本当は年明けまでに投稿したかったけれど、間に合わなかったので新年初投稿です。
衛宮に協力関係を持ち出し断られた次の日、俺は偶然を装って遠坂と接触していた。
「やぁ、おはよう遠坂。丁度良かった。今から少し話をしないかい?」
「おはよう、間桐君。話をしたいのは山々なんですが、今朝は少し忙しくて……」
「大丈夫。すぐに終わるよ。ただ、ちょっと人目がない所で話したい内容なんだけれどもね?“杯”について、って言えば分かるかな?」
「何ですって?!……あ、いや。ゴホン……分かりましたわ。話をしましょう」
忙しさをアピールし興味無さ気にしていた筈の遠坂が、杯という言葉を聞いて聖杯戦争絡みだと悟ったのか態度が一変した。驚きで一瞬いつもの遠坂らしからぬ反応をしていたがすぐさま調子を取り戻し、話に乗ると言ってきた。
「オッケー。じゃ、屋上に行こうか。事前に人避けはしてあるから誰にも聞かれない筈さ」
この後殴られるということを考えると少々憂鬱になるが、もう一度交渉するチャンスを貰えたんだ。流れもあるし、ここはもう割り切って交渉することに集中しよう。やられるのは今だけで、もう少しでやり返すことが出来る訳なのだから。
そういう事で俺は遠坂と共に屋上へと向かうのだった。人避けの魔術を施している為か屋上に向かうにつれ、人目が少なくなっていく。遠坂や俺は良くも悪くも校内では目立つ存在なので、共に登校しているだけでも注目は集まる。出来れば妙な噂だけは立たないで欲しいとは思う。後々真実(嘘も含む)を話すのはかなり面倒だからな。
「それで?わざわざ杯なんて言って、さらには人目がない所に連れて来たってことは聖杯戦争の事なんでしょう?」
屋上の扉が完全に締め切り、日陰になる所まで移動した所で遠坂が口を開いた。どうやら杯と言い、この場所に連れて来ただけで何を話したいかは察してもらえたようだ。
「あぁ、そうだよ。話が早くて助かるね。じゃ、一限目が始まる前に済まそうか」
そう言って俺は遠坂の前に手を差し出す。
「あの日のリベンジだ。僕と組まないかい?あの時とは違って今度は僕もマスターにもなった。君とは出来れば対立したくは無いし、マスターとなったことで僕と組む利点も多くなったと思うよ?どうだい?」
「嘘……本当に貴方がマスターになったの?」
「あぁ、そうさ!遠坂が組んでくれると言うのなら、僕のサーヴァントの情報を開示してもいいし、そちらが裏切らない限りは手を出さないことも誓おう。聖杯については最後には対立せざるを得なくはなるだろうが、それを差し引いても利点は大きいだろうから、これ程までの好条件は無いだろ?」
上機嫌を装い、俺の出した提案に遠坂は少し考える様子を見せた。いや、この場合は俺がマスターになったという真偽を疑っての思考かもしれないが。しかし、前回と同じで思ってたよりもキッパリと断るという様子を見せないのは少々疑問に思う。
だが、ここはあまり詳細に書かれていなかった場面だった気もするので、もしかしたら本編外でこんなやり取りがあったのかもしれない。となると、どうせ断られる事は分かっているから深く考える必要は無いか。
「確かに好条件だとは思うわ」
「そうか!なら、僕と組む気に……」
「いえ。申し訳ないけれども、お断りさせていただきますわ」
「なっ……!」
あー、やっぱりな。そう来ると思ってた。俺は冷静にというか客観的に見れるから分かるが遠坂の奴、俺の事なんてずっと眼中にないって顔をしてるんだよ。結構分かりやすいとは思うんだが、誰よりも自分は優れているという自負があったからそれに気付けなかったんだろうな、間桐慎二は。
「何故だい!?君はこの僕が敵対しても良いとでも言うのか?!」
「えぇ。やはりマスターになったからと言ってもそれで貴方が優れているという実証にはならない筈よ?何しろ、半人前以下でもセイバーのマスターになれた衛宮君という例があるんだもの。衰退した家の魔術師の程度なんてお里が知れるってものよ」
「グ……」
「それに、私は言った筈ですよ?『もしも私の想像を遥かに上回る素質を貴方に見出だせたのなら、考えてあげなくもない』と。申し訳ないけれども、マスターになった程度でそうだとは言い切れないのよね」
間桐慎二ならばもっと反論していたかも知れないが、俺は遠坂の言い分に言い返す事が出来なかった。確かに遠坂の言う通りだと思ったからだ。顔を歪めて黙り続ける俺に遠坂は言葉を続ける。
「それに、私にはもう衛宮君という同盟相手がいるから間桐君はいらないのよね」
「なっ?!え、衛宮と?!衛宮は、僕なんかよりもずっと魔術に精通していないだろ!」
「えぇ、確かにそうね。でも、少なくとも衰退しきっている事が分かる貴方よりも衛宮君の方がずっと伸び代があるのよね。加えて、衛宮君の性格も貴方なんかよりも信用できるし」
そりゃそうだわな。衛宮は良くも悪くも表裏が無い。信用、という点では俺なんかよりもよっぽど良いだろうさ。伸び代もそうだ。でもな、遠坂……
「だとしても!衛宮じゃ、君の足を引っ張るのは目に見えているじゃないか!」
「確かにそうでしょうけど、やっぱり信用できるってとても重要だと思うのよね」
それを素直に認められる程、間桐慎二の精神は大人ではないんだよ。自分の思うようにいかなければ癇癪を起こす。そんな奴なんだよ。
「だから協力の話はお断りさせていただく、ということでお願いしますね?マスターになった程度じゃ、条件を満たしたとは私は認めないので。それじゃあね、間桐君」
だから、醜くとも立ち去ろうとしている遠坂を無理矢理引き止めるんだ。相手の興味が全く己に向いていない事を認めたくないからな。
「ま、待て!遠坂!!」
「何?間桐君。話はもう終わった筈でしょう?」
「お、終わってなんかいない!僕は、君の為を思って言っているんだ。僕と組めば君は敵無しだ!それこそあの半人前以下の衛宮なんかよりも───」
その先の言葉が出ることは無かった。俺が遠坂に平手打ちを食らったからだ。突然の出来事に困惑と表面上取り繕っていた怒りの感情が湧き上がる。表面上の怒りは遠坂に平手打ちされたことにだが、困惑は殴られる筈の所で平手打ちという予想していなかった行動をされたということに対してだ。
「なっ……と、遠坂、お前……!」
「それ以上、私の為だなんていう薄っぺらい理由で私の同盟相手の悪口を吐くのは止めていただけるかしら。確かに衛宮君は一人前の魔術師ではないわ。でも私からすれば間桐君、貴方の方がずっと半人前以下なのよね」
こちらの現状を彼女が知りもしない以上、偽りの評価だということは分かっている。しかし、ここまでハッキリと明言されてしまうと少々抑えが利かなくなるような気がした。いや、寧ろ抑えない方が良いのか。遠坂に本性を見せたというミスリードを誘い、油断を誘った結界の発動。展開としては好ましいのでは?
そう考えた俺は一人称は僕のままで、感情的になり彼女の同盟相手の衛宮を罵るという愚行を行うことにした。
「ふ……巫山戯るな!この僕がこんなに低姿勢で協力を申し出ているんだがら、協力するってのが道理ってもんだろ?!生徒会長の太鼓持ちしかしていない衛宮なんかよりもよっぽど───」
「間桐君。いくらなんでも言って良い事と悪い事があるのは分かっているわよね?それ以上彼の事を侮辱するなら、今すぐにでも私は
「っ……!」
俺の言葉が彼女の逆鱗に触れてしまったのか、首元スレスレにガンドが放たれた。そして彼女の纏う雰囲気は魔術師のソレになり、殺人予告紛いの警告までされた。これ以上の話し合いは難しいと判断し、俺は流石に引き下がる事にした。
「さようなら、間桐君。次に会う時はきっと、敵同士でしょうね」
引き下がる俺を見た遠坂はそう吐き捨てると、扉を開けて屋上を後にするのだった。扉を閉める前、遠坂がこちらを見て一瞬、ギョッとしたような反応を見せたような気がするが、恐らくは俺の気の所為だろう。
「……マスター」
「何だ」
遠坂の反応を疑問に思っていると、昨日の放課後と同じように俺の側に現れたライダーが俺のことを呼ぶ。正直、昨日のアレのせいでまた何か言われるのではないかと疑う。しかし、いつまでも身内を疑ってばかりでは良くないとは思うので、別案件であって欲しいとひっそり願った。
「どうして笑って居られたのですか。彼女は貴方の本当の実力を知らず、侮辱にも等しい言葉を貴方に向けたというのに」
「笑う?俺がか?」
別案件ではあるが予想外の質問に、俺はキョトンとした表情を浮かべてしまう。
「はい。彼女が扉を閉める刹那、マスターは確かに笑いました。自覚が無かったのですか?」
「あー…………」
自覚は無かったが心当たりなら一つあったので、適当にそれについて語ることにした。
「お前が何処から見ていたかは知らねぇが……アイツ、これ以上衛宮を侮辱するなら俺を殺すと言っただろ?」
「はい、そうですね」
「アレを言う時の遠坂は俺ら魔術師と同じ雰囲気を纏って忠告はしてきたが、あれは本気じゃねぇな」
「それはどういう?」
「衰退しきった間桐家という情報を未だに信じている遠坂にとって、お里が知れると評価を下した俺はアイツにとっては羽虫程度なのさ。つまり、殺すに値しない人間。それがアイツにとっての俺ってワケ」
俺の言葉を聞いたライダーは何処か不満気な雰囲気を醸し出していた。
「何だよ、不満か?」
「はい」
「お、おぅ……」
即答かよ。何でそこまで好感度高いんだ。流石にコレは予想外だった。
「貴方は決して羽虫程度なんかではありません。貴方はもう少し自信を持ってもよろしいかと」
「オイオイ、誰がその評価を受け入れているって言ったよ。俺はその評価を認めちゃいねぇぞ。寧ろあのミスリードを利用してんのさ。衰退した筈の間桐家の人間が実は魔術回路を持っていた、だなんてさぁ……面白え話だとは思わねぇか?」
「なるほど。確かにそうですね」
きっと、今の俺はかなり凶悪な笑顔をしているのだろう。だが、そうすることで俺の考えを理解出来たのかライダーは賛同の言葉を口にしながら笑みを浮かべていた。
さて、そろそろ教室に向かうとしますか。ライダーに桜の元へ戻るように指示し、俺は教室に向かったのだった。
ーーーーーーー
「間桐君、遠坂さんに告白したって本当?!」
「何?!間桐と遠坂は付き合っていたのか?!」
「ええ?何、その話。告白なんてしてないよ?ただちょっとした世間話をしただけだって」
教室に入ると、早速妙な噂が流れていたのか俺は真相を知りたい人達に群がられた。俺は驚いた反応をしながらも笑みを浮かべ、噂の否定をする。
「えー?本当に?二人が仲良く登校してたって噂を聞いたんだけど?」
「世間話しながら歩いてたからそう見えただけなんじゃない?別に付き合ってるとかそんなんじゃないよ」
「そっかぁ……」
「じゃあ、何を話したんだよ?」
「あぁ、それは────」
この場はとりあえず適当な話で済まそうとした時、タイミング良くチャイムが鳴った。クラスメイト達は聞きたそうにしていたが、廊下を全力ダッシュして藤村先生が入ってきたので、流石に自分の席に戻っていく事にしたようだ。
「あれ?衛宮君は?」
「まだ来てませーん」
「何ですって?!」
そしてクラスメイトと藤村先生の会話を聞き、そういえば原作ではセイバーとの稽古で今朝は遅れての出席だったな、と思い出す。まぁ、俺には全く関係無い話なのだが、絡みやすくはなるので良かったかもしれないな、と藤村先生が怒る様子をチラ見しながらぼんやり考えた。
そして二限終わった辺りで漸く登校した衛宮に、俺は絡みに行った。
「随分と遅い登校じゃないか。衛宮の癖に良いご身分だな?」
「慎二……」
「別に急に君がグレて授業をバックレようが僕にとってはどうでも良いけどね。まぁ、でも……来てくれて良かったよ。君が居ないんじゃ、面白味に欠けるからねぇ?」
「・・・・?」
言いたい事だけ言って、俺は自分の席へと戻った。俺の先程の言葉の意味を衛宮はいまいち理解していないようだったが、違和感を与える為だけの発言だったので別に問題は無いだろう。
そして昼休みが終わりに差し掛かった頃、適当なクラスメイトに体調不良から保健室へ向かうと偽って一階に仕掛けた起点の呪刻の元へ向かう。辺りに人が居ないことを確認し、ライダーを呼び出す。
「ライダー、準備は良いな」
「勿論です、マスター」
ライダーの返事に、俺は口角を上げる。
「良し。結界を発動しろ」
「はい」
ライダーが手を置いた箇所を中心に、半径一メートル程の大きな起点の呪刻が浮かび上がった。それに呼応して学校中に仕掛けた生きている呪刻全てから魔力が集まって来たことにより、外との繋がりを断つドーム状の結界が発動した。結界を発動したことによる影響で空気が淀み、空間が全体的に赤黒く染まる。
「ふ……はははっ!良いぞ、ライダー。このまま魔力を吸い上げろ。効果は薄くとも遠坂らの弱体化は見込める筈だ。奴らが乗り込んで来た所を纏めて叩く」
さて、俺の生存戦略第一の山場だ。この後はキャスターの強化を受けた葛木先生に襲撃されはするが、ここをシナリオ通りに切り抜けられればしばらくは何もすること無く聖杯戦争に参加し続けられる。
それと、葛木先生との対決は描写外の話だった筈だから、もしかしたら多少の魔術戦闘も出来るだろう。とはいっても負けることは必至なので、今やる必要は無いか。
「っ!マスター、何者かがこちらに近付いています」
結界を発動していた筈のライダーがこちらに近付いてくる気配を察知したのか俺を庇うようにして立つ。恐らくはキャスターと葛木先生だろう。
「……あぁ、分かってる。さて、俺の前でのお前の初戦闘だ。少しは俺の役に立てよ?」
「はい。期待に添えてみせます」
戦闘態勢を取るライダーの後ろで、俺は笑みを浮かべながら襲撃者を待つ。
静かな空間にカツンカツンとこちらに近付いて来る足音が聞こえてくる。そして、足音が扉の辺りで止まった。次に締め切られていた筈の扉が開けられ、扉の向こうに居たのは────
2024年になっちゃいましたねぇ…。一年過ぎるのってホント早い…。『蟲使いの間桐君』は連載してまだ一月程ですが、今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m
話は変わりますが、皆さん、FGOの福袋は引かれましたか?自分は去年の夏の福袋から三度目にして漸く村正をお迎え出来て嬉しい年始めになりました。その代わり、新年鯖のヤマトタケルはセイバーすり抜け三回の爆死中です。