラスのウマ娘たちが集まったも同然であった。

 

 鷹木もトレーナーの端くれとして、レース展開に真剣な眼差しを注いでいたが、強烈なプレッシャーを互いに放ちながら突き進んでいく集団を見つめているだけで、めまいを起こしそうになる。

 

「……展開が読めないな、全員が勝てそうな気がしてしまう。」

 

「トレセン学園所属のトレーナーがそんなことでどうするんだい、むろん誰しもに勝つ可能性はある、だからこそ私が可能性世界の“観測”を重視しているんじゃないか。」

 

 タキオンは中継画面から目を離すことなく、静かに、しかし興奮を隠しきれぬ声で鷹木へと返した。

 

 誰が勝とうとも、それは必然であり、しかしレース結果が出るまでは確定しない結果。

 

 思い返せば、ウマ娘レースにおいて誰が当然勝てるという確証もないのに、勝ったという結果が厳然たる事実となる瞬間が訪れることは、奇妙を極める現象でもあるようだった。

 

〈さぁ2コーナーを抜けましてゴーステディ先頭です。リードは3バ身あります、ゴーステディ向こう正面を進んでいきます、2番手はアラタマインディ、その後には3番手にあがってまいりましたトーホウシデン、テイエムオーシャンはちょっと下がって4番手、さぁ坂を下り切って各ウマ娘スピードは安定しています、ゼンノロブロイは中団内側の位置で淡々と脚を進めています。〉

 

〈素晴らしい落ち着きだよ!誰も、まるでロスをしていない!美しい展開だ、最後の仕掛けどころは、きっと見ものになる!〉

 

〈ですね!本気の走りを見せる先輩たちに、ロブロイちゃんも食らいついてこれるでしょうか!〉

 

 敗因はない、勝因だけを着実に積み重ね、ウマ娘たちはゴールへと進んでいく。

 

 負ける要素の無い走りを披露したうえで、勝敗を決するのは実力差である……それも至極当然のことだった。言い訳の余地がない結果を前に歓喜するか、項垂れるか、全ては蓄積してきた練習量が物語る。

 

「まだ『詰んでいない』よ、ロブロイ、“STDA”を掴みつづけて。」

 

「ロブロイくんなら、残るさ、最後の競り合いにまで!ここまでの走りの中に、全く無駄がないからねぇ!」

 

 先輩ウマ娘たちも、今回唯一クラシック級から参戦してきた、この小柄なウマ娘のことを警戒せざるを得なかったのだろう。

 

 ひりつくように力をセーブし合う読み合いの中、早くも動きが見えたのは、向こう正面の直線を抜けきる直前のことであった。

 

〈さぁ先頭ゴーステディリードが無くなってきた!外からイブキガバメント進出してきた!イブキガバメント外を回って一気に前へと詰めてきた!前が固まってまいりました、外からはサンライズベガサスがさらに仕掛ける!トーホウシデンも外を回って先頭に出る!600の標識を通過!ナリタトップロード、エアシャカールはまだ後方だ!ゼンノロブロイも動かない!〉

 

〈問題ないさ!彼女らならば、きっちりとペースを掌握できているからね!〉

 

〈他の面々は、この時点で前に出ていないと、直線を向いた時に競り合いにすら入れません!勝負はここからです!〉

 

 イブキガバメントやサンライズペガサスは、少々早すぎるというタイミングでも仕掛けざるを得なかった。

 

 それは、ネオユニヴァースが昨日の菊花賞にて、いつもより早く前に上がろうとしかけた理由と同じであったろう。もしもゼンノロブロイが同じレースで走っていたら、直線に出るまでにリードを取っていないと、勝てない。

 

「“RCOL”に『繋がっている』“MOOM”を見逃さないで、ロブロイ……!」

 

「あぁ、来た……ロブロイくんが、前へ抜け出るねぇ!」

 

 この秋の天皇賞には、ゼンノロブロイがいる。

 

 完全に集団に囲まれていた彼女が、ほんの僅かの隙間を見出し、外側へと抜け出るコースをコンマ秒もかからず取った様を、画面越しにタキオンもユニヴァースも見つめていた。

 

〈さぁアドマイヤベガも抑えたまま第4コーナーを抜けて直線へと向きました!さぁ先頭は変わってテイエムオーシャンか、いや外からサンライズペガサス、中を抜け出してゼンノロブロイ!外からは猛烈な勢いでナリタトップロード!残り200mを通過!大外からアドマイヤベガ、エアシャカールも上がってくる!だが先ほど抜け出たゼンノロブロイが止まらない!ゼンノロブロイ速い!ゼンノロブロイ先頭だ!〉

 

〈あぁ、勝てるね!もう、勝てる!いや、トップロードくんか!?〉

 

〈ここから勝ちきったら、本物です!見せてくれるんですか!?その力を!〉

 

 オペラオーもスペシャルウィークも、ほとんど解説を放棄したような言葉を投げかける中、大熱狂の歓声が響き渡るスタンド前を、ゼンノロブロイが全ての出走ウマ娘を率いるように猛進していく。

 

 集団の中で、完全に囲まれた状態から抜け出した……そんなゼンノロブロイを、唯一追い詰めていたのがナリタトップロードであった。

 

〈ゼンノロブロイ先頭!ゼンノロブロイ先頭だが、外側から懸命にナリタトップロード!ナリタトップロードが追う!しかし、ゼンノロブロイ!ゼンノロブロイだゴールイン!クラシック級ウマ娘、ゼンノロブロイ!!やりましたトレセン学園2年目のゼンノロブロイ!今年の菊花賞ウマ娘はネオユニヴァース、しかし天皇賞の盾はゼンノロブロイ!彼女の手に渡りました!〉

 

〈ブラーヴァ!奇跡のように素晴らしいウマ娘だ!このレースの熱は、永遠に清らかに、見た者たちの胸の中で燃え続けるだろう!〉

 

〈ホントに、獲っちゃえるだなんて……スゴすぎます!まだ天皇賞ですからね!今年のウマ娘レースは、まだまだドラマが待ってそうですよ!〉

 

 各々、独特過ぎる観点からのコメントを興奮気味に叫んでいるテイエムオペラオーとスペシャルウィーク。

 

 中山レース場が大歓声に包まれていたのは言うまでもなかったが、中継番組を視聴していたアグネスタキオンもまた興奮のあまり大騒ぎしていた。

 

「トレーナーくん!明日にはゼンノロブロイくんに会いに行こう!あそこで抜け出た判断、何を見たのか、何に導かれたのか!実際に走った者でなければ知り得ない、勝利への兆しの何たるかを尋ねに行きたい!」

 

「また邪魔しに行くつもりか、お前は……クラシック級で天皇賞を制したウマ娘になんて、いよいよそう気安く会いに行けるはずがないだろ。」

 

 菊花賞を獲ったネオユニヴァースの周囲は、現状のごとく奇妙なまでの静けさで満たされていたが、ゼンノロブロイもまた同様であるとの保証は無い。

 

 それに、今まさにここに居るネオユニヴァースもまた、流石に首を横に振っていた。

 

「ロブロイは“XACF”のため、他の時間はとれない。私も、“NEBX”に戻る備えをしないと。」

 

「……そうか。たしかに、大舞台はこれで終わりじゃないからねぇ。」

 

 いかにして明日からのタキオンの突発的な行動を引き留めようかと鷹木は頭を悩ませていたが、またしても難解なネオユニヴァースの言い回しによって、タキオンは自らの欲求に制動を掛けたらしい。

 

 これまた鷹木には言葉自体は理解できなかったが、これから先の話を思い浮かべれば、言わんとする所は伝わってきた。

 

「ジャパンカップ、か。」

 

「ぶつかり合う“KELT”は避けられない。もう『軌道』は交差しているよ。」

 

 ネオユニヴァースは、来月のジャパンカップにも出走予定なのだ。そして当然ながら、秋シニア路線の1冠目を獲ったゼンノロブロイも、その舞台に上がってくる。

 

 ナリタトップロードを筆頭とする先輩ウマ娘たちに挑むこと以上に、ネオユニヴァースは同期のライバルとぶつかり合うことが確定した将来を、より強く警戒しているようであった。

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