王女を実力者に変えたくて!   作:〇坊主

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 色々考えていたけれど、想定以上に筆が進まなかったんで巻く予定。
 
 


五十八 金毛九尾

 

 

「グゥゥゥゥウウウウ……」

 

 国内各地で赤黒い魔力が観測される異変が始まっている中で、唸る獣人の男はその場で立ち続ける。

 それは自身が起動したアーティファクトによって齎された魔力を己の制御下に収める為のモノであり、下手に意識を他所に割いてしまえば暴走してしまいそうになるほどの魔力を自身に取り込んでいる証であった。

 イプシロンを吹き飛ばしたのも彼――月旦(ゲッタン)が取り込み切れずに暴発した魔力を不意を打たれた形で直撃したためであり、我を取り戻すと同時に月旦は荒れ狂う魔力を抑え込みにかかったのだ。

 それによって本来ならば逃げる絶好の機会を逃してしまっているのだが、取り込んだ魔力を完全制御できるようになれば些細な事。憎たらしい『シャドウガーデン』も撃退出来るとそう判断している。

 

 先程の女は厄介な奴だった。

 認めよう。魔力制御に関しては己は奴に大きく劣っていると。

 

 しかし衰えている事実が負ける要素には至らない。

 なぜなら膨大な魔力で押しつぶしてしまえば済む話。

 これまで築き上げられてきた魔力の歴史がソレを証明しているのだ。

 

 渇望せよ――――

 

 何かが響く。

 まるで魔力が意志を持ち、月旦に何かを伝えようとするかのように。

 

(もう少しだ―――、もう少しで…オレガ全てを奪う――)

 

 脳裏に何かが響く。

 響く…が、現状を素早く抑え込もうとする月旦はその何かに意識を向けない。

 彼の脳裏には如何に早く魔力を自由自在に操作できるのかを模索していた。

 イプシロンを強引な魔力放出で吹き飛ばした事で月旦の警戒心が若干薄れている事もあって、意識が自身に集中していた。

 

 当然そんな状態で追手が到着した事実に気づくのも遅れる。

 シャランッ

 揺れる鈴の音色が彼の耳に入ってきたのだ。

 

「月旦…」

 

「ッ!!!」

 

 過去に何度も耳にした声。

 忘れるはずもない、忌々しいあの時の記憶。

 かつては想いを重ね合った仲だったのにも関わらず、己と仲違いした女。

 

 あの時に殺すつもりで斬りつけたというのに、しぶとく生き延びただけでなく、商会を使ってこちらの妨害までしてくる忌々しい女狐。

 

 

「貴様…、ユキメェェェェ!!」

 

 沸き立つ怒りを赤黒い魔力に変えて放出する月旦。

 それを視界に収めたユキメはかつての想い人の無惨な姿に表情を歪めた。

 

 大狼(おおおおかみ)族の中でも一・二を争う程に優秀な戦士であったかつての面影は目の前で強引に魔力を抑え込もうとしている月旦からは感じられない。

 他者からの施しを傲慢にも己の力だと言い張るかのように情けない姿に映る。

 赤黒い魔力を抑え込めずにいる現状こそが月旦の魔力操作が拙い事を証明しており、力を制御するのではなく、力に呑まれていることが分かってしまう。

 

「そんな姿になってまで…見ていられんす」

 

 鉄扇を開き、月旦へと向ける。

 表情を歪めたのはほんの一瞬だ。瞬きの間にユキメは表情を引き締めており、これから本格的に月旦を討つという覚悟を抱いた。

 

「ガイアスはん。契約通り、月旦はわっちに任せて貰らいんす」

「えぇ。ユキメさん、ご武運を」

 

 ユキメが月旦との因縁にケリをつけるまでが契約。

 ガイアスは静かにゴーレムを配備しつつ、戦況を見守る事に注視する姿勢を取る。

 月旦からもガイアスから動く気が無い事が見える。

 

 ガイアスはここに来るまでにイプシロンの連絡用ゴーレムが破壊されていることを把握している。

 本来ならばすぐに応援に向かったほうが良いのかもしれないが、どうやらイプシロン(彼女)の元へは先客が向かっているようなので素直に観戦という体で、各地の防衛活動を始めたゴーレム操作に集中するようだ。

 

「き…さまァ…ッ!オレを…舐めているのかァ!!」

 

「そんな訳ありんせん。(ぬし)の実力は承知の上…。傍で主を見てきたわっちが、過小評価なんてありえない事でありんす」

 

 激高する月旦を相手にしてもなお、ユキメの想いは変わらない。

 弱肉強食が世の常である以上、あの時の怒りも悲しみも…そして後悔も、今の自分を形作るモノとしてユキメは受け入れていた。

 

 ユキメを知らない者達の為に…王国の協力者という形で連絡がされているが、ガイアス経由で月旦との交戦に入ることも全員に連絡が行き渡っている。

 そのため迎撃に当たっていた『シャドウガーデン』は本丸の元へ向かうのではなく、各地で発生した異変の解決へと向かっていた。 

 なのでもうこの場に自身達以外の増援が来ることはないことになるのだが、それでも問題ない。

 

 パチッ  パチッ

 

 そんな音が鳴り、ユキメの姿が変化する。

 金色の魔力を開放し、獣人族の歴史では伝説として語り継がれてきた金毛九尾の姿へ至る。

 

「何ッ…ソノ姿は…ッ!?」

 

「わっちの部族内で伝説として受け継がれてきた金毛九尾たるこの力…。月旦、わっち自ら引導を渡しんしょう」

 

 九本の尾から放たれる金色(こんじき)に輝く濃密な魔力。

 魔力の具現化を扱えるガイアスから見てもソレが並大抵の努力ではない事が分かる。

 この世界の操作外の魔力は霧散しやすい性質。ソレを乗り越えて緻密な魔力制御を行えるだけでなく、それを具現化という形ではなく自身の強化へ集約させていた。

 

 ミドガル王国内の実力者達で一番近い存在を挙げるのであれば『閃光』の名を冠するオリヴィエだろう。

 彼女は自身を構成するモノがスライムであることを利用して自身の肉体を武器そのものへと変化させる事が出来ている。

 ユキメが行っている金毛九尾へと至ったその魔力操作はオリヴィエが成した魔力制御に近しい。

 肉体強度を極めて強靭にすることで、尋常でない強さをその身へ還元する手法。

 それが獣人が持つ特有の膂力を倍増させることになれば、まさに伝説として語り継がれる程の実力となるだろう。

 

「ぐッ…グォォオオオオアアアアアアア!!」

 

 月旦も妖狐族と懇意にしていた過去がある。

 そうなれば当然妖狐族の中で言い伝えられていた伝説の存在を耳にする機会はあった。

 だがそれはあくまでも伝説として語られてきた夢物語なのだと月旦の中では、その話を妄信するほどの事ではないと切り捨てていた。

 伝説であれども現実ではない。そう考えて特に考えない様にしていたのだ。

 

 だが目の前にその領域へ至った存在がいる。

 それも自分を裏切った女が至っているという事実。

 

 自身の根底にある怒りと憎しみを上から塗りつぶすかのように、月旦の内心にはジワジワと恐怖に近い感情が沸き上がってきた。

 

「ユキメェェェェエ!!!」

 

 リィン…

 

 咆哮を挙げる月旦の耳に鈴の音色が聞こえた。

 己の背後から。

 

「終いんす」

 

 ユキメの言葉と共に己の身体から溢れだす血潮。

 どうにかして振り返ろうとした月旦の視界に映った物は、金色の姿を解除したユキメの姿と、分かたれた己の半身であった。

 

 

 

 

 

 

 

 ユキメが行ったのは極めて単純だ。

 高密度の魔力を纏いながら斬りかかる月旦に対して、瞬きの間に月旦の背後へ移動。

 そして構えていた鉄扇に己の魔力を纏わせることで鋭利な刃物として運用し、月旦の動体視力以上の速度を以て横一閃を与えただけだ。

 

 ただ月旦は自身が使用したであろうアーティファクトの力によって明らかに強化された状態であった。

 それはかつてディアボロス教団の幹部クラスである《ナイツ・オブ・ラウンズ》の候補として敵対し、アレクシアに撃退されたゼノン・グリフィの様。

 勿論ある程度制御できるように成分を緻密に選りすぐって錠剤として創りだされた薬の服用によって疑似的な覚醒を経たゼノンとは全くの別。言ってしまえば月旦は原液をそのまま取り込んだことで己の限界を超越したような状態へ至っていた。

 取り込んだモノを考えれば月旦の方が強力な存在に生まれ変わっていたと言っても良いだろう。

 

「月旦…。どうか安らかに…」

 

 それでも金毛九尾へと至ったユキメの足元には到底及ばず。

 月旦が完全に沈黙したことを確認したユキメは戦闘態勢を解除して月旦の亡骸の前でしゃがむ。泣きはせずとも静かに瞳を閉じて手を合わせた。

 昔の月旦()を知る唯一の存在として十秒程手を合わせたユキメはガイアスが見守る中でゆっくりと立ち上がる。

 

「もう充分でありんす。感謝しますガイアスはん」

「いえ。これも約束でしたから」

 

 感謝を述べた先はユキメと月旦の、二人の因縁への決着を見守っていたガイアスだ。

 少しずつ歩を進めて近づいてくるユキメに対して、ガイアスはユキメを静かに抱き留めた(・・・・・)

 

「……はえ?」

「そのまま動かないでくださいね」

 

 突然抱き締められたユキメが状況を理解するよりも先に、ガイアスは魔力操作で大地を高く盛ることで土壁を創造。

 自分達以外の気配など感じていないユキメはガイアスの突然の行動に戸惑うのと同時、彼女等の姿を隠した壁の奥から轟音が響く。

 まるで地震が発生しているかのような振動と、それを生み出したナニカが自分達を襲おうとしていたことを理解する。

 音が収まるのを皮切りに、ガイアスが創り出した土壁が役目を終えたとでも言わんばかりにサラサラと崩れさった。

 

「――!なっ…」

「ここからはミドガル王国(自分達)の役割なので」

 

 顔を上げればガイアスはユキメを一瞥もせずに前を見ている。

 一切気を緩めずに魔力を練り上げるその姿を見て、漸くユキメもまだ終わっていないのだと理解することが出来た。

 

 カチリ。

 

 音が鳴る。

 音が反響するようなものは無い森の中。

 むしろ音が吸収されるはずの空間なのにも拘わらず、ユキメ達の耳には響くように音が鳴る。

 

 カチカチカチカチカチ

 

ディアボロス教団(アイツら)は一体どんな目的でアーティファクト(アレ)を完成させたんだか…」

 

 目視でわかる異常が起こる。

 音の発生源は月旦が身につけていた時計型のアーティファクト。

 両断された月旦の身体からいつの間にか離れた場所に存在しているソレは、独りでに宙に浮かんでいた。

 

 まるで壊れているのを表現しているようなカチカチ音が先程よりも短い頻度で鳴りながら、月旦が起動してた時とは比べ物にならないレベルの魔力がついでと言わんばかりにあふれ出す。

 

『へぇ…。気づいてたんだ』

 

 知らない声だ。

 男の声とでも、女の声とでも受け取れる声音である。

 まるで重なり合っているような言葉が無機物から聞こえてきた。

 

「お前の存在は知らん。ただ連中が何を求めていたのかはある程度把握してるんでな...どうせ碌なモンじゃないだろ」

 

『ハハハ、確かに求めていたのはボク(ワタシ)かもね。でも酷いなぁ…勝手に決めつけるのは』

 

 会話をしているのは懐中時計だ。

 表情なんて見えるはずがないのにも関わらず、ユキメは相手がかぶりを振っているように感じた。

 

ワタシ(ボク)は求めているだけだよ。この世界全てを…ね』

 

「そりゃ傲慢なこって」

 

 ガイアスは宙に浮かぶアーティファクトの背後からゴーレムを操作。叩き落す様な形で土塊を振り下ろす攻撃を繰り出すが、魔力を放出することで逆に破壊された。

 

「俺はお前らに何かされたってわけではないから怨み辛みも無いんだが…放置しておくと面倒事が増えそうなんでな。一応聞いとくが、大人しくするつもりはないか?」

 

 そう問いかけているが、現在進行形で攻撃を続けているガイアスだが、相手は懐中時計を模したナニカ。

 的が非常に小さいだけでなく、赤黒い魔力を小刻みに放出することで移動している為に攻撃が当て辛いこともあり、現場に集めているゴーレムのだけでは時間が掛かることは察していた。

 

 幸いにも懐中時計が取ってくる行動は魔力放出による動作のみ。

 まぁそれでもミドガル王国各地で発生している現象が目の前の懐中時計が原因となっている事は明白であるが故に、一応対話での解決も試みる…が。

 

『ありえない』

 

「ッ!」

「…まぁ、だろうな」

 

 返ってきた答えは明確な拒否。

 先程聞こえていた明るめの声音ではない。低く、重たい声音に変化した。

 それに加えて先程よりも赤黒い魔力が一斉に放出されることで、一層危険度が増していることが眼に見えて理解できた。

 

『長い眠りから漸く自由になる機会。易々と逃す程馬鹿ではない』

 

「そうは言うがお前の姿は只の懐中時計。他の地域でも何かしら干渉しているんだろうが生憎俺らの仲間は非常に優秀でな。事態の鎮静化も容易だろうよ」

 

『クククク…』

 

 ガイアスの発言は嘘でもなく真実だ。

 現に各地でテロ行為を行っていたディアボロス教団の構成員は始末が完了しており、すでに《シャドウガーデン》の面々も各地で噴出している魔力を抑え込む方向へ指示を飛ばしている。

 ミドガル王国政府の者達も国民の安全を優先して避難誘導を行っている最中だ。

 どんなことを企んでいるのかは不明ではあるが、国民が無事なら建物がいくら壊れようとも建て直せる。

 それも王城にはガイアスが最も信頼を置いている妻達がいるのだ。何も不安に感じることはない。

 ガイアスの返答を聞いても態度の変化はなく、面白可笑しく笑うだけだ。

 

(なんでありんすか…あの存在は…!)

 

 事情を先程知ったばかりのユキメにとって、その反応が不気味で仕方ない。

 それに何か内面が侵食されるような、そんな嫌な感覚を抱く。

 なにか良くない事が起きてしまう。そんな感覚。

 ふと抱いたのは、獣人特有の直感に近いものだ。

 

「っ…!ガイアスはん」

「ユキメさん申し訳ないですが、もう少しこのままでお願いしますね」

 

 そんなユキメを安心させる様にガイアスはユキメの全身を纏わせる様に自身の魔力を少し譲渡。

 ポカポカとした暖かさを感じ取ったユキメは自身の中に沸々と沸き上がっていた感情(モノ)が収まっていく感覚を覚えた。

 背中から全身を包んでいく安心感を得たことで落ち着くことが出来たユキメはこの状況に対して、己が出来ることは限りなく少ないことを理解したことで素直にガイアスの言うことを聞くことにしたようだ。

 

『…ほう、受け付けぬか』

 

「精神汚染の類ってとこか?魔力を薄く広範囲に広げているのが分かってからすぐに警戒して正解だったな」

 

 眼前の存在が見せた(?)反応から、これまで己の干渉を跳ね除けた存在はいない又は極少数なのだろう。関心するような声音に変わっての反応に白々しいとガイアスは切り捨てる。

 

 実際ガイアスが過去に読みふけってきた本・漫画(陰の叡智)のお陰で自分や王国に対しての有効打をある程度考えつくことが出来る。そしてそれらを未然に防ぐことが出来る様になる手段の確立とそれを為せる魔力操作を持つが故に大した被害もないと言って良い。

 意識外からの精神干渉など可能性の一つとして念頭に置いて警戒していなければ、内部から思考操作されていた可能性も高い。

 ユキメが内心感じ取った嫌な予感もガイアスが警戒していたことと同じであろう。

 

「ガイアスはん」

 

 下手に動くことをせずに素直にガイアスの腕の中で己の魔力を高めているユキメがガイアスの集中をなるべく切らさぬ様に、静かに…それでも聞きやすい音量でガイアスの名を呼ぶ。

 

「わっちの事は気にしないでおくんなまし」

「ユキメさん」

「商会を持っているとは言えどもわっちはそもそも無法都市の出。ミドガル王国には懇意にしていただいておりんしたが、これ以上ぬしに負担を掛けることは本意ではない事…。ガイアスはんにはわっちに意識を割かず、眼前に集中した方が合理的というものでありんす」

「お断りする」

 

 ユキメの提案は自身のことなど気にしないでくれというモノだった。 

 己の理解を越えている現象を目の前にして、唯一対抗できそうな人物の足枷にはなりたくないという本心からも来ているのだろう。

 月旦への復讐を終えたことで自分の人生に一区切りを打てたからこその提案なのかもしれないが、その提案をされたガイアスからすれば絶対に有り得ない選択肢だった。

 

「なっ…」

「貴女はどうやら思い違いをしているようだ」

 

 間髪入れずに否定されたことでユキメが言葉を失っているようだが、ガイアス個人としても王としても、そんなことをするつもりは毛頭ない。

 雪狐商会は《シャドウガーデン》が立ち上げたミツゴシ商会と同じくミドガル王国が懇意にしている商会だ。

 ただユキメ自身はあくまで無法都市を本拠点として活動し、雪狐商会を立ち上げた第一の理由は月旦を見つけ出すための情報収集。そのため復讐を果たす為に彼女なりに様々な準備をしてきたはずだ。

 それこそユキメが急遽失踪したとしても、多少の混乱はあれども自立していける程度には教育指導も徹底されている。

 その商会にユキメという個がいないといけないという理由は確かに無いかもしれない。むしろ今後王国に対して有利な交渉を行うという意味ではユキメと言う秀才はいないほうが良いと考える者もいるだろう。

 

「貴女は例え俺が死ぬことになったとしても、貴女は生きて王国へ送り届ける」

 

 それはガイアスの本心。

 アレクシア達とも仲良くしている姿は何度か見たことがある。となれば彼女達にとっても貴重な友人枠だ。妻の友人を見殺しにするなど以ての外。

 

「ど…どうして…」

 

 より手放す訳にはいかないと言わんばかりに片腕で抱き締められるユキメは困惑の声を挙げざるを得ない。

 ユキメ自身ガイアスとは仲が良い方であるとは考えているが、今いる場所は命のやり取りをしている戦場だ。

 足手まといを傍に置き続けるなど非合理的。それも迷惑をかける相手が国家を担う最重要人物だとくれば、ユキメを切り捨てて捨て駒にしてガイアスの安全を確保したほうが良いと考えていた。

 

「決まってる」

 

 だがそんな合理的な考えを今のガイアスは持っていない。

 当然だろう。

 彼は数年前に王国の最重要人物の地位に就いたとは言えども元々は一貴族生まれの一般貴族(転生者)

 生れ落ちてから現在まで、どこぞの陰の実力者(気狂い)の如く魔力操作を鍛えあげてきた経験値は伊達ではない。

 

「俺が超絶タイプの着物美人(ユキメさん)を見捨てる訳ないでしょう」

「ガ…ガイアスはん…」

 

 それはそれとして、彼にとって性癖ドタイプの美女を見捨てるなどありえない。

 状況が状況なだけに言葉(ルビ)の中に含まれた真意をユキメは理解出来ていなくとも、その決意だけでユキメの提案をへし折るには充分なモノだ。

 

 かつて帰るべき場所を種族間の抗争によって失い、更には契りを交わした月旦から斬り捨てられた過去を持つユキメ。

 そんなトラウマを抱えながらも生き延びて、そして乗り越えてきた彼女だからこそ、ガイアスが本気で自分を見捨てるつもりがないのだと心で理解出来てしまった。

 命の駆け引きをしている筈のこの場で。

 危険と隣合わせのこの戦場で。

 それどころかこの原因を作ったと思われる存在を目の前にしても尚、自分に気を配って相手の干渉から率先して守ってくれる。

 

(全く…ぬしにはほんとに…かないまへんなぁ…)

 

 空気を読む必要があるのは解っている。

 時と場所を弁えるべきなのも解っている。

 だが解っていても尚、ユキメの瞳に涙が少しづつ溜まっていく。

 

(アレクシアはんの提案…断る理由が一切無くなってしまったでありんす)

 

 ガイアスが眼前の存在と相対している今だからこそこうしてユキメに時間が生まれた。

 時間にすれば1分…いや30秒にも満たない僅かな時間。

 それでもユキメの胸中を定めるのに充分すぎる時間であった。

 

「感謝いたしんす、ガイアスはん」

 

 肩に添えられていたガイアスの手に自身の手を優しく合わせる。

 それだけで自身を犠牲にするようなことはないと理解したのか、ガイアスは腕の力を緩めてユキメを解放。ユキメはゆっくりと姿勢を整える。

 

「わっちがどれだけ役に立つのかはわかりませんが、微量ながら力添えをさせていただくでありんす」

「感謝しますユキメさん」

 

 状況もあって返ってきた言葉はその一言。

 でもそれだけで充分。

 頼もしすぎる魔力の暖かさを一身に受けながら、ガイアスの隣に並び立つのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




 
  

 
 
( ゜-゜)(なんでこいつら急にいちゃついてんだ…?)
 
  
  
  
  
・月旦
 ディアボロス教団の薬を服用したことで実質的なドーピング状態だった。
 ただ普通に侵食の影響を受けていたので、身体が適応出来たとしても精神が摩耗して自我を保つことは恐らく出来ない。
 最後の一撃は、せつない。

・ユキメ
 復讐を果たした後、自然な流れでガイアスに抱きしめられた狐の獣人さん。
 スーパー妖狐族として力を扱えるようになっている為、実力は抜きんでている。
 戦闘方法はオリヴィエに近い身体能力強化になる為、シンプルが故に強力。
 今後も魔力操作を鍛えていけば無法都市の一角であるジャガーノートあたりも通常状態でも一蹴できるようになるだろう。

「ガイアスの覚悟が!「言葉」ではなく「心」で理解できた!」

・ガイアス
 戦いを終えたユキメをナチュラルに抱き締めた事案男。
 これから妻が増えます。(断言)
 
 

【参考に】一話における文字数と投稿頻度

  • 3千字&①(毎日)
  • 3千字&②(2~3日)
  • 3千字&③(週一)
  • 5千字&①
  • 5千字&②
  • 5千字&③
  • 7千字&①
  • 7千字&②
  • 7千字&③
  • 1万字&①
  • 1万字&②
  • 1万字&③
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