探求者たちのタイムクライム   作:Okubo Masau

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 国内外から集まった名だたるウマ娘によって競われる大舞台、ジャパンカップ。今年度も錚々たる面々が集うレースは、その年に限って普段とは異なる中山レース場で行われた。誰が勝ってもおかしくない優駿揃いでありながら、ひときわ注目を集めていたのは天皇賞秋をクラシック級でありながら制したゼンノロブロイである。彼女が前代未聞の功績をどこまで高めるのか、トレセン学園から中継観戦しているタキオンとデジタルにとっても目を逸らせない局面であった。


祭典、絶後の剣に切り拓かれ

 その年のジャパンカップは、ごく例外的に中山レース場での開催となった。本来は東京レース場で行われるのが常であったのだが、大規模な改修工事が行われている最中だったためである。

 

 総勢16名、世界的にも注目される大舞台には錚々たる顔ぶれが集結した。

 

 海外から招聘されたウマ娘の中には、凱旋門賞への出走経験があるファルブラヴ、昨年のジャパンカップから2年連続での参戦となったゴーランも居る。

 

 今年の春にクイーンエリザベスⅡ世カップでアグネスデジタルやエイシンプレストンと競い合ったインディジェナスも、パドックにて顔を見せていた。中継番組を見ていたアグネスデジタルは、真っ先に彼女に気が付く。

 

「あ、そこ、インディジェナスちゃんです!あの子も参戦するって聞いた時から、応援したいウマ娘ちゃんが多くなりすぎる事実を前に、私の心は10個ぐらいに分裂しちゃってるんですよ!」

 

「いつもながら、デジタルくんは特異すぎる精神構造をしているねぇ。物理的に干渉できるものならば、一度分解して中身を検めてみたいものだ。」

 

「私も、自分が推してるウマ娘ちゃんたちへのデカすぎる思いが、普段どこに潜んでいるのやら知りたいものです!しかしインディジェナスちゃんは強いですよぉ、確実に上位に食い込んできます!」

 

 クイーンエリザベスⅡ世カップでは、トレセン学園ウマ娘であるアグネスデジタルとエイシンプレストンがワンツーフィニッシュを決めたことが世界的な話題となっていた。

 

 とはいえ、アグネスデジタルに続く三着となったインディジェナスは、最後方から猛烈な追い上げを決め、あと少しでデジタルを差しきるというところまで来ていたのだ。

 

 いずれにせよ特異すぎることには変わりのない、アグネスの冠名を持つ両名を前に、鷹木も他の出走ウマ娘たちのリストに目を通す。

 

「トレセン学園からは、ツルマルボーイ、アグネスフライト、エアシャカール、アドマイヤベガ、ナリタトップロード、そしてネオユニヴァースに、ゼンノロブロイ……誰が勝ってもおかしくない顔ぶれだな。」

 

「先月の毎日王冠で勝利したマグナーテンちゃんも、あとは有馬記念に2度出走経験があるアメリカンボスちゃんも、ですよ!」

 

「昨年の桜花賞と秋華賞の二冠を獲っているテイエムオーシャンくんも、だねぇ。」

 

 この舞台まで上がってくる者たちは、GⅠレースに出走できるウマ娘の中でも殊に名の知れた面々ばかりである。

 

 それ故に、並みからかけ離れた実力を有する者であっても、人気度に順がつけられる以上は意外な評価となる事実もあった。改めて人気度へ注目したアグネスデジタルは、今さらながらに驚く。

 

「……え、インディジェナスちゃん、16番人気、ですか!?うそぉ……半分よりは上かと思ってたんですけど、いやぁ……このメンツだと仕方ない、んですかねぇ……。」

 

「1番人気は、ゼンノロブロイ、だからな。2番人気にナリタトップロード、先月の天皇賞秋における結果が、観客へとよほど強烈に印象を刻み込んだんだろう。」

 

 名だたる先輩ウマ娘たちの集団を置き去って、ゴール前の直線、単独で抜け出したかと見えたゼンノロブロイ。そんな彼女の独走を許さなかったのが、ナリタトップロードである。

 

 新時代に名乗りを上げた英雄と、世紀末覇王の治世を越えてなお健在の君主。

 

 一騎打ちのごとき攻防は、思い起こすたび見る者の胸を熱くする名勝負であった。

 

「ナリタトップロード、あまりに安定した強さを発揮し続けるだけに根強いファンも多いねぇ。しかしトレセン学園2年目でありながら、宝塚記念や天皇賞までも獲ってしまう世代に掛かる期待も大きいようだ。」

 

「既に、最強の世代の到来かと評する声も多いな。ネオユニヴァースが3番人気に推されているのも、その証だろう。」

 

 その次、4番人気はアドマイヤベガ。海外ウマ娘であるブライトスカイの5番人気、ゴーランの6番人気を挟んで、ようやくエアシャカールが7番人気に収まっていた。

 

 クラシック二冠ウマ娘、さらには他ならぬ昨年のジャパンカップ覇者であるエアシャカール。本来ならば1番人気となっていてもおかしくはない戦績である。

 

 だが、強すぎる先輩世代と鮮烈な新世代に挟まれたことで、相対的に評価が下がってしまうという現実は明確な形をとって表れていた。

 

 いよいよ発走時刻が近づき、ゲート前に出走ウマ娘たちが姿を現し始めたタイミングで、実況席からの声も流れ始める。

 

〈さて今年度、海外から招聘されたウマ娘は7名となりましたが、やはり人気度上位はトレセン学園のウマ娘たちが占めています。スペシャルウィークさんは、誰へ注目しておられるでしょうか?〉

 

〈そうですねー、人気度は下の方になってしまいましたけど、香港での走りが印象的なインディジェナスさん、またあの末脚を見せてくれるんじゃないかと私は思ってます!〉

 

 もはや実況席に居ることがお馴染みとなったスペシャルウィークの言葉が流れてくると同時に、中継番組を見ている画面のこちら側ではアグネスデジタルが激しく頷いていた。

 

「ですよね!ですよね!一緒に走った私としても、インディジェナスちゃん、3番人気以内に入っててもおかしくない感じだと思ってましたよ!さすが、よくウマ娘ちゃんのことを分かっておいでです、スペ先輩!」

 

「ここで大きな声をいくら出しても、画面の向こう側には届かないねぇ。」

 

「俺が毎度、タキオンに対して感じていることと全く同じなんだが。」

 

 鷹木のボヤキは華麗にスルーされながらも、出走前のウマ娘評は続く。

 

〈実はジャパンカップ参戦はこれで3度目となるインディジェナス、海外ではなんと60戦以上を走り抜き、15勝を挙げている大ベテランでもあります。香港ではかなりの人気ウマ娘ですが、しかし国内での知名度は少々低いかといったところではありますね。〉

 

〈海外のウマ娘さんたちのことが国内でも知られるようになっていけば、ウマ娘レースが世界に繋がる競技になる日も近いです!ですけど、私も流石に今年のゼンノロブロイちゃんの走りは見逃せませんね!〉

 

 引退後は精力的にレース解説やメディア出演を重ね、ウマ娘レースの発展に大きく貢献しているスペシャルウィーク。

 

 そんな彼女が願うウマ娘レースの将来像は頷かれるものではあったが、ゼンノロブロイの名が挙げられた時に、観客席から最も大きな歓声が沸いたことは事実であった。

 

 やはり、世間はクラシック級でありながらもジャパンカップの舞台に殴り込みをかけに来た新進気鋭のウマ娘へ、強く期待を寄せているのだ。タキオンは頭を指で突き、ジャパンカップに関する記憶を探る。

 

「たしか、クラシック級ウマ娘がジャパンカップを勝つ、となれば……エルコンドルパサー先輩以来のことになるんだっけねぇ?」

 

「そうです!4年前のジャパンカップ!1番人気のスペシャルウィーク先輩、2番人気のエアグルーヴ先輩、その間を抜いていち早く先頭に躍り出たエルコンドルパサー先輩が、最後まで速度を落とすことなく走り抜いた、あのジャパンカップです!」

 

 デジタルの声がひときわ大きくなったため、流石のタキオンも耳を伏せ、デジタルから顔を少々遠ざけた。

 

〈このジャパンカップにてゼンノロブロイが勝利すれば、4年ぶりの快挙ということになります。6年ぶりにクラシック級ウマ娘が天皇賞を勝った先月の快挙から引き続き、さらなる記録を打ち立ててくれるのでしょうか、ゼンノロブロイ!〉

 

〈もちろん、ナリタトップロードくんも、アドマイヤベガさんも、エアシャカールくんも、そしてネオユニヴァースちゃんも、皆、見逃せませんよ!〉

 

 実況アナウンサーは立場上仕方のないことであったが、観客席が沸き立つゼンノロブロイの名を度々読み上げていた。

 

 さすがにスペシャルウィークは他の面々も読み上げられる範囲で触れはしたが、しかしレース場に詰めかけた大観衆の意識はほとんどゼンノロブロイの一点に向かっているようであった。

 

「凄まじい熱狂だねぇ。これほど異様な空間であれば、あるいは特異点を生み出す一助となるかもしれないねぇ。」

 

「そういう考え方も、あるか……?」

 

 声援が力になり、後押しを受けたウマ娘たちは勝利へと躍進する。

 

 数万人の観衆が一斉に歓声を上げる熱気は、鷹木も本番のレース舞台で幾度も感じてきたが、タキオンの言うところの“特異点”とはいかなる繋がりがあるのやら、判断は出来なかった。

 

〈さて、ゲートイン、全員収まりまして……ウマ娘レース最高の祭典、ジャパンカップ、いよいよスタートしました!16名、一斉に綺麗なスタートを切りました。まずはスタンド前の直線、マグナーテンが先手をきって逃げの位置に早々とつきました、2番手はイリジスティブルジュエルですが、マグナーテンまだまだ行く、先頭からさらにリードを広げていく!マグナーテンが全員を引き連れて1コーナーに飛び込んでいきました!〉

 

〈大外の枠から、思い切った逃げですね!長いコーナーが続く中山レース場の2200m、いちはやくウチ側へ入る作戦でしょうか!〉

 

 東京レース場ではなく、中山レース場で例外的に行われている今年のジャパンカップ。

 

 中山レース場の外回りコースは、角の丸いおむすび型をしており、非常に緩やかな曲線を描く2コーナーや3コーナーの比率が多い。

 

「逃げを得意とするマグナーテンくんにとっては、外側を走らされ続けるのは厳しいだろうねぇ。スペシャルウィーク先輩の言う通り、早々にウチ側を走るルートを取るのは正解だ。」

 

「ですけど、スタートからの加速でかなり脚を使わされてしまったはずです。コーナーが緩やかですし、ゴール前から1コーナーにかけての上り以外はなだらかな下りが続くコース、全体のペースも落ちないでしょう。」

 

 実況中継からはスペシャルウィークの解説が聞こえていたが、画面のこちら側でもアグネスタキオンとアグネスデジタルが揃えば瞬く間にレース状況の分析が進むのであった。

 

 いずれも変わり者なウマ娘であったが、レースを見る目や展開を読む能力に関しては間違いがない。

 

〈そしてネオユニヴァースは中団のやや外目、まだまだ様子を見ながら構えています。マグナーテンは一気に前へ上がってはいきましたが、それほど大きな逃げにはならないようです。2番手はイリジスティブルジュエル、アイルランドから参戦のウマ娘です。3番手はゴーラン、そしてアメリカンボス、ウチを通ってインディジェナス、さらに後方にはファルブラヴ、アグネスフライトが続いている!〉

 

〈さすが、実力者揃いです、位置取りが固まるまで早いです!全体もほぼバラけていません、万全での競り合いが期待できますよ!〉

 

 海外からやってきたウマ娘たちは、国内のトレセン学園とはまた違った指導を受けているはずではあったが、それでも同じペースで一団となっている。

 

 トレーナーの立場からすれば、自分たちの指導が行きつく先が、世界のウマ娘の到達点から外れてはいない、と一縷の安堵を得られる光景でもあった。

 

「ゼンノロブロイは、変わらず後方から仕掛けるつもりか。」

 

「アドマイヤベガさんや、シャカールくんとの近くで走ってますね。あの面々と追い込みで勝負しようとは、かなりの自信があるものと見ますよ。」

 

 鷹木の呟きに、アグネスデジタルが応える。ネオユニヴァースやナリタトップロードら実力者たちを前にして、さらに後方から仕掛けようというのは確かに十分な根拠なしに取れぬ作戦である。

 

 同時に、鷹木はアドマイヤベガの走りが、本来彼女の得意とする最後方からの追い込みであるのかどうか、少々気がかりであった。

 

 先日、マンハッタンカフェからは“ジャングルポケットによく似ているお友だち”がアドマイヤベガにとり憑いていると報告があった。ジャングルポケットが関わりあるという確証は全くなかったが、アドマイヤベガが本来と異なる走りを行っているのか否か、この時点では判断できない。

 

〈そして8番手ネオユニヴァース、今年度の三冠ウマ娘、ネオユニヴァースが淡々と進み、ウチを通ってはサラファン、並んで今回2番人気となったナリタトップロード。その後ストーミングホーム、そしてツルマルボーイが続いています。外を回りましてブライトスカイ、そしてテイエムオーシャンが控えています。その後ろにはエアシャカールが居て、ようやく見つけた見つけたゼンノロブロイ!1番人気、ゼンノロブロイは最後方、アドマイヤベガと並んでいます!〉

 

〈ここの位置から勝ちに行けるのは、いよいよ相当な実力の証明ですよ!ゼンノロブロイちゃん、最後どこまで伸びを見せるんでしょうか!〉

 

 変わらず先頭から最後方まではさして大きく離れてはいない。

 

 しかし、世界の舞台を走ってきた海外ウマ娘や、国内の名タイトルを獲ってきた先輩ウマ娘、そして同期のネオユニヴァースを相手に……ゼンノロブロイはいかほどの勝機を得ているのだろう。

 

「まったく、スペシャルウィーク先輩は的確な解説を入れてくるねぇ。その通りだよ、あの最後方から、この実力者集団を抜くことが出来ればいよいよ本物だ。」

 

「けど……逃げも、先行も、差しも、追い込みも、一流のウマ娘ばかりが揃ってるんですよねぇ。……いやぁ分かんない!全員、勝てる位置に居ますもん!」

 

 タキオンもデジタルも、コースやペース配分の分析は出来ても、その先を見る……いわば、ネオユニヴァース流に言うところの“観測”を行うことはできない。

 

 誰もが勝てる力を持っている中、どうしたって勝敗は決まる。レースが終わってからでなければ、勝因も敗因も見いだせないのだ。

 

〈さぁ奥まった向こう正面を抜け、早くも3コーナーへと差し掛かっています!先頭はマグナーテンではありますけれども、外を通りましてアメリカンボス!アメリカンボスが2番手にまで上がってきた!そのウチにイリジュスティブルジュエル、ゴーランが並んでいる!そしてようやく人気のウマ娘は、このあたりで、動き出すんでしょうか!?ちょうど中団にネオユニヴァースが居るが、まだウチ側に入ったままか!〉

 

〈後ろの子達も、まだ動いてません!これ、コーナー出口が勝負ですね!〉

 

 スペシャルウィークは、現役時の手ごたえを蘇らせながら直感的に掴んだ展開を口にしている。

 

 レース場の興奮は最高潮に達しようとしていた。まだ順位こそ変わってはいなかったものの、人気度上位の有力候補たちが前を塞がれぬ位置へとコース取りを変えている様は見てとれたのだ。

 

「……さすがに、トップロード先輩の位置、厳しいんじゃないかねぇ?」

 

「あー、早めに仕掛けた子達が、思った以上に多いですねぇ。海外のウマ娘さんたちは、スタミナにかなり余裕があるから……。」

 

 アグネスタキオンが怪訝そうな表情を浮かべる先、画面内ではナリタトップロードが完全に集団に埋もれ、上がってきたウマ娘たちによって外に出るコースも塞がれていた。

 

 デジタルの指摘通り、海外から参戦したウマ娘たちは体力に自信があるゆえか、一足早く最後の仕掛けを行ったのである。

 

〈さぁ直線コース!横一線大きく広がったが、マグナーテンがまだ先頭!マグナーテンまだ先頭だが、その後ろゴーランが来た!中からネオユニヴァースが上がってきた!それからファルブラヴ!残り200を通過!大外からゼンノロブロイ!ゼンノロブロイ、さらにアドマイヤベガ!大外から一気に上がってくる!〉

 

〈十分に上がれます!行って!けっぱれ!〉

 

 またしてもスペシャルウィークは熱が入り過ぎて、解説になっていない言葉を口にしていた。

 

 が、かつて日本総大将と呼ばれた彼女の声援が、ゼンノロブロイに向けられていたことは間違いなかった。

 

「ウチ側が塞がれても、更に大外から上がってくる面々は、進路を塞がれてないです!」

 

「来るんじゃないかい!?本物の特異点が、現れるということかねぇ!?」

 

 完全に息を詰めて画面を凝視している鷹木の傍らで、デジタルもタキオンも興奮の極致にあった。

 

 ……そして、鷹木も別なことに気づいていた。アドマイヤベガは確かに、ゼンノロブロイに並んで追いこんできた。が、彼女が本来得意とするのはコーナーを回りながらの加速であるはずだった。

 

 直線を向いてから一気に加速するのは、紛れもなくジャングルポケットが得意とする走りであった。

 

〈ウチから上がってきた、ネオユニヴァース上がってきた!ファルブラヴもウチを通って来ている!外からゼンノロブロイ並んだ、ネオユニヴァースがウチ側!ゼンノロブロイが先頭だ!ゼンノロブロイ!ゼンノロブロイ先頭で、今、ゴールイン!勝ちましたゼンノロブロイ!決めてくれました!トレセン学園2年目にして、秋シニア級二冠目!〉

 

〈わっ、わぁぁ、エルちゃん以来!?いや、クラシック級から秋シニア二冠は初!?すごっ、すごいですよ、ロブロイちゃん!〉

 

 大歓声と、先輩ウマ娘からの賞賛の言葉を浴びながら、このレースの中でもひときわ小柄なゼンノロブロイは、極まった感情を胸の内に秘め、俯いた顔を上げて観客席へ笑顔を向けた。

 

 むろん、この先に予感される前代未聞の偉業は、彼女にとって最大の重圧となるだろう。

 

 しかし、見る側の思考には、ジャパンカップでゼンノロブロイが勝利したという事実とほぼ並んで、続く大舞台の喝采が早くも聞こえ始めていたのであった。

 

「トレーナーくん!歴史的な瞬間を、我々は来月に向かえることになるかもしれないよ!」

 

「そうですよ!秋シニア三冠を、ゼンノロブロイちゃんが達成しちゃうかもしれませんよ!それも、クラシック級の学年で!」

 

「あ……あぁ……。」

 

 鷹木は、気圧されたようにどもるばかりであった。

 

 ゼンノロブロイが成し遂げた、そして達成しようとしている戦績の凄まじさをようやく理解しかけていたためでもある。

 

 が、それ以上に、自分が身を置いているこの場所トレセン学園、そしてこの時代に、途轍もない運命を切り拓こうとする存在がいること、そのものに眩暈がするような感覚を見出していたのだ。

 

 そんな存在がいることを信じられない、と言ってしまえば陳腐な表現にすぎない。

 

 だが、クラシック級の年に秋シニアのレースを総なめにしてしまう怪物が“本当に実在しているのか”一瞬でも疑念を抱いてしまうことを、鷹木は避けようが無かった。

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